第1 入力前に確認するのはアイコンではなく利用条件である
Copilotの画面が同じになっても,会社の情報を入力してよいかどうかが一律に決まるわけではない。
現在のアカウント,契約しているプラン,利用する機能,入力する情報及び会社の承認条件を確認する必要がある。
個人用だから直ちに違法,仕事用だから無条件に安全という判断は,いずれも避けたい。
Microsoftは,個人用と職場・学校用のCopilotを共通のアプリから利用できるようにする変更を説明している。
同社の説明では,個人用アカウントと職場・学校用アカウントの境界は維持され,職場・学校用には組織の管理が引き続き適用される。
本稿は,令和8年10月28日に確認した公式資料を基に,この変更に伴う業務利用の確認順序を整理する。
ここで示す確認表と運用方法は実務上の提案であり,特定のサービス又は利用方法の適法性を一律に認定するものではない。
サービスの画面や提供状況は更新されるため,実際に利用する時点の説明と設定も確認する。
第2 アカウント,プラン及び機能を分けて確認する
1 個人用と職場用の分離が意味すること
MicrosoftのCopilotアプリの更新案内は,個人用と職場用のデータが相互の体験に反映されない設計を説明している。
これは,利用者が個人用の画面へ会社の文書を貼り付ける操作まで防止するという説明ではない。
設計上の分離と,どちらのアカウントへ情報を入力したかという操作上の事実を分けて確認したい。
同案内には,リンク済みの複数の個人用アカウントの対象履歴等がまとめられる場合の説明もある。
この個人用アカウント間の取扱いを,会社のアカウントとのデータ統合と混同しない。
2 同じ製品名でも確認単位をそろえる
| 確認単位 | 確認する内容 | 記録の例 |
|---|---|---|
| アカウント | 個人用か,組織の管理対象か | 所属組織とサインイン中のアカウント |
| 契約・プラン | 誰が契約し,どの条件が適用されるか | プラン名と確認した契約資料の日付 |
| 利用機能 | 単独アプリか,Excel等のアプリ内か,外部連携があるか | 利用したアプリ,機能及び接続先 |
| 入力情報 | 社内資料,顧客情報又は取引先の秘密情報を含むか | 情報の種類と社内で認めた利用範囲 |
製品名又は有料・無料という区分だけでは,適用されるデータの取扱いを十分に特定できない。
承認時の説明資料と,実際に使うアカウント・機能の組合せが一致するかを確認する方法が有用である。
第3 非学習,保存及び外部連携は別々の問題である
1 個人向けアプリ内Copilotにも非学習の説明がある
Microsoftの個人向けMicrosoft 365アプリのプライバシー説明は,対象となるアプリ内Copilotのプロンプト,応答及びファイル内容を基盤モデルの訓練に使用しないとしている。
この資料は,個人用Microsoftアカウントで使うMicrosoft 365アプリ内のCopilotを対象とし,単独のCopilotアプリについては別の説明へ案内している。
したがって,個人用という名称だけで学習利用を決め付けることも,この説明を個人向けCopilotの全機能へ広げることも適切ではない。
2 学習に使わないことは保存しないことではない
Microsoftの組織向けCopilotのデータ保護説明は,基盤モデルの学習への不使用と,プロンプト・応答・引用等の活動履歴の保存を別々に説明している。
同資料は,管理者による検索や保持ポリシーの管理にも言及している。
履歴が画面に見えるか,サービス側に何が保存されるか,誰が管理できるかを一つの設定として扱わない。
秘密保持契約との関係では,学習利用の有無に加え,利用目的,保存・削除,人的アクセス及び再委託等を確認する必要がある。
詳しくは,学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるかを参照されたい。
3 社内資料の参照権限と外部への接続を確認する
組織向けの公式説明によれば,Copilotが提示する社内情報は利用者のアクセス権を前提とする。
このため,元の共有設定が業務上必要な範囲かどうかも確認対象となる。
AIを導入したことだけで,既存の過大な共有範囲が適正化されたと扱わない。
同資料は,Web検索では検索語をBingへ送ること,エージェント等の外部機能では接続先の条件も確認すべきことを説明している。
本体の非学習の説明だけで判断せず,どの情報がどの接続先へ渡るかを機能単位で整理したい。
第4 会社情報と依頼者情報の入力を判断する
1 個人情報と秘密保持の確認を分ける
個人情報保護委員会の生成AIサービスの利用に関する注意喚起は,個人情報の入力について利用目的との必要性を確認するよう求めている。
また,本人の同意を得ずに入力した個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合の違反可能性を示し,機械学習に利用しないこと等の確認を求めている。
この注意喚起から,非学習であれば他の法的・契約上の確認が不要になるとはいえない。
会社が取引先から受領した秘密情報では,元の契約が外部サービスへの入力や委託先への開示をどこまで認めるかも問題となる。
個人情報保護法上の検討,秘密保持契約の解釈及び社内承認は,それぞれ確認する。
2 東京弁護士会の記事の対象と限界
東京弁護士会のLIBRA令和8年6月号25~27頁は,Microsoft 365 Copilotの一般法人向け・大企業向けプランについて,事業者の回答を基に選定基準との関係を整理している。
対象に個人向けプランは含まれず,事業者による最終確認日は令和8年4月22日である。
同記事は,同会による利用の推奨又は安全性の保証ではないことを明記している。
同記事を利用する場合も,自分が使うプラン,現在の仕様及び管理設定を確認する。
サービス選定の資料があることと,個々の依頼者情報をその場面で入力してよいことを同一視しない。
第5 入力前と誤入力時の運用を決める
入力前には,①サインイン中のアカウント,②会社が認めたサービス・機能,③入力情報の範囲,④外部連携及び共有先,⑤保存・削除条件を確認する方法が考えられる。
新しい画面の説明だけでなく,社内で承認した条件と異なる場合の相談先も利用者へ示したい。
誤ったアカウントへ入力した可能性が分かった場合には,追加の入力や共有を止め,社内の責任者へ報告する。
その際,入力時刻,アカウント,利用機能,入力資料,接続先及び設定を確認し,証拠の保存と削除の必要性を整理する方法がある。
履歴を消すことだけで事態が解決したと判断せず,影響と必要な対応を確認する。
会社が把握しない生成AI利用と,営業秘密,個人情報保護及び懲戒との関係は,シャドーAIの問題点で扱っている。
本稿の確認項目は,具体的な事実を整理するための運用例であり,誤入力があれば直ちに一定の処分又は報告義務が生じると説明するものではない。
第6 機能の終了と保存済み資料の扱いを混同しない
MicrosoftのDeep Research終了案内は,個人向けCopilotアプリの同機能を令和8年8月18日から終了すると説明している。
一方,同変更によって保存済みの調査内容は削除されず,PremiumではResearcher,Personal・Familyではチャット履歴から従前のレポートにアクセスできるとしている。
機能の終了,代替機能の利用資格及び保存済み資料の参照を分けて確認する。
アプリ更新案内は,単独のCopilotアプリで共有・生成したファイルがOneDriveへ移ることも説明している。
業務で利用したファイルについては,保存先のアカウント,共有範囲及び社内の保存方針との整合を確認する。
必要な記録を別に保存する場合にも,個人用ストレージへ業務情報を無断で複製しないようにしたい。
第7 出典と関連記事
本稿で用いた製品の仕様は,Microsoftの公式説明に基づく。
これらは提供事業者の説明資料であり,日本法上の適法性又は実際の利用環境の安全性を独立に証明するものではない。
Microsoft:個人・職場・学校アカウントのCopilotアプリ更新
Microsoft:個人向けMicrosoft 365アプリのデータとプライバシー
Microsoft:組織向けCopilotのデータ,プライバシー及びセキュリティ
Microsoft:Deep Research終了案内
個人情報保護委員会:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(令和5年6月2日)
東京弁護士会:LIBRA令和8年6月号25~27頁
学習オフの生成AIに秘密情報を入力することは第三者開示に当たるか
シャドーAIの問題点
法律事務所がAIエージェントに専用PCを与えるときの安全設計