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廃業を決めた会社は取引先に支払ってよいか―銀行返済の猶予と偏頗弁済の注意点(AI作成)

第1 銀行への返済猶予と,取引先への支払は分けて考える

廃業を決めた会社でも,取引先への支払をすべて直ちに止めるとは限らない。
廃業型の私的整理では,金融債務を整理しながら,通常の商取引債務を支払って円滑な廃業を目指す場合がある。
ただし,「銀行に相談したので,取引先には自由に払ってよい」という結論にはならない。

確認するのは,整理の対象となる債権者,金融機関の同意,会社の資金繰り,解散や特別清算の段階,破産へ移行する可能性である。
手続の全体像は,借金のある会社は破産せずに廃業できるかを参照されたい。

第2 廃業型私的整理では,通常の取引債権を対象から外す場合がある

中小企業の事業再生等に関するガイドラインは,金融機関等を主な対象債権者とする枠組みである。
同Q&AのQ4は,通常の商取引債権者を対象に含めることは一般に適切でないとしつつ,多額の債権を持ち密接な関係があるなど,参加が必要となる場合も説明している。
取引先であればすべて対象外,という扱いではない。

また,金融債務の整理における対象債権者の範囲と,経営者の保証債務を整理する際の対象債権者の範囲も,区別する必要がある。
例えば廃業時のリース債権者については,ガイドラインに明示的な説明がある。
債権の名称だけで判断せず,契約と整理の対象を確認する。

取引先への支払を続ける計画には,資産の換価方針,金融債務以外の債務の弁済計画,金融債務の弁済計画を反映させる。
対象債権者にとっての経済合理性や,債権者間の衡平性も必要である。
単に「付き合いが長い」「今後も経営者個人と取引する」といった事情だけで優先的に支払う方針を決めるべきではない。

第3 一時停止の要請と,実際の返済猶予は同じではない

1 主要債権者等の関与と,要請への対応条件を確認する

令和8年3月改定の中小企業の事業再生等に関するガイドライン第三部5(1)は,廃業型私的整理の一時停止要請について定めている。
原則として主要債権者全員の同意を得た場合に要請でき,第三者支援専門家が既に選任されている場合には,主要債権者の意向を踏まえた同専門家の判断で足りるとされている。
要請先への同時性や,情報開示等に誠実に対応していることなどの条件も定められている。

このように,一時停止は会社が一方的に宣言するだけの仕組みではない。
返済猶予の対象,期間,担保権の実行や保証人への請求の扱いなどを,実際の要請書と回答で確認する。
ガイドライン上の誠実な対応と,個別債権の支払義務が法律上当然に停止することは分けて考える。

2 口座の利用や相殺も,個別に調整する

借入先の銀行に預金口座がある場合,返済猶予の協議中にその口座を従来どおり利用できるとは限らない。
預金と借入金の相殺の可否,入金先,必要な廃業費用の支出方法について,契約・法令・協議状況を確認する。
資金を動かすこと自体が債権者に不利益を与える場合もあるため,協議をせずに預金を移せば解決するという方法を一般的に勧めることはできない。

第4 解散後と特別清算開始後には,別の弁済ルールがある

1 解散後の債権申出期間中は,会社法500条を確認する

清算株式会社は,会社法499条に基づく債権申出期間中,原則として債務を弁済できない。
同法500条2項は,少額債権,担保権で担保された債権その他弁済しても他の債権者を害するおそれがない債権について,裁判所の許可を得た弁済を認めている。

したがって,「通常の仕入先への支払だから」という理由だけで,解散後も従前どおり支払えるとはいえない。
金融機関の同意と裁判所の許可は異なる。
また,同条1項は,不履行によって生じた責任を免れない旨も定めている。

2 特別清算開始後は,会社法537条を確認する

特別清算開始の命令後,協定債権者に対しては,原則として債権額の割合に応じて弁済する。
同条2項により,裁判所の許可を得て割合を超える弁済ができる場合がある。

債権申出期間中の500条と,特別清算開始後の537条は,適用場面と規律が異なる。
会社の現在の手続段階を確認せず,両条を一つの「少額だから払ってよい」というルールとして扱うべきではない。
和解や資産処分についても,同法535条等の許可・同意の要否を別に確認する。

第5 私的整理が不成立となり破産した場合のリスク

破産法162条は,既存債務についての担保供与や債務消滅行為について,所定の要件を満たす場合の否認を定めている。
支払不能後などにされた行為であるか,受け取った債権者が必要な事実を知っていたか,義務に属しない方法・時期の行為であるかなどが問題になる。
すべての支払が当然に否認されるわけではないが,私的整理を目指していたという事情だけで,否認の可能性がなくなるわけでもない。

廃業方針が変わった,資産の売却価格が想定を下回った,同意を得られる見通しが崩れたといった場合には,支払方針を見直する。
会社と経営者・親族との間の返済や資産移転についても,金額,必要性,相手方との関係を記録し,個別に検討することが必要である。

また,否認が成立するかどうかと,経営者や申立代理人が損害賠償責任を負うかどうかは別の問題である。
賃金等の支払に関する個別の裁判例を,取引先への弁済一般の安全基準として使うことはできない。

第6 リース料・従業員への支払で混同しやすい点

1 リースは,使用中の支払と返却後の残債務を分ける

廃業の準備期間に設備を使用するための支払と,物件返却後に請求される残リース料等は,必要性も検討の前提も異なる。
さらに,会社が負う債務と,経営者が保証人として負う債務も別に確認する。
保証債務の整理の対象になり得ることから,会社の残リース料を必ず全額支払うべきだという結論は導けない。

詳細は,廃業時のリースの経営者保証の整理を参照されたい。
割賦販売その他の契約も,リースと同じ名称・扱いになると決め付けず,契約内容を確認する。

2 労働債権には,独自の優先関係や実務上の問題がある

従業員への未払賃金・退職金と,一般の取引先への買掛金を一括して処理するのは適切ではない。
債権の性質,発生時期,支払額,法的整理へ移行する可能性を検討する。
法人破産申立前の労働債権弁済と申立代理人の責任も参照されたい。

第7 支払前に整理したい資料

支払先,支払額,債権の内容,支払期日,保証・担保の有無,支払をしない場合の影響を一覧にする。
あわせて,会社が解散した日,債権申出期間,特別清算の申立て・開始の有無,金融機関への要請内容と回答を確認する。
資金繰り表には,売掛金の回収が遅れた場合や,換価額が下がった場合の見通しも反映する。

「その支払が円滑な廃業に必要か」「他の債権者への回収にどう影響するか」「計画が不成立になっても説明できるか」を,支払をする前に検討することが大切である。
廃業の相談は,資金が尽きてからではなく,支払と処分の選択肢が残っている段階で行うことが望まれる。

第8 主な参照資料

会社法499条,500条,535条,537条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086

破産法162条。
https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(令和8年3月一部改定)第三部5。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/sme-gl/sme-guideline_202603.pdf

同Q&A(令和8年3月16日一部改定)Q4,Q85など。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/sme-gl/sme-guideline_qa_202603.pdf

「廃業時における『経営者保証に関するガイドライン』の基本的考え方」。
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_bc.pdf

全国倒産処理弁護士ネットワーク編『私的整理(廃業型手続)・特別清算の実務Q&A115問』(金融財政事情研究会,2026年3月30日初版)。
支払方針や破産への切替えに関する記述は,法令・ガイドラインの要件に加え,同書を踏まえた実務上の整理を含む。