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不動産の二重売買・無断抵当の刑事責任―売主の横領、第二買主への詐欺、知情買主の責任と証拠(AI作成)

第1 最初に分けるべき三つの問題

不動産を二人に売った事件では,第一買主に対する横領,第二買主に対する詐欺,取引相手の共犯責任を分けて検討する。
先に登記を得たこと,先行売買を知っていたこと,後から代金を返したことの一つだけで,刑事責任全体を決めることはできない。

本記事は,令和8年10月3日確認の現行法と,判例秘書及び裁判所公開の判決本文に基づく一般的な整理である。
犯罪の成立時期についての学説と,判決が実際に判断した事項を区別し,民事上の権利回復と刑事事件の対応を並行して考える。

第2 登記名義,所有権及び横領罪の占有

1 第一買主への所有権移転を確認する

民法176条・177条は,意思表示による物権変動と,不動産の登記による第三者への対抗を区別している。
契約に所有権移転時期の特約があればその内容も確認し,契約日だけでなく,代金完済,引渡し,条件成就等のどの時点で第一買主へ所有権が移ったかを確定する。
売主名義の登記が残っていることから,売主が実体上も所有者であるとは限らない。

2 不動産では法的な支配も問題になる

刑法252条の横領罪は,自己の占有する他人の物を横領する犯罪である。
不動産では現地を使用している者だけでなく,登記名義等を通じて処分できる法的な支配も占有として問題になる。
最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決(昭和30年(あ)第2713号・刑集9巻14号3053頁)は,不動産について法律上の支配力による占有を認めた判例である。

第一買主へ所有権が移り,売主が登記手続を担う関係にある場合には,他人の物と委託に基づく占有を具体的に検討する。
売主,登記名義人,会社の役員,仲介者等の立場を区別し,処分権限や本人の承諾があったかも確認する。
業務上の占有であれば刑法253条の業務上横領罪が問題になるが,不動産を売ったという理由だけで業務上の占有と決めない。

第3 無断抵当の後に売却した場合

1 先行する横領が後行の売却を当然に不可罰にするわけではない

最高裁平成15年4月23日大法廷判決(平成13年(あ)第746号・刑集57巻4号467頁)は,受託者が他人の不動産へ無断で抵当権を設定して登記した後,さらに売却して所有権移転登記をした事案を扱った。
抵当権設定後も,他人の不動産を受託者が占有する関係は続いており,後行の無断処分について横領罪の成立自体を認めることができるとした。

したがって,先に抵当権設定による横領があったというだけで,後の所有権移転を不可罰的事後行為として処理することはできない。
同判決は,最高裁昭和31年6月26日判決のうち,この判断に抵触する部分を変更したものである。
ただし,抵当権設定と後行の所有権移転による各横領の罪数を,常に併合罪とするところまで判示したものではない。

2 後行の売却だけが起訴された場合の審判対象

同大法廷判決は,検察官が後行の所有権移転行為を横領として起訴でき,その場合,裁判所は所有権移転の点を審判対象とするとした。
訴因外の先行抵当権設定が横領を構成したかを調べ,それによって後行行為の犯罪成立を否定する扱いは採らない。

実務では,訴因に記載された処分行為,対象不動産及び日時を確認し,先行行為の存在だけを無罪の根拠にしない。
一方,後行処分時の所有関係,委託,権限及び故意を争うための事実まで,すべて審理から排除されるという意味に広げない。

第4 第二売買の契約だけで登記がない場合

横領は,不法領得の意思が外部の行為に現れたかが問題になる。
第二売買契約を結び代金を受け取ったが,第二買主への移転登記をする前に解約した場合には,契約締結,登記書類の交付,登記申請等のどの行為を犯罪の完成と評価するかを検討する必要がある。

不動産二重売買の既遂時期については,契約締結を重視する考え方と,第一買主の権利侵害を確定させる登記を重視する考え方等に議論がある。
今上益雄「不動産の二重売買と横領―民法理論との交錯―」(東洋法学45巻2号1~27頁)は,こうした論点を検討する学術資料である。
平成15年大法廷判決の事案は所有権移転登記を了したものであり,同判決だけから未登記の第二売買契約すべてについて結論を導くことはできない。

刑法の横領罪の章には未遂処罰規定がないため,既遂に至っていないという評価には重要な意味がある。
しかし,「登記がないから必ず無罪」と決めてしまわず,採用する既遂時期の考え方と,現実に行われた処分の内容を対応させる。
詐欺の未遂は刑法250条により処罰されるため,第二買主に対する詐欺の問題も別に残る。

第5 第二買主への詐欺は別に判断する

1 告げられなかった情報と支払の関係

刑法246条の詐欺では,欺く行為,錯誤,代金等の交付及びその因果関係と,行為時の故意を確認する。
第一売買を告げなかったことが,第二買主の支払判断にどう影響したかを具体化する。
第一買主への横領が成立することから,第二買主への詐欺も自動的に成立するわけではない。

東京高裁昭和48年11月20日判決(昭和47年(う)第1915号・高刑集26巻5号548頁)は,二重売買において第二買主が登記による対抗力を取得する通常の取引と,その事件の具体的な事情を区別した。
同事件では,第二買主が住居として取得しようとしたこと,先買主が勤務先の取引先でもあり紛争を避ける事情があったこと等から,先行売買を知れば取引しないと認められ,詐欺罪の成立が肯定された。

この判決は,先行売買を黙っていれば常に詐欺になるという判断でも,登記できれば常に詐欺にならないという判断でもない。
第二買主の利用目的,第一買主との関係,紛争や明渡しの見通し,登記書類の所在,取引前の説明及び支払条件を調べる。

2 価格と故意を数字と時系列で確認する

契約上の売買価格,現実に支払った現金,抵当債務の引受け又は弁済負担を分けて確認する。
安い現金額だけを見て,直ちに不当な安値又は共謀の対価と評価しない。
担保の抹消費用,残債,契約変更及び返金も含め,第二買主が何を取得するためにいくら負担する約束だったかを復元する。

契約後に履行できなくなったという結果だけで,契約時から詐欺の故意があったとは決められない。
当初の権限,資金計画,第一買主との交渉及び説明内容と,後に判明した事情を分けて証拠化する。

第6 先行売買を知っていた買主の責任

1 知情と共犯への加功を分ける

最高裁昭和31年6月26日第三小法廷判決(昭和29年(あ)第1447号・刑集10巻6号874頁)は,先行売買を知りつつ代物弁済を受けて登記をした者について,適法に所有権を取得したとして売主の横領罪の共犯を否定した。
この知情取得者に関する判断と,平成15年大法廷判決が変更した先行横領・後行横領の判断を区別する。

ただし,買主が積極的に二重処分を持ち掛け,第一買主の登記を妨害し,売主と犯罪を共同して実現する合意や援助をした場合は,単なる知情取得とは異なる事実として検討する。
第一売買を知った日時だけでなく,誰が何を提案し,どの処分を容易にしたのかを確認する。

2 身分,民事上の悪意及び盗品譲受けを混同しない

刑法65条は,身分のない者の加功について共犯が成立し得ると定める。
買主に横領罪の占有者としての身分がないことだけで共犯を否定できないが,同条だけで具体的な共同実行や幇助を認定することもできない。
刑法60条・62条に対応する関与の事実が必要である。

民法177条の第三者から排除される背信的悪意者かという民事の問題も,刑事の共犯責任と同じ判断ではない。
また,刑法256条の盗品譲受け等は,対象物の性質,領得行為,認識及び取得関係を独立に検討する問題であり,知情買主という呼称だけで当てはめない。

第7 解約,返金及び補填の意味

最高裁昭和24年3月8日第三小法廷判決(昭和23年(れ)第1412号・刑集3巻3号276頁)は,他人の物を委託に背いて権限なく処分する意思について,自己の利益を得る目的は必須でなく,行為時に後日の補填を考えていても横領罪の成立を妨げないとした。
同事件の対象は供出米であり,不動産の未登記売買の既遂時期を判断した判例ではない。

犯罪が既に完成していれば,後の返金や登記回復によってその成立が遡って消えるわけではない。
被害回復,示談及び処分・量刑への影響は別に検討する。
他方,犯罪の完成前に処分を中止した場合は,何をどこまで実行したかが結論を左右するため,返金の日だけを見ず,契約,代金交付,登記申請及び取消しの順序を確定する。

第8 相談・告訴・弁護で集める資料

① 第一・第二売買契約書と変更合意,所有権移転時期,解除通知及び到達記録。
② 登記事項の履歴,担保設定と所有権移転の登記申請・受付日時,登記に使用した書類と権限の根拠。
③ 第一買主への引渡し,占有・利用状況,登記が遅れた理由及び登記手続を依頼した記録。
④ 代金の入出金,送金先,抵当債務の引受条件,債権者の承諾,弁済及び返金の銀行記録。
⑤ 第一売買の説明,第二買主の利用目的,売主や買主の提案,登記妨害,紛争回避及び役割分担に関する通信。
⑥ 売主の処分権限・承諾・資金見通しを裏付ける資料と,これに反する資料の双方。

契約,所有権,登記,占有,資金及び各人の認識を,同じ時系列上へ載せる。
登記事項証明書だけで資金の使途や共謀まで証明できるわけではない。
通信記録は原本と日時・送受信者が分かる形で保存し,都合のよい一部分だけでなく前後のやり取りも確保する。

第一買主の登記回復や金銭回収が目的であれば,刑事相談と同時に,登記請求,損害賠償及び必要な民事保全を検討する。
告訴や有罪判決によって所有権移転登記が自動的に戻るわけではない。
民事請求の設計は「不動産二重譲渡と詐害行為取消し」,関与者の評価は「共謀共同正犯か幇助犯か」も参照されたい。

第9 出典と確認した範囲

① e-Gov法令検索「刑法」60条,62条,63条,65条,246条,250条,252条,253条及び256条並びに「民法」176条・177条。令和8年10月3日,公式APIによる条文本文を確認。
② 最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・昭和30年(あ)第2713号・刑集9巻14号3053頁(判例秘書文献番号L01010348)。
③ 最高裁昭和31年6月26日第三小法廷判決・昭和29年(あ)第1447号・刑集10巻6号874頁(判例秘書文献番号L01110119)。
④ 最高裁平成15年4月23日大法廷判決・平成13年(あ)第746号・刑集57巻4号467頁(判例秘書文献番号L05810039)。
⑤ 東京高裁昭和48年11月20日判決・昭和47年(う)第1915号・高刑集26巻5号548頁(判例秘書文献番号L02820655)。
⑥ 最高裁昭和24年3月8日第三小法廷判決・昭和23年(れ)第1412号・刑集3巻3号276頁。
⑦ 今上益雄・前掲論文。既遂時期等を検討する学術資料として参照し,判決の判断内容と区別した。

②から⑤までは判例秘書の本文を確認し,②から⑥までは裁判所公開の判決本文でも確認した。
この確認は,近時の全下級審裁判例又はあらゆる登記前の処分態様を網羅したものではない。
未登記の第二売買の既遂時期及び先行抵当権設定と後行売却の罪数を個別事件で主張する場合は,具体的な処分行為と訴因に即した追加調査が必要である。

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