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社長死亡後の役員借入金は誰に返すのか―相続・貸付けの証拠・回収と税務(AI作成)

社長が会社へ貸していたお金は,社長の死亡によって当然になくなるわけではない。
会社の決算書で「役員借入金」とされているものは,会社側から見た借金であり,社長側から見ると会社に対する貸付債権となる。
死亡後は,会社の返済義務,債権を承継した人,実際に回収できる金額及び相続税の評価を分けて確認する。
相続人が後継社長になる場合も,会社と個人を同一視して帳簿から消すことはできない。

第1 役員借入金と役員貸付金を取り違えない

1 誰がお金を出したのかを確認する

会社が社長から借りたお金は,通常,会社の貸借対照表の負債に計上される役員借入金である。
これに対し,会社が社長へ貸したお金は,会社の資産である役員貸付金となる。
同じ「社長と会社の貸し借り」でも,相続人が会社へ請求する側なのか,会社から請求される側なのかが逆になる。
まず資金の流れを確認する。

取引会社の立場死亡後に確認する事項
社長が会社へ貸した会社が債務者となる貸付債権の承継先,返済期日,会社の返済能力
会社が社長へ貸した会社が債権者となる相続債務の承継,回収先,死亡退職金との精算

2 勘定科目だけで貸付けと決めない

社長が会社の支払を立て替えたのか,会社へ送金したのか,未払報酬を振り替えたのかによって,発生原因が異なる。
貸付けと認識していたのか,返還を求めない出資等だったのかも,帳簿の名称だけでは決まらない。
決算書,総勘定元帳,勘定科目内訳明細書,契約書,通帳及び返済記録を年月順に照合する。
会社が計上した残高と,個人側の認識が違う場合には,差額が生じた時期と根拠を確認する。

第2 相続後の返済先を特定する

1 会社の債務と株式の相続は別である

民法896条は,相続人が被相続人の財産に属した権利義務を承継することを定める。
会社に対する貸付債権も,一身専属の権利でない限り,相続の対象となる。
会社の株式を取得した人と,会社に対する貸付債権を承継した人が一致するとは限らない。
後継社長になったことだけで,会社に対する貸付債権全部を取得したことにもならない。
戸籍,遺言,遺産分割協議書,債権譲渡等の有無を確認し,誰がどの範囲で請求できるかを整理する。
共同相続された金銭債権の取扱いと,遺産分割の対象となる財産の取扱いを混同してはならない。

2 会社は請求者と権限を確認して支払う

相続人の一人から「全額を自分の口座へ振り込んでほしい」と言われても,その人が全額の受領権限を持つかを確認する必要がある。
相続関係,債権の帰属,受領代理権,支払済額を資料で確認し,受領証等を残す。
相続人間で帰属が争われているときは,会社が一方の説明だけに従って支払うことで,後に別の相続人から請求される問題が生じ得る。
誰に支払えば債務を消滅させられるかを確認してから実行する。
返済期日を定めていない貸付けでは,死亡したから直ちに全額の支払期限が到来すると決め付けず,契約内容と返還請求の手続を確認する。

第3 貸付債権の存在を示す証拠を集める

1 古い貸付けは複数の資料をつなぐ

創業時から長年繰り越した役員借入金では,最初の契約書や送金記録が見つからないことがある。
その場合も,毎期の内訳書,残高確認書,返済実績,会社が債務を認めた文書,過去の相続税申告及び遺産分割協議書等を確認する。
帳簿に書かれていることだけで全ての貸付けが確定するわけでも,契約書がないことだけで債権が存在しないと決まるわけでもない。
いつ,誰から,いくら入り,会社がどのように処理してきたかを説明できるようにする。

2 東京地裁平成30年3月27日判決

東京地裁平成30年3月27日判決(平成28年(行ウ)第189号,税務訴訟資料第268号-31(順号13136),判例秘書の判例番号 L07331303)は,会社の元代表者に由来する貸金債権をめぐる相続税更正処分等取消請求事件である。
先の相続で配偶者が取得したとされた会社への貸金債権について,その配偶者の死亡後の相続で,債権の存在と評価が争われた。
裁判所は,会社の申告関係資料,借入金残高の回答,遺産分割協議及び返済に関する経過等を検討した。
「生きている間に返してほしい」といった発言を,死亡を条件に債務を免除する意思表示と当然に同一視することも認めなかった。
この判決は個別の証拠に基づく判断である。
帳簿があれば必ず貸付けが認められるという趣旨ではない。
公表資料には控訴の記載があり,ここでは第一審の判断として紹介する。
原文:国税庁公開・税務訴訟資料第268号-31(順号13136),PDF1~2頁及び17~20頁。
公表原文では事件番号が伏せられており,上記の事件番号は判例秘書による。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2018/pdf/13136.pdf

第4 債権の存在と相続税評価を分ける

1 会社が赤字でも当然にゼロとはならない

返済を受けにくい会社への貸付けであっても,「債権が存在するか」と「相続税上いくらと評価するか」は別の問題である。
赤字,債務超過又は一括返済が困難という事情だけで,直ちに債権の不存在や評価額ゼロとなるわけではない。
前記判決では,会社が営業を継続し,売上げや金融機関への返済等があることも踏まえ,回収不能等を理由とする評価について判断している。
全ての役員貸付債権を額面どおりとする判決ではなく,当該相続時の具体的な会社の状態が問題となった事例である。

2 相続開始時の回収可能性を資料化する

税務上の評価を検討するときは,相続開始時の資産・負債,営業状況,資金繰り,担保,債権順位,返済実績及び清算・倒産手続の状況等を整理する。
後に経営が悪化した事実だけを,そのまま相続開始時の評価へ置き換えない。
法律上の債権調査と税務評価は相互に関係する。
会社と相続人の説明,過去の申告,残高確認及び今回の評価が矛盾しないかを,弁護士と税理士が対応する資料に基づいて検討する。

第5 相続放棄・債務免除・返済猶予を混同しない

1 相続放棄だけで会社の借金が消えるわけではない

相続放棄は,その人が当該相続について初めから相続人でなかったものとされる制度である(民法939条)。
会社に対する貸付債権を消す手続とは異なる。
先順位の相続人が放棄した場合は,後順位者の有無等を確認する。
相続人のあることが明らかでない場合には,相続財産法人や相続財産清算人の制度が問題となる(民法951条・952条)。
会社側が相続放棄の事実だけを理由に債務を取り崩す処理は避ける。

2 免除と返済条件の変更は文書で区別する

債権を有する人が会社の再建のため返済を猶予することと,債務を免除することは異なる。
残高を確認した上で,元本,利息,返済時期,分割方法及び免除の有無を分けて合意する。
免除を行うときは,処分する権限と対象範囲を確認し,会社側・相続人側の税務も個別に検討する。
「家族の会社だから」という理由だけで,後から意思表示や日付を作り直してはならない。

第6 相談前にそろえたい資料

①直近の決算書,法人税申告書及び借入金の内訳書
②貸付けが発生してからの総勘定元帳,通帳,契約書及び返済記録
③残高確認書,会社とのメール,返済交渉及び免除に関する文書
④戸籍,遺言,遺産分割協議書,相続放棄関係の資料及び過去の相続税申告
⑤会社の資産・負債,資金繰り,担保及び他の債権者への返済の資料

相続人側は請求の根拠と範囲を,会社側は支払先と継続可能な返済計画を確認する。
双方が別々の立場にある紛争では,利害の対立を踏まえて相談先を検討する。

第7 関連記事と法令

代表者の死亡と,会社に対する債権の承継は別の問題である。
後継者選任や代表権は,代表取締役の死亡後に誰が会社を代表するのかを参照されたい。
反対方向の貸付けと死亡退職金の精算は,死亡退職金と役員貸付金は相殺できるかで説明する。
相続放棄後の受給権は,相続放棄をしても受け取れる権利を参照されたい。
民法896条,939条,951条,952条等:
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089