第1 結論
司法試験の合格者数と司法修習生の採用者数は,同じ時点の同じ集団を数えた数字ではない。
司法試験に合格しただけで司法修習生になるのではなく,別途,最高裁判所の採用選考への申込みが必要である。また,司法試験に合格した年に直ちに採用されるとは限らず,修習開始直後の配属現員には再採用者等が含まれることがある。
このため,単純な引き算を「不採用者」「修習辞退者」又は「法曹にならなかった者」の人数と読むことはできない。
第2 合格から進路確定までの5つの基準時点
1 司法試験の最終合格
法務省が司法試験の最終合格者数を公表する段階である。
2 司法修習生の採用
裁判所法66条1項は,司法修習生を司法試験合格者の中から最高裁判所が命ずると定めている。
最高裁判所も,司法修習生になるには司法試験合格後に別途採用選考へ申し込む必要があると案内している。
3 修習開始直後の配属現員
「司法修習生配属現員表」は,各地への配属後の一定時点の現員を示す。
裁判所データブックの「採用時」の人数とは基準時点と作成目的が違い,一部の期では数が一致しない。
4 二回試験と修習終了
裁判所法67条1項により,司法修習生は少なくとも1年間の修習後,試験に合格して修習を終える。
採用時人数と修習終了者数の差も,二回試験の不合格だけでなく,応試延期,修習の中断・罷免等を含み得るため,個別資料なしに原因を一つに決めることはできない。
5 修習終了直後の進路
裁判所データブックは,修習終了直後について,裁判官,検察官,弁護士及びその他に分けて人数を示している。
弁護士登録後の一定時点を調べる日弁連の「弁護士未登録者数」とは調査時点も調査主体も異なる。
第3 第66期から第79期までの比較
表の「差」は司法試験最終合格者数から裁判所データブックの採用時人数を引いたものである。
各期と司法試験実施年の対応は通常の修習開始日程に基づく整理であり,個々の合格者を追跡したものではない。
| 修習期 | 司法試験実施年 | 最終合格者数 | 採用時人数 | 差(合格-採用) |
|---|---|---|---|---|
| 第66期 | 平成24年 | 2,102人 | 2,035人 | 67人 |
| 第67期 | 平成25年 | 2,049人 | 1,969人 | 80人 |
| 第68期 | 平成26年 | 1,810人 | 1,761人 | 49人 |
| 第69期 | 平成27年 | 1,850人 | 1,787人 | 63人 |
| 第70期 | 平成28年 | 1,583人 | 1,530人 | 53人 |
| 第71期 | 平成29年 | 1,543人 | 1,516人 | 27人 |
| 第72期 | 平成30年 | 1,525人 | 1,482人 | 43人 |
| 第73期 | 令和元年 | 1,502人 | 1,473人 | 29人 |
| 第74期 | 令和2年 | 1,450人 | 1,456人 | ▲6人 |
| 第75期 | 令和3年 | 1,421人 | 1,328人 | 93人 |
| 第76期 | 令和4年 | 1,403人 | 1,393人 | 10人 |
| 第77期 | 令和5年 | 1,781人 | 1,830人 | ▲49人 |
| 第78期 | 令和6年 | 1,592人 | 1,553人 | 39人 |
| 第79期 | 令和7年 | 1,581人 | 1,551人 | 30人 |
1 差を「不採用者数」と読めない理由
第74期と第77期は採用時人数が同じ年の司法試験合格者数を上回っている。
これは,両方が同じ個人集団の入口と出口ではなく,過年度合格者の採用等があり得ることを数字自体が示している。
反対に,合格者数が採用時人数を上回る期も,その差の全員が不採用となったことを意味しない。
申込みをしない者,採用時期を後にする者,在学中受験資格による合格後に法科大学院課程の修了を要する者等が含まれ得る。
2 第77期以降の見方
令和5年司法試験では,法科大学院在学中受験資格による最終合格者が637人となり,合格時点と修習採用要件を満たす時点が従来以上に分かれ得る。
したがって,第77期以降は,司法試験実施年と修習期を対応させるだけで個人の進路を推測してはならない。
第4 修習開始直後の配属現員との違い
裁判所データブック2026の採用時人数と,山中弁護士ブログに掲載している修習開始直後の配属現員を比較すると,第73期以降は次のとおりである。
| 修習期 | 採用時人数 | 配属現員等 | 差(配属等-採用) |
|---|---|---|---|
| 第73期 | 1,473人 | 1,473人 | 0人 |
| 第74期 | 1,456人 | 1,456人 | 0人 |
| 第75期 | 1,328人 | 1,329人 | 1人 |
| 第76期 | 1,393人 | 1,394人 | 1人 |
| 第77期 | 1,830人 | 1,830人 | 0人 |
| 第78期 | 1,553人 | 1,556人 | 3人 |
| 第79期 | 1,551人 | 1,551人 | 0人 |
第75期,第76期及び第78期の差の個別原因は,今回確認した公表資料だけでは分からない。
第70期の1530人と1533人の差については,情報公開・個人情報保護審査委員会の答申と配属現員表から,再採用者3人を含むか否かの違いと確認できるが,この説明を他の期にそのまま当てはめることはできない。
第5 第78期の修習終了直後の進路
裁判所データブック2026によれば,第78期の修習終了者1,552人の修習終了直後の進路は,裁判官等83人(5.35%),検察官68人(4.38%),弁護士1,306人(84.15%),その他95人(6.12%)である。
この数字は修習終了直後の進路であり,約1か月後,約6か月後又は約12か月後の弁護士登録状況を示すものではない。
第6 数字を読むための実務上のチェックリスト
①数字の名称が,合格者数,採用時人数,配属現員,修習終了者数又は弁護士未登録者数のどれかを確認する。
②「採用時」「配属現員表作成日」「修習終了直後」「一括登録時点」等の基準時点を確認する。
③法務省,最高裁判所,日弁連等の調査主体を確認する。
④単純な差を辞退,不採用,二回試験不合格又は就職難の人数と決めつけない。
⑤原因を説明する場合は,該当期の採用選考要項,配属現員表,二回試験資料等で個別に裏付ける。
第7 出典・参考資料
①裁判所「裁判所データブック2026」30頁(司法修習生の数〔採用者数〕)及び31頁(終了者の進路別人数)
②最高裁判所「司法修習生採用選考」
③法務省「司法試験の結果について(平成23年~令和7年)」
④e-Gov法令検索「裁判所法」66条及び67条
⑤最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会「平成29年度(最情)答申第34号」
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②弁護士未登録者数と司法修習終了者の進路の推移(AI作成)
③司法修習とは―採用要件,1年間の流れ,修習内容,給付金及び二回試験
④二回試験の不合格者数の推移等―新60期から78期までの期別推移と科目別ランキング
⑤司法試験制度の改正経緯