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破産手続開始の通知が届かず債権届出をしなかったとき―官報公告,破産法112条,申立代理人の責任と過失相殺(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 通知が届かなくても破産手続は進む

取引先が破産しても,債権者一覧表に載っていない債権者には,裁判所からの破産手続開始の通知が届かない。
通知が届かないまま債権届出期間や配当の除斥期間が過ぎると,その債権者は配当を受けられない。
本記事は,この場面で債権者が確認すべきことと,破産を申し立てる代理人弁護士が負う義務を,破産法の条文と宇都宮地方裁判所令和3年5月13日判決(令和2年(ワ)第264号,判例秘書の判例番号 L07650942)に基づいて整理する。
基準日は令和8年10月17日である。
同判決は裁判所ウェブサイトの裁判例検索には掲載されておらず,本文は判例秘書で確認した。

2 結論

破産手続開始の決定は官報で公告され,公告によって一切の関係人に告知があったものとみなされる(破産法10条4項)。
そのため,個別の通知が届かなかったことだけで,届出をしなかった不利益を当然に免れるわけではない。
他方,申立代理人が債権者の変動を知りながら裁判所に報告しなかった場合には,申立代理人が損害賠償責任を負うことがある。
宇都宮地裁判決は,申立代理人の責任を認めつつ,債権者側にも官報等を確認しなかった落ち度があるとして5割の過失相殺をし,破産管財人の責任は否定した。

第2 破産法の仕組み

1 官報公告と知れている破産債権者への通知

裁判所は,破産手続開始の決定をしたときは,直ちに,決定の主文,破産管財人の氏名,債権届出期間等を公告しなければならない(破産法32条1項)。
破産法の公告は官報に掲載してし,掲載があった日の翌日に効力を生ずる(同法10条1項・2項)。
同じ事項は,破産管財人,破産者及び「知れている破産債権者」に通知される(同法32条3項1号)。
裁判の公告がされたときは,一切の関係人に対して当該裁判の告知があったものとみなされる(同法10条4項)。

2 債権者一覧表の提出義務

債権者以外の者が破産手続開始の申立てをするときは,最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者一覧表を裁判所に提出しなければならない(破産法20条2項)。
宇都宮地裁判決は,この提出義務を,知れている破産債権者への通知を適正かつ迅速に行うための規定と解している(第3の2)。
個人の破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権は,破産手続開始の決定があったことを知っていた者の請求権を除き,免責許可決定の効力が及ばない(同法253条1項6号。債権者一覧表が債権者名簿とみなされる場合につき同法248条5項)。

3 債権届出期間と一般調査期間経過後の届出

破産手続に参加しようとする破産債権者は,債権届出期間内に,債権の額及び原因等を裁判所に届け出なければならない(破産法111条1項)。
破産債権者がその責めに帰することができない事由によって一般調査期間の経過又は一般調査期日の終了までに届出をすることができなかった場合には,その事由が消滅した後1か月以内に限り,届出をすることができる(同法112条1項)。
この1か月の期間は伸長も短縮もできない(同条2項)。
官報公告による告知の擬制があるため,「通知が来なかった」というだけで同条の「責めに帰することができない事由」に当たると考えるのは危険である。

4 配当の除斥期間

最後配当では,配当の公告が効力を生じた日等から起算して2週間が除斥期間となる(破産法198条1項・2項)。
簡易配当では,同法205条の読替えにより,配当見込額の通知が通常到達すべきであった時を経過した旨の破産管財人の届出(同法204条4項)から1週間となる。
宇都宮地裁判決は,除斥期間を経過すると破産債権の届出をしても配当の対象とすることができなくなると解されると述べている。
届出の可否と,既に始まった配当に参加できるかは,手続の段階ごとに確認する必要がある。

第3 宇都宮地裁令和3年5月13日判決

1 事案

株式会社の破産申立てに当たり,申立代理人の弁護士が提出した債権者一覧表には,銀行の貸付債権が記載され,備考欄に「今後,信用保証協会に対し代位弁済請求予定」と書かれていた。
信用保証協会は,申立後で開始決定前の令和元年5月24日に銀行へ代位弁済をし,同月27日,申立代理人に電話でその事実を伝え,残高証明書を送付した。
申立代理人は,その電話で,破産裁判所に代位弁済の事実を報告する旨を述べたが,報告しなかった。
破産手続開始の決定は令和元年7月19日にされ,官報公告と,債権者一覧表に記載された債権者への通知が行われた。
信用保証協会には通知が届かず,同協会は破産債権の届出をしないまま,令和2年2月26日に簡易配当が実施された。
同協会が開始決定を知ったのは令和2年3月5日であり,届出をしていれば受けられた配当金相当額434万3721円の損害賠償を,申立代理人と破産管財人に請求した。

2 申立代理人の報告義務

同判決は,債権者一覧表の提出義務は,開始決定後に裁判所が行う知れている破産債権者への通知を適正かつ迅速に行うための規定であると解した。
その上で,債務者は少なくとも開始決定がされるまでの間は提出義務を免れず,代位弁済による債権者の変動等で提出済みの債権者一覧表に誤りが生じたことを知った場合には,訂正した債権者一覧表を提出する等の方法により,正確な債権者の氏名及び債権の内容等を裁判所に報告する義務を負うとした。
申立代理人は,代位弁済の事実を知りながら報告しなかったため,この義務に違反したと判断された。
さらに,電話で「報告する」と述べて債権者に信頼を生じさせたことから,その発言に沿った報告をすべき信義則上の義務にも違反したと評価された。
申立代理人は,残高証明書を破産管財人へファクシミリで送ったと主張したが,裏付けがなく,申立書副本の書類送付書にも記載がなかったため,その主張は認められなかった。

3 破産管財人の注意義務は否定された

同判決は,公告と開始決定通知は破産管財人の職務とはされておらず,破産管財人に届出のない破産債権の調査を義務付ける規定もないと指摘した。
また,破産事件の利害関係人の手続保障は原則として公告によって図られていること,届出をして権利行使をするかは債権者の意思に委ねられていることも理由に挙げた。
その結果,債権者一覧表に記載のない新たな債権者の存在がうかがわれるだけでは,破産管財人が調査して裁判所に報告すべき注意義務を負うとは認められないとした。
ただし,債務者から新たな債権者の存在を裁判所へ連絡するよう依頼された等の事情で,破産管財人が新たな債権者の存在を明確に認識している場合は別論であると述べている。

4 債権者側の過失による5割の過失相殺

同判決は,信用保証協会が債権回収を業とし,同年度に144回の破産債権届出をしていたこと,申立ての事実を申立代理人から聞いていたこと,開始決定が官報で公告されていたこと,インターネット上の倒産情報にも事業停止と開始決定が掲載されていたことを指摘した。
さらに,開始決定から約7か月半にわたって開始決定の有無を確認しなかったことも挙げ,債権者にも相当な落ち度があるとした。
申立代理人の過失の程度がかなり重いことを考慮しても,5割の過失相殺が相当とされ,認容額は217万1860円となった。

5 判決の位置付け

同判決は地方裁判所の判決であり,控訴審の有無と確定状況は確認できていない。
代位弁済をした信用保証協会という,破産債権届出に精通した債権者の事案であり,過失相殺の割合は債権者の属性と確認の状況に左右される。
一般の取引先や個人の債権者に同じ割合が当然に当てはまるわけではない。

第4 債権者が確認すべきこと

1 取引先の破産を早く知る

取引先から弁護士名の受任通知が届いた場合,又は支払停止・事業停止を知った場合は,破産手続開始の申立てが予定されていると考えて,申立代理人に申立ての予定と申立先の裁判所を確認する。
裁判所からの通知だけを待たず,官報の破産公告と申立代理人への照会を併用する。
官報の閲覧方法と閲覧期間は,官報とは何か――電子化,法令公布・公告,閲覧方法及び沿革(AIリライト)で説明している。

2 代位弁済・債権譲渡で債権者が替わったとき

保証人・保証会社による代位弁済,債権譲渡又は相続で債権者が替わった場合,申立時の債権者一覧表には新しい債権者が載っていないことがある。
新しい債権者は,申立代理人へ書面で事実を伝え,裁判所への報告を求めるとともに,事件番号と債権届出期間を自ら確認する。
「報告する」という口頭の回答だけで安心せず,開始決定の有無を定期的に確かめる。
旧債権者が届出をするのか,新債権者が届出をするのか,届出名義の変更が必要かも,配当の前に整理しておく。

3 通知が来ないまま期間が過ぎたとき

まず,事件番号,債権届出期間,一般調査期間又は一般調査期日,配当の段階を裁判所又は破産管財人に確認する。
一般調査期間の経過後であれば,破産法112条1項の「責めに帰することができない事由」と,その事由が消滅した時期を説明できるかを検討し,消滅から1か月以内に届出をする。
配当の除斥期間が過ぎた後は,届出によって配当を受けることは難しい。
その場合は,申立代理人が債権者の変動を知っていたか,報告を約束したか等を資料で確認し,申立代理人に対する損害賠償請求の可否と,過失相殺の見込みを検討する。

4 税理士が確認すること

顧問先が債権者である場合,税理士は,取引先の受任通知・官報公告・裁判所の通知の有無を確認し,債権届出の期限を弁護士と共有する。
法人の金銭債権について,その債務者の資産状況,支払能力等からみて全額が回収できないことが明らかになった場合には,その明らかになった事業年度に貸倒れとして損金経理をすることができ,担保物があるときは処分した後でなければならない(法人税基本通達9-6-2)。
同通達の注は,保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできないとしている。
法人税基本通達9-6-1が貸倒れの事実として列挙するのは更生計画認可・再生計画認可の決定等であり,破産手続開始の決定は列挙されていない。
配当がないことが確定した時期,回収不能の判断資料及び申立代理人への請求の有無を記録し,貸倒れの時期を判断する。
損害賠償請求権の貸倒れと破産の関係は,損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権―破産,財産調査及び回収記録の実務(AI作成)で扱っている。

第5 申立代理人が注意すべきこと

1 開始決定までは債権者の変動を追う

債権者一覧表に「代位弁済請求予定」と書いても,代位弁済が実際にされた後に裁判所へ報告しなければ,新しい債権者には通知が届かない。
宇都宮地裁判決は,少なくとも開始決定までの間は,債権者一覧表の誤りを知ったときに訂正等の方法で報告する義務があるとした。
保証付きの借入れ,リース・割賦の保証会社,代位弁済の予定がある債権は,申立後も開始決定まで状況を確認する。

2 債権者への回答と記録

債権者に「裁判所へ報告する」と回答した場合,その回答は信義則上の義務の根拠となり得る。
回答した日,相手方,受領した資料及び報告の方法を記録し,実際に裁判所へ提出した書面の控えを残す。
破産管財人へ資料を送るときも,送付書に資料名を記載し,送信記録を保存する。
同判決では,送付書に記載がないことを理由に,破産管財人へ送ったとの供述が信用されなかった。

3 時期ごとの確認表

次の表は,宇都宮地裁判決の事案を踏まえて,申立代理人と債権者がそれぞれ確認する事項を時期ごとに並べたものである。

時期申立代理人が確認すること債権者が確認すること
申立前保証・代位弁済予定の債権を一覧表に明記し,保証会社の連絡先を控える受任通知の受領,申立予定と申立先の確認
申立後・開始決定前代位弁済・債権譲渡を知ったら訂正した債権者一覧表等で裁判所に報告する債権者の変動を申立代理人へ書面で伝え,報告を求める
開始決定後報告の控えと送付記録を残し,破産管財人に共有する官報公告,事件番号,債権届出期間を確認し,届出をする
配当前後届出のない債権者からの照会に,手続の段階を案内する期間経過後は破産法112条の要件と除斥期間を確認する

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第7 出典

①破産法(e-Gov法令検索)10条,20条,31条,32条,111条,112条,198条,204条,205条,248条及び253条(令和8年10月17日確認)
②宇都宮地方裁判所令和3年5月13日判決(令和2年(ワ)第264号,損害賠償請求事件,判例秘書の判例番号 L07650942)
③国税庁「法人税基本通達 第9章第6節第1款 貸倒損失」9-6-1及び9-6-2(令和8年10月17日確認)

宇都宮地裁判決は,令和8年10月17日に判例秘書で全文を確認した。
裁判所ウェブサイトの裁判例検索では,事件番号・裁判年月日・全文検索のいずれでも掲載を確認できなかった。
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