メインコンテンツへスキップ
       

取消訴訟と国家賠償請求の関係―併合提起・違法性・取消判決の拘束力(AI作成)

違法な行政処分によって不利益を受けた場合,処分の効力を取り除く取消訴訟と,発生した損害の填補を求める国家賠償請求が問題になる。両者は併合提起できる場合があるが,目的,要件,立証責任,期間及び判決の効果は同じではない。本稿は,取消しを経ない国家賠償請求の可否,国家賠償法上の違法性,併合・訴えの変更,取消判決の効力を整理する。現行法令と裁判所公表の判決全文は2026年9月23日に確認した。

第1 取消訴訟と国家賠償請求は何が違うか

1 取消訴訟は処分の効力を取り除く

処分の取消訴訟は,行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める抗告訴訟である。認容判決が確定すれば,処分又は裁決の法的効力が取り除かれ,取消判決は第三者にも効力を有する(行政事件訴訟法32条)。

申請を却下・棄却した処分が取り消された場合,行政庁は判決の趣旨に従って改めて申請に対する処分をしなければならない(同法33条2項)。ただし,申請拒否処分の取消しだけで申請が当然に認容されるとは限らない。

2 国家賠償請求は損害の填補を求める

国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,職務を行うについて,故意又は過失により違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が賠償責任を負うと定める。

国家賠償請求では,少なくとも,①公権力の行使に当たる公務員の職務行為,②国家賠償法上の違法性,③故意又は過失,④損害,⑤行為と損害の因果関係を主張・立証する。認容判決は金銭賠償等を命じるが,処分自体を取り消すものではない。

第2 取消判決を先に得る必要があるか

1 原則として取消しは前提ではない

最高裁昭和36年4月21日第二小法廷判決(昭和35年(オ)第248号・民集15巻4号850頁)を引用した最高裁平成22年6月3日第一小法廷判決(平成21年(受)第1338号・民集64巻4号1010頁)は,行政処分が違法であることを理由とする国家賠償請求につき,あらかじめ当該処分の取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないとした。

平成22年判決の事案は,固定資産の価格が過大に決定されたとする納税者が,固定資産評価審査委員会への審査の申出や取消訴訟を経ないまま,固定資産税等の過納相当額等の損害賠償を求めたものである。最高裁は,価格の修正を求める不服申立手続の定めは,公務員が個別の国民に対する職務上の法的義務に違背した場合の国家賠償責任を否定する根拠にはならないと判断した。

2 取消訴訟の期間を過ぎた後も無条件で救済されるわけではない

取消訴訟の出訴期間を過ぎていても,そのことだけで国家賠償請求が許されなくなるものではない。ただし,国家賠償法上の違法性,故意・過失,損害,因果関係という別の要件を満たさなければならない。

国家賠償請求に勝訴しても,処分の存在や法律関係自体が取消し判決と同じ形で変わるわけではない。処分に基づく義務,資格制限,登録,命令等の法的効果を除去する必要があるなら,取消訴訟の出訴期間を守る必要がある。

第3 「処分が違法」と「国家賠償法上違法」の区別

1 取消事由があっても当然に国家賠償責任は生じない

最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決(平成元年(オ)第930号・民集47巻4号2863頁)は,所得税の更正につき,所得金額を過大に認定していたとしても,そのことから直ちに国家賠償法1条1項の違法性が認められるものではないとした。

同判決は,税務署長が資料を収集し,課税要件事実を認定・判断する上で,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と更正をしたと認められる事情がある場合に限り,国家賠償法上の違法評価を受けると判断した。

したがって,処分取消訴訟において客観的な法令違反や事実誤認が認められても,国家賠償請求では,担当者が当時どのような資料を有し,どのような調査・判断をし,どの職務上の法的義務に違反したかを別に示す必要がある。

2 平成22年判決の意義

最高裁平成22年6月3日判決は,昭和36年判決の原則を固定資産評価の不服申立制度との関係でも確認したが,市長が納税者に対する職務上の法的義務に違反したか,損害額がいくらか等について更に審理させるため事件を差し戻した。不服申立てや取消訴訟を先行させる必要がないことと,賠償請求が最終的に認容されることは別問題である。

同判決の金築誠志裁判官の補足意見は,国家賠償訴訟では故意・過失と職務行為基準による違法性が必要であり,取消しが認められても国家賠償は認められない場合があること,国家賠償訴訟では違法性を基礎付ける事実の立証責任が請求者側にあるという違いを指摘している。

第4 取消訴訟と国家賠償請求の併合

1 関連請求としての客観的併合

行政事件訴訟法13条1号は,処分又は裁決に関連する原状回復又は損害賠償請求を「関連請求」としている。同法16条1項により,取消訴訟に関連請求の訴えを併合できる。

この場合,訴状の請求の趣旨と請求原因は,処分取消請求と国家賠償請求を分けて特定する。取消訴訟については処分性,原告適格,訴えの利益,出訴期間等の訴訟要件を,国家賠償請求については違法性,故意・過失,損害及び因果関係をそれぞれ主張する。

2 別々に係属した場合と追加的併合

取消訴訟と関連請求訴訟が別々の裁判所に係属する場合,関連請求訴訟の裁判所は,相当と認めるときは,申立て又は職権で取消訴訟の裁判所に移送できる(同法13条)。

取消訴訟の口頭弁論終結までは,原告は関連請求に係る訴えを追加的に併合提起できる(同法19条)。もっとも,追加を後回しにすると,消滅時効,証拠散逸,審理の遅延及び訴訟費用の追加が問題となる。

3 国又は公共団体に対する請求への訴えの変更

裁判所は,取消訴訟の目的たる請求を,当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当で,請求の基礎に変更がないと認めるときは,口頭弁論終結まで,原告の申立てにより訴えの変更を許すことができる(同法21条)。

ただし,許可は裁判所の決定によるもので,請求の基礎の同一性と相当性が必要である。取消請求から国家賠償請求へ当然に切り替わる制度ではない。

第5 併合提起の利点と注意点

1 共通する事実と証拠を一度に審理できる

処分の根拠法令,処分に至る経緯,行政庁が収集した資料,事実認定と裁量判断は,両方の訴訟に共通することが多い。併合により,矛盾する判断を避け,証拠調べを共通化できる可能性がある。

他方,国家賠償請求には担当者の職務上の義務,過失,損害額及び因果関係に関する追加審理が必要である。取消訴訟の早期判断が特に重要な事案では,併合による審理範囲の拡大が適切かを検討する。

2 請求ごとの証拠構造を分ける

取消請求には,処分書,申請書,理由提示,処分基準,審査基準,行政庁が参照した資料等が重要となる。国家賠償請求では,これらに加え,担当者が当時利用できた資料,調査・照会の履歴,通常求められる職務過程,現実の損害と支出資料が必要となる。

第6 取消判決の第三者効と拘束力

1 行政事件訴訟法32条と33条

処分又は裁決を取り消す判決は第三者に対しても効力を有し(行政事件訴訟法32条1項),その事件について処分庁その他の関係行政庁を拘束する(同法33条1項)。関係行政庁は,確定した取消判決を無視して同じ処分をそのまま維持できない。

拘束力の対象は,判決主文と,主文を導くために必要な取消理由を踏まえて判断する必要がある。判決理由に記載されたすべての認定や傍論が,無制限に関係行政庁を拘束するとはいえない。

2 取消判決は損害賠償を命じるものではない

処分の違法を理由に取消判決が確定した場合でも,国家賠償法上の職務上の法的義務違反,故意・過失,損害と因果関係は別に審理される。取消判決の確定だけで賠償金の支払義務が発生するわけではない。

逆に,取消訴訟が出訴期間の経過,原告適格,訴えの利益その他の訴訟要件を欠くとして却下されたときは,処分の実体的な適法性は判断されていない。ただし,取消訴訟が実体審理を経て請求棄却の確定判決となった後に,同じ違法事由を前提とする国家賠償請求をする場合は,確定判決との整合性が問題となる。作用する判決効の範囲は,先行判決の主文,請求の対象と違法事由,後訴の主張内容に即して個別に検討すべきである。

第7 期間と消滅時効

1 取消訴訟の出訴期間

取消訴訟は,原則として処分又は裁決があったことを知った日から6か月,処分又は裁決の日から1年で提起しなければならない(行政事件訴訟法14条1項・2項)。各項に正当な理由があるときの例外がある。

2 国家賠償請求の消滅時効

国家賠償法4条により,国又は公共団体の損害賠償責任には,国家賠償法1条から3条までのほか民法の規定が適用される。現行民法724条は,不法行為による損害賠償請求権が,①被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき,②不法行為の時から20年間行使しないときに時効消滅すると定める。人の生命又は身体を害する不法行為の場合,主観的起算点からの期間は5年である(民法724条の2)。

2020年4月1日より前に生じた行為や損害については,改正民法の経過措置を含めた確認が必要である。取消訴訟と国家賠償請求は期間の法的性質と起算点が異なるため,別々に期限表を作る。

第8 請求選択のチェックリスト

1 処分の効力を除去する必要があるか

営業許可,資格,登録,業務停止,退去・是正命令,入札参加資格等,将来にわたる処分の法的効果を止める必要があるなら,国家賠償請求だけでは足りない。取消訴訟と必要に応じた執行停止を検討する。

2 賠償対象となる現実の損害があるか

支払済みの金額,事業停止による営業損失,代替手続費用,弁護士費用相当額その他の損害について,国家賠償法上の因果関係と額を立証できるかを確認する。処分が不利益であったことと,法律上賠償される損害があることは同じではない。

3 主張する違法の内容を分けたか

処分の客観的な法令違反・手続違反と,担当者が当時尽くすべき調査・判断上の職務上の法的義務違反を分ける。後者については,当時の資料と時間軸,追加調査の必要性,先例・基準の明確性,担当者の判断過程を具体化する。

第9 関連記事

行政事件全体は,行政事件訴訟の主要論点を参照されたい。

取消訴訟の被告と電子提出は,mintsで行政訴訟を提起する方法で説明している。

処分性の判断枠組みは,行政処分の処分性とは,裁量処分の違法性は,行政裁量の司法審査で整理している。

抗告訴訟の対象にならない通達等と国家賠償の関係は,通達の法的性質・拘束力と争い方も参照されたい。

行政不服審査と裁決後の訴訟選択は,行政不服審査法の審査請求―期間・執行停止・審理員・裁決・取消訴訟(AI作成)で説明する。

第10 出典と確認範囲

e-Gov法令検索「行政事件訴訟法」

e-Gov法令検索「国家賠償法」

e-Gov法令検索「民法」

最高裁昭和36年4月21日第二小法廷判決(昭和35年(オ)第248号・民集15巻4号850頁)

最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決(平成元年(オ)第930号・民集47巻4号2863頁)

最高裁平成22年6月3日第一小法廷判決(平成21年(受)第1338号・民集64巻4号1010頁)

平成5年判決と平成22年判決は,裁判所ウェブサイトの判決全文PDFを通読した。本稿は国家賠償法1条1項と行政処分の関係を中心とする。営造物責任(同法2条),立法作為,裁判作用,捜査・公訴,個別の税目の還付制度及び改正民法の経過措置は,具体的事案に応じた追加調査を要する。