第1 固定資産評価証明書と名寄帳の役割
1 評価証明書は特定物件の登録価格等を証明する
固定資産評価証明書は,土地又は家屋について固定資産課税台帳に登録された事項を市町村長が証明する書類である。
登記の登録免許税,訴訟物の価額その他の場面で,特定物件の評価額を示す必要があるときに用いられる。
本記事の調査基準日は令和8年9月27日であり,同月24日に施行されている地方税法,同月27日までに公表された国税庁,法務省,法務局及び自治体の資料を確認した。
証明書の名称,記載事項,請求資格,手数料及び交付方法は自治体により異なるため,本記事では全国に共通する法的な骨格と複数の自治体で確認できる代表的な運用を区別して説明する。
2 名寄帳は所有者ごとの物件を市町村内で確認する
名寄帳は,固定資産課税台帳に基づき,土地又は家屋を所有者ごとにまとめた帳簿である。
ある市町村内で,その人に課税上ひも付けられた物件を探し,所在,面積,評価額,課税標準額等を一覧で確認するときに用いられる。
固定資産税の納税通知書そのものではなく,通常はこれに同封される課税明細書に物件ごとの情報が記載される。
課税明細書に載る不動産と名寄帳に載る不動産は,同じ年度,納税義務者及び課税区域について見れば,通常は大部分が重なる。
しかし,両者は同一の帳票ではないため,自治体の出力範囲,非課税又は免税点未満の物件の扱い,単独名義と共有名義の区分,課税区域等により,記載される不動産が一致しないことがある。
相続財産を調査するときは,納税通知書に同封された課税明細書だけで調査を終えず,名寄帳及び登記事項証明書等と突き合わせて確認する必要がある。
相続財産を調査するときは,名寄帳で候補物件を探し,登記事項証明書で権利関係を確認し,提出先から証明を求められる物件について評価証明書を取得するという順序が考えられる。
名寄帳に記載がないことは,全国に不動産がないことの証明にはならない。
第2 地方税法上の位置付け
1 固定資産課税台帳には登記物件と未登記物件がある
地方税法341条は,土地課税台帳,土地補充課税台帳,家屋課税台帳,家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を固定資産課税台帳と定義しており,同法380条は市町村にその備付けを求めている。
同法381条によれば,登記簿に登記された土地及び家屋は土地課税台帳又は家屋課税台帳に,登記されていない土地及び家屋は土地補充課税台帳又は家屋補充課税台帳に登録される。
この仕組みにより,課税対象として把握された未登記建物が名寄帳に現れることがある。
ただし,固定資産課税台帳は課税のための帳簿であり,記載された名義だけで私法上の所有権が最終的に決まるものではない。
2 証明書の交付と課税台帳の閲覧は別の制度である
地方税法20条の10は地方団体の徴収金に関する証明書の交付を定め,同法382条の3は一定の請求者に対する固定資産課税台帳登録事項の証明書交付を定めている。
これに対し,同法382条の2は,納税義務者その他の一定の者に固定資産課税台帳の関係部分を閲覧させる制度を定めている。
地方税法施行令52条の14及び52条の15は,有償で借りている土地又は家屋の使用者,固定資産を処分する権利を有する者等について,対象となる固定資産の範囲で閲覧又は証明書交付を請求できる場合を定めている。
実際の請求では,請求者の立場と物件との関係を示す資料を自治体の案内で確認する必要がある。
所有者本人の委任がない場合に誰がどの根拠で請求できるか,取得できる不動産の範囲及び必要書類は,固定資産評価証明書を所有者以外が取得できる場合-請求できる人,資格及び必要書類で整理している。
3 名寄帳は固定資産課税台帳に基づいて作られる
地方税法387条1項は,市町村が固定資産課税台帳に基づき,土地名寄帳及び家屋名寄帳を備えなければならないと定めている。
同条3項は,名寄帳に固定資産課税台帳の登録事項がすべて記載されている場合には,課税台帳の閲覧又は写しの交付に代えて,名寄帳の閲覧又は写しの交付をすることができるとしている。
稲城市の案内は,評価証明書及び公課証明書を証明書として扱う一方,名寄帳を所有物件の確認等に用いる公印のない資料として説明している。
名古屋市の案内も,名寄帳は証明書ではなく,公印を押さないと説明しているが,自治体によって帳票の名称及び構成は異なる。
第3 記載内容と使い分け
1 両者の違い
固定資産評価証明書と名寄帳の代表的な違いは,次のとおりである。
| 項目 | 固定資産評価証明書 | 名寄帳 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 特定の土地又は家屋について,登録された価格等を証明する | 所有者ごとに,市町村内の土地又は家屋を一覧で確認する |
| 対象の単位 | 請求時に指定した物件が中心となる | 同一の納税義務者名義で管理される物件が中心となる |
| 主な記載事項 | 所在,地番又は家屋番号,地目又は種類,地積又は床面積,評価額等 | 所在,地目又は種類,面積,評価額,課税標準額,相当税額等 |
| 証明としての扱い | 市町村長が交付する証明書である | 自治体の運用上,公印のない確認用資料とされることが多い |
| 向いている場面 | 登録免許税,訴額算定その他の提出資料 | 相続財産調査,所有物件の棚卸し,課税内容の確認 |
| 主な限界 | 指定していない物件を探す用途には向かない | 他市町村,非課税物件,別名義又は共有名義等を当然には網羅しない |
評価証明書は請求時に対象物件を指定するのに対し,名寄帳も行政区,税区,単独名義又は共有名義ごとに分かれることがある。
したがって,「評価証明書は一物件,名寄帳は市内の全物件」と一律に説明するのは正確でない。
2 評価額,課税標準額及び税額は異なる
評価額は固定資産課税台帳に登録された価格であり,課税標準額は税額計算の基礎となる額である。
住宅用地の特例,負担調整措置その他の制度が適用されると,評価額と課税標準額が一致しないことがある。
税額まで必要な場合には,評価証明書ではなく,公課証明書,課税証明書又は課税明細書が適することがある。
自治体によって名称と記載内容が異なるため,書類名だけでなく,提出先が必要とする項目を確認する必要がある。
第4 相続・登記・訴訟での選び方
1 相続財産を調べる場合
被相続人の不動産を調べる場合,固定資産税の納税通知書,権利証又は登記識別情報,売買契約書等を確認し,関係する市町村の名寄帳を取得する方法がある。
名寄帳から判明した物件について登記事項証明書を取得すれば,登記名義,持分及び抵当権等を確認できる。
令和8年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度では,指定した人が登記名義人となっている全国の不動産を一覧で確認できる。
同制度は登記記録を検索するため,課税対象として把握されていても登記されていない建物は対象外となり得ることから,名寄帳と役割が異なる。
相続財産調査の全体像は,被相続人の財産を調べる方法で説明している。
未登記建物の課税名義と所有権の違いは,未登記建物は誰のものかを参照されたい。
2 相続登記その他の登記をする場合
国税庁の登録免許税の説明によれば,不動産の登記をする場合の課税標準は,原則として市町村の固定資産課税台帳に登録された価格である。
固定資産評価証明書は,この価格を確認する資料として用いられる。
佐賀地方法務局の相続登記案内は,不動産の価額を明らかにする資料として,固定資産評価証明書,固定資産税の納税通知書又は名寄帳を挙げている。
このため,名寄帳は登記で一切使用できないとはいえないが,提出資料の取扱いは申請先の法務局と個別の登記内容により確認することになる。
登記申請が4月1日をまたぐ場合には,使用する年度の評価額を申請先へ確認する必要がある。
敷地権の登記がないマンションにおける土地持分の価格は,敷地権の登記がないマンションの相続登記で説明している。
3 訴訟又は民事執行で価額を示す場合
不動産に関する訴訟の訴額又は民事執行の申立てに必要な価額を示す場面では,提出先が登録価格又は税額の証明を求めることがある。
登録価格を示すのであれば評価証明書,税額を示すのであれば公課証明書が候補となるため,裁判所の案内又は提出指示を先に確認する。
固定資産評価額は,訴訟物の価額そのものではなく,個別の算定規則を適用する基礎資料となる場合がある。
不動産持分に関する訴額算定の一例は,遺留分減殺請求の訴額の算定で説明している。
4 売買価格又は市場価格を知りたい場合
固定資産評価証明書と名寄帳はいずれも固定資産税の評価及び課税に関する資料であり,現在の売却可能価格を直接証明するものではない。
売買価格を検討する場合には,取引事例,地価公示,路線価,不動産鑑定評価又は不動産業者の査定等から,目的に合う資料を選ぶことになる。
第5 名寄帳に物件が載らない主な場合
1 不動産が他の市町村にある場合
名寄帳は各市町村が固定資産課税台帳に基づいて作成するため,一つの市町村の名寄帳から全国の不動産を確認することはできない。
被相続人の住所,居住歴,納税通知書,預金の引落し,郵便物等から,物件が存在する可能性のある市町村を絞り込むことになる。
2 非課税物件が帳票に含まれない場合
名古屋市の案内は,非課税の土地及び家屋は名寄帳に記載されないとしている。
川口市の案内も,非課税の土地又は家屋は名寄帳に記載されないため,評価証明書等を請求するよう案内している。
非課税物件の掲載範囲は自治体の帳票によって異なるため,名寄帳が「該当なし」であっても,非課税物件及び免税点未満の物件を含む結果かを確認する必要がある。
墓地,私道その他の非課税となり得る物件を調べる場合には,対象物件の種類を示して自治体へ照会することが考えられる。
3 単独名義と共有名義が分かれている場合
上田市の案内は,単独所有と共有所有が別々に名寄せされ,それぞれに手数料が必要となる場合を説明している。
共有者の組合せ又は代表者が異なれば別の名義として管理されることがあるため,単独名義だけを検索して調査を終えることはできない。
旧姓,旧住所,外字又は法人名の表記が現在と異なる場合にも検索から漏れる可能性がある。
請求書には,判明している過去の氏名及び住所並びに共有関係を記載する方法が考えられる。
4 1月2日以後に取得した場合
地方税法359条は,固定資産税の賦課期日を毎年1月1日としている。
その年の1月2日以後に取得した不動産は,当年度の取得者名義の名寄帳に直ちに現れないことがある。
新潟市の案内も,1月2日以後に取得した不動産は取得者の名寄帳に記載されないため,評価証明書又は公課証明書を利用するよう説明している。
当年度の名寄帳だけでなく,登記記録及び売買・相続関係資料を確認する理由はここにある。
5 未登記建物又は課税上の名義が異なる場合
未登記建物は,市町村が課税対象として把握していれば家屋補充課税台帳及び名寄帳に記載され得るが,未把握であれば記載されない。
また,名寄帳に記載された課税上の名義と,建築,売買,贈与又は相続によって私法上の所有権を取得した者とが一致しない場合がある。
未登記建物については,名寄帳だけで結論を出さず,建築確認関係資料,工事請負契約書,売買契約書,遺産分割協議書,占有及び費用負担等を確認する必要がある。
所有権の帰属に争いがあれば,固定資産課税台帳上の名義は複数の判断資料の一つとして扱われる。
第6 請求前に確認する事項
1 必要な記載事項から書類を選ぶ
請求前には,①物件の一覧が必要か,特定物件の価格の証明が必要か,②評価額,課税標準額又は税額のどれが必要か,③提出先が評価証明書,名寄帳,納税通知書又は公課証明書のどれを受け付けるかを確認する。
先に提出先の要求を確認すれば,目的と異なる書類を取得することを避けられる。
2 年度,名義及び請求資格を確認する
自治体へ請求するときは,①必要年度及び1月1日現在の名義,②土地,家屋又は償却資産の別,③単独名義,共有名義,旧姓及び旧住所,④非課税物件及び未登記建物の取扱い,⑤本人,相続人,代理人,賃借人その他の請求資格を確認する。
相続人が請求する場合には,被相続人の死亡及び請求者との相続関係を示す戸籍等を求められることがある。
窓口,郵送,オンライン又はコンビニ交付の可否並びに本人確認書類,委任状及び手数料は自治体ごとに異なる。
請求時点の自治体案内を確認し,不明な場合には物件所在地の固定資産税担当部署へ問い合わせることになる。
第7 出典・参考資料
1 法令
①地方税法20条の10,341条,359条,380条,381条,382条の2,382条の3及び387条
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
②地方税法施行令52条の14及び52条の15
https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000245
2 所管行政機関及び法務局の解説・運用資料
①国税庁「No.7191 登録免許税の課税標準」(令和8年4月1日現在)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
②法務省「所有不動産記録証明制度について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html
③佐賀地方法務局「相続による所有権移転登記申請書の作成について」2頁
https://houmukyoku.moj.go.jp/saga/content/001353313.pdf
3 自治体の交付・閲覧案内
①稲城市「評価証明書,公課証明書,名寄帳」
https://www.city.inagi.tokyo.jp/kurashi/zeikin/1002644/1002649.html
②名古屋市「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)課税明細書(名寄帳)」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/zeikin/1007927/1011872/1033715.html
③上田市「固定資産課税台帳・名寄帳」
https://www.city.ueda.nagano.jp/soshiki/zeimu/4929.html
④新潟市「名寄帳(固定資産課税台帳)の閲覧」
https://www.city.niigata.lg.jp/kurashi/zei/shoumei_eturan/zeishomei/nayosecho.html
⑤川口市「固定資産課税台帳の閲覧・証明」
https://www.city.kawaguchi.lg.jp/soshiki/01050/090/1_1/47091.html
⑥名古屋市「固定資産税・都市計画税の課税明細書について知りたい。」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/zeikin/1035069/1012012/1012042/1033979/1012048.html