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弁護士の事件記録の返還・保管・廃棄―弁護士職務基本規程18条・39条・45条と紙・電子データの取扱い(AI作成)

第1 事件記録と預り品を区別する

1 本記事で扱う事件記録

弁護士職務基本規程18条は,事件記録の保管・廃棄に際して,秘密及びプライバシーに関する情報が漏れないよう注意する義務を定める。
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程[第4版]』(日本弁護士連合会,2026年)47頁~50頁は,相談又は委任を受けた事件について職務上入手・作成した文書,写真等の証拠書類,電磁的記録及びその写しを事件記録として説明する。
本記事は,法律事務所が扱うこれらの記録について,令和8年10月3日に確認した日弁連公表本文及び同解説に基づき整理するものであり,裁判所が保管する訴訟記録の保存期間を説明するものではない。
同解説が述べる見解は日弁連の公式見解ではなく,本記事の実務上の提案とも区別して参照されたい。

2 39条・45条との関係

39条は,事件について依頼者,相手方その他利害関係人から預かった書類その他の物品を,善良な管理者の注意をもって保管する義務を定める。
45条は,委任終了に当たり,契約に従って金銭を清算した上で,預り金・預り品を遅滞なく返還する義務を定める。
事件記録の情報管理,預り品の保管及び終了時の返還は,重なり合う場面があっても,対象と目的を区別して点検する必要がある。

規定主な対象・場面点検する内容
18条事件記録の保管・廃棄依頼者及び第三者の秘密・プライバシー情報の漏えい防止。
39条預かった書類その他の物品善良な管理者の注意による保管。原本の紛失・毀損等の防止。
45条委任終了時の預り金・預り品清算と遅滞のない返還。対象,返還先及び受領の確認。
情報セキュリティ規程5条職務上取り扱う情報の各段階作成・取得から提供・送信・廃棄までの情報セキュリティ。

第2 依頼者と第三者の情報を保護する

1 依頼者の秘密だけが対象ではない

解説第4版47頁~48頁は,18条の対象に相手方その他第三者の秘密・プライバシー情報も含まれると説明する。
例えば,戸籍の記載,財産資料,供述内容及び企業秘密等は,事件に直接関係する部分だけで構成されているとは限らない。
訴訟で証拠として提出されたという事情だけから,その後の保管・廃棄で情報保護が不要になるわけでもない(同解説50頁)。

2 依頼者への交付も個別に判断する

同解説49頁~50頁は,受任事件を適切に処理するため必要な記録の交付を認める一方,第三者の秘密・プライバシーへの注意を求めている。
交付先,利用目的,必要な部分,第三者情報の有無及び交付後の取扱いを確認し,漏らさないよう注意を伝えること,必要に応じて情報を消除することや記録を回収することを検討する。
報告義務があることは,取得した記録のすべてを無条件に交付する根拠とはならない。
職務上請求の記事及び個人情報漏洩に関する懲戒事例も参照されたい。

第3 原本・預り品の返還と事件終了時の説明

1 返すものと保存するものを確認する

委任終了時には,依頼者等から預かった原本,相手方等から受領して引き渡すべき物,作成・取得した記録の写し及び事務所の業務記録を分けて確認することが望ましい。
18条は情報管理の規定であり,それだけで事務所の内部メモを含む全資料の所有権や開示範囲を一律に決めるものではない。
返還・交付の対象は,委任契約,受領の目的,民法646条の受取物引渡し義務及び各資料に適用される規律を踏まえて判断する。

2 終了したら廃棄してよいとは限らない

職務基本規程44条は,終了に当たり,必要に応じた法的助言を伴う説明を求める。
民法645条・654条には,終了後の経過・結果の報告及び急迫の事情がある場合の必要な処分の規定がある。
残る期限,後任者へ引き継ぐ資料及び返還先を確認する前に,終了したことだけを理由に原本や必要なデータを廃棄するべきではない。

返還・交付時には,資料名,原本・写しの別,返還先,日時及び受領確認を残すことが実務上の提案である。
事務所が保存する写しについても,保存目的と対象範囲を確認し,引き続き情報を適切に管理する。

第4 保存期間をどう決めるか

1 18条に一律の年数はない

確認した18条・39条・45条及び弁護士情報セキュリティ規程は,すべての事件記録を一律に何年間保存するという年数を定めていない。
したがって,これらの条文だけから「事件終了後5年で必ず廃棄する」「10年保存すれば十分である」と結論付けることはできない。
この確認は,ほかの法令や規程,所属会の定め又は個別契約に保存期間の規律がないことを意味しない。

2 資料の種類ごとに根拠と起算点を確認する

本人確認・取引関係の記録,会計・税務の資料,預り金の管理記録及び事件処理の記録は,同じ保存義務で扱えるとは限らない。
それぞれについて,適用される法令・規程,保存対象,期間及び起算点を確認し,必要な保存を確保する。
具体的年数の横断一覧は,本記事で原資料を十分に確認できた範囲を超えるため掲載していない。

その上で,紛議,損害賠償請求,関連手続,原本の証拠価値及び返還の要否などを踏まえ,事務所の保存方針を定めることが望ましい。
保存期限の経過だけで機械的に廃棄せず,紛争・照会等のため廃棄を保留する必要がないかを確認する。
漫然と無期限に残すことも,漏えいの危険や管理負担を増やすため,必要性と安全管理を定期的に点検する。

第5 紙と電子データの保管・廃棄

1 紙の記録と委託先

解説第4版48頁~49頁は,保管・廃棄を第三者へ委ねる場合も対象に含め,来訪者への露出,事務職員等の指導監督及び専門業者の選定等を説明する。
一般ごみとして読めるまま出す方法は,情報が漏れないよう注意を尽くした取扱いとはいえない。
委託する場合も,運搬,保管,処理方法及び処理結果の確認まで含めて,記録の性質に合う方法を選ぶことが望ましい。

2 電子データとクラウド

同解説48頁~49頁は,クラウドへの保存も保管に当たり,サービス提供者の選定,権限及び認証情報の管理等に注意する必要があるとする。
弁護士情報セキュリティ規程3条~6条に即して,基本的な取扱方法,安全管理措置,情報の各段階の管理及び点検を行う。
単にクラウドを使っていること,又は認証を受けた事業者であることだけで,個々の共有設定が適切であるとは判断できない。

場面実務上の確認例残す記録の例
保存・共有閲覧者,編集権限,外部共有,端末への複製共有先と目的,権限の点検結果。
返還・引継ぎ誤送信防止,原本との区別,後任者の受領交付したファイルと受領確認。
データ削除ごみ箱,版の履歴,同期端末,バックアップの残存削除対象,残存する範囲,次の確認時点。
端末・媒体の処分復元可能性,消去方法,委託先と処理確認処分対象,実施日,消去・破壊等の確認資料。

この表は,規程の趣旨を具体的な運用へ反映するための本記事の提案である。
バックアップの残存期間や削除方法は,サービスの契約・仕様及び事務所の構成ごとに確認し,通常のファイル削除だけで全複製が消えたと扱わない。

第6 辞任・解任・移籍時の取扱い

1 事件の継続と引継ぎ

辞任・解任時は,預り品の返還と,依頼者に必要な不利益防止・終了説明をあわせて確認する。
病気その他の事情で処理を継続できない場合も,記録の所在,期限及び連絡先が把握できる状態を確保することが重要である。
事件放置の記事及び辞任の記事を参照されたい。

2 退所・分裂とアクセス権

弁護士が退所又は移籍する場合には,依頼者との契約関係,事件の担当・引継ぎ,記録の管理責任及び共有権限を確認する。
担当していたことだけから,共有保管庫の全事件記録を持ち出してよいとはいえない。
退所後に残るアカウント,共有リンク,同期端末及びバックアップも点検し,必要な記録へのアクセスを確保しつつ,不要なアクセスを整理することが望ましい。
法律事務所の退所・分裂時チェックリストも参照されたい。

第7 依頼者への説明と事務所の確認表

① 預かった原本・物品,作成・取得した記録及び返還するものを一覧にする。
② 返還先,必要な交付範囲及び第三者情報の取扱いを確認する。
③ 保存する資料について,根拠,目的,起算点及び廃棄の再確認時点を定める。
④ 紙,クラウド,端末及びバックアップの所在と責任者を把握する。
⑤ 返還・引継ぎ・廃棄の実施と確認結果を記録する。

この確認表は一律の保存年数や全面開示を約束するものではない。
依頼者へは,個別契約と実際の記録の性質に即して,返還方法,保存方針及び連絡・変更の方法を説明することが望ましい。

第8 関連記事及び出典

1 関連記事

① 弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引・主要論点
② 弁護士情報セキュリティ規程
③ 個人情報漏洩に関する懲戒事例
④ 弁護士の預り金の管理と懲戒

2 出典

① 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程(会規第70号)」18条・19条・23条・39条・44条・45条。
② 日本弁護士連合会「弁護士情報セキュリティ規程(会規第117号)」3条~7条。
③ e-Gov法令検索「民法」644条~646条・654条。
④ 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説 弁護士職務基本規程[第4版]』(日本弁護士連合会,2026年)47頁~50頁,152頁~153頁。