第1 AIエージェントとスキルはどのような関係にあるか
AIエージェントは,目的に応じて処理を進める仕組みを指し,スキルは,その仕組みが利用する業務手順や資料のまとまりを指す。
したがって,スキルファイルだけとエージェント全体を比べる場合と,スキルを使って動くシステム同士を比べる場合では,答えが異なる。
例えば,資料の調査方法を記したSKILL.mdは,それだけでウェブ検索やファイル保存を行うものではない。
実際に検索し,取得結果を読み,次の処理を選び,成果物を保存するには,モデル,利用可能な道具,それらを呼び出す実行環境等が必要になる。
本記事は,令和8年11月1日に確認した公式技術資料を基に,用語の関係と導入時の見方を整理する。
以下の業務例と確認項目は本記事の提案であり,特定製品の性能比較,動作保証又は法律上の責任の判定を行うものではない。
第2 プロンプト,モデル,スキル,ツール及びMCPの役割
1 プロンプトとモデル
プロンプトは,モデルへ与える指示や入力である。
モデルは,入力された指示,資料及び会話の文脈を踏まえて応答や処理の選択を行う側であり,業務の手順書そのものとは役割が異なる。
毎回の依頼では,調査対象,対象期間,入力資料及び今回求める成果物を指定する。
繰り返し使う確認手順まで毎回書く必要があるなら,その部分を再利用できる形へ整理する余地がある。
2 スキル
Agent Skillsの公式概要は,スキルを,専門知識や作業手順によってエージェントの能力を拡張するための形式として説明している。
中心となるSKILL.mdには名前,説明及び作業の指示を記し,スクリプト,参照資料,ひな型等を付属させることもできる。
根拠はAgent Skillsの公式概要で確認できる。
OpenAIの公式説明では,MCPサーバーのツールと組み合わせる場合,スキルは,いつツールを呼ぶか,どの順序で使うか,不完全な結果へどう対応するか,最終成果物へ何を含めるかを定める。
一つのスキルを追加したことが,独立した実行主体を一つ追加したことを意味するわけではない。
3 ツールとMCP
ツールは,検索,計算,資料の読取り,ファイルへの書込み等の処理を行うための機能である。
どの機能を使えるかは,接続したサービス,実行環境及び権限によって変わる。
MCPは,AIアプリケーションと外部のシステムを接続するための標準である。
スキルが作業の進め方を記すのに対し,MCPは外部の情報や機能へ接続する仕組みを扱う。
MCPの位置付けはMCPの公式説明に基づく。
スキルに「資料を保存する」と書いても,保存先へのアクセス権限がその文章だけで与えられるわけではない。
導入を検討するときは,指示の内容と,実際に利用できる接続先及び操作を対応させて確認したい。
4 AIエージェント
Google ADKの公式資料は,モデル,指示及びツールを備えたエージェントを説明している。
また,Google CloudのADKの説明は,作業の流れを定める構成や,複数のエージェントが協力する構成も扱っている。
このため,導入時には「エージェント」という名称だけで自律性の程度を判断せず,どの判断を行い,どの道具を使い,どこで人へ確認を戻すのかを見る必要がある。
スキルは,こうした構成の中で業務知識や手順を再利用するための部品として位置付けられる。
第3 公開資料の調査を例にすると何が違うか
1 今回の依頼と繰り返す手順を分ける
ある制度について公表資料を調べ,出典付きの調査メモを作る場面を考える。
今回の依頼では,制度名,基準日,調査する範囲及び提出形式を指定する。
これに対し,発行主体を確かめる,原文と解説を分ける,改訂日を確認する,資料が足りなければ未確認事項を残す,という手順は別の調査にも共通する。
共通する手順をスキルへまとめると,依頼の対象と作業の基準を分けて管理できる。
2 実行と確認まで含めて評価する
エージェントを使う構成では,利用可能な検索・読取り等のツールで資料を集め,結果を踏まえて追加調査やメモ作成へ進む。
スキルはその進め方を案内するが,実際に資料を取得できたか,指定した範囲を調べたか,保存先に成果物があるかは別に確かめる。
「原文を確認する」と指示したことと,原文の取得・読取りを確認できることは同じではない。
情報が実在すること,その情報が記載の根拠になること,成果物が正しく保存されたことをそれぞれ点検する構成が考えられる。
この例は実装済みの配布用スキルではない。
実際の資料やアカウントで利用する前に,利用環境に合わせた確認を行う必要がある。
第4 Claude Code,Codex及びGoogle ADKのスキルは同じものか
1 共通する形式と設計
OpenAIは,ChatGPT及びCodex向けのプラグインの説明の中で,SKILL.mdと必要な参照資料等によって繰り返す作業を教える仕組みを説明している。
GoogleのADKに関する公式技術記事も,SKILL.md,参照資料及びスクリプト等をまとめ,必要になったときに読み込む方法を説明している。
同記事は,外部のスキルを読み込む構成も扱い,同じ仕様に沿って生成したスキルはClaude Code等の対応製品でも機能すると説明している。
したがって,スキルを整備してAIへ仕事をさせる方法は,Googleが説明するエージェントの考え方と接点がある。
スキルの整備とエージェントの利用を,全く別系統の技術として理解する必要はない。
2 同じファイル形式でも移植確認は必要である
Agent Skillsの公式概要は,一度作ったスキルを対応するエージェントで使えることを利点として挙げている。
もっとも,本記事の整理としては,共通する形式があることは,個々の製品の機能,設定及び権限が同一であることを意味しない。
また,ADKがスキル形式を採用することから,Googleのすべてのサービスの内部実装が同じであるともいえない。
スキルを別の環境へ移すときは,①指示文の内容,②参照資料,③呼び出すツールと付属コード,④認証と操作権限,⑤成果物と停止条件を確認する。
業務上の考え方を再利用できても,ツール名,保存先,接続方法又は利用できる機能の調整が必要になる場合がある。
第5 スキルを増やす場合とエージェントを分ける場合
スキルを増やすことは,どの作業でどの手順を参照させるかという設計につながる。
エージェントを分けることは,誰に相当する実行単位へ何を委ね,何を返してもらい,どう結果をまとめるかという設計につながる。
例えば,資料の探索,原稿の作成及び根拠の点検に別々の手順を用意しても,それだけで実行主体が三つに分かれるわけではない。
実行主体を分ける場合には,引き渡す資料,担当範囲,出力の形式及び食い違いを解決する方法も決める必要がある。
GoogleのADKは複数エージェントの構成を支援するが,そのことから,あらゆる業務で数を増やせば速く,又は正確になるとは判断できない。
作業の重複,結果をまとめる手間,確認の負担も含めて,自分の対象業務で評価したい。
第6 業務への導入を比較するときの確認事項
1 納品物と実際の処理を対応させる
外注先の提案を比較する場合は,スキル一式を作るのか,外部サービスと接続するのか,定期実行や監視まで引き受けるのかを分ける。
受け取る指示ファイル,参照資料,プログラム,設定及び試験記録を,見積りの対象と対応させる方法が考えられる。
2 正常な結果と止まる条件を試す
同じ業務でも,扱う資料,利用アカウント及び許される操作が異なれば,確認すべき範囲が変わる。
公開資料又は架空資料を使い,成果物を作れるかに加えて,資料不足,接続失敗,未承認の送信要求等でどう対応するかも確かめる。
3 人の作業と更新後の負担も測る
評価では,AIの処理だけでなく,人が行う修正,承認,例外対応及び結果の確認も含める。
スキル,モデル又は接続先の変更時に,誰が何を再点検するかも決めておくと,導入後の仕事の範囲を把握しやすくなる。
これらは本記事が提案する比較の観点である。
特定の価格が妥当であること,導入すれば費用が減ること,又は特定の設定だけで法的な義務を満たすことを示すものではない。
第7 よくある疑問
1 スキルは長いプロンプトにすぎないのか
指示文を含む点では共通するが,スキルは,適用場面の説明,作業手順,参照資料及び付属コード等をまとめて再利用できる。
実際にどの部分がいつ読み込まれるかは,利用する製品の仕様を確認する必要がある。
2 スキルを追加すればモデル自体が学習するのか
ここで扱うスキルは,必要な指示や資料を読み込ませる仕組みである。
ファイルを追加したことを,モデル自体の再学習や,内容が恒久的に記憶されたことと同じには扱えない。
3 エージェントは常時動いている必要があるのか
Google ADKの公式資料には,ワークフローの一工程として使う場合に,一つのターンで作業を終える実行形態も示されている。
常時の監視や定期実行を行う構成かどうかは,エージェントという呼び名から推測せず,実際の起動条件と終了条件で確かめる。
4 スキルに確認手順を書けば誤りはなくなるのか
手順を記すことは,その手順が実際に守られたことの証明にはならない。
必要な根拠を取得したか,権限の範囲を守ったか,出力と保存結果が一致するかを,作業に応じて確かめる必要がある。
第8 関連記事と一次資料
1 目的に応じて読む関連記事
弁護士実務での手順書の作り方は,弁護士のClaude Code Skills活用法―調査・書面作成・記事更新を手順書にするで扱っている。
導入物と接続先の点検は,弁護士・税理士がAIエージェントのスキル・プラグインを導入するとき―付属スクリプト,外部送信,認証情報及び権限の確認を参照されたい。
発注と引渡しは,AIエージェントの導入・保守を外注するときの契約―検収,権限設定,更新及び障害対応,費用と運用負担は,AIエージェント導入支援の採算を考える―料金設計,保守範囲及び事業化の条件で整理している。
スキルの整理は,Claude Code・Codexのスキルが増えすぎたときの整理方法―トークン消費,誤起動及び段階的読込みを参照されたい。
2 一次資料
①Agent Skills Overview(形式,SKILL.md及び付属資料)。
②OpenAI Developers「Skills」(スキルとツールの役割,適用時の読込み)。
③Google「Developer’s Guide to Building ADK Agents with Skills」(2026年4月1日。ファイル形式,共通仕様及び必要時の読込み)。
④Google ADK「Simple agents with LlmAgent」(モデル,指示,ツール及び実行形態)。
⑤Google Cloud「ADK」(業務の流れ,ツール連携及び複数エージェント)。
⑥MCP「What is the Model Context Protocol (MCP)?」(AIアプリケーションと外部システムの接続)。