第1 取引先の民事再生で最初に確認すること
取引先が民事再生を申し立てたとき,売掛金の残高が帳簿に載っているだけでは,裁判所への債権届出をしたことにはならない。債務者から通知が届いたことや,債務者が支払義務を認めていることとも区別する必要がある。
本記事は,法人企業の通常の民事再生を対象に,令和8年10月10日現在の民事再生法に基づいて整理する。個人再生には別の特則がある。債権者側では,まず債権届出期間,調査期間及び計画案を決議に付する旨の決定(以下「付議決定」という。)の有無を確認し,届出の控え・受付記録と,認否書・再生債権者表を照合することが必要である。
経理担当者は契約書,請求書,納品・役務提供の記録及び入金履歴を集め,法務担当者又は弁護士は請求権の区分と手続上の期限を確認する。税理士はその結果を受けて,税務上の貸倒れの類型,金額及び計上年度を検討する。この役割分担は実務上の提案であり,届出をしない選択を勧めるものではない。
1 売掛金・前払金・損害賠償を同じ扱いにしない
開始前の原因に基づく一般の売掛金等は再生債権となるのが基本である。他方,開始後の取引や双方未履行契約の解除に伴う既払金返還には,共益債権となる場合がある。前払金については,契約の履行状況,解除の時期及び法的根拠を先に確認する必要がある。請求書や案内の名称だけで分類することはできない。
特に,本来共益債権である請求を留保なく再生債権として届け出た場合には,後の手続外行使が制限される問題がある。詳しくは,共益債権を再生債権として届け出た場合―双方未履行契約の解除・前払金返還と最高裁平成25年11月21日判決を参照されたい。
2 債権額と議決権額は一致するとは限らない
民事再生法94条の届出では,債権の内容・原因とともに議決権の額等を届け出る。外貨建債権等の議決権は開始時の評価額によるほか,開始後の利息等には議決権がない(同法87条)。帳簿残高をそのまま投票の金額とせず,元本,利息,発生時期及び通貨を分けて確認することが必要である。
第2 届出をしなかった債権の3つの状態
1 再生債務者が認否書に自認した債権
再生債務者等は,届出がされていない再生債権があることを知っている場合,その自認する内容等を認否書に記載しなければならない(民事再生法101条3項)。ただし,届出のない約定劣後再生債権については同条4項の例外がある。
自認された債権は,調査によって内容が確定する制度の対象となり,認可決定が確定すると計画の定めに従って権利が変更される(同法104条,179条)。これは,未届債権について内容と計画上の権利を扱う仕組みである。自認だけで届出をしたことになり,当然に計画への議決権も得られるわけではない。議決権行使の制度は届出再生債権者を対象としている(同法170条・171条)。
したがって,「先方が債権を認めているから届出は不要」と判断せず,認否書に誰のどの債権が,いくらで記載されたかを確認する必要がある。
2 知っていたのに認否書から漏れた債権
再生債務者が101条3項による記載をすべきだったのに記載しなかった債権は,認可決定の確定時に,計画の一般的基準に従って変更される(民事再生法181条1項3号)。届出も記載もないという理由だけで,すべて一律に失権すると扱うのは正確ではない。
ただし,この場合の変更後の権利については,計画で定められた弁済期間の満了まで,弁済その他の消滅行為が原則として制限される(同条2項)。期間満了前に計画に基づく弁済が完了した場合や,計画が取り消された場合には,それぞれ完了時又は取消時までとなる。免除は制限の例外である。
例えば,一般的基準が95%免除・5%弁済で,弁済期間が5年の場合,元の100万円をそのまま請求できるわけではない。原則として5万円に変更された上で,同条2項による弁済の制限を受ける。ほかの債権者と同じ時期に直ちに支払を受けられるとも限らない。
この特則を主張するには,債権の存在・金額だけでなく,再生債務者が知っていたため認否書に記載すべきだったかを確認する必要がある。契約書,請求書の到達,督促への回答,残高確認書,債務者側の取引記録等が検討資料となる。帳簿にあるはずだという推測だけで結論を出さないことが大切である。
3 それ以外の未届債権
認可決定が確定すると,計画又は法律によって認められた権利を除き,再生債務者は原則として再生債権について責任を免れる(民事再生法178条)。101条3項の自認や181条の特則に該当しない未届債権は,この免責の問題となる。
181条1項には,責めに帰することのできない事由が付議決定前に消滅しなかった債権や,付議決定後に生じた債権についても特則がある。未届債権の扱いは,期限を逃した理由,その理由が解消した時期,債権の発生時期及び債務者の認識によって変わる。担当者の失念が当然に救済されるとは扱えない。
第3 期限後に気付いた場合と金額を争われた場合
1 届出の追完と付議決定の限界
責めに帰することができない事由によって期間内に届出ができなかった場合には,その事由が消滅した後1か月以内に限り追完ができる(民事再生法95条1項)。この期間は伸長・短縮できない。期間経過後に生じた再生債権についても,発生後1か月の不変期間内の届出が必要である(同条3項)。
もっとも,これらの届出は,計画案を決議に付する旨の決定後にはできない(同条4項)。したがって,単に「認可前だからまだ届出ができる」と判断するのは危険である。気付いた当日に通知・決定書を確認し,追完の可否,事由の解消日及び付議決定の有無を弁護士へ伝える必要がある。
再生債務者へ残高を知らせたことや,電話で説明したことが,裁判所への適法な届出の代わりになるとは限らない。提出方法は,当該裁判所の案内と現行の手続に従って確認する。
2 認否で争われた場合の期限
債権の内容について再生債務者等が認めず,又は届出再生債権者が異議を述べた場合には,原則として異議者等の全員を相手方とする査定の申立てにより確定を求める(民事再生法105条)。申立ては当該債権に係る調査期間の末日から1か月の不変期間内に行う。
開始当時に訴訟が係属している場合や,執行力ある債務名義・終局判決がある場合は,受継や異議の主張について別の制度がある(同法107条・109条)。「否認されたらすべて新しい査定申立て」と決めず,手持ちの判決,公正証書及び訴訟記録を確認する必要がある。
査定の裁判に不服がある者の異議の訴えは,送達を受けた日から1か月の不変期間内に提起する(同法106条1項)。申立てと訴えでは起算点が異なるため,調査期間末日と送達日を別々に管理する。
第4 貸倒処理は議決権や支払の遅れと分けて判断する
1 切捨額と残る請求権を分ける
債権者である法人については,法人税基本通達9-6-1(1)が,再生計画認可の決定によって切り捨てられる部分を,その事実が発生した日の属する事業年度の貸倒れとして扱う。債権が計画により減額されることと,残存部分の回収不能とは別の問題である。
民事再生法179条・181条による権利変更は認可決定の確定を要する一方,上記通達は認可の決定を基準としている。弁護士と税理士は,認可決定日,確定日,対象債権,切捨率及び残存額を分けて確認し,民事上の効力発生時期をそのまま税務の年度帰属に置き換えないことが必要である。
自認されて議決に参加できないことや,181条2項により支払が後になることだけで,残存額の全額が税務上の貸倒れになるわけではない。法人税基本通達9-6-2による処理を検討する場合は,残る金銭債権の全額の回収不能が明らかになったかを確認する。
2 消費税と共有資料
消費税の貸倒れに係る税額の調整は,課税対象となる取引の売掛金等について適用要件を満たす場合の制度である。貸付金や前払金返還請求を,売掛金と同じように扱うことはできない。国税庁は,切捨てその他の貸倒れの事実を示す書類の保存を必要としている。
弁護士から税理士へは,債権の発生原因と残高,届出書・受付記録,認否書,計画案・認可決定,確定日,切捨額,残存額及び支払条件を共有すると判断しやすい。担保・保証や第三者からの回収,181条2項の適用があれば,その根拠と回収見通しも添える。これは実務上の資料整理例であり,一律の法定添付書類を列挙したものではない。
法人税・消費税の詳細は,法人の貸倒損失の計上基準―法人税・消費税を参照されたい。
第5 出典と関連記事
1 一次資料
①e-Gov法令検索・民事再生法―49条,84条・87条,94条~96条,101条,104条~107条,109条,119条・121条,156条,170条・171条,178条~181条。令和8年10月10日施行状態の条文による。
②国税庁・法人税基本通達9-6-1~9-6-3―切捨て,全額回収不能及び一定期間取引停止後の貸倒れ。
③国税庁・No.5320「貸倒損失として処理できる場合」
④国税庁・No.6367「貸倒れに係る税額の調整」―③・④は令和8年4月1日現在の法令等による説明。
2 関連記事
①米国のチャプター11と日本の民事再生手続の徹底比較
②共益債権を再生債権として届け出た場合
③令和6年司法試験倒産法第2問の模範解答・評価項目