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平成25年司法試験民事系第2問(商法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した31項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成25年司法試験の民事系科目第2問(商法)を対象に,法務省の出題の趣旨と採点実感から評価項目を独自に抽出し,答案と解説を示す。
以下の31項目と重みは法務省の公式採点基準・配点ではなく,答案の構造を確認するための本記事独自の整理である。

項目内容
対象問題平成25年司法試験・民事系科目第2問(PDF7頁~10頁)
答案の基準時平成25年5月16日
出題の趣旨平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨・PDF5頁の第2問見出しから7頁の第3問見出し直前までを確認
採点実感平成25年司法試験の採点実感等に関する意見・民事系第2問のPDF16頁~18頁(第2問の冒頭及び末尾を含む)を確認
主要事項譲渡制限株式,報酬決議と返還,株主割当の差止め・無効
評価項目31項目,重み5は3項目,重み合計118
答案の分量3920字(答案内の見出し・空白・改行を含む)。空白・改行を除くと3807字
判例の扱い出題の趣旨が参照する最高裁判決の扱いと確認の範囲は第7に示す。
試験後の法改正・判例本答案の結論を後発の法状態へ置き換えていない。
確認日令和8年11月2日

本答案は,みなし承認を有効とし,Fの権利行使を認める。
報酬増額決議には取消事由があり,取消し後の個別配分決議を全部無効とする構成から,Aに2億円,D・Gに各2000万円の返還を認める。
新株発行は発行前の差止めを認める一方,発行後は本件の不公正さだけでは無効としない構成である。
これらは理由を示して採用した構成であり,公式資料が全ての結論を一律に指定したものではない。

重み5は,制度の意図的利用の評価(番号3),総枠を超える取締役会決議の効力(番号18),会社の報酬制度を使った払込資金の優位の評価(番号24)である。
全項目は第4,答案と対応表・設問別解説は第5に掲載する。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一つの項目に一つの判定対象を置き,答案に何が書かれていれば充足するかを具体化した。
出典欄の頁は法務省PDF全体の頁数である。
「記載なし」は本問の関連範囲を確認した上で当該基準の明示を確認できなかったことを示し,法的な誤りや資料不存在を意味しない。
「注意」は誤りを避ける項目であり,別建ての減点を意味しない。
条件付き項目は採用した構成に応じて適用し,不採用の別構成を累積要求しない。

2 5段階の重み付けの基準

重み5は設問の判断を大きく分ける核心,4は結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ,3は通常押さえる法的処理・事情の評価,2は論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意,1は補充的な引用・記述範囲の確認である。
両公式資料への登場回数や過去問の分布から機械的に割り当ててはいない。
注意項目にも,その誤りが本問へ及ぼす影響に応じて重みを付けている。
番号22は番号18,番号31は番号28~30と重なる注意であり,同じ不足を二重に評価しない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

甲社は全株式に譲渡制限がある株券発行会社で,取締役会と会計監査に限定された監査役を置いている。
代表取締役Aは自己の支配権を確立するため,EからFへの株式譲渡,取締役報酬の増額,株主割当による新株発行を進めた。
Qの遺産である120株の権利行使者としてB・CがBを指定して通知したが,Aは総会でその議決権行使を認めなかった。
報酬総額は従前の6000万円から3億円へ増額され,取締役会はA2億円,B1500万円,C1200万円,D・G各2000万円の個別額を定めた。
3月17日に株主割当の通知が届き,4月1日に報酬支給と払込みが行われた。
正確な事実・定款・設問の指定は法務省の問題文で確認できる。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・仮定・除外到達点
1EからFへの譲渡と甲社の取扱い基準日なし。名義書換の請求・記載なし会社に対する効力と総会での権利行使
2⑴Bの会社法上の手段報酬増額決議を対象とする取消しの手段・理由・裁量棄却
2⑵甲社からA・D・Gへの請求423条の任務懈怠責任は検討しない決議の効力から返還可否・具体額まで
3①3月17日のBの手段株主割当であり発行前差止めと実効的な保全
3②4月1日経過後のBの手段発行後の効力を争う無効の訴えと無効事由の検討

第4 評価項目と重み

1 設問1

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1株券交付による当事者間の譲渡と,譲渡承認による会社に対する効力を区別する。3PDF5頁。「株券の交付」記載なし
2適式な承認請求後2週間の不通知により,145条のみなし承認の形式要件を満たすと示す。3PDF5頁。「みなし承認の要件を形式的に充足」PDF16頁。「みなし承認の要件を形式的に充足」
3Aが承認を避けて制度を意図的に利用した事情を,譲渡自由・譲渡制限・みなし承認の趣旨及び既存株主とFの利益から評価する。5PDF5頁。「制度の目的とは異なる目的」PDF16頁。「理由が適切に述べられていれば」
4130条の名義書換を会社に対する対抗要件と位置付け,株式譲渡の効力要件と混同しない。4PDF5頁。「名義書換が対抗要件」PDF16頁。「名義書換が対抗要件」
5基準日未設定を踏まえ,会社の事務処理の便宜という制度趣旨から,会社側が真の譲受人Fの権利行使を認める可否を論じる。【適用条件】譲渡が会社に対して有効とする構成。4PDF5頁。「基準日の定めがなく」PDF16頁。「会社の事務処理の便宜」
6Aの誤説明とFの手続上の落ち度を踏まえ,不当拒絶に類似する状況として扱う理由を示す。【適用条件】不当拒絶類似の構成を採用する場合。3PDF5頁。「不当拒絶に類似する状況」PDF16頁。「一定の落ち度」
7【注意】みなし承認の効力を否定する場合,単なる名義書換未了と区別し,会社の事務処理の便宜だけでFの権利行使を肯定しない。【適用条件】みなし承認の効力を否定する構成。4PDF5頁。「みなし承認の効力を否定」PDF16頁。「前段と後段との論理的関係」

2 設問2小問⑴

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
8Bが報酬増額決議の効力を争う手段を831条の株主総会決議取消しの訴えと特定する。3PDF6頁。「決議取消事由」PDF17頁。「株主総会決議の取消事由」
9招集の目的事項に含まれない報酬増額を当日決議したことを309条5項違反として831条1項1号に接続する。4PDF6頁。「同法第309条第5項に違反」PDF17頁。「当日の議題提出」
10準共有株式の権利行使者の指定について,106条の趣旨・指定の意味・全員一致説との比較を示し,持分過半数による指定の可否を論じる。4PDF6頁。「共有者の全員一致」PDF17頁。「共有者の持分の過半数」
11Bへの指定・通知を有効とする構成では,Qの120株の議決権を排除した決議方法の違法を示す。【適用条件】権利行使者指定を有効とする構成。4PDF6頁。「議長AがBによる議決権の行使を認めなかった」PDF17頁。「権利行使者の指定」
12【注意】報酬総額決議における取締役兼株主の特別利害関係を検討し,単に他の株主と異なる利益を得る者という定義で処理しない。4PDF6頁。「特別利害関係人に該当するか否か」PDF17頁。「他の株主と異なる利益を得る者」
13Aの議決権行使により著しく不当な報酬総額決議がされたかを,本件の増額目的・金額等から論じる。4PDF6頁。「著しく不当な決議」PDF17頁。「同法第831条第1項第3号」
14Fを株主として扱えない構成では,Eに招集通知を送らなかったことの取消事由該当性を検討する。【適用条件】Fを株主として扱えない構成。3PDF6頁。「Eに株主総会の招集通知を発していない」記載なし
15Fを株主として扱えない構成では,Fの議決権行使を許したことの取消事由該当性を検討する。【適用条件】Fを株主として扱えない構成。3PDF6頁。「Fの議決権行使を許容した」記載なし
16主張した手続・方法の取消事由について,瑕疵の重大性と決議への影響から831条2項の裁量棄却を検討する。3PDF6頁。「裁量棄却の余地」PDF17頁。「裁量棄却の余地」

3 設問2小問⑵

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
17平成25年の増額決議の取消しにより効力が遡及的に失われ,平成23年の報酬総額6000万円の決議がなお有効であると示す。4PDF6頁。「なお効力を有する」PDF17頁。「なお効力を有する」
18有効な総枠を超える個別報酬額を定めた取締役会決議が全部無効か一部無効かを理由付きで判断する。5PDF6頁。「全部無効となるのか又は一部無効」PDF17頁。「取締役会決議の効力」
19取締役会決議を一部無効とする場合,有効部分を残す根拠と各人について無効になる具体的金額を示す。【適用条件】取締役会決議を一部無効とする構成。4PDF6頁。「各取締役に対する報酬決定について無効となる金額」PDF17頁。「一部無効となる具体的金額」
20取締役会決議を全部無効とする場合でも,全部返還を求められるかを従前の報酬決定・期間・結論の妥当性から検討する。【適用条件】取締役会決議を全部無効とする構成。4PDF6頁。「全部返還を求め得るのか」PDF17頁。「結論の妥当性」
21採用した取締役会決議の効力論を踏まえ,A・D・G各人への不当利得返還請求の可否と具体的金額を論理的に示す。4PDF6頁。「不当利得として報酬の返還」PDF17頁。「その具体的金額」
22【注意】総会決議が取り消されたというだけで返還額を決めず,個別額を定めた取締役会決議の効力を検討する。4PDF6頁。「取締役会決議の効力を論ずる必要がある」PDF17頁。「取締役会決議の効力に触れないで」

4 設問3①(発行前)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23【注意】株主全員に申込機会がある株主割当であることを踏まえ,第三者割当の主要目的ルールをそのまま適用しない。4PDF6頁。「株主全員に申込みの機会」PDF17頁。「主要目的ルールをそのまま」
24Aの支配権確立目的と報酬増額による払込資金の優位を具体的に評価し,210条2号の著しく不公正な方法に当たるか論じる。5PDF6頁。「有利な状況を自ら作出」PDF17頁。「不公正発行を理由とする差止請求」
25Bの持株比率の低下を具体的な不利益として,株主が不利益を受けるおそれの要件に当てはめる。4PDF6頁。「持株比率の低下」PDF17頁。「不利益を受けるおそれ」
26差止請求権を被保全権利とする民事保全法23条2項の仮処分を挙げ,払込期日までの時間等から保全の必要性を説明する。4PDF6頁。「保全の必要性」PDF17頁。「仮処分(民事保全法第23条第2項)」

5 設問3②(発行後)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
27発行後の効力を争う手段を828条1項2号の新株発行無効の訴えと特定する。3PDF6頁。「新株発行無効の訴え」PDF17頁。「新株発行無効の訴え」
28無効事由に明文規定がないことを踏まえ,発行後の法律関係の安定と業務執行に準ずる性質を重視する考え方を検討する。4PDF6頁。「無効事由について法の定めがない」PDF17頁。「業務執行に準ずる」
29非公開会社では持株比率維持の利益が重視されることを,無効事由の判断に反映する。4PDF7頁。「株主の持株比率の利益」PDF18頁。「株主の持株比率の維持」
30Bには発行前の差止仮処分による救済の機会があったことを,無効事由の判断と結び付けて検討する。4PDF7頁。「仮処分により救済を受けることが可能」PDF18頁。「仮処分により救済を受けることが可能」
31【注意】非公開会社で株式が流通しないというだけで不公正発行を無効とせず,法律関係の安定・持株比率・事前救済を比較する。3記載なしPDF17頁。「株式が流通しないから」

6 重みの分布

重み1は0項目,2は0項目,3は9項目,4は19項目,5は3項目である。
N=0+0+9+19+3=31,W=1×0+2×0+3×9+4×19+5×3=118となる。
この集計は条件付き項目と注意項目を含む公開表全体の分布であり,一つの答案に全項目を累積適用した配点ではない。
番号3・18・24は判断の分岐を担う核心であるため5とした。
番号4・5・9~13・17・20・21・25・26・28~30等は,その判断を理由・当てはめ・救済で支える事項として4とした。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

平成25年5月16日当時の問題に答える構成である。
条文番号のみの引用は会社法を指す。
設問1はみなし承認有効,設問2は個別配分決議全部無効,設問3②は不公正発行だけでは無効としない立場を採る。
対立する構成の存在は解説へ分け,答案の結論を公式指定の結論と表示しない。

2 答案

1 設問1

(1) 株式譲渡の甲社に対する効力
甲社は株券発行会社であり,EからFへの株券交付によって当事者間の譲渡は効力を生じる(128条1項)。
ただし,譲渡制限株式の譲渡が甲社に対して効力を生じるには,原則として取締役会の承認を要する(定款5条,139条1項)。
Eは2月13日に適式な承認請求をしたのに,甲社は2週間以内に決定内容を通知していないため,145条1号のみなし承認の形式要件を満たす。
問題は,Aが取締役会による否決を懸念して意図的に付議を避けた場合にも,この効果を認めてよいかである。
譲渡制限は会社にとって好ましくない者の参加を防ぎ,既存株主の人的関係を保護する。
Aの行為を許せば,承認機関を迂回して支配権確立のために制度を利用できるという問題がある。
しかし,株式譲渡は本来自由であり,みなし承認は会社の応答遅延によって譲渡人等の地位が不安定になることを防ぐ。
代表取締役の内部的な付議懈怠を理由に外部者への承認効果を覆せば,この制度の確実性が損なわれる。
本件ではFがAと通謀して承認制度を潜脱した事情は示されず,Fは承認済みとの説明を受けて代金1億円を支払い株券を受領した。
既存株主の利益を考慮しても,その保護をFの取得の否定によって実現するのは相当でない。
したがって,本件ではみなし承認の効力を認め,譲渡は甲社に対しても有効と解する。

(2) Fを株主として扱うことの可否
株券発行会社の株式譲渡は,取得者の氏名・住所を株主名簿に記載しなければ会社に対抗できない(130条1・2項)。
Fは名義書換を請求せず記載もないので,原則として自己の株主資格を会社に主張できない。
もっとも,名義書換は会社が多数の株主関係を画一的に処理する便宜のための対抗要件であり,会社が自己の危険で真の譲受人の権利行使を認めることを禁止するものではない。
前記のとおり譲渡は甲社に対して有効で,基準日も設定されていないから,甲社は総会当日の株主であるFを株主として取り扱い,Dによる代理行使を認めることができる。
Aの誤説明によってFが書換を請求しなかった点は,Fにも法定手続を履践しなかった落ち度があるものの,不当拒絶に類似する状況としても評価し得る。
ただし,現実の書換請求があったと事実を置き換える必要はなく,本答案は上記の会社側からの権利行使の容認によって結論を導く。

2 設問2

(1) 小問⑴
Bは株主として,甲社を被告に,本件報酬増額決議の日から3か月以内に決議取消しの訴えを提起する(831条1項,834条17号)。

ア 目的事項外の決議
取締役会設置会社の株主総会は,原則として招集時に定められた目的事項以外を決議できない(309条5項)。
報酬増額は,通知された決算承認・取締役選任とは別の目的事項である。
304条の議案提出権は目的事項の追加を認めるものではない。
全株主が出席していてもBは反対しており,目的外の審議・決議について全員の同意があったとはいえない。
したがって決議方法の法令違反として831条1項1号の取消事由がある。
準備・判断の機会を確保する規律に関わる以上,違反が重大でないとして同条2項により裁量棄却すべきでもない。

イ 準共有株式の議決権排除
Qの120株は遺産分割前の相続人A・B・Cの準共有に属する。
106条は会社の事務処理の便宜のため権利行使の窓口を一本化する規定で,権利行使者の指定自体は株式の処分ではない。
全員一致を要求すると一人の反対で権利行使が妨げられるため,管理に関する事項として持分価格の過半数で指定できると解する。
指定の重要性から全員一致を求める考え方に対しても,共同相続人間の利益調整と会社への窓口指定を区別すべきである。
B・Cの持分は合計3分の2であり,Bを指定して甲社へ通知しているから,その指定は有効である。
Aの不同意を理由に120票を排除したことも決議方法の法令違反となる。
排除がなければ賛成480票に対し反対520票で決議は成立しないので,決議に影響しないことを要する裁量棄却もできない。

ウ 特別利害関係
831条1項3号の特別利害関係とは,株主一般としての利益とは別の個人的利害をいう。
単に取締役であることや他の株主と異なる利益を得ることだけで決めるべきではない。
本件のAは自己の新株引受資金を賄うため報酬増額を企図し,直後の個別配分で自己の報酬を2000万円から2億円へ増額している。
総額決議であっても,その具体的目的から特別の個人的利害を認められる。
総額を6000万円から3億円へ増やし,その大半をAに配分して支配権確立の資金とする内容は,Bの財務面の反対も踏まえると著しく不当である。
120票の排除を前提としても,Aの400票を除けば賛成80票に対し反対400票であり,Aの議決権行使が決議を成立させた。
したがって同号による取消しも主張できる。
特別利害関係株主の議決権行使が当然に禁止されるという趣旨ではない。

(2) 小問⑵
ア 決議取消しと取締役会決議の効力
報酬について総会が総額を定め,個別配分を取締役会へ委ねることは361条1項の趣旨に反しないが,配分は有効な総枠内で行う必要がある。
平成25年の増額決議が取り消されると遡及的に効力を失い,平成23年の総額6000万円の決議がなお効力を有する。
そこで,総額2億6700万円の個別報酬を定めた取締役会決議が全部無効か一部無効かを検討する必要がある。
超過部分だけを無効として有効部分を残す考え方もあり得る。
しかし,本件の配分は新たな3億円の総枠を前提に一体として決定されており,6000万円であれば誰にいくら配分する意思であったかは確定できない。
単純な比例減額や特定人からの減額を裁判所が選べば,取締役会が行っていない配分を新たに作ることになる。
したがって本答案では,個別配分決議の全部を無効と解する。

イ 返還の範囲
全部無効でも,従前の有効な報酬権が残るなら,その額まで当然に返還を求められるわけではない。
しかし,旧個別報酬は次の定時総会までの間とされ,Aの旧額2000万円の決定も期間を終えている。
旧総額が存続することと各人の個別報酬権が存続することは別であり,新任D・Gには従前の個別報酬権もない。
役務を提供する取締役に一切の報酬を認めない結果への疑問はあるが,そのことだけで,株主による報酬統制を離れた任意の額を有効とすることはできない。
本件には新たな適法な配分や別の有効な報酬権を認める事情がなく,次の定時総会までの報酬が4月1日に一括支給されている。
よって本答案の構成では,甲社は法律上の原因なく支給した不当利得として,Aに2億円,D・Gに各2000万円の返還を求めることができる(民法703条)。
423条の損害賠償責任を請求原因とするものではない。

3 設問3

(1) 3月17日の時点
Bは,210条2号に基づき著しく不公正な方法による新株発行の差止めを求めることができる。
本件は株主割当で,定款6条により取締役会が募集事項等を決定できる(202条3項2号)。
全株主に持株数に比例した申込機会があり,第三者割当の場合のように支配権確立目的だけから直ちに不公正とすることはできない。
3月17日の通知も4月1日の申込期日の2週間前までという要件を満たす。
しかし,AはB・Cが多額の払込資金を用意できないことを見込み,自己は借入だけでは不足する分を会社からの増額報酬で補っている。
単に株主間の資力が異なる場合と違い,Aが会社の報酬決定を利用して自己だけに有利な資金調達条件を作った点が重要である。
比例的な割当の外形があっても,会社の仕組みを利用して対立株主の比率を低下させ支配権を確立する本件の方法は,著しく不公正と評価できる。
A・D・Fが払い込みBが払い込めなければ,Bの持株比率が低下する不利益を受けるおそれもある。
払込期日が迫り,通常訴訟の判決を待っていては発行が実施され,支配関係が変動する。
発行後の無効にも限界があるため,差止請求権を被保全権利とし,著しい損害又は急迫の危険を避ける必要があるとして,民事保全法23条2項の仮の地位を定める仮処分を申し立てる。

(2) 4月1日の経過後
発行後は,Bは甲社を被告に新株発行無効の訴えを提起する(828条1項2号・2項2号,834条2号)。
甲社は非公開会社であるから,出訴期間は効力発生の日から1年である。
無効事由には明文の定めがない。
新株発行は会社の業務執行に準ずる行為であり,形成された法律関係の安定を守る必要があることから,不公正発行というだけでは無効事由としない考え方がある。
他方,非公開会社では,株式が自由に流通する会社以上に持株比率維持の利益が重視され,不公正発行による支配関係の変更を事後的にも是正すべきだという考え方が成り立つ。
しかし本件では,Bにも比例的な引受機会が与えられ,適時の通知によって発行前の差止仮処分で救済を求める機会があった。
株主割当についての定款上の授権もあり,必要な株主総会決議を欠く第三者割当と同一ではない。
持株比率保護は重要であるものの,この事情の下では事前救済と発行後の安定性を重視し,上記の不公正さだけを無効事由とすることはできないと解する。
したがって,本答案では無効の訴えという手段はあるが,本件の不公正発行を理由とする請求は認め難いと結論付ける。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は番号1~7,2(1)は番号8~16,2(2)は番号17~22,3(1)は番号23~26,3(2)は番号27~31に対応する。
重み5の番号3は答案1(1)の制度趣旨と利益比較,番号18は2(2)アの取締役会決議の効力,番号24は3(1)の会社資金による払込条件の優位に対応する。
通常の重み3である番号1・2・8・16・27と注意の番号31は,上記の各論述の前提・救済・留保の中で扱っている。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
35Aが承認を避けて制度を意図的に利用した事情を,譲渡自由・譲渡制限・みなし承認の趣旨及び既存株主とFの利益から評価する。1(1)の制度趣旨と既存株主・Fの利益を比較した部分
44130条の名義書換を会社に対する対抗要件と位置付け,株式譲渡の効力要件と混同しない。1(2)
54基準日未設定を踏まえ,会社の事務処理の便宜という制度趣旨から,会社側が真の譲受人Fの権利行使を認める可否を論じる。【適用条件】譲渡が会社に対して有効とする構成。1(2)
63Aの誤説明とFの手続上の落ち度を踏まえ,不当拒絶に類似する状況として扱う理由を示す。【適用条件】不当拒絶類似の構成を採用する場合。1(2)末尾。類似状況には触れるが主位には採用しない。
74【注意】みなし承認の効力を否定する場合,単なる名義書換未了と区別し,会社の事務処理の便宜だけでFの権利行使を肯定しない。【適用条件】みなし承認の効力を否定する構成。不採用。承認を有効とするため適用外。
94招集の目的事項に含まれない報酬増額を当日決議したことを309条5項違反として831条1項1号に接続する。2(1)ア
104準共有株式の権利行使者の指定について,106条の趣旨・指定の意味・全員一致説との比較を示し,持分過半数による指定の可否を論じる。2(1)イ
114Bへの指定・通知を有効とする構成では,Qの120株の議決権を排除した決議方法の違法を示す。【適用条件】権利行使者指定を有効とする構成。2(1)イ
124【注意】報酬総額決議における取締役兼株主の特別利害関係を検討し,単に他の株主と異なる利益を得る者という定義で処理しない。2(1)ウ
134Aの議決権行使により著しく不当な報酬総額決議がされたかを,本件の増額目的・金額等から論じる。2(1)ウ
143Fを株主として扱えない構成では,Eに招集通知を送らなかったことの取消事由該当性を検討する。【適用条件】Fを株主として扱えない構成。不採用。Fの権利行使を認めるため適用外。
153Fを株主として扱えない構成では,Fの議決権行使を許したことの取消事由該当性を検討する。【適用条件】Fを株主として扱えない構成。不採用。Fの権利行使を認めるため適用外。
174平成25年の増額決議の取消しにより効力が遡及的に失われ,平成23年の報酬総額6000万円の決議がなお有効であると示す。2(2)ア
185有効な総枠を超える個別報酬額を定めた取締役会決議が全部無効か一部無効かを理由付きで判断する。2(2)ア
194取締役会決議を一部無効とする場合,有効部分を残す根拠と各人について無効になる具体的金額を示す。【適用条件】取締役会決議を一部無効とする構成。一部無効説は不採用。別説の金額まで累積要求しない。
204取締役会決議を全部無効とする場合でも,全部返還を求められるかを従前の報酬決定・期間・結論の妥当性から検討する。【適用条件】取締役会決議を全部無効とする構成。2(2)イ
214採用した取締役会決議の効力論を踏まえ,A・D・G各人への不当利得返還請求の可否と具体的金額を論理的に示す。2(2)イ
224【注意】総会決議が取り消されたというだけで返還額を決めず,個別額を定めた取締役会決議の効力を検討する。2(2)ア。番号18と重複評価しない。
234【注意】株主全員に申込機会がある株主割当であることを踏まえ,第三者割当の主要目的ルールをそのまま適用しない。3(1)
245Aの支配権確立目的と報酬増額による払込資金の優位を具体的に評価し,210条2号の著しく不公正な方法に当たるか論じる。3(1)
254Bの持株比率の低下を具体的な不利益として,株主が不利益を受けるおそれの要件に当てはめる。3(1)
264差止請求権を被保全権利とする民事保全法23条2項の仮処分を挙げ,払込期日までの時間等から保全の必要性を説明する。3(1)末尾
284無効事由に明文規定がないことを踏まえ,発行後の法律関係の安定と業務執行に準ずる性質を重視する考え方を検討する。3(2)
294非公開会社では持株比率維持の利益が重視されることを,無効事由の判断に反映する。3(2)
304Bには発行前の差止仮処分による救済の機会があったことを,無効事由の判断と結び付けて検討する。3(2)

(2) 設問1

公式資料は,みなし承認の形式要件だけでなく,Aが否決を避けるため制度を利用した事情を制度趣旨と利益保護から評価することを求めている。
採点実感は,結論がどちらでも適切な理由を同等に評価したと述べている。
答案は,既存株主の利益を認めた上で,外部者への承認効果の確実性とFの取引を保護する理由から有効とした(番号3)。
名義書換については会社側からの権利行使の容認を主位とし,不当拒絶類似の視点は補足にとどめている(番号4~6)。
承認の効力を否定する答案は,対抗要件の便宜だけでFの権利行使を肯定してはならず,前後の法的段階を一貫させる必要がある(番号7)。

(3) 設問2小問⑴

公式資料は,目的事項外の決議,準共有株式の議決権排除,特別利害関係人の関与という三つの取消事由を区別している。
採点実感は,309条5項違反を正しく指摘した答案が極めて少なかったことと,特別利害関係の定義の不正確さを指摘している。
答案は,当日議案の提出と議題の追加を区別し,権利行使者の指定の意味から過半数説を理由付け,Aの個人的な資金目的を具体的に論じた(番号9~13)。
裁量棄却は瑕疵の重大性と決議への影響を分けている(番号16)。
Fを株主として扱えない構成では,Eへの通知欠缺とFの議決権行使も検討対象となる(番号14・15)。
出訴期間・被告の明記は公式資料の記述を越える法条上の補足である。

(4) 設問2小問⑵

両公式資料が重視するのは,総会の増額決議の取消しから,総枠を超えた取締役会決議の全部・一部無効を経て,各人の返還額へ至る順序である。
採点実感は,ほとんどの答案がこの中間の取締役会決議の効力を論じていなかったと述べている(番号17・18・22)。
答案は配分の一体性を理由に全部無効を採り,旧総額と旧個別額の期間を区別し,役務提供との均衡にも触れて全額返還を導いた(番号20・21)。
全額返還という結論は本記事の理解であり,公式資料がその金額を指定したものではない。
一部無効説を採る場合には,残す部分の根拠と各人の具体額を示す必要がある(番号19)。

(5) 設問3①

公式資料は,株主全員に申込機会があることと,Aが報酬増額によって有利な払込条件を作ったことを共に評価するよう求めている。
第三者割当の主要目的ルールをそのまま当てはめるだけでは不十分である(番号23・24)。
答案は通常の資力差と会社の制度を利用した条件作出を区別し,Bの持株比率の低下と,期日が迫るため仮処分を必要とする事情まで示した(番号25・26)。
定款の授権と通知期間の確認は,問題文と202条から補った前提説明である。

(6) 設問3②

公式資料は,法律関係の安定,業務執行に準ずる性質,非公開会社の持株比率保護,事前の差止仮処分の可能性を比較することを求めている(番号28~30)。
答案は,非公開会社というだけで直ちに無効とはせず,本件の比例的引受機会と事前救済の機会を重視した(番号31)。
不公正発行を無効とする余地を一律に否定するのではなく,本件の条件の下で無効を認め難いという構成である。
出訴期間1年は828条1項2号による補足である。

(7) 答案の弱点と扱わなかった事項

みなし承認の制度利用をどこまで制限するか,個別配分決議の無効範囲,非公開会社における不公正発行の無効には,理由の組み立てに争いの余地がある。
本答案の全額返還説は旧個別額の期間満了と新配分の一体性を重視するもので,別の有効部分を認める構成まで排除しない。
答案は423条責任を検討せず,報酬配分における取締役の特別利害関係や利益供与を別の請求原因として展開していない。
これらを公式資料が要求する評価項目へ追加せず,主たる取締役会決議の効力論に分量を配分している。

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令和5年司法試験民事系科目第2問―共有株式の議決権行使等

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

① 平成25年司法試験・民事系科目の問題文:第2問,PDF7頁~10頁。
② 平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨:民事系第2問,PDF5頁の見出しから7頁の次問見出し直前。
③ 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見:民事系第2問,PDF16頁~18頁。
④ 平成25年司法試験の実施日程等について:PDF1頁の科目別日程。

2 法令

会社法の制定時本文(平成17年法律第86号・衆議院)の関係条文を確認した。
答案で用いた会社法の条項(106条,128条1項,130条1項・2項,139条1項,145条1号,202条3項2号・4項,210条2号,304条,309条5項,361条1項,828条1項2号・2項2号,831条1項各号・2項,834条2号・17号)は,制定時本文と,e-Gov法令検索で取得できる最も古い版(平成29年4月1日施行版)とで文言が一致することを確認した(831条1項後段,202条3項柱書等には字句の改正があるが,答案が依拠する部分ではない)。
現行法でも,これらの条項番号は変わっていない。
民事保全法23条2項は,e-Gov法令検索の平成25年1月1日施行版(試験日に施行されていた版)で確認した。
民法703条は,e-Gov法令検索で取得できる最も古い版(平成28年10月13日施行版)と現行法が同文であることを確認したが,試験日当時の版そのものは確認していない。

3 裁判例

出題の趣旨が参照する最高裁判決の役割を,名義書換,準共有株式の権利行使,新株発行の安定性の各検討へ反映している。
これらの最高裁判決の原文は確認していない。
名義書換未了者の取扱いについては,東京地裁平成17年11月11日決定(平成17年(ヨ)第20103号)のPDF14頁が,最高裁判例を引用して,会社が名義書換未了の取得者を株主と認め,その権利行使を認容することは差し支えない旨を述べている。

4 確認状態

問題文・出題趣旨・採点実感は上記の本問関連範囲を確認し,相互に照合した。
評価項目の重み,答案の採用構成,返還額の理由付けは記事独自の分析である。
別構成には適用条件を付し,採用しない構成を同時に書くことを全答案に要求していない。
前記のとおり,出題の趣旨が参照する最高裁判決の原文と民法703条の試験日当時の版は確認していない。