第1 養育費を払わない男女の割合は分かるか
母子世帯と父子世帯の養育費の受給状況は,公的調査から確認できる。
しかし,受け取っている世帯の割合の裏返しを,そのまま男性又は女性が養育費を払わない割合とすることはできない。
受取側を調べた世帯統計と,支払義務を負う人の履行状況は,分母が異なるからである。
本記事では,令和3年度全国ひとり親世帯等調査と,英国の2026年6月までのCMS統計を例に,受給率,未受給及び不払いの区別を整理する。
数値の大小だけで男女の責任や制度の優劣を決めず,調査対象と指標の定義から読む必要がある。
第2 日本の母子世帯・父子世帯の受給状況
1 現在も受けている世帯の割合
令和3年度全国ひとり親世帯等調査は,令和3年11月1日現在の状況を調査したものである。
養育費の受給状況の次の数値は,母子世帯・父子世帯のうち離婚・未婚の該当世帯についての集計であり,死別等を含む全ひとり親世帯を一律に分母とした数値ではない。
| 受給状況 | 母子世帯 | 父子世帯 |
|---|---|---|
| 現在も受けている | 28.1% | 8.7% |
| 受けたことがあるが,現在は受けていない | 14.2% | 4.8% |
| 受けたことがない | 56.9% | 85.9% |
| 不詳 | 0.8% | 0.6% |
出典は,こども家庭庁掲載の調査報告(https://www.cfa.go.jp/sites/default/files/node/basic_page/field_ref_resources/f1dc19f2-79dc-49bf-a774-21607026a21d/9ff012a5/20230725_councils_shingikai_hinkon_hitorioya_6TseCaln_05.pdf)の表17-(3)-1及び表17-(3)-3(報告書60頁,結合PDF68頁)である。
同じ表には離婚・未婚別の数値もあるため,離婚した世帯だけの割合として28.1%・8.7%を引用してはならない。
2 71.9%・91.3%を不払い率にできない理由
100%から現在の受給割合を引くと,母子世帯では71.9%,父子世帯では91.3%となる。
しかし,この計算には,過去に受けた世帯,受けたことがない世帯及び不詳がまとめて含まれる。
支払義務のある金額,支払期日,取決めの存否及びその時点の未払残額をそろえた履行率ではない。
したがって,父親の71.9%が不払い,母親の91.3%が不払いという書き換えはできない。
現在受給している世帯についても,約束された全額が毎月支払われているかどうかは,この区分だけでは分からない。
3 男女差を説明するときの限界
母子世帯と父子世帯では,所得,子の年齢,養育費の取決めの状況等の構成が異なり得る。
受給割合の違いだけで,性別そのものが不払いの原因であるとは判断できない。
受取側の世帯の割合と,支払側の人数の割合は同じ統計ではない。
男女の支払行動を比べるには,支払義務がある人を共通の条件で把握し,対象期間と支払額を確認する資料が必要になる。
第3 取決めがある世帯に限ると数字が変わる
同じ調査でも,養育費の取決めをしている世帯に限ると,現在も受けている割合は母子世帯57.7%,父子世帯25.9%である。
出典は同報告の表17-(3)-7及び表17-(3)-8(報告書62・63頁,結合PDF70・71頁)である。
| 現在も受けている割合の分母 | 母子世帯 | 父子世帯 |
|---|---|---|
| 調査の養育費受給状況の集計対象 | 28.1% | 8.7% |
| そのうち養育費の取決めをしている世帯 | 57.7% | 25.9% |
この違いは,数字に分母を付けて示す必要があることを表している。
ただし,取決めをしたことだけによって受給割合がどれだけ上がったかという因果効果を,この比較からそのまま計算することはできない。
取決めをする世帯としない世帯の事情が異なり得るためである。
取決めの文書や強制執行への備えは,養育費の取り決め方を参照されたい。
この調査は令和8年4月施行の法定養育費等より前の時点のものであり,改正後の制度の効果を表す数字としても使えない。
第4 英国の77%とは何の割合か
1 Collect and Payで一部でも支払った人の割合
英国政府のCMS統計(2026年6月まで)(https://www.gov.uk/government/statistics/child-maintenance-service-statistics-data-to-june-2026/child-maintenance-service-statistics-data-to-june-2026)は,同年6月までの四半期について,Collect and Payを利用して支払義務がある親の77%が,何らかの養育費を支払ったと説明している。
全額を支払った人が77%という意味ではない。
同統計では,支払義務がある親の53%が当期の支払義務額の90%超を,24%が90%以下の何らかの額を支払い,23%は支払がなかったとされる。
公表値は丸められた割合であり,77%を分母にして53%・24%をもう一度掛ける読み方はしない。
2 対象地域とサービスの範囲
この統計の対象地域はGreat Britainであり,イングランド,ウェールズ及びスコットランドを含み,北アイルランドを含まない。
父母間の私的な取決め全体を対象とした統計ではなく,CMSの利用者についての統計である。
Collect and PayはCMSが徴収・送金する方法である。
CMSが額を計算して父母間で支払うDirect Payについては,CMSが実際の支払状況を同じ方法で把握していないため,上記の支払率の対象に含めてはならない。
制度の仕組みは,イギリスの養育費の法制度で説明している。
同記事の法制度の説明範囲であるイングランド及びウェールズと,ここで用いる統計の地域範囲も区別する必要がある。
第5 日本と外国の数字を比べる際の確認表
日本の28.1%と英国の77%は,そのまま同じ養育費の支払率として比較できない。
少なくとも分母,指標,期間及び対象制度を並べる必要がある。
| 確認事項 | 日本の28.1% | 英国の77% |
|---|---|---|
| 数える単位 | 受取側の母子世帯 | 支払側の親 |
| 分母 | 調査で養育費受給状況の対象となる世帯 | Collect and Payで当期に支払義務のある親 |
| 指標 | 現在も養育費を受けている | 当期に何らかの額を支払った |
| 時点・期間 | 令和3年11月1日現在の調査 | 2026年6月までの四半期 |
| 留意点 | 取決めの有無を問わない集計と,取決めありの集計が別にある。 | 全額支払率でも,父母間の全取決めの履行率でもない。 |
人数・世帯数の割合と,支払われるべき金額のうち何%が回収されたかという金額ベースの指標も別である。
一部だけ支払う人が増えると,一部でも支払った人の割合は上がるが,必要な生活費がどれだけ満たされたかまでは分からない。
制度の優劣を検討するには,共通の対象・期間・指標に近付けた資料に加え,所得や対象児童の構成,給付との関係及び利用者の選ばれ方も検討する必要がある。
行政徴収,支払仲介及び公的先払いの違いは,養育費法制の国際比較を参照されたい。
第6 未払いに直面している場合
統計上の平均や割合は,個別の養育費請求権や回収可能性を決めるものではない。
養育費を定めた文書,月別の支払期日・請求額・入金額・未払残額,相手の勤務先や財産の情報を整理することが先になる。
国内の回収方法は養育費を払わない場合の回収方法,公的支援や保証は養育費の立替払い・保証は利用できるか,海外に住む親への請求は国際養育費の請求と回収を参照されたい。
本記事は令和8年10月16日に確認した公表資料に基づき,調査年と資料の確認日を区別して記載している。