第1 結論―一律の割合や平均額ではなく,五つの事情から決める
イタリア法の子の養育費は,「収入の何%」という一律の全国基準だけで決まるものではない。
イタリア民法337-ter条は,子の現在の需要,両親と同居していた当時の生活水準,各親と過ごす時間,両親双方の経済力,各親が担う家事・ケア労働の経済的価値を考慮して,必要に応じて定期金を定める仕組みを採る。
日本とイタリアにまたがる事件では,金額の問題だけでなく,どちらの国で請求するか,どの国の法律が適用されるか,既存の合意・裁判をどの国で承認・執行するか,財産がどこにあるかを分けて確認する必要がある。
イタリア人の親がいることや,親がイタリアに住むことだけで,常にイタリア法が適用され,又は日本の裁判をイタリアで直ちに執行できるとは限らない。
第2 養育費の金額を決める五つの事情
両親は,原則として各自の資力に比例して子の生活,教育及び養育を負担する。
裁判所が定期金を定める場合の中心的な考慮要素は,次の五つである。
| 考慮要素 | 確認する資料の例 |
|---|---|
| 子の現在の需要 | 食費,住居費,教育費,医療費,年齢・健康状態 |
| 同居時の生活水準 | 住居,学校,習い事,家族の支出実績 |
| 各親と過ごす時間 | 監護日数,宿泊,送迎,日常の直接負担 |
| 両親双方の経済力 | 収入,資産,住居費,債務,実際の可処分資力 |
| 家事・ケア労働の経済的価値 | 日常監護,家事,通院・学校対応等の分担 |
したがって,共同監護や面会交流の日数が多いことだけで定期金が当然にゼロになるわけではない。
反対に,一方の親が日常費用を直接負担していることは,他の事情と併せて金額を決める材料になる。
定期金は,当事者又は裁判所が別の基準を定めない限り,ISTATの指数に応じて自動的に調整される。
収入・監護状況・子の需要が変わった場合には,権利者又は義務者が裁判所へ変更を求めることができる。
第3 通常費用と特別費用を分ける
定期金は,食費,通常の住居費,衣類,反復する学校用品,市販薬など,子の日常生活に通常必要となる費用を広く賄うものとされる。
これに対し,臨時性・散発性,負担の大きさ,又は選択性を持つ費用は,定期金とは別の「特別費用」として扱われることがある。
ミラノ裁判所のガイドラインは,医療費,学校費,課外活動費等を,事前の合意を要するものと要しないものに分けている。
もっとも,これはミラノの実務指針であり,イタリア全国で個別事情にかかわらず一律に適用される法定一覧ではない。
具体的な事件では,合意書又は裁判書が通常費用・特別費用の範囲,負担割合,事前協議,領収書の提出期限をどのように定めているかを読む必要がある。
第4 養育費は何歳まで支払うか
成年に達したことだけで,養育費が当然に終了するわけではない。
成年の子が経済的に自立していない場合,裁判所は一方又は双方の親に定期金を命じることができ,原則として成年の子へ直接支払わせることができる。
他方,いったん経済的に自立した成年の子が後に生活困難となった場合は,未成年子と同じ養育費が当然に復活するのではなく,生活上の必要を対象とする扶養の制度が問題となる。
重度の障害がある成年の子には,未成年子に関する規律が全面的に適用される。
したがって,「18歳」「大学卒業」など一つの年齢だけで終期を決めず,就学・職業訓練,就労可能性,実際の収入,求職状況,障害,既存の合意・裁判の文言を確認する必要がある。
第5 イタリアでの請求・変更・回収
イタリアで養育費を求める裁判手続では,原則として弁護士による申立てが必要である。
養育費は,離婚・別居等の手続の一部としても,独立の手続としても定められ得る。
金額を定めた裁判は執行の基礎となり,不払いの場合には一般の金銭債権の強制執行手段を利用する。
法的別居の場面では,裁判所が使用者等の第三者に対し,義務者へ支払う金銭の一部を権利者へ直接支払うよう命じることもある。
未払となった各回の定期金には,原則として五年の消滅時効が問題となるため,支払期日,入金,催告その他の時効に関する資料を回ごとに管理する必要がある。
第6 イタリアで裁判する場合の管轄と準拠法
EU構成国の裁判所における扶養義務の国際裁判管轄は,EU扶養規則4/2009号3条が,被告の常居所地,扶養権利者の常居所地,身分関係又は親責任の事件に附帯する裁判所等を定める。
同規則4条の裁判所選択は,18歳未満の子に対する扶養義務の紛争には適用されない。
イタリアは,2007年ハーグ扶養準拠法議定書に拘束される。
同議定書は非締約国の法も適用し得る普遍的適用を採り,原則として扶養権利者の常居所地法を適用する。
もっとも,子の扶養について権利者が義務者の常居所地国の当局へ申し立てた場合は,まず法廷地法を適用するなどの特則があるため,「子が日本に住むから常に日本法」と短絡しない。
第7 日本とイタリアの間で請求・回収する場合
日本の裁判所で新たに請求する場合は,日本の国際裁判管轄と,日本の「扶養義務の準拠法に関する法律」による準拠法を確認する。
詳しい判断順序は,国際養育費の請求と回収及び国際扶養の準拠法で整理している。
日本の養育費裁判をイタリアで使う場合,EU構成国間の判断を前提とするEU扶養規則だけで処理できるとは限らない。
イタリアの国際私法に関する法律218号64条以下による承認要件を確認し,任意の履行がなく強制執行が必要な場合又は承認が争われる場合には,同法67条に基づく手続を検討する。
反対に,イタリアの養育費裁判を日本で使う場合は,日本の民事訴訟法118条等による承認と,強制執行に必要な執行判決等を分けて確認する。
裁判書だけでなく,確定・執行可能性,送達,応訴,支払済額,翻訳及び執行対象財産の資料が必要になる。
2007年ハーグ扶養条約については,令和8年10月16日現在,イタリアはEUの承認により拘束される一方,日本はHCCHの締約当事者一覧に掲載されていない。
したがって,日伊間で同条約の中央当局ルートを当然に利用できるとは扱わず,既存判断の種類と執行国の国内法を個別に確認する。
第8 よくある質問
1 イタリアの養育費は収入の何%ですか
全国一律の固定割合だけで決まる制度ではない。
子の需要,同居時の生活水準,監護時間,両親の経済力,家事・ケア労働の価値を総合し,特別費用の負担も別に定める。
2 イタリアの養育費は何歳までですか
成年到達だけで自動終了するとは限らず,成年の子が経済的に自立したかを確認する。
既存の合意又は裁判の終期,就学・訓練,就労状況及び障害も個別に検討する。
3 日本からイタリアの給与や預金を差し押さえられますか
日本の差押命令をイタリアの財産へそのまま及ぼすことはできない。
日本の判断をイタリアで承認・執行するための要件と手続を経て,イタリアの執行制度を利用する必要がある。
4 海外にいる親へ養育費を請求する最初の一歩は何ですか
子・権利者・義務者の住所と常居所,国籍,既存の合意・裁判,未払期間,勤務先・預金等の所在国を一枚の一覧にする。
その上で,新たな金額決定,既存判断の承認,強制執行のどの段階から始めるかを決める。
第9 相談時にそろえる資料
①子,監護者及び義務者の国籍,住所・居所・常居所の変遷を示す資料。
②出生証明書,戸籍,親子関係・親権・監護に関する合意又は裁判。
③養育費の合意書,裁判書,確定・送達・執行可能性を示す資料及び翻訳。
④両親の収入・資産・住居費,子の教育費・医療費・特別費用の資料。
⑤各回の支払期日,支払済額,未払額,送金記録及び催告の資料。
⑥勤務先,金融機関,不動産その他の執行対象財産とその所在国。
第10 関連記事
①国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行
②国際扶養の準拠法―常居所地法・共通本国法・日本法
③国際離婚の手続選択と日本の国際裁判管轄・準拠法
④養育費を払わない場合の回収方法
第11 出典と調査範囲
①European e-Justice Portal「Family maintenance―Italy」
②イタリア司法省「Mantenimento dei figli」
③Normattiva・イタリア民法337-ter条及び337-septies条を導入・改正する法令
④ミラノ裁判所「Linee guida spese extra assegno figli」
⑤EU扶養規則4/2009号・令和8年7月16日統合版
⑥2007年ハーグ扶養準拠法議定書
⑦2007年ハーグ扶養条約の締約当事者一覧
⑧ピサ裁判所「Riconoscimento sentenze straniere」
令和8年10月16日現在の上記公的資料を確認した。
European e-Justice Portalのイタリア欄は最終更新日が令和3年12月22日であるため,民法の主要規定はNormattivaの法令資料,EUの管轄規則は令和8年7月16日統合版,条約関係はHCCHの令和8年9月16日更新の締約当事者一覧と照合した。
個別裁判所の算定傾向,特別費用の負担割合,具体的な必要書類及び期間は,管轄地,判断の種類,財産の所在地及び事件時点の法令・実務により異なる。