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安すぎる第三者割当増資への株主の対応―有利発行の特別決議,差止め,発行無効及び引受人・取締役の責任(AI作成)

第1 発行前か発行後かを最初に確認する

第三者割当増資により,既存株主の議決権の割合と,保有株式1株当たりの経済的価値が低下することがある。
ただし,持株比率が下がることと,違法な発行によって経済的損害を受けることは同じではない。
公正な払込金額で行う資金調達でも持株比率は下がるため,価格,発行数,目的及び手続を分けて検討する。

株主が対応を考えるときは,①払込期日又は払込期間と実際の払込日,②定款の譲渡制限,③募集事項を決めた機関と決議内容,④株主への通知・公告,⑤発行価額の算定資料を確保する。
発行前であれば差止め,発行後であれば発行無効の訴えと金銭請求が中心となり,手段によって相手方,期限及び支払先が異なる。
本記事は,令和8年10月3日現在の会社法のうち,金銭出資による普通株式の第三者割当てを主な対象とする。
株主割当て,種類株式,自己株式の処分,新株予約権及び金融商品取引法上の開示には別の検討も必要である。

第2 有利発行には株主総会の特別決議が必要になる

1 公開会社と非公開会社の違い

会社法上の公開会社は,上場会社という意味ではない。
発行する全部又は一部の株式について,譲渡による取得に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社である(会社法2条5号)。
非上場会社でも公開会社であることがあるから,登記事項と定款を確認する。

公開会社では,原則として取締役会が募集事項を決定するが,引受人に特に有利な払込金額の場合はこの特則が適用されない(会社法201条1項)。
有利発行の募集事項は株主総会の特別決議で定め,取締役はその金額で募集する必要がある理由を説明しなければならない(会社法199条2項・3項,309条2項5号)。
非公開会社の第三者割当ては原則として株主総会の特別決議によるが,会社法200条による募集事項決定の委任が適法にされている場合は,委任の内容・有効期間も確認する。

2 支配株主の異動に関する承認との違い

特定の引受人が発行後の総株主の議決権の過半数を持つことになる公開会社の第三者割当てには,会社法206条の2の通知と,所定の反対通知があった場合の承認手続も問題になる。
この承認決議は,有利発行の特別決議とは別のものである。
同条4項ただし書の緊急性の例外は同条の承認手続に関する例外であり,有利発行の特別決議まで不要にする規定ではない。
詳しくは,支配株主が変わる第三者割当てを参照されたい。

第3 「安すぎる」かは発行当時の資料で判断する

有利発行に当たるかの判断では,発行当時の株式価値,資金調達の条件,価格決定の過程及び発行の必要性を検討する。
非上場株式については,純資産,収益,配当,類似会社,直近の取引など,採用する評価方法によって金額が異なり得る。
税務上の評価額が,会社法上も当然に唯一の公正な価額になるわけではない。

最高裁平成27年2月19日判決(平成25年(受)第1080号)は,非上場会社の有利発行を理由とする株主代表訴訟について,発行当時の客観的資料に基づく一応合理的な算定方法で価額が決められていた場合,特別の事情のない限り,旧商法の有利発行に当たらないとした。
同判決は,後から別の評価方法や予測値で計算し直した金額だけで有利発行とすることを否定している。
したがって,株主側は算定結果だけでなく,資料の欠落,前提の誤り,評価方法の不合理性又は算定後の重大な事情変更を具体的に示す必要がある。
会社側も,専門家の意見書を取得した事実だけで済ませず,提供資料,算定基準日,採用・不採用の方法とその理由を残しておくことが重要である。

第4 発行前は差止めと仮処分を検討する

株式の発行が法令・定款に違反し,又は著しく不公正な方法による場合に,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は会社に発行をやめるよう請求できる(会社法210条)。
必要な特別決議を欠く有利発行は,法令違反を理由とする差止めの検討対象となる。
支配権を維持するための発行などは,不公正な方法による発行かも検討するが,既存株主が不満を持つというだけで認められるものではない。

発行が迫っている場合は,通常の訴訟の判決を待てないため,差止めの仮処分を検討する。
株主は弁護士と払込期日,申立てに必要な資料,保全の必要性及び担保の準備を確認し,会社への抗議だけで時間を使い切らないことが重要である。
公開会社が取締役会で募集事項を決定した場合は,原則として払込期日又は払込期間の初日の2週間前までの通知又は公告が必要であるが,金融商品取引法上の届出等による例外もある(会社法201条3項~5項)。
有利発行の総会決議,201条の募集事項の通知,206条の2の通知は,それぞれの適用条件を確認する。

第5 発行後の無効の訴えには短い期限がある

1 公開会社6か月,非公開会社1年

新株発行の無効は,株主等が訴えによって主張する。
提訴期間は,発行の効力が生じた日から,公開会社では6か月,非公開会社では1年であり,株主が知った日から数える規定ではない(会社法828条1項2号・2項2号)。
金銭出資では,払込期日を定めたときはその期日,払込期間を定めたときは払込みをした日が株主となる日である(会社法209条1項)。
通知,決議,払込み及び提訴の各日を別々に記録して期間を管理する。

2 有利発行の手続違反があれば常に無効になるわけではない

最高裁昭和46年7月16日判決(昭和46年(オ)第396号)は,旧商法の下で,代表取締役による発行について,有利発行の特別決議の欠缺だけでは無効原因にならないとした。
一方,最高裁平成24年4月24日判決(平成22年(受)第1212号)は,会社法の下で,非公開会社の株主割当て以外の募集株式発行について,株主総会の特別決議を欠く発行を重大な法令違反として無効とした。
非公開会社の持株比率維持利益を重視した判断であり,公開会社の発行にそのまま置き換えることはできない。

最高裁平成9年1月28日判決(平成5年(オ)第317号)は,旧商法上の通知又は公告を欠く発行について,差止事由がないため差止請求が認められない場合を除き,無効原因になるとした。
価格の不公正,決議の欠缺及び差止めの機会を奪う公示の欠缺は,別々の瑕疵として検討する必要がある。
発行前の差止めと発行後の無効の判断は一致するとは限らないため,事前に対応できる段階で相談する意義が大きい。

第6 引受人・取締役への金銭請求と支払先

1 引受人に会社への差額支払を求める責任

引受人が取締役又は所定の執行役と通じて,著しく不公正な払込金額で株式を引き受けた場合は,引受人は会社に公正な価額との差額を支払う義務を負う(会社法212条1項1号)。
特別決議を欠いたという事実だけでこの責任が成立するわけではなく,著しく不公正な金額と,取締役等と通じたことを検討する。
取締役と引受人の関係,価格交渉,発行計画の連絡,算定資料の共有及び株主への秘匿を示すメールなどが重要になる。

この差額の支払先は既存株主個人ではなく会社である。
会社が追及しない場合は,株主が会社法847条により会社のために支払を求める訴えを提起することができる。
公開会社の原則6か月の継続保有,非公開会社の保有期間の特則,会社への提訴請求と60日の待機,回復できない会社損害のおそれによる例外を確認する(同条1項~5項)。
不正な利益を図る目的又は会社に損害を加える目的の訴えは認められない。

2 取締役の会社への責任と株主本人への責任

取締役の任務懈怠によって会社に損害が生じた場合は,会社法423条1項の責任と株主代表訴訟が問題になる。
会社損害を主張する場合は,公正な条件で資金を調達できたか,任務懈怠と損害の因果関係があるかを具体的に示し,株主の持株価値の減少を当然に会社損害と扱わない。
会社法212条の引受人の支払義務と,取締役の423条責任も,根拠と要件が異なる。

既存株主固有の損害について取締役に直接賠償を求める場合は,会社法429条1項の職務上の悪意又は重大な過失,株主本人の損害及び因果関係を検討する。
不公正な希薄化による株主の不利益と,会社財産の減少を反映した株価下落を分け,会社への回復によってどの損害が残るかも確認する。
単純な「発行前の株価と払込金額の差額×自分の保有株数」が,そのまま株主の賠償額になるわけではない。
支払先と損害の整理は,株価が下がったとき株主は取締役に請求できるかで詳しく扱う。

第7 相談時に用意する資料と出典

相談時には,①定款・登記事項・株主名簿,②発行前後の株式数と議決権数,③募集事項,総会・取締役会議事録及び説明資料,④通知・公告と到達日,⑤株価算定書とその基礎資料,⑥払込みの記録,⑦引受人との交渉記録を時系列で整理する。
会社法上の閲覧請求には資料ごとの要件があるため,株主が全ての内部資料を当然に取得できるとは扱わない。
まず手元の資料と払込期日を共有し,閲覧請求,仮処分又は証拠保全のどれを先に行うかを弁護士と検討することになる。

①e-Gov法令検索・会社法2条5号,199条~201条,206条の2,209条~212条,309条,423条,429条,828条,847条。現行条文を令和8年10月3日に確認した。
②前掲最高裁昭和46年7月16日判決,平成9年1月28日判決,平成24年4月24日判決及び平成27年2月19日判決。旧商法を適用した裁判例と会社法を適用した裁判例を区別している。
③会社法施行時の制度趣旨の補助資料として,相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔編著『論点解説 新・会社法』商事法務,2006年の要約ノート(募集株式の箇所)を参照した。現行の要件・期間は同ノートから転記せず,現行条文で確認した。

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