メインコンテンツへスキップ
       

株主総会の想定問答の作り方―質問例・回答例と根拠資料のそろえ方(AI作成)

第1 想定問答は質問・資料・回答を一組にして準備する

株主総会の想定問答は,質問例を多数集めるだけでは完成しません。質問がどの議案・報告事項に関係するか,どの資料で事実を確認したか,誰が説明するかを対応させることが重要です。

本記事では,質問の収集,根拠資料の確認,回答案の作成,当日の運営,総会後の見直しという順に,実務上の作り方を提案します。以下の質問例・回答例は検討用の型であり,特定の会社の事実や方針を示すものではありません。数値や方針を埋める前に,最新の確定資料との照合が必要です。

法令上の説明義務は会社法314条と会社法施行規則71条の問題です。想定問答を作成することや,以下の全項目を公表すること自体を,一律の法定義務として説明するものではありません。2026年10月27日時点で確認した資料に基づきます。

第2 最初にそろえる資料と質問の集め方

1 当期の確定資料を起点にする

招集通知,株主総会参考書類,事業報告,計算書類,有価証券報告書,決算説明資料,中期経営計画,適時開示,コーポレート・ガバナンス報告書等から,今回の議案と経営状況に関係する資料を集めます。

同じ数値でも連結・単体,期末・期中,実績・予想などの条件が違います。資料名,公表日,対象期間,該当箇所を記録し,古い想定問答の数値をそのまま転記しない運用を考えます。

2 質問の入口を複数にする

前年の質問,事前質問,投資家との対話で繰り返し出た事項,今回の議案の変更点,事業上の主要なリスクなどを入口にすると,質問を集めやすくなります。報道や市場の評価を取り上げる場合も,確認できた事実と,第三者の評価・推測を分けます。

株主総会における質問対応と,総会の外で継続的に行う対話は,目的も場面も同一ではありません。対話で寄せられた関心を準備に生かしながら,当日の質問に対する説明は別途検討します。

第3 想定問答の管理表に入れる項目

– 質問番号と質問の要旨
– 関係する議案・報告事項
– 事実確認の担当部署と最終確認者
– 根拠資料の名称・公表日・該当箇所
– 回答案と回答担当者
– 未確認の数値・前提と確認期限
– 説明を控えることを検討する部分と具体的な理由
– 最終確認日と版番号

質問の原文を要約する場合も,原文への参照を残すと,確認漏れを見つけやすくなります。未確認事項を埋めたように見せず,「未確認」と記録し,確認が済むまで確定回答として扱わない方法が考えられます。

第4 質問例と回答例の作り方

1 資本コスト・株価・株主還元

質問例は,「資本コストや株価をどのように分析し,成長投資と株主還元をどう配分していますか」です。PBRの数値だけで質問を終えず,現状分析,取締役会での検討,改善策の実施・見直しを確認する質問にすると,説明の構成を作りやすくなります。

回答例の型は,「対象期間と指標を示して現状分析を説明する。公表済みの投資・財務・還元方針との関係を説明する。実施状況と今後の検証方法を示す」です。自社の確定した方針がない部分を,回答例に合わせて作った事実として記載しないようにします。

東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」は,プライム市場・スタンダード市場の全上場会社を対象とする要請です。PBR1倍割れ企業だけを対象としたものでも,自己株式取得や増配だけを求めるものでもありません。法令上の一律の増配義務とは区別します。

2 役員候補者と取締役会の構成

質問例は,「この候補者を選んだ理由は何ですか。取締役会全体として,事業戦略に必要な知識・経験をどう確保しますか」です。

回答例の型は,「候補者の具体的な経験と期待する役割を示す。公表している選任方針やスキル情報との関係を説明する。取締役会全体の課題との対応を説明する」です。抽象的な『適任です』だけで終えず,資料のどの事実を説明に使うかを確認します。

3 不祥事・サイバー事故等

質問例は,「確認できている影響は何ですか。原因究明と再発防止策は,誰がどの段階で確認していますか」です。

回答例の型は,「現時点で確認できた事実と未確定の事項を分ける。公表済みの対応と進捗を示す。今後の情報提供の方法を説明する」です。調査中という表現を使う場合も,確認済みの範囲まで省略しないよう検討します。他方,第三者の権利等との関係で説明できない部分は,具体的な理由を法務担当者と確認します。

4 人的資本・サステナビリティ

質問例は,「公表した目標の対象範囲と進捗は何ですか。事業戦略や投資判断とどう結び付けていますか」です。

回答例の型は,「指標の定義・対象範囲・基準時点を示す。実績と目標を区別する。施策の内容と進捗を説明する」です。グループ全体と特定会社,管理職全体と特定区分など,分母の違う数値を混在させないよう確認します。開示制度の適用時期は,対象会社とその時点の制度を別途確認します。

5 株主提案と会社側の見解

質問例は,「この提案について,取締役会は何を検討し,なぜ賛成又は反対すると判断したのですか」です。

回答例の型は,「提案の内容を正確に示す。判断の前提と検討した選択肢を説明する。会社側の見解とその理由を示す」です。提案者への評価と,提案内容の評価を混ぜないようにします。個別の買収提案や防衛策については,この一般的な回答の型だけで適法性を判断することはできません。

第5 回答を控える案ほど根拠を確認する

会社法314条の説明義務と,その例外に該当するかを確認します。「事前質問の受付期限後だから」「質問が厳しいから」といった事情を,そのまま法定の拒絶理由に置き換えないことが大切です。

会社法施行規則71条1号の調査を要する場合には,当該株主から相当の期間前に通知があった場合と,必要な調査が著しく容易な場合という除外があります。事前質問の受付記録と回答案を対応させて確認します。

詳しくは,株主総会の事前質問と回答拒否を参照してください。

第6 生成AIを使う場合の確認事項

生成AIは,質問の分類や回答構成の検討に使うことが考えられます。ただし,出力された法令名,判例,統計,数値,引用は,それ自体では根拠資料になりません。原資料を開き,記載内容と一致することを確認する必要があります。

社内情報を入力する場合は,利用するサービスの契約・設定,入力できる情報の範囲,社内の承認ルール等を事前に確認する方法が考えられます。公開済み情報だけを用いた試行と,未公表情報を含む利用を同じ扱いにしないようにします。

実在する事件の裁判例を挙げる場合も,事件の特定事項と判決本文を確認し,当事者の主張,裁判所の認定・判断,記事の説明を分けて回答案に反映します。

第7 当日の運営と総会後の見直し

1 当日は想定問答の文面と実際の質問を照合する

想定問答と同じ話題でも,質問の対象期間や前提が違う場合があります。質問の要旨を確認し,該当する根拠資料と回答担当者に結び付けます。追加質問で前提が変わった場合には,既存の回答案を読み上げるだけで済むかを再検討します。

2 総会後は質問と投票結果を次の検討に生かす

実際の質問,回答できた範囲,確認が残った事項,資料の分かりにくかった点を記録すると,翌期の説明資料や対話の改善に使えます。

2026年改訂コーポレートガバナンス・コード原則1-3は,会社提案議案が可決された場合でも,相当数の反対票が投じられたときは,反対理由や反対票が多くなった原因を分析し,株主の権利の実質的な確保に資するよう適切に対応すべきとしています。同原則は,一律の数値で「相当数」を定義していません。具体的な対話や説明の方法を検討することは,この趣旨を踏まえた実務上の対応として考えられます。コードと会社法上の決議要件も分けて理解します。

改訂コードの位置付けと対応時期は,2026年改訂コーポレートガバナンス・コードを参照してください。

第8 最終確認のチェックリスト

– 質問ごとに根拠資料と確認担当者が決まっているか。
– 数値の対象期間,範囲,分母,単位が一致しているか。
– 実績,予想,目標,会社の見解を区別しているか。
– 説明を控える部分と理由を具体的に検討したか。
– AI出力や二次資料だけで法令・判例を確定していないか。
– 最終版と当日使用版が一致しているか。
– 総会後に見直す事項の担当者と確認方法を決めたか。

第9 根拠資料と関連記事

– 会社法(314条)
– 会社法施行規則(71条)
– 東証「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
– 2026年改訂コーポレートガバナンス・コード(基本原則,原則1-3)
– 牧村卓哉・中村崇彦・松原嵩晃「2025年株主総会想定問答検討に際しての留意点」『ビジネス法務』2025年3月号80~86頁(実務上の着眼点。本記事の管理表・質問例・回答例は筆者による構成例。)
– 株主総会とは―開催時期,出席できる人,決議事項,普通決議・特別決議及び手続