相互OEMと共同新設分割について,市場ごとの競争効果と問題解消措置を検討する。
評価項目と重みは公式資料に基づく本記事の独自分析であり,法務省の採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和5年司法試験経済法第1問を対象とする。
設問⑴は相互OEMによる不当な取引制限,設問⑵は共同新設分割による企業結合の問題であり,二つの計画を独立して検討する。
評価項目は36項目,重みの合計は149であり,重み5は15項目である。
答案は,計画⑴の大型甲について問題あり,小型甲について競争の実質的制限を認めない立場を採る。
計画⑵では三市場を区別し,とりわけW社の供給条件と秘密情報を守る措置を示す。
結論の一致そのものより,市場・機序・反対事情・措置の論理的接続が重要である。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目に一つの判定対象を置き,必須,高評価,負例及び許容分岐という性質を重みとは区別した。
根拠列の頁はPDFの物理頁を示す。
「記載なし」は関連範囲を読んだ結果,「間接」は関連記述からの推論である。
負例の回避も重みを付け,項目数と重みの合計に含めている。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は,評価の分かれ目又は答案の骨格そのものである。
重み4は,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な不足・誤りの指摘を通じて取り上げた事項である。
重み3は,どちらか一方が明示する中核の理由付け,重み2は軽い補強又は典型的な誤り,重み1は控えめな言及に対応する。
本問の重み4を「採点実感が全件を高く評価した」とは表示しない。
重み5の高評価項目や,問題があると判断する構成に適用される措置項目を,全答案の無条件の必須事項にはしない。
各結論について,規範と事実評価が一貫しているかを判断する。
第3 本問の概要
全国の甲装置市場には,大型甲と小型甲がある。
大型甲のX・Y・Zのシェアはそれぞれ40%・20%・40%,小型甲のX・Y・Z・Wは10%・30%・40%・20%である。
大型と小型の設備転換には投資と時間を要する。
計画⑴ではXが小型甲をYへ,Yが大型甲をXへ全量委託し,販売は各社が独立して行う。
供給価格は需要者向け価格の8割である。
計画⑵では乙製造部門をSへ共同新設分割し,X・Yは原価で乙を調達する。
乙は甲の製造費用の5割を占め,Wは従前X・Y・Zから必要量の約3分の1ずつを調達していた。
問題解消措置まで具体的に示すことが設問の終点である。
Wへの乙供給に影響がないとの条件は計画⑴に限られ,計画⑵へ転写しない。
計画⑵で維持されるのは必要な供給能力であり,従前の供給条件の維持ではない。
第4 評価項目と重み
1 共通枠組みと計画⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 二つの計画を同時実施の前提にせず,独立に検討する。(必須) | 4 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(独立して検討) | PDF16頁・経済法・第1問概要(各計画) |
| 2 | 相互OEMを2条6項・3条の不当な取引制限として検討する。(必須) | 5 | PDF22頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(不当な取引制限) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(不当な取引制限) |
| 3 | 共同性・相互拘束の規範を,独立の競争行動の制約として示す。(必須) | 3 | 間接:PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(行為要件) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(意義) |
| 4 | Xの小型製造中止とYの大型製造中止という異なる内容の制約が,相互的拘束となる実質を示す。(必須) | 4 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(制限内容が異なる) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(相互的な拘束) |
| 5 | 大型と小型の需要代替性を,サイズ・処理能力等に即して否定する。(必須) | 4 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(需要面の代替性) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(需要・供給の代替性) |
| 6 | 設備転換の投資と時間を供給代替性の判断へ結び付け,二市場を区分する。(必須) | 4 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(供給面の代替性) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(需要・供給の代替性) |
| 7 | 全国販売,価格差・輸入の不存在に基づき全国の地理的市場を画定する。(必須) | 3 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(地理的範囲) | 間接:PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(市場の画定) |
| 8 | 価格・数量等をある程度自由に左右できる市場支配的状態として競争の実質的制限を定義する。(必須) | 4 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(意義) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(競争の実質的制限) |
| 9 | 計画段階での市場支配力発生の蓋然性を判断し,実施済み違反の確定と区別する。(必須) | 3 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(事前段階) | PDF16頁・経済法・第1問概要(計画) |
| 10 | 非ハードコアの業務提携として,競争制限の機序を先に分析し,効率性等の競争促進効果と比較衡量する。(必須) | 5 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(比較衡量) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(競争促進効果) |
| 11 | 全量OEM・供給価格8割による販売費用の共通化が独立の値下げ競争を減殺する理由を示す。(必須) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(販売コストの共通化) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(販売コストの共通化) |
| 12 | 大型の合算6割とZの地位・供給余力を用いて,単独・協調的効果を評価する。(必須) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(60) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(60パーセント) |
| 13 | 小型の合算4割,Zの余力とWの独自技術による牽制を用いて,大型との競争状況の差を評価する。(必須) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(40パーセント) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(独自の技術) |
| 14 | 製造情報の共有が販売面の協調を促し,販売独立の前提を損なう経路を説明する。(必須) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(販売をそれぞれ独立) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(共有される) |
| 15 | 老朽設備に対応する部分的OEMへの修正によって,自製を残し費用共通化等を縮小する措置を提示する。(高評価) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(部分的な) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(中間的な計画) |
| 16 | OEMで必要な製造情報と販売秘密を区分した情報遮断措置を提示する。(必須) | 4 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(どのような措置) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(情報遮断措置) |
| 17 | 競争制限を生じる機序に対応して措置の必要性・有効性を説明する。(高評価) | 5 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(なぜ必要) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(機序) |
2 計画⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 18 | 共同新設分割を15条の2第1項1号の企業結合として検討する。(必須) | 5 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(第15条の2第1項) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(共同新設分割) |
| 19 | 乙の代替・転用の不存在と大型小型向けの同一性から乙の独立市場を画定する。(必須) | 4 | 間接:PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(二つの商品) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(乙機器市場) |
| 20 | 計画⑵で乙・大型甲・小型甲の三市場を区分し,各市場への効果を論ずる。(必須) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(甲装置の市場) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(的確に画定) |
| 21 | 乙の内製と市場取引を区別し,従前の外販がW向けのみであると指摘する。(高評価) | 3 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(市場取引) |
| 22 | W向けの乙外販におけるSの供給割合を3分の2と計算して評価する。(必須) | 5 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(高いシェア) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(3分の2) |
| 23 | S・Zの供給余力と費用低減のためWへ供給する誘因を,乙市場の競争圧力として評価する。(必須) | 4 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(供給する意欲) | 間接:PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(供給確保) |
| 24 | Wの中期的な乙自製可能性を短期の制約と区別して評価する。(高評価) | 3 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(中期的) | 間接:PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(供給確保) |
| 25 | 大型甲で合算6割を踏まえ,乙調達費用の共通化の割合と販売競争への影響を評価する。(必須) | 5 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(その割合) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(製造コスト共通化) |
| 26 | 計画⑵の小型甲の水平的効果について合算4割及びZ・Wの牽制を大型との相違に即して評価する。(必須) | 4 | PDF24頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(W社の存在) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(40パーセント) |
| 27 | 小型甲の投入物閉鎖につき,SへのWの依存から閉鎖能力を検討する。(必須) | 5 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(能力) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(投入物閉鎖) |
| 28 | 投入物閉鎖につき,乙供給利益の減少と甲販売への利益を区別し,能力とは別に誘因を検討する。(高評価) | 4 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(インセンティブ) | 間接:PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(分析・評価) |
| 29 | Zの乙製造余力による調達先切替えの牽制を閉鎖分析に反映する。(必須) | 4 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(Z) | 間接:PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(投入物閉鎖) |
| 30 | SのW向け乙供給価格等の秘密情報がX・Yへ伝わり,小型甲の協調を促す経路を検討する。(必須) | 5 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(秘密情報) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(秘密情報の共有) |
| 31 | W向け乙供給を従前と同様の条件で確保する措置を示す。(必須) | 5 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(供給を確保) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(従前と同様の条件) |
| 32 | X・YをSのW向け供給決定へ関与させない措置を提示する。(必須) | 4 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(入手できる立場) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(一切関与せず) |
| 33 | S・X・Y間の販売秘密及びW取引情報の遮断によって,製造販売の独立を維持する。(必須) | 4 | PDF25頁・経済法〔第1問〕・設問別説明(独立して行う) | PDF19頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(情報遮断) |
| 34 | 問題解消に足る範囲で効率化を残し,事業を過度に制約しない措置を選ぶ。(高評価) | 3 | PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(過度に制限) | PDF18頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(中間的な計画) |
3 条文選択と答案の分量
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 35 | 相互OEMを事業経営の受任と同一視しない。(負例) | 2 | 記載なし(関連範囲実読) | PDF17頁・経済法1 問題別・設問別の所感⑴第1問(事業の経営受任) |
| 36 | 行為要件の過度な詳論で市場効果分析の分量を圧迫しない。(負例) | 2 | 間接:PDF23頁・経済法〔第1問〕・共通枠組み(行為要件) | PDF22頁・経済法2 法律・判例理解/3 答案水準の評価⑴第1問(行為要件に関して詳細) |
4 重みの分布
重み1:0項目,重み2:2項目,重み3:6項目,重み4:13項目,重み5:15項目であり,総数は36項目,重み合計は149である。
重み5の事項は次のとおりである。
番号2:相互OEMを2条6項・3条の不当な取引制限として検討する。
適用条件:計画⑴の行為類型。
番号10:非ハードコアの業務提携として,競争制限の機序を先に分析し,効率性等の競争促進効果と比較衡量する。
適用条件:計画⑴の非ハードコア型業務提携。
番号11:全量OEM・供給価格8割による販売費用の共通化が独立の値下げ競争を減殺する理由を示す。
適用条件:計画⑴の大型甲・小型甲の全量OEM。
番号12:大型の合算6割とZの地位・供給余力を用いて,単独・協調的効果を評価する。
適用条件:計画⑴の大型甲。
番号13:小型の合算4割,Zの余力とWの独自技術による牽制を用いて,大型との競争状況の差を評価する。
適用条件:計画⑴の小型甲。
番号14:製造情報の共有が販売面の協調を促し,販売独立の前提を損なう経路を説明する。
適用条件:計画⑴で販売独立を維持するための情報分析。
番号15:老朽設備に対応する部分的OEMへの修正によって,自製を残し費用共通化等を縮小する措置を提示する。
適用条件:計画⑴に問題を認める構成での中間案。
老朽設備の部分だけを委託する高評価の選択肢。
番号17:競争制限を生じる機序に対応して措置の必要性・有効性を説明する。
適用条件:計画⑴に問題を認めて措置を提示する構成。
番号18:共同新設分割を15条の2第1項1号の企業結合として検討する。
適用条件:計画⑵の共同新設分割。
番号20:計画⑵で乙・大型甲・小型甲の三市場を区分し,各市場への効果を論ずる。
適用条件:計画⑵の乙・大型甲・小型甲。
番号22:W向けの乙外販におけるSの供給割合を3分の2と計算して評価する。
適用条件:計画⑵のW向け乙外販市場。
番号25:大型甲で合算6割を踏まえ,乙調達費用の共通化の割合と販売競争への影響を評価する。
適用条件:計画⑵の大型甲の水平的効果。
番号27:小型甲の投入物閉鎖につき,SへのWの依存から閉鎖能力を検討する。
適用条件:計画⑵の小型甲の投入物閉鎖能力。
番号30:SのW向け乙供給価格等の秘密情報がX・Yへ伝わり,小型甲の協調を促す経路を検討する。
適用条件:計画⑵のW情報の取得と小型甲の協調。
番号31:W向け乙供給を従前と同様の条件で確保する措置を示す。
適用条件:計画⑵でWの供給条件への問題を認める構成。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施日である令和5年7月12日の問題設定を基準とする。
答案は1→(1)の階層で,規範,事実評価及び結論を示す。
本文は改行を除き2212字である。
問題の結論は公式の唯一解としてではなく,理由付けを伴う一つの構成として示す。
2 答案
1 市場と判断枠組み
各計画を独立して検討する。甲は法定検査に特有の機能を持ち,大型甲と小型甲はサイズ・処理能力が異なり,需要面で代替性がない。製造設備の転換にも多額の投資と時間を要するため,供給面の代替性も乏しい。全国販売・地域価格差の不存在と輸出入の不存在から,大型甲及び小型甲の全国製造販売市場を別々に画定する。
競争の実質的制限とは,競争が減少し,特定の事業者又は事業者集団が価格・数量等をある程度自由に左右できる市場支配的状態を形成・維持・強化することである。本問は計画段階であり,この状態が容易に現出し得る蓋然性を検討する。単独行動と協調的行動による効果を分け,競争制限の機序を分析した上で競争促進効果を比較する。
2 計画⑴
(1) 相互OEMは不当な取引制限(2条6項,3条後段)の問題となる。「共同して」は意思の連絡を,「相互にその事業活動を拘束」は各事業者の自主的な競争行動の制約をいう。Xは小型甲の製造を中止してYに全量委託し,Yは逆に大型甲について同様の拘束を受ける。制限対象が異なっても,相互に製造を分担して競争を回避するので,相互拘束に当たる。
(2) 供給価格が需要者向け販売価格の8割を占め,全量を相手方から調達するため,販売に要する費用の主要部分が共通化し,委託者が独自の費用構造に基づき値下げする余地が縮小する。また,受注・供給を通じて製造数量等を互いに知り,販売面の協調が容易になる。販売活動の形式的独立だけでは競争の維持を保証できない。
大型甲では,X・Yの協調を前提に合算シェアは6割となり,両社間の競争が減殺される。Xの供給余力も乏しくなるため,Yの増販に必要な数量の調整を生じやすくする。独立製造者がXとZに集約され,安定した需要の下ではZとの協調も容易になり得る。
他方,4割を占めシェアを伸ばすZの供給余力,買手の強い交渉力は牽制となる。稼働率向上,Yの老朽設備の停止,従業員の容易な配置転換による効率化も期待できる。しかし,全量委託により失われる競争を十分補えず,大型甲では競争の実質的制限が生じると考える。非ハードコアの業務提携として比較衡量した上での判断であり,効率化目的だけで公共の利益に反することを否定しない。
小型甲では,X・Yの合算は4割である。4割のZの供給余力に加え,2割のWが独自技術による競争力を持ち,乙供給にも影響がない。これらの牽制と効率化を踏まえ,現状では競争の実質的制限を認めない。
(3) 大型甲では,Yの老朽設備に対応する部分だけのOEMとし,残る設備で自製と独立した増産能力を維持することが考えられる。全量依存による費用共通化と数量調整を縮小し,費用低減の利益も残せる。併せて販売価格・顧客等を遮断し,製造に必要な情報の共有も限定する。措置で競争を維持できなければ計画を縮小又は撤回する。
3 計画⑵
(1) 共同新設分割は15条の2第1項1号により,競争を実質的に制限することとなる場合に禁止される。乙は代替品も転用先もなく,大型・小型向けで差がないから全国の乙供給市場を画定し,甲の二市場への影響も検討する。
X・Y・Zは乙を内製しており,外販はW向けで各約3分の1である。S設立後はSが3分の2,Zが3分の1となる。内製を含む甲のシェアを乙外販市場へ流用しない。SとZの二社化は単独の値上げや協調の危険を生むが,両社には余力があり,稼働率向上と費用低減のためWへ供給する誘因もある。Wも中期的には自製可能であり,シェアだけで問題ありとはいえない。
(2) 甲市場の水平的側面では,乙の調達費用がX・Yで共通化する。乙は甲製造費用の5割,販売価格の約3割を占めるが,残る製造・販売費用は独立し,OEMの8割共通化とは程度が異なる。大型甲では合算6割による両社の競争減殺が懸念されるが,Zの4割と余力が牽制となる。小型甲では合算4割に対しZ・Wの牽制が一層強い。乙の費用低減が価格競争を強め得る点も踏まえ,両市場とも費用共通化だけから競争の実質的制限の蓋然性を認めない。ただし,販売面の独立が実際に維持される必要がある。
(3) 小型甲の垂直的側面では,投入物閉鎖が問題となる。SはW調達の3分の2を供給し,価格引上げや数量制限でWの競争力を弱める能力を持ち得る。Wの自製に3年近くを要することはこの危険を強める。他方,Zの余力は切替えを通じた牽制となる。閉鎖の誘因も,Wへの部品販売を失う不利益と,WからX・Yへ小型甲の販売が移る利益を比較すべきであり,稼働率向上の目的は供給継続の誘因にもなる。必要な供給能力の維持だけでは供給条件の悪化を防げない。
さらに,Sが知るW向け供給価格等の秘密情報を競争者X・Yが得れば,Wの費用を把握して協調を促す危険がある。したがって,供給と情報の両面で問題を除去する措置が必要である。
(4) SからWへ従前と同様の条件で必要量を供給する長期契約と差別禁止・履行監視を設け,X・YをW向け供給決定に関与させず,Wの取引情報及び親会社の販売情報を遮断する。これにより投入物閉鎖と情報利用を防ぎつつ効率化を残す。措置で不十分なら,W等への乙設備譲渡により独立供給を確保し,なお競争が回復しなければ計画を撤回する。届出基準は充足しているので事前届出を行い,15条の2第4項・10条8項による原則30日の実行禁止も守る。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1は番号1・5〜9,答案2⑴は番号2〜4,答案2⑵は番号10〜14,答案2⑶は番号15〜17に対応する。
答案3⑴は番号18〜24,答案3⑵は番号25・26,答案3⑶は番号27〜30,答案3⑷は番号31〜34に対応する。
番号35・36の負例も回避している。
(2) 費用共通化と部分OEM
全量OEMでは,共通化の割合だけでなく,委託者が相手方の供給に依存し,独立の費用構造を用いた競争や増販が難しくなる点を説明する。
大型甲ではX・Yの合計6割,小型甲では合計4割にZ・Wの牽制という違いを評価する。
Yの二設備のうち老朽化しているのは一つなので,その部分だけの委託は,競争制限を縮小しながら効率化を残す措置として検討できる。
(3) 乙の外販市場とWの秘密情報
乙の内製とW向け外販を分けると,外販の供給者は従前各約3分の1,統合後はSが3分の2となる。
甲全体の販売シェアをそのまま乙の外販シェアに用いる計算はしない。
閉鎖は能力と誘因を分け,Sの供給継続による稼働率向上,Zの余力及びWの中期的な自製可能性も反対事情として評価する。
情報共有には,親会社自身の製造・販売情報と,W向け供給価格等の第三者の秘密情報という別の客体がある。
Sを通じてX・YがWの費用を知ることは,小型甲の競争に影響する。
親会社を供給決定へ関与させないことと,W情報を遮断することを,供給条件の確保と併せて検討する。
(4) 答案の弱点と扱わなかった事項
問題は実際の供給量,利潤又はZへの全面的な切替可能量まで示していない。
そこで閉鎖の誘因を実額で断定せず,機序と反対事情から評価している。
行動的措置で不十分なときの設備譲渡は公取委指針を踏まえた補足であり,公式が唯一の措置として要求したものではない。
届出と原則30日の待機は手続上の補足である。
実施済み違反の課徴金,刑事責任及び損害賠償の詳論は設問の終点に不要なので扱わない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和5年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
①令和5年司法試験刑事系科目第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した53項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和5年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
令和5年司法試験選択科目の問題(PDF14・15頁)
令和5年司法試験出題の趣旨(PDF22〜25頁の経済法第1問)
令和5年司法試験採点実感(PDF16〜19・22・23頁の関連部分)
2 法令
独占禁止法の公取委掲載原文(2条6項・3条・15条の2等)
企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(令和元年12月17日改定,第2・3・4・5・7)
令和3年度の相互OEM相談事例
3 裁判例
競争の実質的制限の説明には公取委指針の定式を用いた。
指針が引用する判決原文を本記事で独立実読したとは表示しない。
公取委の相談事例も,裁判例ではなく行政実務の比較資料として扱った。
4 確認状態
公式資料は経済法第1問と関連総論・注記の範囲を実読した。
同じPDF内の第2問や他科目の解説は根拠にしていない。
法令の現行掲載には試験後の改正も含まれるため,主要条文の内容を試験前の指針・相談事例と対応させ,後発の罰則変更等を答案へ取り込んでいない。
試験日の施行版全文の履歴照合と判決原文の独立確認には限界がある。
公式資料が述べる要求,問題文・一次資料で確認できる事実,本記事の重みと結論の推論を区別する。
細かな数値が不足する部分は蓋然性の評価とし,架空のシェア・利潤を補わない。