第1 この記事が扱う甲府修習
1 対象と資料の時点
本記事は,甲府を実務修習地とする司法修習について,第79期の日程,実務修習機関の所在地,近年の配属人数,第77期に実施された裁判修習の内容,住居・交通・気候及び実務修習地指定の仕組みを整理するものである。生成AIを用いて公開資料を通読し,日程,人数,金額及び所在地を原資料と照合した。
現在の日程と給付制度は第79期資料による。他方,甲府固有の詳細な修習日程として確認できた資料は第77期の裁判修習に関するものであるため,第77期の実績を第79期にもそのまま当てはめることはできない。
2 公開資料から分かる範囲
公開資料から具体的に確認できるのは,①最高裁判所が公表した司法修習全体の日程と給付制度,②各期の司法修習生配属現員表,③甲府地方裁判所が作成した第77期の実務修習日程及び指導担当者名簿,④裁判所・検察庁・弁護士会その他の公的機関が公表する所在地・管轄・交通・気象情報である。
これに対し,検察修習,弁護修習及び選択型実務修習の甲府固有の全日程,指導担当法律事務所,支部へ移動する具体的な頻度,修習生の自動車保有率及び第79期の甲府配属人数は,確認できる公開資料がない。この区別を前提として読む必要がある。
第2 第79期司法修習の日程と甲府の位置付け
1 司法修習の基本構造
裁判所法66条は司法修習生の採用を,67条は少なくとも1年間の修習及び考試を定める。最高裁判所の司法修習の概要によれば,司法修習は,司法研修所で行う導入修習,各実務修習地で行う民事裁判・刑事裁判・検察・弁護の分野別実務修習,選択型実務修習,司法研修所で行う集合修習及び司法修習生考試から構成される。
第79期司法修習生採用選考申込手続の手引き2頁(PDF2頁)によれば,第79期は令和8年3月19日から同年4月10日までが導入修習,同月14日から同年11月20日までが分野別実務修習である。その後,集合修習と選択型実務修習が約1か月半ずつ実施される。
2 甲府では選択型実務修習が集合修習より先になる
第79期手引きは,東京,立川,横浜,さいたま,千葉,大阪,京都,神戸,奈良,大津及び和歌山を第1の区分とし,それ以外の実務修習地を第2の区分としている。甲府は第2の区分に属するため,令和8年11月下旬から令和9年1月中旬まで選択型実務修習を行い,その後,同年1月中旬から2月下旬まで集合修習を行う予定である。
同手引きは,指定された実務修習地の住居を各自で確保すると明記する。したがって,甲府配属が決まった場合には,分野別実務修習の開始日を基準として住居を用意する必要があり,集合修習のため司法研修所へ移る時期も契約期間を検討する要素となる。
第3 甲府の実務修習機関
1 裁判所・検察庁・弁護士会は中央1丁目に集中する
甲府の中核となる3機関は,甲府地方・家庭・簡易裁判所が甲府市中央1丁目10番7号,甲府地方検察庁が同丁目11番8号,山梨県弁護士会が同丁目8番7号にある。いずれも中央1丁目にあり,少なくとも中核3機関相互の移動距離は短い。
甲府地方・家庭・簡易裁判所は,JR甲府駅南口から平和通りを南へ徒歩約15分と案内している。駐車台数には限りがあるため公共交通機関の利用を求めており,裁判所への日常的な通所だけを基準にすれば,甲府駅南側から中央1丁目周辺は住居候補として検討しやすい地域である。
2 山梨県内の裁判所配置
山梨県内の管轄区域表によれば,県内には甲府地方・家庭裁判所本庁と都留支部があり,簡易裁判所は甲府,鰍沢,都留及び富士吉田に置かれている。裁判員制度対象事件及び行政事件は本庁で扱われ,東部・富士五湖地域の一部事件は都留支部等の管轄となる。
もっとも,管轄区域が県内に広がることから,甲府修習生が各支部等へどの程度移動するかまで当然に導くことはできない。公開された第77期の裁判修習日程には簡易裁判所及び家庭裁判所の修習が含まれるが,個々の移動先と頻度は別途確認を要する。
第4 甲府に配属された司法修習生の人数
1 第66期から第78期までの配属現員
最高裁判所の司法修習生配属現員表について,各期の甲府欄を確認した結果は次のとおりである。
| 司法修習期 | 甲府の配属現員 | 司法修習期 | 甲府の配属現員 |
|---|---|---|---|
| 第66期 | 14人 | 第73期 | 10人 |
| 第67期 | 13人 | 第74期 | 8人 |
| 第68期 | 12人 | 第75期 | 9人 |
| 第69期 | 11人 | 第76期 | 9人 |
| 第70期 | 9人 | 第77期 | 12人 |
| 第71期 | 10人 | 第78期 | 10人 |
| 第72期 | 10人 |
2 人数表から読み取れること
第66期から第78期までの甲府配属は8人から14人であり,直近5期は8人,9人,9人,12人,10人である。甲府は1期10人前後の小規模な実務修習地として推移しているといえる。
ただし,配属現員は各期の実績であり,次期の定員,人気度又は希望が認められる確率を示すものではない。現在の希望順位別応募者数及び希望充足率は公表されていないため,過去の人数だけから甲府への配属可能性を数値化することはできない。
第5 第77期甲府修習の裁判修習
1 6人ずつの2班
第77期甲府修習の指導担当裁判官の名簿及び同実務修習日程によれば,第77期甲府修習は12人で,裁判修習では6人ずつの1班と2班に分かれていた。1班は民事,刑事の順,2班は刑事,民事の順で修習した。
公開名簿では,民事は部総括担当及び補助担当のほか,1班に4人,2班に5人の担当者が配置され,刑事は部総括担当及び補助担当のほか,各班に4人の担当者が配置されていた。この人数は担当体制を示すが,指導の密度又は修習生の満足度を直接示すものではない。
2 民事裁判修習の内容
1班の民事裁判修習は令和6年4月16日から同年6月10日まで,2班は同年8月2日から同年9月26日までであった。日程には,オリエンテーション,裁判所書記官講義,争点整理を念頭に置いた起案及び講評・面談,民事執行・破産・保全,証人尋問教材,所長講話並びに自由研究が記載されている。
地方裁判所の訴訟事件に限らず,簡易裁判所の民事調停及び家庭裁判所の家事・少年修習も組み込まれていた。第77期の日程からは,少人数班を基礎として起案と面談を反復し,地裁・簡裁・家裁の実務を横断する構成であったことが分かる。
3 刑事裁判修習の内容
2班の刑事裁判修習は令和6年6月11日から同年8月1日まで,1班は同年9月27日から同年11月20日までであった。日程には,起案,講評・面談,量刑講義,判決骨子の作成,事実認定教材,ミニ模擬裁判,複数回の模擬裁判準備及び模擬裁判本番が記載されている。
刑事裁判修習にも家庭裁判所の家事・少年修習及び所長講話が含まれていた。もっとも,これらは第77期の裁判修習の実績であり,第79期の担当者,日程又は教材が同じであることを示す資料ではない。
第6 住居・交通・気候
1 住居を探す範囲
中核3機関が中央1丁目に集まり,裁判所が甲府駅南口から徒歩約15分であることから,徒歩通所を重視する場合は甲府駅南側,丸の内及び中央周辺が候補となる。他方,検察修習,弁護修習又は支部等への移動条件は公開資料だけでは分からないため,自動車の必要性を一律に断定することはできない。
民間サイトには家賃の平均値等も掲載されているが,対象物件,集計時点及び契約期間が明らかでない数値は採用していない。住居を決める際は,家賃だけでなく,短期契約の可否,駐車場,集合修習へ移る時期及び住居給付金の要件を確認する必要がある。
2 東京方面との交通
JR東日本の案内では,新宿駅から甲府駅まで中央線特急「あずさ」で約1時間30分とされている。甲府は東京方面と乗換えなしで結ばれているが,日常的な移動時間と運賃は利用列車によって異なるため,実際の予定はJR東日本の時刻表で確認する必要がある。
この所要時間は,東京方面の就職活動や休日移動を検討する基礎となる。他方,終電時刻,繁忙期の指定席又は運休可能性まで含めて「東京に近い」と評価できるかは,移動目的と頻度によって異なる。
3 甲府盆地の気候
甲府地方気象台の山梨県の気候によれば,甲府盆地は降水量が比較的少なく,日照時間が長い一方,内陸性の気候により気温の年較差と日較差が大きい。甲府の年平均気温は14度から15度で,猛暑日の年間平年値は16.9日,冬日の年間平年値は64.1日である。
冬型の気圧配置による降雪は多くないが,南岸低気圧によって大雪となる場合がある。住居と通所手段を検討する際は,夏の高温と冬の低温の双方を前提とし,降雪日だけを基準として冬季の生活負担を判断しない方がよい。
第7 実務修習地の希望と修習給付金
1 甲府を希望しても配属は保証されない
司法研修所は,過去の実務修習希望地調査において,希望地の記載は実務修習地決定の参考とするためであり,希望どおりの決定を保証しないと説明している。また,通知された実務修習地の変更は認められないとしている。希望地の記載方法と過去の倍率資料は,司法修習の場所を選ぶ際の基礎データ及び司法修習の希望場所の記載方法に掲載している。
国会答弁では,最高裁判所事務総局の政府参考人が,実務修習地は司法研修所長が決定し,希望を基本としつつ,健康状態や家族の状況等を考慮すると説明した例がある。ただし,平成29年3月22日の参議院法務委員会答弁及び平成16年11月24日の衆議院法務委員会答弁は当時の運用説明であり,第79期の配属割合又は優先基準を示すものではない。
2 基本給付金・住居給付金・移転給付金
裁判所法67条の2及び最高裁判所の修習給付金案内によれば,修習給付金は基本給付金,住居給付金及び移転給付金からなる。基本給付金は給付期間ごとに13万5000円,住居給付金は,自ら居住する住宅を借りて家賃を支払い,所定の届出をした場合に給付期間ごとに3万5000円である。
移転給付金は,修習に伴う住所又は居所の移転が必要と認められ,所定の届出をした場合に,最高裁判所が定める路程に応じた定額が支給される。住居給付金及び移転給付金には届出と証明資料が必要であるため,賃貸借契約,家賃支払及び移転日の記録を保管する必要がある。制度全体と届出については,第78期の司法修習に関する事務便覧の解説も参照されたい。
3 実務修習地指定に関する裁判例
東京地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(ワ)第20444号)は,全国各地の実務法曹の実態に触れる分野別実務修習等には必要性・有用性があり,実務修習地の指定は制度目的と合理的関連性を有するとして,憲法22条1項違反を否定した。同判決は甲府への配属を争った事件ではないが,希望に反する修習地指定と居住・移転の負担を考える際の一般的な判断例である。
裁判所ウェブサイトで「実務修習地」を検索すると,このほかにも給費制廃止をめぐる複数の下級審判決が掲載されているが,いずれも甲府修習固有の事件ではない。甲府の人気度又は生活上の利便性を裁判例から導くことはできない。
第8 公開資料だけでは分からない事項
甲府修習を選ぶ際に有用でありながら公開資料で確認できないのは,①第79期の甲府配属人数と班編成,②第79期の裁判・検察・弁護・選択型実務修習の全日程,③希望順位別応募者数と希望充足率,④弁護修習の指導担当事務所,⑤都留支部その他への移動頻度,⑥短期賃貸住宅の実成約賃料及び修習生の自動車保有状況である。
このうち,配属後の日程と移動は配属庁会から交付される資料で,住居条件は契約時点の市場情報で確認すべき事項である。過去の体験談は修習の具体像を知る手掛かりになるが,担当者,事件及び生活条件が期ごとに変わるため,公的資料で確認できる事実と個人の評価を分けて扱う必要がある。
出典・参考資料
1 法令・裁判例
① 裁判所法(昭和22年法律第59号)66条,67条,67条の2及び67条の3(e-Gov法令検索)
② 東京地方裁判所平成29年9月27日判決(平成25年(ワ)第20444号,裁判所ウェブサイト)
2 司法研修所・裁判所資料
① 最高裁判所「司法修習の概要」
② 最高裁判所「令和7年度司法修習生採用選考申込手続の手引き」2頁(PDF2頁,第79期)
③ 最高裁判所「司法修習生の修習給付金について」及び「修習給付金案内(第79期)」6頁(PDF6頁)
④ 最高裁判所「司法修習生配属現員表」(第66期~第78期,各期1頁)
⑤ 甲府地方裁判所「第77期甲府修習の実務修習日程」2頁~19頁(PDF2頁~19頁)
⑥ 甲府地方裁判所「第77期甲府修習の指導担当裁判官の名簿」1頁~4頁(PDF1頁~4頁)
⑦ 裁判所「甲府地方裁判所・甲府家庭裁判所・甲府簡易裁判所の所在地」及び「山梨県内の管轄区域表」
⑧ 第193回国会参議院法務委員会第5号最高裁判所事務総局審議官答弁(平成29年3月22日,国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑨ 第161回国会衆議院法務委員会第11号最高裁判所事務総局人事局長答弁(平成16年11月24日,国立国会図書館国会会議録検索システム)
3 関係機関・交通・気象資料
① 甲府地方検察庁「甲府地方検察庁」
② 山梨県弁護士会「山梨県弁護士会について」
③ 甲府地方気象台「山梨県の気候」
④ JR東日本「富士山に抱かれた街・甲府へ アート&温泉めぐり」(令和8年5月20日更新)