令和4年司法試験の労働法第1問について,2314字の模範解答と32の評価項目を示す。
評価項目と5段階の重みは公式資料を基にした記事独自の分析であり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和4年司法試験の選択科目問題の労働法第1問(PDF26〜27頁)である。
基準時は選択科目の実施日である令和4年5月11日とする。
出題の趣旨と採点実感から32項目を抽出した。
設問1の答案は,職種限定合意を否定しつつキャリア形成への合理的期待を配転濫用の判断に組み込み,命令は無効であるが,特定業務への現実の復帰まで当然には請求できないとする。
設問2は更新期待の合理性を肯定し,雇止めを認めず,1年の有期契約の更新と,その後の申込みによる無期転換を区別する。
これらは具体的事実の評価に基づく一つの答案であり,公式の唯一の結論ではない。
重み5は13項目であり,配転の契約上の根拠,黙示の職種限定,濫用の根拠・基準,キャリア利益,救済の区別,19条の構造・期待判断・不更新条項,更新後の18条が中心である。
条件付きの項目も含むため,重み5の全件を全答案への累積要求と理解しない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの行には一つの判定対象を置き,答案の具体的な規範・事実評価・法的効果から充足を判断できる形にした。
番号は記事全体で連続し,根拠欄の頁はPDFの物理頁である。
「間接」は関連する公式記述からの推論を示し,「記載なし」は本問の関連範囲を実読した結果を示す。
法令から具体化した補足と,公式が直接述べた内容は区別する。
就業規則に触れない,明示限定がないだけで終える,濫用根拠を取り違える,19条の構造を混同する,署名だけで期待を消す,一方の事情だけで衡量するという裏返しの負例は,それぞれ番号1・4・6・20・26・28へまとめた。
独立の注意点である番号18には重みを付けて残している。
読みやすい文字や条文の長い写し過ぎなど一般的な答案作法は,項目数・重み合計に混ぜていない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 本記事での判断基準 |
|---|---|
| 5 | 採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。 |
| 4 | 出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。 |
| 3 | どちらか一方が明示する中核の理由付け。間接の具体化はその旨を示す。 |
| 2 | 一方が触れる補強又は独立の典型的な誤り・条件付きの注意。 |
| 1 | 一方が控えめに触れるだけの事項。 |
区分の「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」と,重みは独立である。
番号17は判例と異なる枠組みを採るときだけ,番号15は職種限定を肯定する枝,番号29は19条各号を肯定する枝について読む。
本記事の重み4は「双方が取り上げた」を基準とし,全件について「採点実感が高く評価した」とまで述べるものではない。
第3 本問の概要
X1は運行管理者の資格と約10年の経験を評価され,期間の定めや職種・業務の限定がない正社員として採用された。
「当面は運行管理者」という説明の後,運行管理に従事したが,高速道路費用と乗務割への不満を理由に,倉庫の欠員補充のため配転を命じられた。
基本給等と勤務敷地は変わらない一方,管理も任せるとの説明に反し,現実には単純な作業だけで,専門性をいかせないことが問題となる。
X2は乗務員の1年契約を更新してきたが,採用時から通算5年を超えて更新しないと説明されていた。
事故不安を受け,合意により倉庫作業員となり,物品の知識をいかして周囲から頼られた。
最終契約の不更新条項に署名したものの,担当者から今後確認するよう促された経緯があり,満了前に更新を申し込んだ。
雇止め翌日にも倉庫には2名の欠員があった。
設問はX1の配転不当・復帰主張と,X2の雇止め不当・雇用継続主張の当否を問う。
命令と合意,職種限定とキャリア期待,有期更新と無期転換をそれぞれ分けて検討する必要がある。
第4 評価項目と重み
1 設問1の評価項目
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 配転命令権を抽象的人事権だけで基礎付けず,労働契約上の根拠を示す。 区分:必須 | 5 | PDF33頁・労働法第1問:その法的根拠は何か | PDF30頁・労働法第1問:労働契約の内容は何を根拠として確定されるのか |
| 2 | 就業規則の合理性・周知と労働契約法7条本文による契約内容化を示す。 区分:必須 | 5 | PDF33頁・労働法第1問:その内容が合理的であって、かつ労働者に周知 | PDF30頁・労働法第1問:労働契約法第7条本文 |
| 3 | 職種・業務限定の個別合意があれば7条ただし書により優先すると示す。 区分:必須 | 4 | PDF33頁・労働法第1問:当該合意された内容が優先 | PDF30頁・労働法第1問:職種限定の合意が成立 |
| 4 | 明示の限定がないだけで結論せず,資格・経験を評価した採用経緯から黙示の限定合意を検討する。 区分:必須 | 5 | PDF33頁・労働法第1問:X1がY社に採用された経緯 | PDF31頁・労働法第1問:それだけでは本件の事案に即した検討としては十分ではない |
| 5 | 採用時の「当面」という説明を限定合意の当否に評価する。 区分:必須 | 4 | PDF33頁・労働法第1問:採用時 | PDF30頁・労働法第1問:採用時のY社の言動等 |
| 6 | 配転濫用の直接根拠として3条5項を示し,3条4項等だけで代用しない。 区分:必須 | 5 | PDF33頁・労働法第1問:労働契約法第3条第5項参照 | PDF31頁・労働法第1問:労働契約法第3条第5項 |
| 7 | 必要性不存在,不当な動機・目的,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益等の濫用枠組みを正確に示す。 区分:必須 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:通常甘受すべき程度を著しく超える不利益 | PDF31頁・労働法第1問:判旨のキーセンテンス |
| 8 | 高速道路費用・乗務割不満・代替管理者・倉庫欠員を業務上の必要性に評価する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:事実を摘示して検討 | PDF32頁・労働法第1問(間接):有意な事実を事例から的確に拾い上げ |
| 9 | 安全・離職防止に関するX1の説明を適性否定や交代必要性への反対事情として評価する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:事実を摘示して検討 | PDF32頁・労働法第1問(間接):それらを適切に評価して |
| 10 | 不当な動機・目的の有無を与件から評価し,存在を無根拠に補わない。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:他の不当な動機・目的 | PDF31頁・労働法第1問:判例の立場 |
| 11 | 同一敷地・所定内賃金不変・残業代減・肉体的疲労等を不利益の程度に評価する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:通常甘受すべき程度を著しく超える不利益 | PDF32頁・労働法第1問(間接):有意な事実を事例から的確に拾い上げ |
| 12 | 職種限定合意がなくても,能力・経験の活用とキャリア形成への合理的期待を濫用判断に組み込む。 区分:高評価 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:能力・経験を活用することの利益 | PDF31頁・労働法第1問:これらに適切に言及 |
| 13 | 管理を任せる説明と単純作業のみの実態,正社員が一人という事情を職業上の不利益に評価する。 区分:高評価 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:どのように(どの程度)考慮に入れるか | PDF31頁・労働法第1問(間接):能力・経験を活用することの利益 |
| 14 | 採用した濫用枠組みと具体的事実評価を接続し,その理由から自説の結論を導く。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:これらの場合に該当するか | PDF30頁・労働法第1問(間接):論理的かつ整合性のある法律構成 |
| 15 | 職種限定を認め命令を無効とする枝では運行管理者としての地位・就労請求を検討する。 区分:許容分岐 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:運行管理者としての地位確認請求(就労請求権) | PDF31頁・労働法第1問:運行管理者としての就労請求 |
| 16 | 職種限定を認めない枝では,配転無効でも倉庫就労義務不存在の確認と特定業務の就労請求を区別する。 区分:高評価 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:倉庫部門における就労義務のないことの確認 | PDF31頁・労働法第1問:職種限定合意を認めない場合には |
| 17 | 確立した判例と異なる濫用枠組みを採用するときは変更理由を説得的に示す。 区分:許容分岐(条件付き) | 2 | 記載なし(対象範囲実読) | PDF31頁・労働法第1問:その理由を説得的に示すことは必須 |
| 18 | 与件に根拠のない育児・生活利益を創作してワークライフバランス規定等を本論に持ち込まない。 区分:負例 | 2 | 記載なし(対象範囲実読) | PDF31頁・労働法第1問:事例には見受けられない |
2 設問2の評価項目
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | 更新拒否を有期契約の期間満了時の雇止めとして位置付ける。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:有期労働契約の期間満了時 | PDF31頁・労働法第1問:いわゆる「雇止め」 |
| 20 | 19条1号と2号を択一の入口とし,各号該当性と柱書の拒否理由審査を段階的に区別する。 区分:必須 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:同条第1号該当性、同条 | PDF31頁・労働法第1問(間接):第1段階の審査 |
| 21 | 満了前の令和4年4月の更新要求を19条の申込み要件に対応させる。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:同条柱書の要件充足性 | PDF31頁・労働法第1問(間接):更新の申込み |
| 22 | 1号の解雇同視を,更新上限説明・契約書による期間管理等から簡潔に否定する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:同条第1号該当性 | PDF32頁・労働法第1問:これに当たらない理由を端的に述べる |
| 23 | 2号で主観的希望と更新期待の合理性を区別し,満了時までの事情を総合評価する。 区分:必須 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:期待することについての合理的な理由 | PDF32頁・労働法第1問:そのいずれについても指摘 |
| 24 | 採用時からの5年上限説明を期待に消極的な事情として評価する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:採用時の状況 | PDF32頁・労働法第1問(間接):これがないと認め |
| 25 | 4年目途中の合意による職種変更と倉庫での適応・評価を期待に積極的な事情として検討する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:4年目の途中で職種を変更した事情 | PDF32頁・労働法第1問(間接):合理的な理由があると認める方向 |
| 26 | 最終契約の不更新条項と署名を期待否定の事情として評価しつつ,署名だけで当然に期待を消滅させない。 区分:必須 | 5 | PDF33頁・労働法第1問:不更新条項 | PDF32頁・労働法第1問(間接):そのいずれについても指摘 |
| 27 | 事務担当者の「難しい」と「今後確認」の両側面を更新確約と区別して評価する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:Y社事務担当者の発言等 | PDF32頁・労働法第1問(間接):いずれかの結論を導く |
| 28 | 更新期待の肯定・否定両事情を比較衡量し,どちらか一方だけで結論を出さない。 区分:必須 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:積極方向に働き得る事実関係と消極方向 | PDF32頁・労働法第1問:結論を導く理由の説明が一面的 |
| 29 | 各号該当を認める枝では,倉庫欠員・働きぶり・上限を柱書の客観的合理性及び社会通念上相当性で審査する。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:同条柱書の要件充足性 | PDF31頁・労働法第1問(間接):第2段階の審査 |
| 30 | 19条の効果を従前と同一の労働条件による有期契約の承諾擬制として示す。 区分:必須 | 4 | PDF34頁・労働法第1問:法第19条による更新が認められる | PDF31頁・労働法第1問(間接):従前と同一の労働条件 |
| 31 | 現契約は5年ちょうどであり,職種変更だけで法定通算期間がリセットされないことを18条に対応させる。 区分:高評価 | 3 | PDF34頁・労働法第1問(間接):通算契約期間が5年を超える | PDF32頁・労働法第1問(間接):通算契約期間が5年を超える |
| 32 | 19条更新で通算5年を超える場合,18条1項の申込みとその後の無期契約の開始時期まで論じる。 区分:高評価 | 5 | PDF34頁・労働法第1問:同法第18条第1項 | PDF32頁・労働法第1問:た答案は少数であった |
3 重みの分布
重み1は0項目,重み2は2項目,重み3は1項目,重み4は16項目,重み5は13項目である。
総項目数Nは32,重み合計Wは136であり,N=0+2+1+16+13,W=1×0+2×2+3×1+4×16+5×13である。
この合計は公式の配点や難易度を意味しない。
重み5の全事項は次のとおりである。
番号1:配転命令権を抽象的人事権だけで基礎付けず,労働契約上の根拠を示す(必須)。
番号2:就業規則の合理性・周知と労働契約法7条本文による契約内容化を示す(必須)。
番号4:明示の限定がないだけで結論せず,資格・経験を評価した採用経緯から黙示の限定合意を検討する(必須)。
番号6:配転濫用の直接根拠として3条5項を示し,3条4項等だけで代用しない(必須)。
番号7:必要性不存在,不当な動機・目的,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益等の濫用枠組みを正確に示す(必須)。
番号12:職種限定合意がなくても,能力・経験の活用とキャリア形成への合理的期待を濫用判断に組み込む(高評価)。
番号15:職種限定を認め命令を無効とする枝では運行管理者としての地位・就労請求を検討する(許容分岐,職種限定を認める枝)。
番号16:職種限定を認めない枝では,配転無効でも倉庫就労義務不存在の確認と特定業務の就労請求を区別する(高評価)。
番号20:19条1号と2号を択一の入口とし,各号該当性と柱書の拒否理由審査を段階的に区別する(必須)。
番号23:2号で主観的希望と更新期待の合理性を区別し,満了時までの事情を総合評価する(必須)。
番号26:最終契約の不更新条項と署名を期待否定の事情として評価しつつ,署名だけで当然に期待を消滅させない(必須)。
番号28:更新期待の肯定・否定両事情を比較衡量し,どちらか一方だけで結論を出さない(必須)。
番号32:19条更新で通算5年を超える場合,18条1項の申込みとその後の無期契約の開始時期まで論じる(高評価)。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
令和4年5月11日時点の法令と,それまでの判例法理を基準とした答案である。
答案本文は改行を除いて2314字であり,設問1は職種限定を否定して配転濫用を肯定する構成,設問2は19条2号の合理的期待を肯定する構成を採る。
設問1の別構成と,設問2の期待を否定する構成は,枠外でもその効果を説明する。
2 答案
1 設問1
(1) 配転命令権
配転を一方的に命じるには労働契約上の根拠を要する。
合理的な労働条件を定め,周知された就業規則の配転条項は契約内容となる(労働契約法7条本文)。
ただし,職種・業務限定の個別合意は優先し(同条ただし書),その範囲外への変更は本人の同意を要する(8条)。
X1の約10年の経験と専門資格を評価した採用経緯は双方の共通認識であり,明示の限定がないことだけで黙示の限定合意を否定できない。
しかし,採用時の「当面」という説明は将来の変更を予定するものであり,経験・資格の評価だけでは運行管理業務以外へ一切就かせない合意までは認め難い。
就業規則の合理性・周知を満たす限り,Y社には配転命令権がある。
(2) 権利濫用
命令権があっても濫用は許されない(3条5項)。
業務上の必要性がない場合,不当な動機・目的がある場合,又は通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるなどの特段の事情があれば,命令は無効となる。
必要性は余人をもって代え難いほど高度である必要はなく,企業の合理的運営に寄与すれば足りる。
高速道路費用の増加,乗務割への不満,代替資格者の手配可能性は管理者交代を支持し,倉庫の4名不足は人員補充を必要とする。
しかし,X1は人員不足と業務過多を不満の原因と説明し,高速道路利用にも離職・事故防止という合理性がある。
費用増加や不満だけではX1の適性不足は十分に基礎付けられず,管理業務から外す必要性は強くない。
不当な動機・目的を積極的に示す事情はなく,同一敷地内の異動で基本給等も変わらない。
残業減による賃金減少は基本給の引下げとは異なり,疲労や意欲低下もそれだけで著しい不利益とはいえない。
他方,資格・経験を見込まれた専門職には,それらを活用してキャリアを形成する合理的期待がある。
職種限定合意を認めないことから,この期待まで法的保護に値しないとはいえない。
X1は管理も任せるという説明に従ったのに,実際は管理の設備もなく単純作業だけで,正社員も一人であった。
専門性をいかせない不利益は大きく,説明もこの不利益を軽減する現実の措置になっていない。
人員補充の必要性を認めても,管理業務から排除する必要性の弱さと,上記の合理的期待を大きく損なう事情を合わせると,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものと考える。
よって本件命令は権利濫用として無効である。
(3) 復帰主張の限界
命令に従ったことは管理業務も行うとの説明を前提とし,単純作業だけへの変更に無条件で合意したとはいえない。
本答案のように職種限定を否定する場合,命令無効の効果は倉庫就労義務の不存在であり,特定の運行管理業務への就労請求権は当然には生じない。
したがって,配転が不当という主張は認めるが,現実の復帰まで求める主張は認め難い。
これに対し,職種限定を肯定し本件命令を無効とする構成では,合意された運行管理者としての地位・就労請求を認める余地がある。
2 設問2
(1) 雇止めの判断構造
職種変更は合意による契約変更であり(8条),それだけで更新上限が当然にリセットされない。
有期契約は満了で終わるのが原則だが,19条1号の解雇同視,又は2号の更新期待の合理性が認められ,更新等の申込みの拒否が客観的合理性・社会的相当性を欠くときは,従前と同一条件で承諾したものとみなされる。
各号該当性を先に,次いで柱書の拒否理由を審査する。
解雇を定める16条の直接適用で処理しない。
X2は満了前の令和4年4月に更新を求めており,申込み要件を満たす。
4回の更新はあるが,当初から5年上限を説明され,最終契約にも更新なしと明示されている。
契約期間が管理されており,1号の解雇同視は認め難い。
(2) 更新期待と拒否理由
2号についても,当初からの上限説明,不更新条項への署名,担当者の更新は難しいとの発言は,期待の合理性を否定する。
しかし,4年目途中の職種変更はY社のリスク管理と倉庫の欠員補充に応じたものであり,その後X2は物品知識をいかし,同僚に助言して頼られる存在となった。
恒常的な倉庫業務への適応・貢献は,乗務員としての当初の契約管理とは異なる継続期待を支える。
担当者は,更新を確約していない一方,1年先なので今後確認するよう勧めた。
X2はそれに従って確認を先送りし署名したのであり,署名だけで期待を確定的に放棄したとはいえない。
リセットの主観的思込みだけでは足りないが,職種変更後の事情とこの応答を,上限・署名等の反対事情と衡量すれば,更新期待には合理的理由があると考える。
柱書について,倉庫では満了翌日にも2名が不足し,X2の業務遂行にも問題はない。
乗務員としての事故不安は倉庫で雇用を終える理由にならない。
当初の上限方針も考慮すべきだが,それだけで拒否理由の審査を免れず,この継続需要とX2の適応を上回る理由は見当たらない。
よって拒否は合理性・相当性を欠き,19条により期間1年・職種倉庫作業員等の従前と同一条件で更新される。
X2は令和4年5月1日以降も雇用され続ける。
(3) 無期転換
18条1項は,同一使用者との通算契約期間が5年を超え,現契約の満了日までに無期契約の申込みをすることを要する。
職種変更で法定通算は切れないが,令和4年4月末までは5年ちょうどであり,その時点の無期転換は認められない。
しかし,19条の更新で通算は6年となる。
更新後の契約期間中に無期転換を申し込めば,Y社の承諾が擬制され,令和5年5月1日から労務を提供する無期契約が成立する。
19条による有期契約の更新と,18条による申込みを要する無期転換を区別すべきである。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
設問1の(1)は番号1〜5,(2)は6〜14及び18,(3)は15・16に対応する。
番号17は判例と異なる枠組みを採る場合の条件付き事項であり,本答案では条件が成立しない。
設問2の(1)は19〜22,(2)は23〜30,(3)は31・32に対応する。
(2) 職種限定とキャリア形成の利益
明示の限定がないだけで黙示合意を否定すると,資格・経験を評価した採用経緯を拾えていない。
しかし,限定合意を否定しても,合理的なキャリア期待を濫用判断で考慮する道は残る。
番号4と12を別に置いたのは,契約上の命令権の範囲と,その行使の相当性を同じ問いにしないためである。
東亜ペイント事件の転勤濫用の判断枠組みと,配置転換にもこれを用いる日産自動車村山工場事件の関係が,公式趣旨に示されている。
安藤運輸事件の判旨紹介でも,職種限定を否定しながら,経験・資格をいかす期待を法的保護に値するものとしている。
ただし,その事件の求人票・面接での追加説明等を本問へ補ってはならず,本問の採用経緯と「当面」の説明から独自に評価する。
(3) 配転無効と復帰請求の区別
番号15・16は,命令無効という結論の後に,どの地位・履行を求められるかを確認する項目である。
職種限定を否定する本答案では倉庫就労義務不存在にとどめ,特定業務への就労請求を当然とはしない。
限定肯定の枝では合意された職務への就労請求を検討できるので,両枝の救済の違いを明示した。
(4) 不更新条項と更新期待の双方評価
19条1号の解雇同視と,2号の合理的期待を同一視しない。
本問では1号を簡潔に否定し,2号において当初上限・署名・否定的発言と,職種変更・適応・確認先送りの発言を衡量する。
公式採点実感は双方の事情を評価していずれかの結論に至ることを求めており,肯定の結論そのものを必須項目としてはいない。
期待を否定する構成なら,19条各号の入口が満たされず,令和4年4月30日の期間満了で雇用は終了する。
期待を肯定する構成では,倉庫欠員や働きぶりを柱書の拒否理由に評価する必要がある。
署名だけで法的審査を終える構成も,欠員だけで合理的期待を当然に肯定する構成も避けるべきである。
(5) 有期更新から無期転換への接続
番号31・32では,5年ちょうどと5年を超える状態,19条の承諾擬制と18条の申込みを分ける。
更新後の6年目の契約期間中に無期転換を申し込めば,その契約の満了翌日から無期契約に基づく労務提供が始まる。
19条の適用だけで令和4年5月1日から当然に無期契約になると書かない。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
配転濫用と更新期待の当てはめには合理的な評価の幅があり,本答案の結論は唯一解ではない。
倉庫業務の疲労や残業代減だけを決定的な不利益とせず,専門性を失わせる不利益の根拠と会社側の必要性を合わせて論じる必要がある。
与件にない育児事情,無期転換回避の会社目的,更新の確約は認定していない。
労働委員会への不当労働行為救済や具体的な損害賠償額は,この設問の終点に含めていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和4年度司法試験・主要7科目の一覧(AI作成)
②令和4年度公法系第1問(憲法)の模範解答・評価項目(AI作成)
③令和4年度公法系第2問(行政法)の模範解答・評価項目(AI作成)
④令和4年度民事系第1問(民法)の模範解答・評価項目(AI作成)
⑤令和4年度民事系第2問(商法)の模範解答・評価項目(AI作成)
⑥令和4年度民事系第3問(民事訴訟法)の模範解答・評価項目(AI作成)
⑦令和4年度刑事系第1問(刑法)の模範解答・評価項目(AI作成)
⑧令和4年度刑事系第2問(刑事訴訟法)の模範解答・評価項目(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①定年後再雇用の更新時に勤務日数・賃金を引き下げられるか(AI作成)
②労働基準法に関するメモ書き(AIリライト)
後年の実務記事は関連テーマの参考であり,その後の法改正・裁判例を本答案の当時法へ遡及させない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省・令和4年司法試験の選択科目問題:PDF26〜27頁,労働法第1問。
②法務省・令和4年司法試験論文式試験出題の趣旨:PDF33頁の労働法見出し以降〜34頁の第2問直前。
③法務省・令和4年司法試験の採点実感・選択科目:PDF30〜32頁の労働法総論及び第1問。
第2問の内容は用いていない。
④法務省・令和4年司法試験の実施日程:PDF1頁。
2 法令
厚生労働省掲載・労働契約法の3条,7条,8条,18条,19条と改正注記・附則を確認した。
平成24年8月10日付け労働契約法施行通知の19条関係も,更新期待の判断要素と契約期間を含む同一条件による更新の説明として確認した。
掲載版の後年の記述をそのまま試験当時の法状態とせず,上記の当時存在した規定を用いている。
3 裁判例
東亜ペイント事件(最判昭和61年7月14日)及び日産自動車村山工場事件(最判平成元年12月7日)の法理と役割は,公式出題趣旨・採点実感の記載に基づく。
各判決原文を独立に全文確認したものではない。
安藤運輸事件(名古屋高判令和3年1月20日)は,厚生労働省掲載の裁判例資料のPDF55〜56頁(資料上52〜53頁)の判旨紹介を実読し,第一審と控訴審の記述を区別して確認した。
これも判決全文の確認とは区別する。
4 確認状態
確認日は令和8年10月14日である。
問題・公式資料の対象部分と,上記法令・行政資料の該当部分を実読した。
公式が述べた内容,独立に確認した法文,記事が設定した評価単位・重み,具体的事実の評価はそれぞれ区別される。
判決全文が独立に確認できていない範囲を残し,記事の当てはめと条件付き構成を公式の指定結論と表示しない。