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配置転換で作業内容を変更するときの安全衛生教育―労働安全衛生法59条,特別教育及び就業制限

第1 この記事の対象

1 配置転換と安全衛生教育

配置転換,異動,応援,兼務又は工程変更によって労働者の作業内容が変わるときは,業務の引継ぎや一般的な研修だけでなく,労働安全衛生法上の安全衛生教育,特別教育及び就業制限の要否を確認する必要がある。人事異動の辞令が出ていることと,対象業務を安全に単独で行えることは別の問題である。

本記事では,一般の雇入れ時等教育,特別教育,就業制限業務の資格及び会社内部の作業認定を区別し,配置転換の準備に組み込む方法を説明する。

2 基準日

本記事は,令和8年10月28日現在の労働安全衛生法,労働安全衛生規則及び厚生労働省の公開資料に基づく。対象業務の範囲,特別教育の科目・時間及び就業制限の資格は改正されることがあるため,実際の配置前に最新の法令を確認する。

第2 作業内容変更時の安全衛生教育

1 労働安全衛生法59条1項・2項

労働安全衛生法59条1項は,事業者が労働者を雇い入れたときに,従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行うことを求める。同条2項は,この規定を労働者の作業内容を変更したときに準用している。

厚生労働省は,業種,職種,雇用形態などにかかわらず,事業者は,労働者を新たに雇い入れたとき又はその作業内容を変更したときは,遅滞なく安全衛生教育を実施しなければならないと説明している。配置転換という人事上の名称だけではなく,実際に従事する作業の内容が変わるかを確認する。

2 「遅滞なく」と配置前の準備

労働安全衛生規則35条は,作業内容を変更したときは遅滞なく教育を行うと定めている。この文言から,全ての教育を一律に異動発令日より前に完了しなければならないという単純な形式要件が導かれるわけではない。

しかし,教育を受けていない状態で新しい機械,原材料,保護具,作業手順又は緊急時対応を扱わせると,教育の目的である労働災害の防止を果たしにくい。実務上は,少なくとも新しい危険・有害因子に暴露する前及び単独作業を始める前に,必要な教育と理解・技能の確認を終えるよう計画することが相当である。これは,特別教育や就業制限のように法令上の厳密な前提条件がある制度とは分けて整理する。

第3 教育すべき8項目

労働安全衛生規則35条1項は,当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項として,次の8分類を掲げている。

①機械等及び原材料等の危険性又は有害性と,その取扱方法。

②安全装置,有害物抑制装置又は保護具の性能と,その取扱方法。

③作業手順。

④作業開始時の点検。

⑤業務に関して発生するおそれのある疾病の原因と予防。

⑥整理,整頓及び清潔の保持。

⑦事故時等の応急措置及び退避。

⑧その他の業務に関する安全又は衛生のため必要な事項。

作業内容変更時の教育は,一律の資料を読ませるだけではなく,当該労働者が実際に従事する作業,取り扱う機械・原材料,使用する保護具,立ち入る区域及び交代勤務の手順などに合わせる。

1 十分な知識及び技能がある場合の省略

労働安全衛生規則35条2項により,上の事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については,当該事項の教育を省略できる。

ただし,同種の仕事の経験があることだけで一律に省略せず,機械の型式,安全装置,原材料,作業手順,校内・構内ルール,緊急時の退避経路等の違いを確認する。省略した場合は,どの項目についてどの経験,資格又は技能確認を根拠としたかを記録しておく方法が有用である。

第4 一般の安全衛生教育,特別教育と就業制限

1 一般の安全衛生教育

労働安全衛生法59条1項・2項と労働安全衛生規則35条による教育は,労働者を雇い入れたとき又は作業内容を変更したときの基本的な安全衛生教育である。対象業務が後記の特別教育業務や就業制限業務に該当しないときも,作業内容が変わればこの教育の要否を検討する。

2 特別教育

労働安全衛生法59条3項は,危険又は有害な業務で厚生労働省令で定めるものに労働者を就かせるときは,当該業務に関する特別の教育を行わなければならないと定める。対象業務は労働安全衛生規則36条に定められ,科目,範囲及び時間は業務ごとの安全衛生特別教育規程等で確認する。

特別教育は,対象業務に就かせるための法定教育である。実施せずに対象業務を行わせてから後日受講させるのではなく,就業前に必要な科目を完了させる。外部機関の受講証明がある場合も,対象業務,科目,実技及び省略の根拠を確認する。

3 就業制限業務

労働安全衛生法61条1項は,クレーンの運転その他の政令で定める業務について,必要な免許,技能講習の修了その他の資格を有する者でなければ当該業務に就かせてはならないと定める。社内の指導又は一般研修だけで,法令上必要な資格に代えることはできない。

配属先の作業名称だけでなく,機械の種類,能力,荷重,取扱い作業の範囲及び労働者が実際に行う操作を特定し,必要な免許又は技能講習と一致するかを確認する。

4 社内の作業認定との区別

会社が法令上の教育・資格とは別に,単独作業を認める社内認定,指導員同伴期間,理解度テスト又は実技確認を定めることがある。社内認定は,法定の特別教育や就業制限資格を代替するものではないが,事業場固有の機械,レイアウト,作業手順及び緊急時対応に適応したかを確認する意義がある。

第5 配置転換を行うときの実務手順

1 作業と危険・有害因子を特定する

まず,異動後の作業を工程単位で特定する。通常作業だけでなく,清掃,調整,刃・金型等の交換,始業点検,不具合時の復帰,原材料の補充,製品の運搬,廃棄物の処理及び緊急時対応を含める。その上で,機械的危険,電気,高温,化学物質,粉じん,騒音,重量物,高所,運搬車両及び交差作業などの危険・有害因子を把握する。

2 必要な教育と資格を照合する

次に,①労働安全衛生規則35条の教育事項,②労働安全衛生規則36条の特別教育対象業務,③労働安全衛生法61条の就業制限業務と必要資格,④業務ごとの特別規則・告示による教育及び⑤社内認定の条件を照合する。資格証等は,名称,対象業務,有効性及び原本又は確実な写しを確認する。

3 教育計画を作る

教育計画には,対象作業,危険・有害因子,教育科目,実技の内容,講師・指導者,日時,場所,使用教材,教育後の理解・技能の確認方法,指導員の同伴期間及び単独作業の判定者を定める。全員に同じ内容を教えるだけではなく,経験,資格,既存の知識・技能及び新旧作業の違いに応じて内容を調整する。

4 実施と記録を分けない

教育記録は,教育した事実を後で証明するためだけでなく,未実施の項目,追加指導の必要,単独作業の条件及び次回確認日を共有する役割を持つ。実施日,受講者,指導者,科目,時間,教材,実技内容,理解・技能確認の結果,省略項目とその根拠及び未完了の作業を記録する。

一般の作業内容変更時教育について,労働安全衛生規則35条は統一の記録様式や一律の保存年限を同条自体で定めていない。しかし,会社としては,実施とフォローアップのために記録を残すことが有用である。特別教育については,労働安全衛生規則38条により,受講者,科目等の記録を作成し,3年間保存する必要がある。

第6 教育記録の文例

表題:作業内容変更時安全衛生教育記録

「受講者:○○○○ 所属:○○部○○課 変更後の作業:○○工程の○○作業 教育日時:令和○年○月○日○時から○時 指導者:○○○○ 教育項目:機械・原材料の危険有害性,安全装置・保護具,作業手順,始業点検,疾病の予防,整理整頓,応急措置・退避,その他必要な事項 実技確認:○○の操作を指導者立会いで実施 省略項目と根拠:○○資格証と従事経験を確認し,○○項目を省略 判定:指導者同伴で作業可/単独作業可/追加教育後に再判定 次回確認日:令和○年○月○日」

この文例は一般の記録例である。特別教育は,対象業務ごとの必要科目,時間,実技,省略条件及び3年間の記録保存に対応した様式とする。

第7 配置転換の計画との連動

人事部門は,異動先と発令日を決める際に,作業の棚卸し,資格照合,特別教育の日程,一般教育,指導者及び単独作業判定までを配置転換のスケジュールに組み込む。配属先の現場管理者は,「経験者である」という抽象的な引継ぎで受け入れず,何を実施済みとし,何を単独で行わせてよいかを書面で共有する。

配転先の決定時と実際の発令時で担当作業が変わった場合は,最終的な作業内容に基づき教育と資格を確認し直す。当初候補とした部署の教育計画を,別の配属先にそのまま流用しない。

第8 実務チェックリスト

①異動後に実際に行う通常作業,付随作業,点検,清掃,調整,運搬及び緊急時対応を特定したか。

②新しい危険・有害因子と作業環境の違いを把握したか。

③労働安全衛生規則35条の8項目のうち,必要な項目を教育計画に入れたか。

④省略する項目は,本人の具体的な知識・技能と根拠で確認したか。

⑤特別教育対象業務と就業制限業務の双方を照合したか。

⑥外部の修了証等の名称,対象業務,科目,実技及び有効性を確認したか。

⑦教育と実技確認を,新しい危険に暴露する前及び単独作業を始める前に実施できる計画にしたか。

⑧受講者,科目,日時,指導者,教材,実技,判定,省略の根拠及び追加指導を記録したか。

⑨特別教育の記録を3年間保存できる管理方法にしたか。

⑩人事部門,配属先管理者,安全衛生担当者,指導者及び本人の間で,未完了事項と単独作業の条件を共有したか。

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第10 出典・参考資料

1 法令

労働安全衛生法

労働安全衛生規則

2 厚生労働省の公開資料

労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など

労働安全衛生規則(厚生労働省法令等データベース)