第1 この記事の対象と結論
本記事は,外国人非熟練労働者の受入れに関する架空の特労法を素材とする憲法問題を扱う。
法務省の出題の趣旨・採点実感から独自に抽出した評価項目と参考答案であり,法務省の公式採点基準・配点・公式答案ではない。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成29年司法試験論文式・公法系科目第1問(憲法) |
| 公式問題文 | 法務省の問題PDFの2〜5頁 |
| 基準時 | 平成29年5月17日の試験実施時。特労法は問題文上の架空法 |
| 資料の確認 | 問題2〜5頁,出題趣旨1〜2頁,採点実感1〜3頁を実読済み。他問・他科目は対象外 |
| 主な検討事項 | 妊娠・出産の自己決定権,外国人在留制度の枠内論,収容の実体的必要性と手続的保障 |
| 項目数と重み | 29項目。重み5は6項目。重み合計112。非採用の許容分岐は累積要求しない |
| 主要判例 | マクリーン事件,川崎民商事件,成田新法事件 |
| 答案分量 | 改行を除き3651字。答案本文の上限は5000字 |
| 後発の法改正・判例 | 試験後の法状態を当時の答案要求に遡及させない。以下の答案は当時の法理と問題上の法を前提とする |
| 関連記事 | 第6に同年度・同科目別年度・関連論点への導線を置く |
| 確認日 | 令和8年10月27日(日本時間) |
参考答案は,妊娠等を一律に禁じ義務的出国へ結び付ける規定と,独立した事前統制を全面的に欠く収容規定について違憲とする。
収容の実体的必要性については,必要性を要求する限定解釈の余地を留保し,手続の欠如と分けている。
この結論又は審査基準が公式の唯一解であるという趣旨ではない。
第4に全評価項目と重みを,第5に答案及び項目との対応・解説を置く。
特に重み5の番号1・3・8・14・15・18は,保護利益,在留枠内論,直接目的,法令違憲,実体と手続の分離,行政収容への保障接続という骨格に当たる。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目を一つの判定対象とし,公式資料の説明を答案の何が書けていればよいかという基準へ言い換えた。
公開番号は記事全体で連続する。
内部の追跡IDとは区別し,根拠・適用条件を保っている。
出題趣旨と採点実感の対応箇所を別々に示し,「間接」は関連記述からの推論,「記載なし」は本問の関連範囲を実読した結果を意味する。
番号5は妊娠等の自由の重要性によって裁量を限定する構成,番号27は憲法34条の独立構成,番号28は現実の入管制度比較を採用する場合に用いる。
異なる構成の全てを一つの答案へ要求するものではない。
誤りの回避は対応する正しい書き方の項目に含め,同じ理解を肯定・注意で二重に評価しない。
職業選択又は移動の自由から出発しても,妊娠が強制出国事由である点に焦点を当て,自己決定権侵害と実質的に類似の内容を検討した答案は採点実感で評価されている。
番号1・6・7は,出発点や条文名,特定の審査基準名だけで一律不充足にせず,その実質と採用理由に照らして用いる。
また,行政手続の31条・33条適合性を目的手段審査で扱っても,必要な要素が考慮されていれば評価された。
番号18・19等も手法名だけで排除せず,行政手続への保障の接続と必要な要素の検討を評価する。
番号19は両判決の累積引用を要求せず,番号21の緊急例外と即時の事後審査は迅速性への応答の一例である。
重みを付す29項目とは別に,採点実感「4 その他」の法概念に関わる誤字,可読性,基本事項の理解を具体的な論証の表現へ反映することも,共通の記述上の注意として扱う。
これは番号29及び対応する各項目へ関連付ける注意であり,独立の加点項目又は減点枠にはしない。
法律上の同じ誤りを対応項目と共通注意で二重評価せず,重みの件数・合計にも加算しない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認 |
統一基準R081020-EXAM-RUBRIC-UNIFIED-v1による記事独自の重みである。
両公式資料に登場する回数だけで重みを決めず,一方だけに記載があることを理由に自動的に下げない。
重みの合計は公式得点や合格可能性を示さない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
公式問題文の特労法は,一定の外国人非熟練労働者に入国・区域内就労を認め,認証期間を3年とし更新を可能とする一方,非定住を制度趣旨とする。
滞在中の妊娠等を禁止し,相当な嫌疑があれば警備官だけで収容でき,事後に審査官が違反事実を認めると強制出国命令を発付する。
A国籍のBは,認証により来日して工場で働き,同国籍のCとの子を妊娠した。
Bは望んで妊娠したのではないが現在は出産を望み,定住を希望せず就労も続けていた。
通報・調査後に収容され,妊娠認定により出国命令が発付されて帰国し,弁護士甲への委任により国家賠償請求を検討する。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | B代理人甲の憲法上の主張 | 憲法14条違反は論じなくてよい | Bの収容・出国の根拠法令の違憲性を理由付きで主張 |
| 2 | 国の反論を想定した自己の見解 | 架空法の条文と与件を正確に読む | 有力な反論へ応答し,実体と手続を分けた憲法上の結論 |
国家賠償法の全成立要件や,帰国後の取消訴訟の利益を中心に据える設問ではない。
C自身の訴訟や,問題にない婚姻・国籍の事実を補って論題を置き換えない。
第4 評価項目と重み
1 妊娠等の自由と法令違憲
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 妊娠・出産に関する決定が人格的自律の核心に関わることを説明し,憲法13条で保障される自由を特定する。 | 5 | 1頁。「自己決定権が憲法上保障されるか」 | 1頁。「憲法第13条に位置付けられる」 |
| 2 | 権利性質説を示し,妊娠・出産の自由の人としての性質から外国人Bにも保障が及ぶことを理由付ける。 | 4 | 1頁。「権利性質説」 | 2頁。「どのような性質の権利なのか」 |
| 3 | マクリーン事件判決の在留制度の枠内論と,権利行使を在留期間更新時に消極考慮できるという論理を捉えて応答する。 | 5 | 1頁。「在留期間の更新の際に消極的な事情」 | 1頁。「自分なりに論じられている答案」 |
| 4 | 在留期間更新拒否と,本件の認証期間中の禁止・強制出国との相違等を用いて,立法裁量を限定する論証を示す。 | 4 | 1頁。「立法裁量が限定されるべき」 | 1頁。「その射程を意識しながら」 |
| 5 | 妊娠等の機会には人生上の時間的制約があり,対象年齢の設定や更新可能性の下で制約が重くなることを評価する。 | 3 | 1頁。「妊娠等ができる期間には限りがあり」 | 関連範囲に記載なし |
| 6 | 妊娠等を強制出国事由とすることが妊娠・出産の自由を制約する経路を説明する。 | 4 | 1頁。「自己決定権」 | 2頁。「その自由の制約を問題とすべき」 |
| 7 | 採用する違憲審査の判断基準と,権利の性質・制約態様・外国人の地位からその基準を採る理由を示す。 | 4 | 1頁。「中間審査基準」 | 1頁。「それを採用する理由が十分でない」 |
| 8 | 妊娠等の禁止の直接目的を,定住を促す生活状況の発生を防いで非定住の制度趣旨を徹底することとして特定する。 | 5 | 1頁。「定住を促」 | 2頁。「定住を認めない趣旨を徹底すること」 |
| 9 | 採用基準に即して直接目的の重要性を検討し,期間制限・永住等の直接措置との関係を理由付ける。 | 4 | 1頁。「周辺的であり」 | 2頁。「立法目的の検討が不十分」 |
| 10 | 国の反論として,社会保障・保育・教育・医療の負担と,多数受入れによる社会的軋轢・定住化の懸念を具体的に評価する。 | 4 | 1頁。「負担となる可能性」 | 2頁。「社会的軋轢も考慮すべき」 |
| 11 | 妊娠・出産と日本への定住との関連性を,関連の有無と立法を正当化する程度を分け,Bの事情を用いて検討する。 | 4 | 1頁。「定住につながるとは限らず」 | 2頁。「立法を正当化する」 |
| 12 | 国の労働力確保の反論として妊娠等による相当期間の不就労を取り上げ,法15条6号とBの継続就労を照らして検討する。 | 3 | 1頁。「相当期間に渡って就労が不可能」 | 関連範囲に記載なし |
| 13 | 事前周知と誓約を理由に基本権の制約がないとする国の主張を検討し,その同意の範囲・限界を示す。 | 3 | 2頁。「誓約(同意)もあることから基本権への制約がなく」 | 関連範囲に記載なし |
| 14 | Bの収容・強制出国の根拠規定の法令違憲を検討の中心に据え,適用違憲や国家賠償法の全要件の検討へ主題を置き換えない。 | 5 | 1頁。「法令違憲を検討すべき」 | 1頁。「法令違憲を検討すべき」 |
2 収容の実体的必要性と手続
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 15 | 人身の自由という実体的権利の問題と,独立した事前統制等の手続的権利の問題を分けて検討する。 | 5 | 2頁。「実体的な権利の問題」 | 2頁。「実体的権利の問題」 |
| 16 | 禁止行為の相当嫌疑とは別に収容の必要性を検討し,Bの妊娠という事実から直ちに拘束の必要性を導かない。 | 4 | 2頁。「収容の必要性も要件とすべき」 | 2頁。「人身の自由」 |
| 17 | 国の反論として,迅速な強制出国に備える身柄確保のため嫌疑があれば常に収容の必要性があるという議論を取り上げ,応答する。 | 3 | 2頁。「嫌疑さえあれば常に必要性はある」 | 関連範囲に記載なし |
| 18 | 本件収容が行政手続であることを踏まえ,憲法33条の直接適用と,準用・類推又は13条・31条等による保障を区別して根拠を論じる。 | 5 | 2頁。「準用・類推適用」 | 2頁。「どのように及び得るのか」 |
| 19 | 川崎民商事件又は成田新法事件の判旨の機能と本件との相違を示し,行政収容に必要な判断枠組みを設定する。 | 4 | 2頁。「判断枠組」 | 2頁。間接。「川崎民商事件判決や成田新法事件判決」 |
| 20 | 身体への直接的拘束の重さから,裁判官又は第三者的な行政官による事前審査等の独立統制が必要かを理由付きで検討する。 | 4 | 2頁。「第三者的な立場の者」 | 2頁。間接。「裁判官によるチェックが欠ける」 |
| 21 | 迅速性を理由とする国の反論に対し,事前統制を一律に排除する必要性があるかを理由付きで検討する(緊急例外と直ちに行う事後審査の組合せは応答の一例)。 | 4 | 2頁。「事後に直ちに令状等を求める制度」 | 2頁。間接。「迅速性等」 |
| 22 | 妊娠等の禁止行為該当性が明らかであることと,手続的保障の必要性とを区別する。 | 3 | 2頁。「禁止事項該当性が明らかであることと」 | 2頁。間接。「収容の要件,手続が詳細」 |
| 23 | 告知・弁解,48時間内の報告,審査・放免,14日の原則的上限と命令発付後に出国の時まで収容を継続できる例外を把握し,事後保障が事前審査を補えるかを検討する。 | 4 | 2頁。「事前手続の必要性とは別問題」 | 2頁。間接。「これらを十分に検討」 |
| 24 | 審査官の職歴・試験・警備官業務との非兼務を評価し,執行者と別の職務であることと第三者的な独立性とを区別する。 | 4 | 2頁。「審査官はそうした立場の者ではない」 | 2頁。間接。「単に裁判官によるチェックが欠ける」 |
| 25 | 国の事後的な裁判所への出訴可能性という反論を示し,迅速送還の下でその救済が実効的かを検討する。 | 4 | 2頁。「短期間に出国させられてしまう以上実効性に欠ける」 | 関連範囲に記載なし |
| 26 | 国の反論として,国家主権・外国人の地位,非刑事目的,迅速出国による秩序・安心を取り上げ,身体拘束の重さと比較する。 | 3 | 2頁。「刑事責任追及に結び付くものではない」 | 2頁。「裁判官の関与を否定することの目的」 |
| 27 | 憲法34条から論じる場合,抑留拘禁の要件と法18・19条の手続の性質を対応させて検討する。 | 3 | 2頁。「憲法第34条の抑留拘禁要件」 | 関連範囲に記載なし |
| 28 | 現実の入管制度との比較を採用する場合,収容令書による制度を本問の架空制度と区別し,必要な範囲で比較する。 | 1 | 2頁。「比較を行うことは求められていない」 | 関連範囲に記載なし |
3 設問1・2の主張と応答
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 29 | 設問1ではB代理人の権利・理論・事実に関する主張を示し,設問2では認め得る国の反論と自己の見解を判別できる形で論じる。 | 4 | 1頁。「B代理人甲としては」 | 1頁。「一定の主張」 |
4 重みの分布
重み1は1項目,重み2は0項目,重み3は7項目,重み4は15項目,重み5は6項目で,合計29項目・重み合計112である。
重み5は番号1・3・8・14・15・18であり,それぞれ自由の内容,在留枠内論への応答,直接目的の固定,設問の出力,収容の二つの問題の区別,行政収容への保障の接続を大きく分けるため,主要論証を補う重み4と区別した。
番号27・28は不採用構成へ加算する項目ではなく,分布は公開項目一覧の分類である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施時の法理及び問題上の特労法を用いる。
設問1の代理人主張と設問2の国の反論・私見を分け,判例の実際の判示と本問への類推・独自の評価を区別する。
以下はブログ独自の参考答案であり,3651字(改行除外)である。
2 答案
第1 設問1
1 妊娠・出産の自由
甲は,特労法15条8号とこれを強制出国へ結び付ける19条3項が,Bの妊娠・出産に関する自己決定権を侵害し,憲法13条に違反すると主張する。
自己の身体や人生の根本に関する事項を自ら決定する自由は,個人の尊重を定める13条により保障される。
妊娠・出産は身体に重大な影響を及ぼし,以後の人生を左右するから,この保障に含まれる。
これらは人であることに基づく利益であって,日本国民にのみ認めるべき性質ではない。
したがって,権利性質説により,在留外国人Bにも保障される。
マクリーン事件判決は,外国人の人権保障が在留制度の枠内で与えられるにすぎず,在留中の権利行使を更新時に消極的事情として考慮することまで妨げないとする。
しかし,本件は更新拒否ではなく,認証期間中に妊娠等を禁止して強制出国させる立法である。
国家が設定した枠の合憲性を,その枠が存在することだけで肯定することはできない。
法は中絶自体を命じないが,妊娠等をすれば現在の滞在・就労を失わせることにより,その自由を制約する。
妊娠等が可能な人生上の期間は限られ,制度は20歳以上45歳未満の者を対象として更新も認めるため,単に一時的に待てば足りるともいえない。
人格的決定への負担と外国人受入れに関する裁量の双方を考慮しても,少なくとも重要な目的と,その目的と手段との実質的関連性を要求すべきである。
禁止の直接目的は,定住を促す生活状況の発生を防ぎ,非定住という制度趣旨を徹底することにある。
しかし,既に滞在期間を限定し永住等を認めない直接措置があるのに,生活状況まで先回りして禁ずることの重要性には疑問がある。
重要性を認めても,妊娠等が全て定住につながるわけではない。
Bは働き続け,帰国意思も維持している。
扶養や不就労を対象とする個別の規律も存在し,妊娠だけで一律に出国させる手段には実質的関連性が足りない。
両規定は13条に違反する。
2 収容の実体的要件
身体の自由も人としての利益であり,外国人にも13条により保障される。
収容はこれを直接奪うから,違反行為の相当な嫌疑だけでなく,逃亡防止等のため身柄を拘束する必要性を要する。
妊娠の疑いがあることは,拘束の必要性と同じではない。
18条1項を,必要性のない者まで嫌疑だけで収容できる規律とする限り,13条に反すると主張する。
3 収容の手続的保障
さらに甲は,18条1項が,執行者から独立した者による事前審査を全面的に欠くことを問題とする。
33条は刑事上の逮捕を直接対象とするが,恣意的な拘束を司法等の独立した判断で防ぐという趣旨を持つ。
行政手続にも31条の適正手続の保障は及び得るから,身体拘束の重さに応じ,33条の趣旨を踏まえた事前統制を要求すべきである。
本件は裁判官の令状だけでなく,第三者的行政官の事前審査・令書も不要とする。
妊娠した者全てに緊急の拘束を要するとはいえず,事後の告知・弁解だけでは開始時の独断を防げない。
したがって,同項は31条及び33条の趣旨に反する。
第2 設問2
1 妊娠・出産の自由
(1)国の反論
国は,外国人に入国・在留継続の憲法上の権利はなく,マクリーン事件判決の枠内論によれば,受入条件の設計には広い裁量があると主張する。
非熟練労働者を迅速に受け入れる反面,定住を防止することには,移民の大量受入れによる社会的・政治的軋轢を避け,社会保障・保育・教育・医療の負担を抑える意味がある。
子が日本で生まれ育てば親子の定住希望が強まる蓋然性があり,妊娠等は相当期間の不就労も生む。
15条6号との関係からも労働力確保に反するという。
また,禁止は事前に周知され,Bも5条5号の誓約をして入国しているから,基本権の制約はないと主張する。
BはA国で出産でき,日本で出産するための在留継続まで保障されないとも反論し得る。
(2)私見
国家の受入制度設計の裁量は認める。
しかし,そのことは人格的自由への条件を無制限に設けてよいことを意味しない。
政治活動の更新時の評価を扱う同判決と,本件の期間中の強制出国・人格の核心に及ぶ一律禁止とは異なり,上記の中間的な審査が相当である。
多数受入れによる軋轢や公的負担の回避には重要な利益がある。
他方,その広い利益と,妊娠の段階で生活状況の形成自体を禁止するという直接目的の重要性とは区別しなければならない。
後者は期間管理等の直接措置を補う周辺的な手段であり,広い公益の重要性だけで正当化できない。
目的の重要性を認めても,出生が定住を促す可能性があるというだけでは,妊娠した全員を排除するに足りる関連性はない。
Bは永住を望まず,なお働いている。
将来出産による休業があり得るとしても,妊娠中から労務を提供できないとは限らず,15条6号は「正当な理由なく」1月以上働かない場合を別に規制している。
労働中断の事情を問わず妊娠だけで出国させることは過大で,労働力の維持にも反し得る。
期間更新時の管理や扶養に着目した規律との比較でも,妊娠全般の禁止が必要な理由は乏しい。
15条7号自体の合憲性をここで確定する必要はないが,妊娠と国内扶養・定住とは別の事実である。
Bの個別事情は法適用だけを争うためではなく,一律に妊娠を指標とする規定の広さを示すものとして用いる。
誓約は入国時の選択にすぎず,人格の核心への条件を国家が自由に課し得る根拠ではない。
Bは望まぬ妊娠後に出産を希望しており,禁止を知っていたことだけでその決定の尊重を失わない。
母国で出産できても,日本での生活・就労の喪失との選択を迫られる以上,制約はある。
したがって,15条8号及びこれを義務的出国に結び付ける19条3項は13条に違反すると考える。
2 収容の必要性
国は,収容は違反の調査に加え,その後の迅速な強制出国のための身柄確保を目的とするから,相当な嫌疑があれば常に必要性も認められると反論するであろう。
しかし,出国が必要となる可能性と,その審査前から全員を拘束する必要性とは別である。
逃亡のおそれ等を個別に考慮せず,妊娠の嫌疑だけで直接拘束を許すのは過大である。
18条1項の「できる」を必要性のある場合に限ると解する余地はあるが,憲法上その要件を要求すべきことは変わらない。
必要性の要件を認めても,次の独立した事前手続の欠如は法令自体に残る。
3 収容の手続
(1)国の反論
国は,入国・滞在が主権的判断に属する外国人についての行政手続であり,刑事責任追及を目的としないため,33条は直接適用されないと主張する。
緩やかな入国条件の下で秩序と国民の安心を確保するには,違反者を迅速に出国させる必要があるという。
また,妊娠は客観的事実で,相当な嫌疑が要求される。
理由告知・速やかな弁解,48時間以内の報告,経験と試験を備え警備官業務に従事しない審査官による速やかな審査,違反事実がない又は不明な場合の放免,14日の収容上限がある。
さらに裁判所へ出訴できるから,これらの事後保障で足りると反論するであろう。
(2)私見
行政収容に刑事逮捕と全く同じ令状を当然に要求することはできない。
しかし,川崎民商事件判決は,非刑事目的だけで35条の保障を一律に排除しなかった。
そこでは帳簿検査への間接的・心理的な強制が問題であり,直接的身体拘束である本件とは強度が異なる。
同判決が33条の行政収容への適用を直接判示したわけではないが,非刑事という形式のみで保障を排除できないという考え方は参照できる。
成田新法事件判決の,制限される権利利益,制限の程度,公益及び緊急性等を総合較量する枠組みによっても,妊娠というそれ自体危険でない事実を理由とする直接拘束には,原則として独立した事前審査が必要である。
出国の迅速性は重要でも,身体拘束の回復困難性に照らし,全件についてこれを省く理由にはならない。
真に緊急の場合に先行収容を認め,直ちに独立した審査を求める仕組みも考えられる。
禁止事項該当性が明らかなことも,拘束の必要性や手続保障の必要性を否定しない。
審査官の専門性・非兼務は客観的な事実認定に資するが,それだけで同じ行政組織内の者に第三者的独立性が保障されるとはいえず,そもそも審査は事後である。
48時間は報告期限であって司法審査期限ではなく,19条の審査も違反事実の存否に集中している。
告知・弁解や裁判所への出訴には意義があるが,短期間で出国させられる以上,事後の裁判だけでは開始時の拘束を防げず,十分な救済の実効性も確保し難い。
また,命令発付後は19条4項により14日の上限が適用されず,出国の時まで収容を継続できる。
事後保障の存在だけで事前統制を不要とはできない。
よって,少なくとも第三者的な者による事前統制を例外なく排除する18条1項は,31条及び33条の趣旨に反すると考える。
以上は根拠規定の憲法上の評価であり,国家賠償のその余の要件の成否は別である。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案の第1の1・第2の1が番号1〜14,第1の2・第2の2が番号15〜17,第1の3・第2の3が番号18〜26に対応する。
番号29は両設問の主張と応答の書き分けに対応し,番号27・28は採用しなかった構成である。
主な評価項目のうち,枠内論には第2の1,直接目的には第1の1と第2の1,実体・手続の区別には第2の2・3が対応する。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 5 | 妊娠・出産に関する決定が人格的自律の核心に関わることを説明し,憲法13条で保障される自由を特定する。 | 第1の1。身体と人生の根本的決定を13条へ位置付ける。許容別構成は第2の適用条件による。 |
| 2 | 4 | 権利性質説を示し,妊娠・出産の自由の人としての性質から外国人Bにも保障が及ぶことを理由付ける。 | 第1の1。人としての利益の性質を理由に外国人へ保障を及ぼす。 |
| 3 | 5 | マクリーン事件判決の在留制度の枠内論と,権利行使を在留期間更新時に消極考慮できるという論理を捉えて応答する。 | 第1の1,第2の1。更新時の消極考慮まで明示する。 |
| 4 | 4 | 在留期間更新拒否と,本件の認証期間中の禁止・強制出国との相違等を用いて,立法裁量を限定する論証を示す。 | 第1の1,第2の1。更新拒否と期間中強制出国・立法との差を示す。 |
| 5 | 3 | 妊娠等の機会には人生上の時間的制約があり,対象年齢の設定や更新可能性の下で制約が重くなることを評価する。 | 第1の1。対象年齢と更新可能性を,妊娠等の機会の有限性へ接続する。 |
| 6 | 4 | 妊娠等を強制出国事由とすることが妊娠・出産の自由を制約する経路を説明する。 | 第1の1,第2の1。妊娠を出国事由とする制約を説明する。職業選択・移動の自由からの許容別構成を排除しない。 |
| 7 | 4 | 採用する違憲審査の判断基準と,権利の性質・制約態様・外国人の地位からその基準を採る理由を示す。 | 第1の1。目的の重要性・手段の実質的関連性を採り,理由を述べる。特定の基準名を全答案に要求しない。 |
| 8 | 5 | 妊娠等の禁止の直接目的を,定住を促す生活状況の発生を防いで非定住の制度趣旨を徹底することとして特定する。 | 第1の1,第2の1。非定住の徹底という直接目的を特定する。 |
| 9 | 4 | 採用基準に即して直接目的の重要性を検討し,期間制限・永住等の直接措置との関係を理由付ける。 | 第2の1。広い公益と直接目的の重要性を区別する。 |
| 10 | 4 | 国の反論として,社会保障・保育・教育・医療の負担と,多数受入れによる社会的軋轢・定住化の懸念を具体的に評価する。 | 第2の1。軋轢・公的負担・定住化の国の反論を扱う。 |
| 11 | 4 | 妊娠・出産と日本への定住との関連性を,関連の有無と立法を正当化する程度を分け,Bの事情を用いて検討する。 | 第2の1。定住の可能性だけで一律禁止を正当化できるかを検討する。 |
| 14 | 5 | Bの収容・強制出国の根拠規定の法令違憲を検討の中心に据え,適用違憲や国家賠償法の全要件の検討へ主題を置き換えない。 | 両設問の各結論。Bの事情を法令の広さの評価へ使い,適用違憲へ置き換えない。 |
| 15 | 5 | 人身の自由という実体的権利の問題と,独立した事前統制等の手続的権利の問題を分けて検討する。 | 第1の2・3,第2の2・3。実体の必要性と手続を別項で論じる。 |
| 16 | 4 | 禁止行為の相当嫌疑とは別に収容の必要性を検討し,Bの妊娠という事実から直ちに拘束の必要性を導かない。 | 第2の2。相当嫌疑と拘束の必要性を区別する。 |
| 18 | 5 | 本件収容が行政手続であることを踏まえ,憲法33条の直接適用と,準用・類推又は13条・31条等による保障を区別して根拠を論じる。 | 第1の3,第2の3。33条の直接適用と31条による趣旨の具体化を区別する。必要要素を考慮した目的手段審査の構成も排除しない。 |
| 19 | 4 | 川崎民商事件又は成田新法事件の判旨の機能と本件との相違を示し,行政収容に必要な判断枠組みを設定する。 | 第2の3。川崎民商の強制態様と成田新法の手続較量を区別する。両判決の累積引用を要求しない。 |
| 20 | 4 | 身体への直接的拘束の重さから,裁判官又は第三者的な行政官による事前審査等の独立統制が必要かを理由付きで検討する。 | 第2の3。司法官に限らない第三者的な事前統制を問題とする。 |
| 21 | 4 | 迅速性を理由とする国の反論に対し,事前統制を一律に排除する必要性があるかを理由付きで検討する(緊急例外と直ちに行う事後審査の組合せは応答の一例)。 | 第2の3。迅速性に対して一律の事前統制排除を正当化できるか応答する。緊急時の先行収容と迅速な独立審査はその一例。 |
| 23 | 4 | 告知・弁解,48時間内の報告,審査・放免,14日の原則的上限と命令発付後に出国の時まで収容を継続できる例外を把握し,事後保障が事前審査を補えるかを検討する。 | 第2の3。48時間の報告期限,14日の原則的上限,命令発付後に継続できる例外を区別する。自動継続とはしない。 |
| 24 | 4 | 審査官の職歴・試験・警備官業務との非兼務を評価し,執行者と別の職務であることと第三者的な独立性とを区別する。 | 第2の3。経験・非兼務だけでは第三者的独立性を保障しないと論じる。 |
| 25 | 4 | 国の事後的な裁判所への出訴可能性という反論を示し,迅速送還の下でその救済が実効的かを検討する。 | 第2の3。出訴可能性を認めつつ迅速送還下での実効性を検討する。 |
| 27 | 3 | 憲法34条から論じる場合,抑留拘禁の要件と法18・19条の手続の性質を対応させて検討する。 | 不採用。31条・33条趣旨を用いたため,34条独立構成の充足を累積要求しない。 |
| 28 | 1 | 現実の入管制度との比較を採用する場合,収容令書による制度を本問の架空制度と区別し,必要な範囲で比較する。 | 不採用。本件架空法と現実の制度を混同せず,現実制度との比較は答案へ入れない。 |
| 29 | 4 | 設問1ではB代理人の権利・理論・事実に関する主張を示し,設問2では認め得る国の反論と自己の見解を判別できる形で論じる。 | 設問1に一定の理論・事実の主張を置き,設問2の国と私見を見出しで区別する。 |
そのほかの番号12・13・17・22・26についても,国の反論と私見の対応を本文中で示した。
低い重みであることは省略してよいことを当然には意味しない。
(2) 設問1
出題趣旨は,自己決定権の保障内容と外国人への保障,在留制度の枠内論を踏まえた裁量の限界を求める。
採点実感も,権利性質説の標語だけでなく妊娠等の自由の性質を説明し,設問1にも理論と事実の一定の主張を置くことを求めている。
答案は,人としての人格的決定と,認証期間中の一律禁止・出国の負担を結び付けた(番号1〜7・29)。
収容については,実体的必要性と,令状等を欠く手続の問題を分けることが重要である。
答案は第1の2と3を分け,嫌疑と拘束必要性,さらに必要性の判断者・時点を区別した(番号15・16・18・20)。
国家賠償の全要件の説明や,処分の個別的違法だけへの置換は避けた(番号14)。
(3) 設問2
出題趣旨は,国の広い裁量論,社会的負担・定住の蓋然性,労働力確保,周知・誓約等を想定する。
採点実感は,法1条の一般目的だけを挙げず,非定住の徹底という直接目的と社会的軋轢を検討し,妊娠等と定住の関連が立法を正当化する程度かを論じるよう求める。
答案は,目的の抽象度を区別し,一律禁止の広さへ応答した(番号8〜13)。
Bの望まぬ妊娠と現在の出産希望を分け,母国で出産できる反論を検討する点は,公式資料に記載のない補足であり,本記事の理解である。
収容では,迅速出国に備えて常に必要性があるとする国の推論に対し,出国の必要性と審査前の拘束必要性を分ける(番号16・17)。
手続については,公式が挙げる行政手続への保障接続,詳細な事後保障,審査官の第三者性,事後裁判の実効性を扱う(番号18〜26)。
川崎民商事件の税務検査と直接的身体拘束,成田新法事件の工作物使用制限と本問の権利制限を無媒介に同一視しない。
19条4項は,強制出国命令書の発付後に,14日の原則的上限を超えて出国の時まで収容を継続できるとする規定であり,自動的又は義務的な継続を定めたものではない(番号23)。
この例外を具体的に評価した点は条文に基づく本記事の補足であって,公式資料がその点を独立に指定したという意味ではない。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
審査基準・結論は一つの構成例であり,公式の出題趣旨が挙げた中間審査等の例を唯一の正解にはしていない。
身体自由の根拠条文や34条からの構成,実在入管制度との比較にも別の論じ方がある(番号27・28)。
必要性の要件を18条1項の「できる」に読み込む余地を留保したため,実体の必要性と手続の全面欠如の法令違憲は別の結論として読む必要がある。
14条やC独自の請求,国家賠償の過失・損害額等は本答案の検討対象にしていない。
採点実感2頁は,職業選択又は移動の自由から出発した答案でも,妊娠が強制出国事由である点に焦点を当て,自己決定権侵害と実質的に類似する内容を検討した答案を評価している。
本答案は自己決定権から論じたが,この許容別構成を排除しない(番号1・6・7)。
また,同頁は,行政手続の31条・33条適合性を目的手段審査で論じた答案も,必要な要素が考慮されていれば評価している。
その場合は特労法1条の一般目的だけでなく,迅速性等,裁判官の関与を否定することの目的を検討する必要がある(番号18・19・21・26)。
本答案の総合較量という手法又は具体的な緊急例外案の文言を,全ての答案へ要求するものではない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
2 同じ科目の別の年度の記事
3 本問の論点に関連する記事
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
平成29年司法試験公法系問題PDF(法務省):第1問の本文・参考資料2〜5頁。
同年の出題趣旨PDF(法務省):公法系第1問1〜2頁の全体・末尾注記まで。
同年の採点実感PDF(法務省):公法系第1問1〜3頁の総論,妊娠等,収容,その他及び末尾まで。
採点実感の公式配布ページ。
試験実施日程(法務省):公法系第1問は平成29年5月17日。
2 法令
日本国憲法(衆議院掲載)の13・31・33条等を確認した。
特労法は実在法ではなく,問題PDF4〜5頁の参考資料を正本とする。
現実の入管法の収容手続を本問へ直接適用したものではない。
3 裁判例
マクリーン事件・最高裁大法廷昭和53年10月4日判決:全9頁。
外国人の権利保障と在留制度の枠内論は6〜7頁。
川崎民商事件・最高裁大法廷昭和47年11月22日判決・昭和44年(あ)第734号:全5頁。
行政検査の目的・強制態様と35条について2〜3頁。
成田新法事件・最高裁大法廷平成4年7月1日判決・昭和61年(行ツ)第11号:全15頁。
31条・35条に関する法廷意見は6〜8頁。
個別意見とは分けた。
4 確認状態
上記の問題文・公式資料の当該問題の範囲及び判決原文を実読し,条文と判旨の機能を照合した。
資料が述べる内容と,本問への類推,重み付け,参考答案の評価は区別する。
自己決定権への包摂,行政収容への33条の趣旨の接続,本件の違憲判断は記事独自の論証であり,判例が本問の架空制度を直接判断したものではない。
合冊PDFの他問・他科目の本文は,本記事の法的根拠として用いていない。
本記事は特定の実事件についての国家賠償責任や,現在の入管実務の結論を示すものではない。