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雇用保険(失業給付)の不正受給と自己破産―返還命令・納付命令は財団債権か,優先的破産債権か,免責されるか(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,雇用保険の失業等給付を偽りその他不正の行為により受給した人が,公共職業安定所から返還命令や納付命令を受けた後に自己破産を考える場合,又は破産手続中にこれらの請求が破産管財人に届いた場合に,その請求権が破産手続でどう扱われるかを整理する。
法令は,令和8年9月29日現在の条文をe-Gov法令検索(法令API)で確認した。
国税徴収法基本通達は,国税庁ウェブサイトの本文を確認した。

2 結論

①不正受給について政府が命じる返還金と納付金(雇用保険法10条の4第1項)は,同条3項が準用する労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)27条3項により,「国税滞納処分の例」で徴収される。
②そのため,これらの請求権は,破産法97条4号の「租税等の請求権」に当たると考えられる。
③破産手続開始前の原因に基づくもので,破産手続開始の時に納期限が到来していないか,納期限から1年を経過していないものは財団債権(破産法148条1項3号),それ以外は優先的破産債権となる。
④いずれの区分になっても,免責許可決定によって支払義務はなくならない(財団債権は免責の対象である破産債権ではなく,破産債権となる部分も同法253条1項1号の非免責債権である)。
⑤不正受給の返還金は常に財団債権であるとも,破産すれば免責されるとも言えない。
区分を決めるのは,返還命令・納付命令の納期限と破産手続開始の日の前後関係である。

第2 返還命令と納付命令

1 雇用保険法10条の4の内容

雇用保険法10条の4第1項は,「偽りその他不正の行為により失業等給付の支給を受けた者がある場合には、政府は、その者に対して、支給した失業等給付の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、厚生労働大臣の定める基準により、当該偽りその他不正の行為により支給を受けた失業等給付の額の二倍に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。」と定める。
つまり,不正受給が発覚すると,受け取った給付の返還(返還命令)と,受け取った額の2倍以下の金額の納付(納付命令)の二つが命じられ得る。
同条2項は,事業主,職業紹介事業者等が偽りの届出,報告又は証明をしたために給付がされた場合に,これらの者にも受給者と連帯して納付を命じることができると定めている。

2 徴収の方法

同条3項は,「徴収法第二十七条及び第四十一条第二項の規定は、前二項の規定により返還又は納付を命ぜられた金額の納付を怠つた場合に準用する。」と定める。
徴収法27条3項は,督促を受けた者が指定の期限までに納付しないときは,「政府は、国税滞納処分の例によつて、これを処分する。」と定める。
したがって,返還金・納付金を納めないと,政府は裁判を経ずに,国税の滞納処分と同じ方法で財産を差し押さえることができる。
また,徴収法41条2項は,政府が行う徴収の告知又は督促が時効の更新の効力を生ずると定めている。

第3 破産法上の「租税等の請求権」に当たる理由

1 破産法97条4号の定義

破産法97条4号は,「国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」を「租税等の請求権」と定義している。
雇用保険法10条の4第3項・徴収法27条3項の文言は「国税滞納処分の例によつて、これを処分する」であり,破産法の文言(「国税徴収の例によって徴収することのできる」)と一字一句同じではない。

2 文言の違いは区分を左右しないと考えられる

国税徴収法2条5号は,「公課」を「滞納処分の例により徴収することができる債権のうち国税(その滞納処分費を含む。以下同じ。)及び地方税以外のものをいう。」と定義している。
そして,国税徴収法基本通達(第2条関係9)は,同号の「滞納処分の例により徴収することができる債権」について,「国税滞納処分の例による」旨の規定があるもののほか,「国税徴収の例による」ものはもちろん,「市町村税の滞納処分の例による」等の間接準用の規定があるときもこれに当たるとしている。
滞納処分は国税の徴収手続の一部であり,いずれの文言も国税と同じ強制徴収の手続を使えることを定めたものである。
このため,本記事では,雇用保険の不正受給の返還金・納付金は,破産法97条4号の「租税等の請求権」に当たると整理する。
補助金の返還金についても,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)21条1項が「国税滞納処分の例により、徴収することができる」と定めており,同じ考え方で租税等の請求権として扱われている(詳しくは補助金・助成金を受けた会社の破産を参照)。

第4 財団債権か,優先的破産債権か

1 破産法148条1項3号の基準

破産法148条1項3号は,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの」を財団債権としている。
これに当たらない租税等の請求権は,一般の優先権がある破産債権として,優先的破産債権(同法98条1項)となる。

2 区分の分かれ目

①返還命令・納付命令の納期限が破産手続開始の日より後にある場合,又は納期限から破産手続開始の日までが1年以内である場合は,財団債権となる。
②納期限から1年以上たってから破産手続が開始された場合は,優先的破産債権となる。
③返還命令・納付命令が破産手続開始の後に出された場合でも,不正受給という原因が開始前にあれば,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた」請求権に当たり得る。
開始前の原因かどうかは,請求権自体が開始時に成立していなくても,債権の成立に必要な事実の大部分が開始前に備わっていれば足りるとする考え方(一部具備説)で判断されることが多い(補助金の返還請求権について同じ考え方をとった高裁判決を,補助金・助成金を受けた会社の破産で紹介している)。

3 財団債権になった場合

財団債権は,破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができ(破産法2条7項),破産債権に先立って弁済される(同法151条)。
もっとも,破産財団が財団債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合は,法令に定める優先権にかかわらず,債権額の割合により弁済される(同法152条1項)。
破産管財人の報酬等の管理・換価の費用は,他の財団債権に先立って弁済される(同条2項)。
そのため,財団債権であっても,破産手続の中で全額が支払われるとは限らない。

4 優先的破産債権になった場合

優先的破産債権は,配当の手続の中で,一般の破産債権より先に配当を受ける。
財団が乏しく配当がないまま破産手続が終わることも多いが,その場合でも,次の第5のとおり支払義務は残る。

第5 免責されない

1 破産法253条1項1号

破産法253条1項は,免責許可の決定が確定したときは,破産者は破産債権について責任を免れるとしたうえで,その例外として,同項1号に「租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)」を挙げている。
雇用保険の不正受給の返還金・納付金が租税等の請求権に当たる以上,破産債権となる部分も免責されない。
財団債権となる部分は,そもそも免責許可決定の対象である破産債権ではない。
したがって,いずれの区分になっても,破産手続で支払われなかった残額は,免責許可決定の後も支払う必要がある。

2 相談を受けたときの見通しの示し方

免責されない以上,自己破産は不正受給の返還金・納付金の負担を消す手段にならない。
他の借入れを整理するために破産を申し立てる場合でも,返還金・納付金は破産手続の後も残ることを前提に,生活の見通しを立てる必要がある。
破産手続とは別に,納付の方法を公共職業安定所と協議することになると考えられる。

第6 労災保険の不正受給との違い

1 準用される規定の範囲

労災保険の不正受給については,労働者災害補償保険法12条の3第1項が,政府は保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を徴収することができると定め,同条3項が「徴収法第二十七条、第二十九条、第三十条及び第四十一条の規定は、前二項の規定による徴収金について準用する。」と定めている。
これに対し,雇用保険法10条の4第3項が準用するのは,徴収法27条と41条2項だけである。
徴収法29条(「労働保険料その他この法律の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。」)は,雇用保険の返還金・納付金には準用されていない。

2 破産手続での扱い

労災保険の費用徴収金も,徴収法27条3項の準用により国税滞納処分の例で徴収されるので,雇用保険の返還金・納付金と同じく租税等の請求権として扱われると考えられる。
労災保険の未収債権と費用徴収の仕組みについては,労災保険の未収債権200億円超と民間委託―第三者行為災害の求償・費用徴収・返納金はどう回収されるかで整理している。

第7 受任時に確認する資料

①返還命令書・納付命令書(命令の日,金額,納期限)
②督促状(指定された期限)
③差押えの有無と,差押えがあればその日付(破産法43条2項により,破産手続開始の時に既にされている国税滞納処分は続行を妨げられない)
④不正受給と判断された期間,受給額及び不正行為の内容
⑤破産手続開始の申立ての予定日(納期限から1年を経過する日との前後)

とくに⑤は,申立ての時期によって,同じ請求権が財団債権にも優先的破産債権にもなり得る点で重要である。
ただし,どちらの区分になっても免責されないという結論は変わらない。

第8 関連記事

破産手続における租税等の請求権の分類全般は,倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理で整理している。
家族等が税金を肩代わりした場合の扱いは,家族や代表者が税金を肩代わりした後の破産を参照されたい。

第9 出典

1 法令

①雇用保険法(e-Gov法令検索)10条の4
②労働保険の保険料の徴収等に関する法律(e-Gov法令検索)27条,29条及び41条
③破産法(e-Gov法令検索)2条7項,43条2項,97条4号,98条1項,148条1項3号,151条,152条及び253条1項
④国税徴収法(e-Gov法令検索)2条5号
⑤労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索)12条の3
⑥補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)21条

2 通達

①国税庁「国税徴収法基本通達」第2条関係(公課)

第10 確認状態

雇用保険法10条の4,徴収法27条・29条・41条,破産法の各条,国税徴収法2条5号及び労働者災害補償保険法12条の3は,e-Gov法令検索(法令API)で令和8年9月29日現在の条文を確認した。
国税徴収法基本通達は,国税庁ウェブサイトの本文を確認した。
雇用保険の不正受給の返還金・納付金が破産手続でどの区分になるかを直接判断した裁判例は,確認できていない。
第3の2の整理は,条文と通達の文言から本記事が導いたものである。