第1 通信型ドラレコで区別する5つの段階
保険会社が提供する通信機能付きドライブレコーダーには,事故時の映像送信やオペレーターへの連絡等を支援するものがある。
もっとも,通信機能があることから,走行中の全映像が常に保険会社へ送信・保存されるとは限らない。
事故後の確認では,①端末での録画,②保険会社等への送信,③オペレーター等への通報,④受信データの解析,⑤契約者等へのデータ提供を分けて考える必要がある。
録画されていても送信されない場合があり,映像が送信されても通報が自動で行われない場合もある。
本稿は,2026年10月24日に確認した公式資料に基づき,主に保険会社側のデータの保存・取得を扱う。
事故直後の安全確保や警察への連絡等は,事故直後の初動チェックリストを参照されたい。
第2 保険会社・端末によって異なる送信と通報
東京海上日動のDAP公式案内では,映像の自動送信に衝撃等の条件が設けられている。
また,端末から指定映像を選んで送信する機能は,貸与される機種によって対応が異なる。
会社名や商品名だけで判断せず,実際の端末と適用条件を確認する必要がある。
東京海上日動の公式案内
あいおいニッセイ同和損保のドラレコ型の公式案内には,大きな衝撃に満たない衝撃をAIが事故と判定した場合,映像は自動送信される一方,通報は自動では行われないとの説明がある。
映像の送信と事故の通報は,同じ動作ではない。
あいおいニッセイ同和損保の公式案内
三井住友海上も,衝撃の程度や通信状況等によって,事故でも自動通報されない場合があると説明している。
さらに,SDカードの容量上限に達すると,衝撃映像も上書きされることがあるため,通信型であっても機器内の保存状況の確認は必要である。
三井住友海上の公式案内
これらは各公式資料が対象とするサービスの説明であり,すべての会社・端末・契約に共通する仕様ではない。
過去の契約では,契約始期,特約,端末型番及び適用される規約の版も確認することになる。
第3 事故後に保険会社へ確認する事項
事故後は,端末側の記録と,保険会社・関係サービス提供者が受信した記録を別々に確認することが有用である。
保険会社に映像がないという回答だけでは,端末にも録画がなかったのか,送信されなかったのか,受信後の保存や提供に関する問題なのかを区別できない。
照会時には,事故日時・場所,車両,契約番号及び端末型番を特定した上で,次の事項を確認することが考えられる。
①映像・音声の有無と,対象となるカメラ及び時間帯。
②自動送信・手動送信の有無と,受信日時。
③事故通知,位置情報その他の付随データの有無。
④AI解析資料や事故再現資料の有無。
⑤現在の保存状況,消去・上書き予定及び保存依頼への対応。
⑥提供可能な資料の範囲,形式及び提供方法。
すべての会社が,これらの資料をすべて取得・保存しているという意味ではない。
不存在という回答を受けた場合も,未取得,未受信,消去済み,検索できない,又は提供対象外のいずれなのかを確認すると,次の対応を検討しやすくなる。
保存を依頼する場合は,対象資料と時間帯を明示し,保存の可否,対象範囲及び保存可能期間について回答を求める。
依頼した事実と,保存に応じたとの回答,実際に取得できた資料は,それぞれ分けて記録する必要がある。
機器内の元データの保全,再生環境及び提出資料の作成については,ドラレコ映像の民事訴訟利用を参照されたい。
第4 映像・データの提供を求める手続
まず,契約やサービスの窓口を通じて,映像や解析結果の任意提供を求める方法がある。
契約者,運転者,被保険者又は事故の相手方のいずれであるかによって,確認すべき立場や手続が異なる。
個人情報保護法による本人開示は,自分を識別できる保有個人データについて検討する。
個人を識別できる映像であっても,直ちに個人情報データベース等に該当するとは限らず,管理・検索の方法等も問題となる。
保有個人データへの該当性や不開示事由を個別に確認する必要があり,事故当事者というだけで,相手方車両の全走行記録が当然に開示されるとはいえない。
個人情報保護法16条・33条・37条,個人情報保護委員会Q&A・Q1-41/A1-41
裁判手続では,民事訴訟法231条の2が,電磁的記録に記録された情報について,記録の提出又は利用する権限を有する者への提出命令の申立てによる証拠調べを定めている。
同法231条の3には,文書提出義務等に関する規定の準用がある。
対象記録を特定するとともに,誰がその記録を利用する権限を持つのかを確認する必要がある。
民事訴訟法
同法234条の証拠保全は,あらかじめ証拠調べをしなければ後に証拠を使用することが困難となる事情があると裁判所が認めるときに,申立てにより行う手続である。
保険会社への任意の保存依頼とは異なり,申立てに当たっては,対象,必要性及び適用される経過措置も確認することになる。
民事訴訟法,令和4年法律第48号の附則
第5 AI解析・情報利用・端末返却の注意点
保険会社のAI解析資料を受け取った場合は,元の映像,機器が記録した数値,映像等から推定した数値,事故再現図及び責任割合の評価を区別して検討することが有用である。
東京海上日動は責任割合の参考値の算出を案内し,あいおいニッセイ同和損保も,AI解析によって責任割合が必ず有利になることを保証していない。
東京海上日動の公式案内,あいおいニッセイ同和損保の公式案内
解析結果だけでは判断が難しい場合は,提供可能な元資料,解析対象の時間帯,推定条件及び加工・変換の有無も確認する。
AIによる解析や保険会社の評価が,裁判所の事実認定・法的判断を確定するものではない。
端末の返却時には,必要な資料の保存と,保険会社側の情報の取扱いを別々に確認する必要がある。
損保ジャパンのDriving!利用規約11条2項は,同社が取得したサービス利用情報を端末返却後も利用できる旨を定めている。
端末を返却すれば受信済み情報もすべて消去される,とは扱えない一方,この規定だけで具体的な保存日数や実際の無期限保存が確認できるものでもない。
Driving!利用規約
車両のEDR・エアバッグ記録は,保険会社側の受信映像等とは別の取得対象として検討する。
取得準備や修理資料との対応については,EDR・エアバッグ記録の確認を参照されたい。
第6 加入・更新時に確認しておきたいこと
加入・更新時には,撮影範囲や画質に加え,自動送信・手動送信の条件,機器内の保存方法,利用者へのデータ提供,情報の利用目的及び返却条件を確認しておくと,事故後の対応を検討しやすい。
費用は,特約部分だけでなく,保険料全体と,取付け・取外し,追加機器,故障・紛失及び返却に関する条件を合わせて確認することになる。
これらの費用が,すべての商品で発生するという意味ではない。
運転特性による割引がある商品でも,誰にとっても割安になるとは限らない。
あいおいニッセイ同和損保は,運転特性によって同社の他の自動車保険より割高となる場合があると説明している。
同社公式案内
映像の取得可能性や保存期間は,一般的なサービス紹介だけで確定せず,対象契約・端末と,事故後の実際の保存状況に即して確認する必要がある。
第7 出典
いずれも2026年10月24日確認。
会社の案内・規約は各資料が対象とする商品・契約についての説明であり,他社・他機種へ一律に適用するものではない。
東京海上日動・DAPの案内:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/auto/total-assist/shohin/dap.html
三井住友海上・見守るクルマの保険の案内:https://www.ms-ins.com/personal/car/gk/mimamoru-dr.html
損保ジャパン・Driving!利用規約:https://help.dr.sompo-japan.co.jp/terms.html
あいおいニッセイ同和損保・ドラレコ型の案内:https://www.aioinissaydowa.co.jp/corporate/service/telematics/plus.html
個人情報保護法:https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
個人情報保護委員会Q&A・Q1-41/A1-41:https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/
民事訴訟法:https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
令和4年法律第48号・成立法の附則:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/20820220525048.htm