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平成25年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

対象は平成25年司法試験論文式・刑事系科目第1問(刑法)である。
法務省の問題文,出題の趣旨及び採点実感を基に,評価項目40件を整理し,5段階の重みを付けた。
重みの合計は148,重み5の項目は7件である。
これは公式の採点基準又は配点ではなく,学習のための独自の整理である。

中心となるのは,乙について殺害計画の途中で死亡結果が発生した場合の実行着手・因果関係・故意,甲について間接正犯の道具性が失われた場合の関与形態である。
監禁致死と放火は殺人から独立して検討し,公共の危険の発生とその認識を区別する必要がある。
以下の答案は,乙の殺人既遂,甲の殺人既遂の教唆を認め,放火については甲乙の共同正犯とする構成を採る。
結論だけが唯一の正解という意味ではなく,異なる見解を採る場合にも,その前提・理由・具体的事実・罪数を一貫させることが重要である。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

各項目は一つの判定対象を基本とし,答案の何を評価するかが分かるように記した。
誤りを避ける項目と,特定の見解を採る場合にだけ必要な項目は区別する。
許容分岐をすべての答案へ累積して要求したり,注意項目について重みと別に二重の減点を設けたりするものではない。

出典欄の頁はPDFの物理頁である。
出題の趣旨は9頁~12頁の第1問部分,採点実感は25頁~28頁の第1問部分を対象とした。
「記載なし」はこの範囲に当該判定対象の明示を確認しなかったという意味であり,その論点が法的に不要であるとの断定ではない。
引用は改行等の空白を除いて原文と照合し,引用にない評価・重み付けは本記事の整理として示す。

2 5段階の重み付けの基準

5は結論を分ける主要な論点又は体系上の核心,4はその判断を支える重要な規範・事実評価・分岐処理,3は通常必要な成立要件・理由付け・罪数処理,2は補充的な検討又は答案配分上の注意,1は限定的な形式面の注意とした。
公式資料の記述の強さと答案構造上の役割を項目ごとに考慮し,件数を均等に割り振ってはいない。
注意項目であることだけを理由に低い重みにしていない。
評価の優先順位を示すための数値であり,実際の得点,合格可能性又は合格率へ換算できるものではない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

甲はAを殺すため,睡眠薬入りのコーヒーで昏睡させ,手足を縛って自己所有のB車のトランクへ入れた。
末端組員の乙にはAの存在を知らせず,採石場で車を焼却するよう指示し,ガソリン10リットルを用意した。
乙は運搬中にAを発見し,甲の意図に気付いたが,組長である甲の指示であることと自分の恨みから殺害を決意した。
乙はAの口をテープで塞いでトランクを閉め,さらに約1時間,約20キロメートルの悪路を走った。
Aは車酔いで嘔吐し,テープのため吐しゃ物を排出できず窒息死したが,乙は気付かないまま放火した。

放火場所に人や建物はないものの,B車の北約5メートルにベニヤ板を積むC車,さらに各約1メートルの間隔でD車・E車があった。
炎はC車に届いたが,風向きが変わり,C車の煤け以外に他車への損傷は生じなかった。
問題は,薬による死亡の可能性を否定し,口と鼻の区別,車両配置,風向き,距離及び時間を具体的に示している。
これらを結論に都合のよい事実だけへ置き換えず,それぞれどの要件に関係するかを考える必要がある。

2 設問が求めること

甲及び乙の罪責を,特別法違反を除いて論じる問題である。
殺人について乙の罪責を確定し,甲の関与を検討した上で,監禁等と放火を犯罪ごとに処理し,最後に罪数を示す。
甲乙の関係が同じでも,殺人に関する意思連絡と,B車を焼くことに関する意思連絡は同一ではない。

第4 評価項目と重み

1 甲乙の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1甲乙それぞれの殺人・監禁等・放火を落とさず,犯罪ごとに結論を示す。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。310頁「甲乙それぞれの罪責」25頁「殺人罪,監禁罪(又は監禁致死罪),建造物等以外放火罪」
2【注意】実行着手・結果・因果関係と故意を区別し,因果関係とその錯誤を混同しない。 区分:誤りの回避。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。510頁「更に因果関係や故意の存在」26頁「因果関係の有無と因果関係の錯誤とを混同」
3具体的事実を摘示するだけでなく,規範との関係でその意味を説明する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。412頁「その事実に理論を当てはめる能力」27頁「摘示した具体的事実の持つ意味」
4【注意】重要な争点を手厚く,周辺事項を簡潔に論じ,答案の分量を配分する。 区分:誤りの回避。 重みの根拠:主論点を補強する記述又は周辺犯罪の整理である。2記載なし25頁「答案全体のバランス」
5乙の口封鎖・閉込め・走行を第1行為,採石場での点火を第2行為と特定する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「行為を第1行為とし」25頁「企図したよりも早い段階」
6第1行為が第2行為を確実・容易にするため必要不可欠かを検討する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「必要不可欠な」26頁「複数の考慮要素」
7第1行為の成功後,犯罪計画を妨げる特段の事情があるかを検討する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「障害となるような特段の事情」26頁「複数の考慮要素」
8約1時間・20キロメートルという両行為の隔たりを,計画の具体的内容とともに評価する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「時間的場所的に近接」26頁「具体的事実の摘示や当てはめ」
9乙の第1行為に殺人の実行着手があるかを,複数事情を総合して理由付きで判断する。 区分:通常。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。510頁「殺人罪の実行着手が認められるか」25頁「実行の着手時期」
10【許容分岐:第1行為の着手肯定】第1行為と窒息死との因果関係を具体的に論ずる。 区分:許容分岐。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「第1行為時に殺人罪の実行着手を認めた場合」26頁「実行の着手,結果,因果関係」
11【許容分岐:第1行為の着手肯定】予定より早い死亡が殺人の故意を阻却するかを論ずる。 区分:許容分岐。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「更に因果関係や故意の存在」26頁「因果関係の錯誤」
12【許容分岐:判例と異なる着手論】判例を意識しつつ自説を説得的に論証し,当てはめる。 区分:許容分岐。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。410頁「この判例の考え方に従わない場合」記載なし
13A発見後の乙の閉込め・運搬について監禁罪を検討する。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。310頁「監禁罪の成否を検討することが望まれる」26頁「監禁罪又は監禁致死罪」
14乙の監禁行為と死亡の関係を評価し,監禁致死罪の成否を示す。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。310頁「監禁致死罪の成否も問題」26頁「監禁罪又は監禁致死罪」
15乙に殺人と監禁等を認める場合,実行行為の関係に即して罪数を示す。 区分:許容分岐。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。310頁「監禁罪等と殺人既遂罪との関係」記載なし
16放火の意義を示し,ガソリン散布と火の付いた新聞紙の投下を当てはめる。 区分:通常。 重みの根拠:主論点を補強する記述又は周辺犯罪の整理である。211頁「「放火」「焼損」の意義及び当てはめ」26頁「「焼損」等の構成要件要素」
17焼損の意義を示し,媒介物だけでなくB車自体が燃焼したことを評価する。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。311頁「「放火」「焼損」の意義及び当てはめ」26頁「「焼損」等の構成要件要素」
18所有者甲の指示による焼却が,110条2項の自己所有物に当たるかを理由付きで論ずる。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「「自己の所有に係るとき」に該当するか否か」記載なし
19公共の危険の対象を示し,建造物以外の財産への危険を含むかを論ずる。 区分:通常。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。511頁「建造物等以外の財産に対する危険」26頁「公共の危険の意義」
20【注意】110条を具体的公共危険犯として,焼損と公共危険の発生を別に認定する。 区分:誤りの回避。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「公共の危険の発生を要する」26頁「抽象的公共危険犯」
21車両の配置・可燃物・風・火勢を具体的に評価して公共の危険を判断する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「各種事情を具体的に指摘して丁寧に」26頁「具体的な事実の摘示」
22公共の危険を認める場合,その発生の認識の要否を理由付きで論ずる。 区分:許容分岐。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。511頁「公共の危険発生の認識の要否」26頁「同危険の発生の認識の要否」
23公共の危険と認識の論点で,他の見解を踏まえ自説の根拠を説得的に示す。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。311頁「自己の見解を説得的に論証」26頁「他の見解にも言及しつつ」
24乙の認識・決断・上下関係を評価し,甲の間接正犯に必要な道具性が失われるかを判断する。 区分:通常。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。511頁「乙の道具性が失われるか否か」25頁「乙がAの存在に気付きながら」
25甲の間接正犯の実行着手時期について自説を示し,利用行為と乙の行為を区別して当てはめる。 区分:通常。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。511頁「間接正犯における実行の着手時期」27頁「間接正犯の実行着手時期」
26道具性喪失を認める場合,甲の実行行為者としての罪責が予備か未遂かを明示する。 区分:許容分岐。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「予備か未遂か」27頁「殺人予備罪にとどまるのか」
27【許容分岐:道具性維持】甲の実行行為・因果関係・故意を検討し,乙との共犯関係も説明する。 区分:許容分岐。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「乙の道具性が失われないと考える場合」記載なし
28甲の実行行為者としての責任と,乙との共犯関係を分けて検討する。 区分:通常。 重みの根拠:成立判断の分岐又は刑法体系の核心を直接左右する。511頁「①甲を実行行為者とする殺人罪の成否の検討,②乙との共犯」27頁「乙との共犯関係について何ら言及のない」
29【注意】殺人について片面的共同正犯の可否を検討し,事情の一方的な察知だけで黙示の共謀を認定しない。 区分:誤りの回避。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「片面的共同正犯の成否」27頁「安易に乙との間で黙示の共謀」
30間接正犯の意図で教唆の結果を生じた場合の故意と,指示・実行間の因果関係を論ずる。 区分:許容分岐。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。411頁「間接正犯の意図で教唆の結果」25頁「間接正犯の意図で教唆の結果」
31甲がAを乗車・走行させ,昏睡・緊縛・閉込めをした各段階について監禁の成否と始期を示す。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。311頁「AをB車に乗車させて疾走させ」27頁「B車に乗車させて疾走させ」
32監禁の保護法益である移動の自由を示し,昏睡・監禁の認識欠如を評価する。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。312頁「保護法益である「移動の自由」」記載なし
33乙への引渡し後,特に乙が事情を知った後も甲の監禁が継続するかを検討する。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。412頁「引き渡した後も継続して監禁罪」27頁「別途,監禁罪等の成否」
34甲の監禁とAの死亡について,乙の介在行為を踏まえ監禁致死の成否を示す。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。412頁「甲についても,Aが死亡した点」記載なし
35甲の殺人に関する罪と監禁等との関係を,行為と法益に即して示す。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。312頁「これらと監禁罪等との関係」記載なし
36生命身体加害目的誘拐罪の成否を,欺罔による支配移転の有無から検討する。 区分:通常。 重みの根拠:主論点を補強する記述又は周辺犯罪の整理である。211頁「生命身体加害目的誘拐罪」記載なし
37【注意】放火については殺人と別に意思連絡・役割を評価し,甲の共同正犯の成否を検討する。 区分:誤りの回避。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。412頁「共謀共同正犯の成否」27頁「安易に同罪の教唆犯を認定」
38公共危険の認識論を一貫させ,周囲の他車両自体を知らない甲に当てはめる。 区分:通常。 重みの根拠:中核判断を支える主要な規範・理由・当てはめである。412頁「他車両が駐車されていることさえ認識がなかった」26頁「甲乙の建造物等以外放火罪」
39甲乙別に成立犯罪を整理し,一行為・手段結果・別行為の関係を示して罪数を処理する。 区分:通常。 重みの根拠:犯罪の成立又は罪数を閉じる通常の法的処理である。312頁「的確な罪数処理」記載なし
40【適用条件:手書き答案】採点者が読める字で,丁寧に記載する。 区分:許容分岐。 重みの根拠:記述形式に関する補充的確認である。1記載なし27頁「読みやすい字で丁寧に答案を書く」

2 重みの分布

重み項目数重みを掛けた合計
5735
41976
31030
236
111
合計40148

分布は許容分岐と手書き答案の注意を含む全項目の集計である。
個別答案を点検するときは,採用しなかった分岐を対象外とし,答案に適用する項目とその分母を別に示す必要がある。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

以下は5000字以内の答案例であり,答案の文字数は,見出しを含み改行を除いて4026字である。
出題当時の刑法を対象とするが,罰則の法定刑は引用していない。
条文の施行版と判例原文の確認範囲は第7で区別する。
乙の第1行為での実行着手を肯定し,甲の道具利用による殺人は予備段階にとどめて教唆へ接続する。
公共の危険の認識は不要とする立場を採る。

2 答案

第1 乙の罪責
1 Aを死亡させた行為
(1)殺人の実行着手
乙は,Aの口をテープで塞ぎ,トランクを閉じて運搬した行為(第1行為)の後,B車に放火して焼殺する(第2行為)つもりであったが,Aは第1行為中に死亡した。
殺意があるだけでは殺人罪(刑法199条。以下法名略)は成立せず,死亡前に殺人の実行に着手していたかが問題となる。
実行着手には,殺人の構成要件実現に至る現実的危険を生じさせる行為を要する。
計画上,先行行為が後続の殺害を確実・容易にするため必要不可欠で,成功後に計画遂行の特段の障害がなく,両行為が時間的・場所的に近接する場合には,先行行為の開始からこれを認め得る。
本件では,助けを求めるAをそのままにすれば,発見・救出や逃走によって焼殺が妨げられる。
口を塞ぎ,縛られたAをトランクに閉じ込めて運搬することは,抵抗や発覚を抑え,無人の採石場で確実に焼殺するため不可欠であった。
ガソリン10リットルは既に車内にあり,乙は場所を知り,独自の恨みからも実行を決意した。
さらに重大な準備や他人の協力を待つ事情はない。
もっとも,目的地までは20キロメートル,約1時間あり,近接性を弱める。
しかし,これはAを拘束した同じ車で予定場所へ直行する運搬時間であり,途中に別目的の行動や新たな決断を予定していない。
第1行為は単なる準備を超えて焼殺計画を直接実現する段階に入っているから,総合してその開始時に殺人の着手を認める。
(2)因果関係及び故意
Aは薬の作用ではなく,悪路走行による車酔いで嘔吐し,口のテープのため排出できない吐しゃ物で気管を塞がれて死亡した。
手足を拘束され口も塞がれた人をトランク内で運搬する危険が現実化しており,第1行為と死亡との因果関係がある。
乙は鼻を塞いでいないから死亡しないと考えていたが,第1行為に着手する時点で,一連の行為によりAを死亡させる殺意を有した。
予定した焼死と実際の窒息死の相違は,別人への侵害等ではなく,同じ被害者への殺人実行行為の危険が予定より早く実現したという因果経過の相違である。
因果関係の範囲内のずれにとどまり,故意を阻却しない。
殺人既遂罪が成立する。
(3)監禁致死
乙はAを発見する前には監禁の故意を欠くが,発見後,救出を求めるAを解放せず,トランクを閉めて運搬を続けた。
一定の場所からの脱出を不可能又は著しく困難にする監禁(220条)に当たる。
前記のとおりその行為の危険が死亡として実現しており,監禁致死罪(221条)も成立する。
死亡の故意を欠くことを理由に同罪を否定することはできない。
2 B車への放火
(1)客体・行為・焼損
B車は通常の乗用車で,108条・109条の建造物等に当たらない。
110条2項が自己所有物について刑を軽くするのは,他人の財産権侵害を伴わないためである。
所有者の承諾に基づく焼却も同じであり,甲の明示の指示に従って焼いた乙にも「自己の所有に係るとき」を適用する。
放火とは目的物を燃焼させる行為であり,乙は車内外にガソリンをまき,火の付いた新聞紙をB車に向けて投げ付けている。
焼損は媒介物を離れ目的物自体が独立して燃焼を続ける状態をいう。
火はガソリンに引火するだけでなくB車全体に及んでおり,布製座席や紙類を含め車自体が燃焼したと認められる。
(2)公共の危険
110条は具体的公共危険犯であり,焼損とは別に公共の危険の発生を要する。
その危険を建造物等への延焼に限る見解もあるが,火災の拡大から公共の安全を守る趣旨から,不特定又は多数人の生命・身体又は建造物等以外の財産に対する危険も含むと解する。
本件は岩場で人も建物もないが,B車の北約5メートルにはベニヤ板3枚を積んだC車があり,その北には各約1メートル間隔でD・E車が並ぶ。
北西へ毎秒約2メートルの風が吹き,B車には布製座席・雑誌・新聞紙があり,ガソリン10リットルがまかれた。
現に高さ約5メートルの炎がC車左側に届いている。
可燃物を積むC車を介して近接する複数の車両に延焼し得る状況であり,単なるB車の財産的損害を超えた公共の危険が生じた。
その後風向きが変わり,C車が煤けただけで他車が無傷だったことは,既に生じた危険を否定しない。
(3)認識
具体的危険も構成要件要素である以上,38条1項からその認識を要するとする見解がある。
しかし,110条の文言は,故意の放火・焼損により公共の危険を生じさせたことを処罰している。
放火者は制御困難な火力を意図して発生させているから,公共の危険の発生自体の認識は不要と解する。
客観的な危険発生まで不要とする趣旨ではない。
乙は延焼しないと考えたが,放火・焼損の故意を有するので,同条2項の建造物等以外放火罪が成立する。
なお,危険の基礎事情の認識を要求する見解によっても,乙は車両配置・風・可燃物を認識しており,その評価を誤ったにすぎない。
3 その他・罪数
Aを生きていると信じて焼いた乙に死体損壊罪の故意はない。
死亡前の第1行為による殺人と監禁致死は,同一の拘束運搬行為によるから観念的競合(54条1項前段)とする。
その後の放火罪とは,別行為で,実際の窒息による殺人の通常の手段・結果の関係にもないため,併合罪(45条前段)となる。
第2 甲の罪責
1 殺人への関与
(1)間接正犯及び着手時期
甲は,Aの存在を隠して乙にB車の焼却を指示し,事情を知らない乙の行為を支配して殺害を実現する間接正犯を企図した。
しかし乙は途中で事情を知り,いったんちゅうちょした上,甲の指示だけでなくAへの恨みからも殺害を決断している。
組織上の上下関係だけでは自由な意思決定を失わせず,その時点で乙の道具性は失われる。
間接正犯の着手は,利用の働き掛けだけでなく,その具体的計画に照らし被利用者の行為が法益侵害の現実的危険を生じさせた時に認める。
本件の薬物投与だけには致死性がなく,車を引き渡した段階でも遠隔地への長時間の運搬と放火を残している。
事情を知らない乙が運転を始めただけでは,殺害へ密接した行為が開始されたとはいえない。
第1行為に至る前に道具性が失われたので,甲を実行行為者とする殺人は予備(201条)にとどまり,未遂を認めない。
(2)乙との共犯
甲はAの存在を秘し,乙が察知したことも知らないから,殺人について相互の意思連絡はない。
共同正犯には共同実行の意思に基づく相互利用・補充を要し,片面的共同正犯や黙示の共謀を安易に認めることはできない。
他方,甲の焼却指示は,事情を知った乙にA殺害の意向として伝わり,殺意を生じさせ実行させた。
乙に恨みという独自の動機があっても,甲の指示が決断に寄与したことは失われず,客観的には殺人の教唆に当たる。
甲の間接正犯の意思は,他人への働き掛けにより同じAの殺害を実現する認識・意思を含む。
実現した教唆との実質的な重なりの限度で故意を認め,殺人既遂の教唆犯(199条,61条1項)が成立する。
予備はこれに吸収される。
2 誘拐・傷害・監禁等
(1)甲は殺害目的を秘し,話に付き合うよう欺いてAを自分の車に乗せ,自ら運転して連れ去っている。
Aをそれまでの生活環境から離し自己の実力的支配下に置いたので,生命身体加害目的誘拐罪(225条)が成立する。
単に一緒に話すことへの同意は,この支配移転への有効な同意とはいえない。
(2)甲が通常用量の5倍の睡眠薬を飲ませて昏睡させたことは,生理的機能の障害を生じさせる傷害(204条)に当たる。
ただし,死亡は薬の影響によらないから,投薬による傷害致死とはしない。
(3)監禁罪は,移動しようと思えば移動できる潜在的自由も保護する。
Aが監禁を認識していなくても,欺いて乗せた車を走行させ,脱出を著しく困難にした段階から監禁が成立する。
昏睡させ,手足を縛り,トランクに閉じ込めた行為も継続する身体拘束である。
手足の緊縛は逮捕にも当たるが,同一人への継続した逮捕監禁として評価する。
乙への引渡し後も,甲の設けた拘束状態と乙への運搬指示による監禁は継続する。
乙が事情を知ってからも,甲の拘束を解かず同じ運搬を続けているから,殺人について道具性が失われたことをもって,甲の監禁まで当然に終了するとはいえない。
Aは手足を縛られ脱出できず,口のテープも除けない状態で窒息した。
乙の口封鎖は介在するが,覚醒したAの発覚や抵抗を抑え,同じ拘束運搬計画を続ける行為であり,著しく異常な介在とはいえない。
拘束運搬中に嘔吐しても自救できない危険が死亡として現実化したから,甲にも監禁致死罪が成立する。
3 放火及び罪数
B車の焼却については,甲が場所・方法を指定し,車とガソリンを準備して乙へ指示し,乙が承諾している。
甲は自己の殺害計画とアリバイ作りのために焼却を実現し,計画・準備・指揮という重要な役割を果たした。
単に乙の犯罪を誘発したのではなく,意思連絡の下で自己の犯罪を共同実現したので,放火は共謀共同正犯(60条)となる。
殺人の共犯形態とは区別すべきである。
甲は当日の他車両の存在を知らないが,前述の認識不要説によれば放火の故意を欠かない。
自己所有B車について110条2項の罪が成立する。
殺人教唆と放火の共謀は同一の焼却指示による観念的競合とする。
誘拐と監禁致死は,同じ乗車・連行によってAを支配下に置き,脱出を著しく困難にした点で実行行為が重なるため,観念的競合(54条1項前段)とする。
投薬による傷害は監禁の手段であるとともにその継続過程の傷害であり,監禁致死の一罪に包括して評価する。
監禁側の罪は,甲自身がした誘拐・投薬・身体拘束を中核とする。
他方,殺人教唆・放火共謀の行為は,その後の乙への指示である。
運搬指示が拘束状態の継続に寄与したことだけで,先行する身体拘束と指示が構成要件上同一の行為になるわけではない。
したがって,監禁側の罪と殺人教唆・放火の罪とは併合罪とする。
以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

出題の趣旨は検討すべき問題の所在と分岐を示し,採点実感は,殺意だけで殺人を認める答案,甲の放火も殺人と同じ教唆で済ませる答案などの不足を指摘している。
本答案は,乙の客観的な実行着手から因果関係・故意へ進み,甲について道具性・着手時期・共犯の順に論じた。
次の表は,重み5・4の全項目と,それより軽くても条件付きで適用する項目を,答案の具体的な検討箇所へ対応させたものである。
評価項目の文言は第4と同一であり,採らない見解はその旨を留保する。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
25【注意】実行着手・結果・因果関係と故意を区別し,因果関係とその錯誤を混同しない第1の1
34具体的事実を摘示するだけでなく,規範との関係でその意味を説明する第1の1・2,第2の1・2
54乙の口封鎖・閉込め・走行を第1行為,採石場での点火を第2行為と特定する第1の1(1)
64第1行為が第2行為を確実・容易にするため必要不可欠かを検討する第1の1(1)
74第1行為の成功後,犯罪計画を妨げる特段の事情があるかを検討する第1の1(1)
84約1時間・20キロメートルという両行為の隔たりを,計画の具体的内容とともに評価する第1の1(1)
95乙の第1行為に殺人の実行着手があるかを,複数事情を総合して理由付きで判断する第1の1(1)
104【許容分岐:第1行為の着手肯定】第1行為と窒息死との因果関係を具体的に論ずる第1の1(2)
114【許容分岐:第1行為の着手肯定】予定より早い死亡が殺人の故意を阻却するかを論ずる第1の1(2)
124【許容分岐:判例と異なる着手論】判例を意識しつつ自説を説得的に論証し,当てはめる第5の3(2)に留保。本答案では採らない分岐又は適用対象外であり,不足点として加算しない
153乙に殺人と監禁等を認める場合,実行行為の関係に即して罪数を示す第1の3
184所有者甲の指示による焼却が,110条2項の自己所有物に当たるかを理由付きで論ずる第1の2(1)
195公共の危険の対象を示し,建造物以外の財産への危険を含むかを論ずる第1の2(2)
204【注意】110条を具体的公共危険犯として,焼損と公共危険の発生を別に認定する第1の2(2)(3)
214車両の配置・可燃物・風・火勢を具体的に評価して公共の危険を判断する第1の2(2)
225公共の危険を認める場合,その発生の認識の要否を理由付きで論ずる第1の2(3)
245乙の認識・決断・上下関係を評価し,甲の間接正犯に必要な道具性が失われるかを判断する第2の1(1)
255甲の間接正犯の実行着手時期について自説を示し,利用行為と乙の行為を区別して当てはめる第2の1(1)
264道具性喪失を認める場合,甲の実行行為者としての罪責が予備か未遂かを明示する第2の1(1)(2)
274【許容分岐:道具性維持】甲の実行行為・因果関係・故意を検討し,乙との共犯関係も説明する第5の3(4)に留保。本答案では採らない分岐又は適用対象外であり,不足点として加算しない
285甲の実行行為者としての責任と,乙との共犯関係を分けて検討する第2の1(1)(2)
294【注意】殺人について片面的共同正犯の可否を検討し,事情の一方的な察知だけで黙示の共謀を認定しない第2の1(2)
304間接正犯の意図で教唆の結果を生じた場合の故意と,指示・実行間の因果関係を論ずる第2の1(2)
334乙への引渡し後,特に乙が事情を知った後も甲の監禁が継続するかを検討する第2の2(3)
344甲の監禁とAの死亡について,乙の介在行為を踏まえ監禁致死の成否を示す第2の2(3)
374【注意】放火については殺人と別に意思連絡・役割を評価し,甲の共同正犯の成否を検討する第2の3
384公共危険の認識論を一貫させ,周囲の他車両自体を知らない甲に当てはめる第2の3
401【適用条件:手書き答案】採点者が読める字で,丁寧に記載する本記事の電子答案には非適用。本答案では採らない分岐又は適用対象外であり,不足点として加算しない

重み3以下の通常項目では,番号1を答案全体,番号13・14・16・17を乙の監禁・放火,番号23を公共の危険の範囲及び認識に関する反対説への応答に対応させている。
番号31・32・35・36は甲の乗車段階からの監禁,潜在的自由,誘拐及び罪数,番号39は甲乙の最終的な罪数整理に対応する。
番号4の分量配分も,殺人だけへ偏らず監禁・放火を独立した節で論じることで意識した。

(2) 乙の実行着手・因果関係・故意を分ける

公式資料が挙げる着手判断の要素は,第1行為の必要不可欠性,第2行為へ進む上での特段の障害の有無及び時間的・場所的近接性である。
答案は,口封鎖と拘束運搬が焼殺を確実にする役割,既に用意されたガソリンと場所の認識を肯定要素とし,約1時間・約20キロメートルという隔たりを反対要素として扱った。
その上で,一つの拘束運搬が中断なく殺害場所へ向かう点を重視したが,この近接性の評価には議論の余地がある。

着手を肯定した後も,因果関係と故意の検討は省略できない。
問題文が薬の影響を排除したことを踏まえ,拘束されたAが嘔吐物を排出できない危険の現実化を示し,焼死と窒息死のずれを別に論じた。
第1行為での着手を否定する答案では,監禁致死,その後の死者への放火を殺人未遂として評価するかという問題等を,自らの立場に沿って検討することになる。
後者の不能犯・未遂の境界まで公式資料が個別に結論を示したという意味ではない。

(3) 甲の関与形態と放火を分ける

甲の間接正犯を否定するだけでは,甲の罪責は確定しない。
出題の趣旨は,乙の道具性が失われると考える場合には,間接正犯の実行の着手時期についての見解を明らかにして,予備か未遂かを当てはめることが望まれるとし,採点実感も,その点を明らかにした答案は僅かであったと指摘している。
本答案は,乙が独自の殺意を形成する前には具体的な殺害の危険がまだ十分に近接していないと評価し,甲の間接正犯は予備にとどまるとした。
その後,甲の指示が乙の殺意形成に及ぼした作用と,間接正犯の意思と教唆の故意の重なりを示して教唆を認めた。

これに対し,B車の焼却には甲乙の意思連絡がある。
甲の計画,準備及び指揮を自分の犯罪としての共同実現と評価し,共謀共同正犯とする点が殺人と異なる。
また,甲が他車の存在を知らないことは,公共の危険の認識に関して採る見解と整合させなければならない。
本答案は乙と甲に同じ認識不要説を適用し,客観的な公共の危険の発生は別途具体的に認めている。

(4) 答案の弱点と扱わなかった事項

最大の留保は,約1時間・約20キロメートル離れた行為間に早い段階の実行着手を認める評価である。
時間的・場所的近接性を単独で満たしたと断言せず,他の事情を含む総合評価として説明した。
また,甲の継続する監禁と後の教唆・放火共謀の罪数は,構成要件上の行為の同一性をどう捉えるかに依存する。
本答案は甲自身の身体拘束と乙への指示を区別した一案であり,公式資料がこの細部の結論を指定したものではない。
殺人予備を殺人既遂の教唆に吸収し,投薬による傷害を監禁致死に包括する処理も,同じく本答案の一案である。

道具性を維持するとする見解や,公共の危険の認識必要説を採る答案の全展開は,本文の答案枠内では行っていない。
これらを採る場合は因果関係・故意・各人の認識及び罪数まで組み替える必要がある。
公式資料に明示のない細かな罪数処理や死体損壊の検討を,公式配点に含まれる項目として増やしてはいない。

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第7 出典及び確認状態

1 公式資料

法務省・平成25年司法試験論文式刑事系科目の問題のPDF2頁~3頁が本問である。

法務省・平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨のPDF9頁~12頁の第1問部分を参照した。

法務省・平成25年司法試験の採点実感等に関する意見のPDF25頁~28頁の刑事系第1問部分を参照した。

2 法令

主に刑法38条,45条,54条,60条,61条,108条,109条,110条,199条,201条,204条,220条,221条及び225条を対象とする。
e-Gov法令検索で確認できる最も古い版(平成28年6月23日施行)と現行版を照合すると,これらの条の文言は,「懲役」「禁錮」が「拘禁刑」に改められた点を除いて同じである。
e-Govには平成25年時点の版が収録されていないため,出題当時の版そのものは確認していない。
答案は罰則の法定刑を引用していない。

3 裁判例

出題の趣旨は,実行着手について最高裁平成16年3月22日決定(平成15年(あ)第1625号,刑集58巻3号187頁),公共の危険の範囲について最高裁平成15年4月14日決定(刑集57巻4号445頁),その認識について最高裁昭和60年3月28日判決(刑集39巻2号75頁)を参考として挙げ,採点実感も前二者を挙げている。
平成16年決定は,裁判所HPの裁判例検索で事件番号,判例集の巻号頁及び裁判要旨を確認した。
平成15年決定及び昭和60年判決の判例集の巻号頁は出題の趣旨及び採点実感の記載によるものであり,本記事はこれらの判示を公式資料の説明の範囲で用いている。

4 確認状態

問題文と出題の趣旨・採点実感の該当部分を読み,評価表の短い引用と集計を照合した。
評価項目の分割,重み,答案の結論及び罪数処理は独自の整理である。
公式資料にない具体的な結論まで,法務省が支持したものとして読むことはできない。
とりわけ実行着手の評価,所有者承諾を踏まえた放火罪の構成及び細かな罪数処理については,本文の理由付けと上記の出典上の限界を併せて検討されたい。