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認知症の親の預金は引き出せるか―介護費・入院費と銀行への相談(AI作成)

第1 介護費や入院費に困ったら,まず取引銀行へ相談する

認知症の親の預金から介護費や入院費を支払いたいときは,親本人の意思を確認できるか,誰にどのような代理権があるか,何の支払にいくら必要なのかを整理して,取引銀行へ相談する。
認知症という診断名だけから,すべての金融取引が一律にできなくなると考えるべきではない。

全国銀行協会の預金の引出しに関する案内は,本人の意思確認を原則としつつ,本人の生活費,入院費,介護施設費用等に必要な資金で困ったときは,取引銀行への相談を案内している。
これは,家族に自由な払戻権限を与える説明ではなく,銀行が事情を確認するための相談の入口である。

以下は令和8年10月31日時点で確認した全銀協の公表資料(令和2年3月26日の案内及び金融取引の代理等に関する考え方)及び裁判所の公表資料に基づく一般的な整理である。
特定の銀行で必ず払戻しを受けられるという意味ではなく,各銀行の取扱いと個別の事情を確認する必要がある。

第2 親が生存している場合と,相続開始後の手続を分ける

親が生存している間の親本人の口座と,亡くなった親の相続手続では,手続を行う根拠が異なる。
「将来相続する子である」という事情だけでは,生存している親の預金を自由に処分できることにはならない。

また,親族全員が了解していることと,銀行に対して有効な代理権を示せることは別の問題である。
通帳や印鑑,キャッシュカードを保管している場合も,それだけを根拠として本人の意向や権限の確認を省略しない。

親の死亡後に弁護士が口座を調査し,相続による払戻し等を行う場面については,被相続人の銀行口座の相続手続で説明している。
亡くなった人の遺産を分ける際,相続人の一人が判断能力を欠いている場合は,認知症等の相続人がいる場合の遺産分割を参照されたい。

第3 銀行への相談前に,支払と権限の資料を整理する

相談を具体的に進めるため,次の事項をメモにして,手元にある資料と一緒に銀行へ示すとよい。
以下は相談のための整理例であり,全国共通の必要書類一覧ではない。

① 支払の目的と期限を明らかにする。
病院・施設の請求書,支払先,請求の対象期間,金額及び支払期限を整理し,親本人のための費用であることを説明できるようにする。

② 本人の状態を説明する。
本人とどのような方法なら意思疎通ができるか,来店が難しい事情は何か,診断書等の資料があるかを伝え,銀行が求める確認方法を相談する。

③ 手続をする人の立場を明らかにする。
本人との関係,有効な委任や銀行への代理人の届出の有無,成年後見人等の選任の有無と権限の範囲を整理する。

④ 希望する支払方法を具体化する。
家族の口座への一括移動を当然の前提とせず,病院・施設等への振込を含めて,必要な支払をどのように行えるか確認する。

⑤ 家族が立て替えた費用を区別する。
今後の請求分と過去の立替分を分け,領収書,振込記録及び立替額の内訳を保管する。
立替をしたから自動的に親の口座から同額を払い戻せるとは考えず,銀行に取扱いを確認する。

第4 代理権がない場合の対応と,成年後見の検討

全銀協の金融取引の代理等に関する考え方は,有効な代理権を持つ人との取引と,代理権のない親族等から依頼を受ける場面を区別している。
後者は「極めて限定的な対応」とされ,成年後見制度の利用を求めることが基本とされている。
本人の認知判断能力が低下し,かつ成年後見制度を利用していない(できない)場合に,本人の医療費等の支払手続を親族等が代わりにする行為など,本人の利益に適合することが明らかである場合に限り,依頼に応じることが考えられるとされている。
これは代理権のない親族等の依頼に応じる場合(無権代理)のリスク許容の考え方の一例にとどまり,銀行にとって依頼に応じることによるリスクは伴うとも説明されている。

この資料は銀行実務の参考となる考え方であり,家族が払戻しを当然に請求できる権利を定めた法律ではない。
銀行がより厳格に対応し,取引に応じない場合もあると明記されているため,「介護費なら必ず引き出せる」という説明は正確ではない。

継続的な預金管理や契約が難しくなっている場合は,成年後見制度等の利用を検討する。
裁判所の制度案内は,本人の判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助を区別し,申立書に候補者として記載した家族が必ず選任されるわけではないことを説明している。
なお,令和8年6月に成立・公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は,後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化することなどを内容とする。
成年後見制度の見直しは公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行され,現時点で後見開始等の申立てをする場合には現行法が適用される。
改正の全体像は,令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で整理している。

当面の支払だけでなく,今後必要な財産管理,申立てに要する準備,費用及び選任後の事務を含めて相談することが重要である。
本人の費用を支払う必要と,子への贈与や将来の相続対策として財産を移す希望は,分けて検討する。

第5 本人が判断できる間に進めたい準備

親が財産の話に応じてくれない場合は,相続分の話から始めず,本人の了解を得ながら,「入院したら誰が銀行へ相談するか」「どこから施設費が引き落とされるか」という当面の暮らしの確認から始める方法が考えられる。

まず,取引銀行,年金の入金口座,生活費の引落口座,保険等の連絡先を整理し,資料の保管場所と緊急時の連絡先を確認する。
暗証番号を家族で共有することを準備の中心にせず,銀行が用意する代理人制度や財産管理サービスの対象,利用開始の条件及び手続を確認する。

全銀協の案内も,資産の整理,地域の公的サポートの活用,銀行独自の代理人制度や財産管理サービスの検討を挙げている。
将来の支援については,任意後見制度の裁判所案内等も踏まえ,本人が理解して決められる段階で専門家へ相談することが考えられる。

第6 よくある疑問

1 銀行に認知症だと伝えると,必ず全口座が凍結されるのか

一律にそうなるとはいえない。
全銀協の考え方は,本人の判断能力,代理権の有無及び取引の内容に応じた対応を整理しているため,診断名だけで全口座の取扱いを決め付けず,必要な支払と本人の状態を伝えて相談する。
もっとも,全銀協の資料は銀行が口座をどう扱うかを定めたものではなく,具体的な取扱いは銀行ごとに確認する必要がある。

2 兄弟姉妹が全員同意すれば,親のお金を子へ移してよいか

家族の同意だけで,親本人の財産を処分する権限が生じるわけではない。
本人のための支払,家族の立替精算,子への贈与を分け,それぞれについて本人の意思や権限,必要な資料を確認する。

3 預金を払い戻すためだけに,子が成年後見人になることを指定できるか

家庭裁判所が後見人等を選任するため,子を候補者にした場合でも,その子が必ず選任されるとは限らない。
現行の制度では,後見等が開始されると,預貯金の解約等の申立てのきっかけとなったことが解決した後も,本人の能力が回復するか本人が亡くなるまで手続は続き,家族の意思や本人の希望でやめることはできない。
希望した人が選ばれなかったことを理由とする不服申立てもできないため,預金の払戻しだけでなく,その後の本人の生活と財産管理を含めて制度の利用を検討する。

第7 出典

① 全国銀行協会「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料の作成について」(令和2年3月26日)
② 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)」
③ 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」
④ 裁判所「任意後見制度の概要を知りたい方へ」