第1 令和8年3月31日で終了した特例と,続く取扱い
祖父母等から教育資金の一括贈与を受ける場合の贈与税の非課税特例は,適用期限が延長されず,令和8年3月31日で終了した。
ただし,同日までに特例の適用を受けた信託受益権や金銭等については,引き続き特例が適用される。
国税庁タックスアンサー4510は,令和8年4月1日以後は特例の適用を受けられないことと,既に適用を受けた財産の取扱いが続くことを分けて説明している。
「制度が終わったので,既存口座の残高をすべて自由に使える」「過去の適用が一斉に取り消される」と理解するのは適切ではない。
本記事は令和8年10月31日時点で確認した国税庁の公表資料を基に,これから教育費を援助する人と,既存契約がある人の確認事項を整理する。
契約の終了や贈与者の死亡に伴う具体的な課税額は,取得時期等に応じて別に計算する必要がある。
第2 既存の教育資金管理契約で確認すること
1 特例適用済みの財産と,新たな贈与を分ける
令和8年3月31日までに適用を受けた財産について取扱いが続くことは,既存口座があれば,同年4月1日以後の追加贈与にも新たに特例を使えるという意味ではない。
過去に適用を受けた日,贈与者,取得額及びその後の払出しを,金融機関の記録と照合する。
制度終了だけを理由に慌てて解約したり,別の家族の口座へ残高を移したりする前に,教育資金管理契約の内容を取扱金融機関へ確認し,残額の税務上の扱いは税理士等へ相談することが重要である。
2 領収書等の提出・提供を続ける
特例適用済みの資金を教育資金の支払に充てたときは,受贈者は,領収書等を定められた期限までに取扱金融機関の営業所等へ提出又は提供しなければならない。
国税庁の直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A(令和8年5月)のQ3-1は手続と期限を,Q3-2は教育資金支出額の計算を説明している。
契約終了時の残額は,口座の残高ではなく,非課税拠出額から教育資金支出額を控除した額であるから,確認・記録されなかった支払があると,残額の計算に影響する。
提出等の期限は口座からの払出方法等によって異なり,契約が終了する場合の期限にも注意が必要である。
金融機関で選択した方法と期限を確認し,領収書や電子的な支払記録を保管する。
3 契約終了と贈与者の死亡を別々に確認する
国税庁は,教育資金管理契約の期間中に贈与者が死亡した場合や,契約が終了した場合には,それぞれ相続税又は贈与税がかかることがあると説明している。
「最初に非課税で入金できたから,残額にも将来一切税金がかからない」とはいえない。
教育資金管理契約は,受贈者が30歳に達した場合(学校等に在学し,又は教育訓練を受けていて,その旨を取扱金融機関の営業所等へ届け出たときを除く。),30歳以上の受贈者が在学等の届出をしなかった場合,受贈者が40歳に達した場合,残高がゼロとなり終了の合意があった場合及び受贈者が死亡した場合に終了する。
特例の適用期限が終了したことと,既存の契約が終了することは別である。
相談時には,贈与による取得時期,贈与者ごとの金額,受贈者の年齢・在学等の状況,死亡日又は契約終了日を整理する。
死亡時の課税は前記Q&Aの4(Q4-1~Q4-7)で,契約終了時の課税は5(Q5-1~Q5-4)で,分けて説明されている。
第3 通常必要な教育費を,必要な都度援助する場合
一括贈与の特例が終了しても,扶養義務者から通常必要な教育費を必要な都度受け取り,直接その費用に充てる場合の贈与税の取扱いまでなくなったわけではない。
国税庁タックスアンサー4405は,扶養義務者から生活費や教育費に充てるため取得した財産で,通常必要と認められるものを非課税とし,必要な都度直接その用途に充てるものに限ると説明している。
「通常必要と認められるもの」とは,贈与を受けた者の需要と贈与をした者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産をいい,教育費は義務教育に係る費用に限られない(後記Q&AのQ1-2・Q4-1)。
例えば,祖父母が孫の学費を援助する場合,請求された学費をその都度負担する場面と,将来の学費名目で多額の資金をまとめて孫の口座に残す場面を分ける。
教育費という名称を付けるだけで,預金として残す部分まで当然に非課税になるわけではない。
国税庁の扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A(平成25年12月)のQ1-3も,数年分を一括して贈与し,教育費等に充てられず預貯金となっている部分などは課税対象となると説明している。
支払先,支払時期,金額及び誰が負担したかが分かる資料を残すと,後日の確認に役立つ。
第4 援助の仕方を決める前の確認順序
① 既存契約があるかを確認する。
特例適用済みの財産がある場合は,その記録と残高を確認し,これから行う贈与と分ける。
② 今支払う教育費なのか,将来のための資金移動なのかを確認する。
請求書や納付案内に基づく支払と,使途や支払時期が決まっていない資金の移動を区別する。
③ 通常必要な教育費の援助の条件に合うかを確認する。
扶養義務者間であること,通常必要と認められる費用であること,必要な都度直接その用途に充てることを,具体的な支払に即して検討する。
④ 既存契約の終了や贈与者の死亡があるときは,別に課税を検討する。
単に現在の残高だけを見るのではなく,過去の取得時期等をそろえて税理士等へ相談する。
⑤ 教育費の援助と,一般的な生前贈与の税務を混同しない。
通常の暦年課税による贈与について相続税の加算が問題となる場合は,死亡年ごとの生前贈与加算の早見表を参照し,今回の教育費援助がどの制度の問題なのかを整理する。
第5 よくある疑問
1 終了前に開設した口座なら,今からの追加贈与も非課税か
既存口座があっても,令和8年4月1日以後に取得する財産について,終了した特例の適用を受けることはできない。
引き続き適用されるのは,同年3月31日までに特例の適用を受けた財産である。
2 祖父母が学費を払うと,必ず贈与税がかかるのか
必ずかかるわけではない。
通常必要な教育費を,扶養義務者から必要な都度受け取り,直接支払に充てる場合の取扱いを検討する。
3 残高を使い切らなかった場合は,どうなるか
契約が終了した場合に残額について贈与税がかかることがあり,贈与者が途中で死亡した場合の相続税の取扱いも別に確認する必要がある。
制度終了というニュースだけで結論を出さず,契約と取得時期等を基に確認する。
第6 出典
① 国税庁タックスアンサーNo.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
② 国税庁タックスアンサーNo.4405 贈与税がかからない場合
③ 国税庁・直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A(令和8年5月)
④ 国税庁・扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A(平成25年12月)