第1 対象の決まり方と基準日
1 事業と職種の二段階で決まる
こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律・令和6年法律第69号)の対象は,①どの事業が対象となるかと,②その事業で誰の業務が対象となるかの二段階で決まる。
事業は,法律上の義務を負う学校設置者等(法2条3項)と,認定を受けた場合に同等の措置を行う民間教育保育等事業者(同条5項)に分かれる。
職種は,法律が列挙する教員等(同条4項)又は教育保育等従事者(同条6項)に当たるかを,実際の業務に即して判断する。
施行ガイドラインは,職種名だけでなく,児童等と接する業務が支配性・継続性・閉鎖性の三つの要件を満たすかによって対象を判断するとしている。
同じ「事務職員」や「運転手」でも,業務の実態によって対象になる場合とならない場合がある。
2 本記事の基準日と資料
本記事は,令和8年10月17日に確認した法律・施行令の条文(令和8年12月25日施行時点),こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年9月改訂)及びこども性暴力防止法に関するQ&A(令和8年9月29日改訂)に基づく。
職種の一覧は,ガイドラインが例示するものを整理したものであり,各施設が独自の名称で任用している職員は,名称ではなく業務の内容で当てはめる必要がある。
制度全体の義務と施行前の準備は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備で説明している。
第2 義務対象となる施設・事業
1 学校・認定こども園・児童福祉施設等
次の施設を設置する者や事業を行う者は,学校設置者等として,犯罪事実確認を含む措置を法律上義務付けられる(法2条3項,施行ガイドライン38頁の図表4)。
①学校:幼稚園,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,高等専門学校及び専修学校(高等課程)
②認定こども園:幼保連携型,幼稚園型,保育所型及び地方裁量型
③児童福祉施設等:児童相談所(一時保護施設を含む。),指定障害児入所施設等,乳児院,母子生活支援施設,保育所,児童館,児童養護施設,障害児入所施設,児童心理治療施設及び児童自立支援施設
④児童福祉事業:指定障害児通所支援事業(児童発達支援,放課後等デイサービス等),乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)及び家庭的保育事業等(家庭的保育事業,小規模保育事業,居宅訪問型保育事業,事業所内保育事業)
⑤登録一時保護委託者
2 大学と専修学校の専門課程は義務対象ではない
大学は法2条3項1号イで,専修学校の専門課程は同号ロで,学校設置者等から除かれている。
Q&Aは,大学や専修学校(専門課程)は義務対象事業ではないが,大学が附属学校を設置している場合は,その設置者である国立大学法人や学校法人等が附属学校について対象事業者になるとしている(Q&A基礎編10-5)。
大学が自ら児童等を対象とする教育・保育の事業を行う場合は,要件を満たせば認定を受けることができる(同)。
第3 認定対象となる民間教育保育等事業
1 認定を受けると義務対象と同等の措置を行う
次の事業を行う者は,民間教育保育等事業者として,認定を受けることができる(法2条5項,施行ガイドライン51頁の図表7)。
認定は任意であるが,認定を受けた場合は,学校設置者等と同等の措置と犯罪事実確認を行う(Q&A基礎編4-8,法26条)。
①専修学校(一般課程)・各種学校で児童等を専ら対象とする学校教育に類する教育を行う事業
②高等学校の課程に類する教育を行う事業で内閣府令が定めるもの(海技教育機構の海技士教育科海技課程(本科)等)
③民間教育事業(学習塾,スポーツクラブ,ダンススクール,フリースクール等。次の2の要件を満たすもの)
④指定を受けていない障害児通所支援事業,児童自立生活援助事業,放課後児童健全育成事業等,子育て短期支援事業,一時預かり事業,小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム),病児保育事業,意見表明等支援事業,妊産婦等生活援助事業,児童育成支援拠点事業及び認可外保育事業
⑤障害児に対する居宅介護,同行援護,行動援護,短期入所又は重度障害者等包括支援を行う指定障害福祉サービス事業
2 学習塾・スポーツクラブ等は民間教育事業の5要件で判断する
法律上の定義がない学習塾やスポーツクラブ等は,次の要件を全て満たす場合に民間教育事業に当たる(法2条5項3号,施行令1条,施行ガイドライン53頁~55頁)。
①児童等に対して技芸又は知識の教授を行う事業であること
②標準的な修業期間が6か月以上であること
③児童等に対して対面による指導を行うこと
④事業者が用意する場所(事業所等)で指導を行うこと
⑤技芸又は知識の教授を行う者が3人以上であること
②は,6か月以上の期間にわたって事業を行い,その間に複数回教授を行い,同じ児童等が複数回参加できることをいう。
7月と12月にそれぞれ独立した2時間のプログラムを1回ずつ行うだけの場合は,対象とならない例として挙げられている(施行ガイドライン54頁)。
⑤の人数には,派遣労働者やボランティアを含め,実際に教授に従事している者を数える(同55頁)。
講師・指導員という職名でなくても教授を行う者は数えられ,同じ事業を複数の事業所で行う場合は事業全体で3人以上であればよく,3人が常駐している必要もない(Q&A応用編3-3~3-5)。
3 オンライン指導と家庭教師の扱い
オンラインのみで授業を行う事業は,対面の要件を満たさないので対象にならない(施行ガイドライン55頁,Q&A応用編3-8)。
もっとも,オンラインを基本としつつ,児童等の自宅以外の場所で対面の授業等を行う場合がある事業は,要件を満たす(同)。
「事業者が用意する場所」には,事業者のオフィス,従事者の自宅,カフェ,公民館等の個室,公園等が含まれるが,児童等の自宅や保護者が指定した場所は含まれない(施行ガイドライン55頁)。
家庭教師事業は,児童等の自宅以外の場所(教室やシェアオフィス等)でも教える場合があれば,対象となる(同)。
4 対象とならない例
ファミリー・サポート・センター事業は,会員間の連絡調整・マッチングを行う事業であるため,対象とならない(施行ガイドライン51頁,Q&A応用編3-17)。
里親も,教育・保育等の役務を提供する事業者に当たらないため,対象とならない(施行ガイドライン51頁,Q&A応用編3-18)。
一人だけで事業を行う認可外のベビーシッターは対象事業に当たらないとされている(施行ガイドライン56頁)。
第4 対象となる職種の判断基準
1 支配性・継続性・閉鎖性の三要件
施行ガイドラインは,三要件を次のように解釈している(41頁~42頁の図表5)。
①支配性:業務上,児童等と接する中で,指導やコミュニケーション等を通じて優越的立場に立つ機会が想定される場合をいう。日々顔を合わせて会話等を不定期に行うだけでも,業務の中で継続的に接する機会があれば,原則として支配性があると判断する。
②継続性:日常的・定期的に,又は不定期でも反復継続が見込まれる形で児童等と接する場合をいう。年1回のイベント講師や緊急時に突発的に接する場合のように,接触が一時的なものは継続性がないと判断し得る。
③閉鎖性:他の職員や保護者等が同席しないなど,第三者の目に触れない状況で児童等と接する機会が生じ得る場合をいい,SNS・コミュニケーションアプリ・学習ツール等を通じたオンラインの接触も含む。災害や急な事故で突発的・一時的に生じるものは閉鎖性がないと判断し得る。
2 職種全体が対象になるものと一部が対象になり得るもの
ガイドラインは,施設ごとに主な職種を「職種全体が対象になるもの」と「職種の一部が対象になり得るもの」に分けて例示している(42頁~45頁)。
| 施設 | 職種全体が対象 | 一部が対象になり得る |
|---|---|---|
| 学校(共通) | スクールカウンセラー,部活動指導員,学校司書,学習指導員,外国語指導助手(ALT),特別支援教育支援員等 | 事務職員,スクールバス運転手,学校医,学校用務員,スクールソーシャルワーカー,スクールガード等 |
| 小学校 | 校長,副校長,教頭,教諭,養護教諭,栄養教諭,講師等 | 学校給食栄養管理者(学校栄養職員) |
| 保育所 | 保育所の長,保育士,保育補助者 | 嘱託医,調理員,看護師,保健師,准看護師,送迎バス等の運転手,その他職員 |
| 児童養護施設 | 施設の長,児童指導員,保育士,個別対応職員,栄養士,看護師,心理療法担当職員,職業指導員 | 嘱託医,家庭支援専門相談員,調理員,事務職員,送迎バス等の運転手,その他職員 |
| 放課後等デイサービス | 事業所の管理者,児童指導員,保育士,児童発達支援管理責任者,機能訓練担当職員,看護職員,指導員等 | 嘱託医,送迎バス等の運転手,その他職員 |
「一部が対象になり得る」職種は,各事業者が実態に応じて三要件で判断・特定し,三要件を満たす従事者を確実に対象とするよう求められている(施行ガイドライン46頁)。
第5 判断が分かれる職種の具体例
施行ガイドラインは,主な職種について,対象となる例と対象とならない例を示している(46頁~47頁の図表6,62頁~64頁の図表9)。
| 職種 | 対象となる例 | 対象とならない例 |
|---|---|---|
| 事務職員 | 保護者と保育士等の面談中に別室で児童等の面倒を見るなど,例外的に児童等と接することも業務として想定される者 | 電話対応や書類整理などに限られ,児童等との接触がほとんど想定されない者 |
| 送迎運転手 | 他の職員が同乗しないバスで,会話等を通じて児童等と接する者(最後に降ろす児童等とは一対一になる) | 他の職員の同乗が前提で,第三者がいない状況で接することがほとんどない者 |
| 調理員 | 食育指導や給食の準備・片付け等の際に,他の職員がいない環境で児童等と接する者 | 調理業務のみで児童等と接しない者 |
| 医師・嘱託医 | 施設内で年に複数回,他の職員が同席しない状況で個別診察や健康相談を行う者 | 年1回の定期健康診断のみで,常に他の職員が同席する者 |
| 看護師等 | 日常的に健康管理を行い,体調不良時は別室で一対一で対応する者 | 緊急時の応急対応のみで,短時間かつ他の職員が同席する者 |
| 清掃員・警備員 | 教育・保育の時間に,他の職員がいない状況で児童等と日常的に接する者 | 児童等がいない時間帯の清掃や,人の往来の多い場所での警備のみの者 |
第6 ボランティア・実習生・派遣労働者
1 ボランティアと短期の従事者
ボランティアであっても,三要件を満たせば対象となる(施行ガイドライン68頁~69頁の図表10)。
例えば,居場所づくりの事業で学習支援のスタッフとして児童等に一対一で指導等を行う場合や,大学のサークルが月2回障害児施設で交流会を開き一対一で支援する場合は,対象となる例とされている。
これに対し,PTAが年1回開くバザーに保護者がボランティアとして参加する場合,1日だけ講演に来るゲストスピーカー,模擬試験の運営管理だけを行うアルバイトスタッフは,対象とならない例とされている(同)。
2 教育実習・保育実習の実習生
大学等が作成する実習計画で原則として児童等と一対一にさせないことが位置付けられ,指導教員等の監督の下で接することが担保されている場合は,犯罪事実確認は求められない(施行ガイドライン71頁,Q&A基礎編3-13)。
他方,実習上一対一になることが予定されている場合や,実習期間が相当長期にわたる場合など,三要件を満たす実習生は対象となる(同)。
要否を最終的に判断し,交付申請を行うのは,実習先の対象事業者である(Q&A基礎編3-14)。
3 派遣労働者・請負の従事者
対象業務の従事者が派遣労働者や請負事業主に雇用される労働者である場合は,派遣元・請負事業主ではなく,派遣先や発注者である対象事業者が犯罪事実確認を含む安全確保措置を行う義務を負う(施行ガイドライン206頁)。
雇用形態や契約の名称ではなく,誰の事業として児童等と接するかで確認の主体が決まる点に注意が必要である。
第7 よくある質問
1 パート・アルバイトも対象になるか
雇用形態にかかわらず,法律が列挙する職種に当たるか,三要件を満たす業務に就く場合は対象となる。
民間教育事業の人数要件でも,雇用の有無・形態を問わず実際に教授に従事している者を数えるとされている(施行ガイドライン55頁)。
2 オンラインだけの学習塾は認定を受けられるか
オンラインのみで行う事業は,民間教育事業の対面要件を満たさないため,認定の対象外である(Q&A応用編3-8)。
児童等の自宅以外の場所で対面の授業を行う場合があれば,要件を満たす。
3 職種の判断に迷うときはどうするか
職名ではなく,児童等と接する場面,頻度,第三者の目が届かない場面の有無及びオンラインの接触を業務ごとに確認し,三要件に当てはめる。
判断の根拠を対象者リストに残す方法は,こども性暴力防止法とは―日本版DBSの対象・義務・令和8年12月25日の施行準備の第3で説明している。
対象者について行う犯罪事実確認の手続は,こども性暴力防止法の犯罪事実確認とは―対象となる性犯罪・20年と10年の期間・確認の流れと事前通知で説明している。
第8 出典
1 法令
①e-Gov法令検索「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(令和6年法律第69号。令和8年12月25日施行時点)2条3項~6項,26条。
②e-Gov法令検索「同法施行令」(令和7年政令第440号)1条。
2 こども家庭庁の資料
①こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」(令和8年9月改訂)38頁,41頁~47頁,51頁,53頁~56頁,62頁~64頁,68頁~69頁,71頁,206頁。
②こども家庭庁「こども性暴力防止法に関するQ&A」(令和8年9月29日改訂)基礎編3-13・3-14(28頁),4-8(31頁),10-5(69頁),応用編3-3~3-5(71頁~72頁),3-8(73頁),3-17・3-18(75頁)。
3 個別の判断で確認が必要な事項
ここに挙げた職種の分類は,ガイドラインの例示であり,同じ名称の職種でも業務の実態によって結論が異なり得る。
個々の従事者が対象となるかは,事業の内容,業務の範囲,児童等と接する場面及び最新の公式資料に即して判断する必要がある。