第1 数量超過で最初に確認すること
「年1,000個まで」の特許ライセンスについて,1,100個の販売が判明した場合を考える。これは説明用の例であり,法定の数量基準ではない。超過分の実施料を支払えば販売を続けられるのか,転売先の販売まで差止めの対象になるのか,精算金に消費税を含めるのかは,それぞれ別に確認する必要がある。
まず契約原文・変更合意・数量記録を集め,対象製品と期間を特定する。許諾範囲が不明なまま追加出荷を決めず,法務,事業部,経理で暫定方針と決裁者を定める。以下の管理方法は実務上の提案であり,すべての契約に同じ法定手続があるという意味ではない。
第2 許諾範囲・支払義務・契約終了を分ける
特許法78条2項は,通常実施権者の実施を,法律の規定又は設定行為で定めた範囲内で認める。契約では,対象特許,製品,生産・使用・譲渡等の行為,地域,期間,当事者と再許諾の可否を確認する。
数量条項が,許諾する実施の範囲を画する条項なのか,販売報告・実施料計算・最低保証等の債務を定める条項なのかを読む。見出しだけでなく,超過時の追加許諾,料金変更,出荷停止,解除等の条項と交渉経緯も対応させる。「数量違反なら必ず侵害」「契約違反だから特許侵害にはならない」のいずれも,一律の結論にはできない。
実施料の不払いについても,支払債務の不履行と許諾の存否を分ける。催告,解除の要件,通知の到達及び効力発生日を確認し,支払期日の翌日から全製品が当然に無許諾になると扱わない。解除前に適法に流通へ置かれた製品と,終了後に新たに生産・販売する製品も区別する。
第3 転売先と消尽をどう検討するか
最高裁平成9年7月1日判決(BBS事件)は,特許権者又は許諾を受けた実施権者による国内譲渡と,その製品のその後の使用・譲渡等に関する消尽を示している。流通の自由と,特許権者に対価を確保する機会があることが理由である。ただし,同判決は,数量制限を超えたライセンシーの販売を直接判断した事件ではない。
数量制限に関する紛争では,最初の譲渡が許諾された範囲内か,数量条項を特許権に基づく制限として扱うべきかを検討する。転売先が契約を知らなかったことだけで,差止めを当然に排除できるとは考えない。他方,実施料が実際に未回収であることだけを理由に,既に適法に譲渡された製品の消尽を否定するのも適切ではない。
製造番号,ロット,出荷日,販売先及び返品を照合し,争われる超過分と通常の許諾品を識別する。買主への説明・返金・補償の契約問題は,特許権の効力とは別に検討する。国外で最初に販売された製品にはBBS事件の別の判断枠組みがあるため,国内の数量管理だけで輸入の可否を決めない。
第4 数量を把握し,出荷判断を記録する
締結時に数量の数え方を決める。生産数,出荷数,売上計上数又は販売数のどれか,対象年度の開始日,関連会社・委託工場の数量,無償サンプル,不良品,返品及び再販売を含むかを明記する。同じ1個を二重計上しない仕組みと,報告資料の原本への参照を用意する。
- 事業部・製造部は,製造番号又はロットと月別数量,出荷予定,返品記録を集計する。
- 契約担当は,上限に近づく前の警告値と報告日を決め,追加許諾の承認者・代替担当を登録する。
- 法務は,契約の版,超過の原因,許諾の解釈,停止・条件変更・追加許諾の選択肢を整理する。
- 経理は,販売報告と請求済み実施料を照合し,未払額と超過分の候補額を分ける。
- 決裁者は,追加出荷の条件,権利者への申入れ担当及び次の確認期限を記録する。
超過発覚後は原データと変更履歴を保全し,数字だけを帳尻合わせしない。停止範囲は契約・特許・製品ごとに判断し,会社全体の販売を当然に止めるという運用にしない。
第5 超過分を精算するときの合意事項
精算の合意では,対象特許・請求項,製品,期間,数量及び金額計算を別紙で対応させる。過去の超過分についての紛争解決,今後の追加許諾,既存在庫の販売猶予,取引先に流通した製品の扱いを区別する。
追加金の支払だけで,過去の侵害主張の放棄,将来の販売許諾及び第三者の販売保護まで合意したことにはならない。合意書には,誰のどの行為について請求を清算するか,権利者が第三者に対してどう対応するか,効力発生日,未払実施料,報告・監査と終了後義務を具体化する。
例えば「対象期間に販売した別紙記載の超過製品について追加実施を許諾する」案と,「侵害の有無について双方の主張を維持しつつ,特定の請求を金銭で解決する」案は,同じものではない。目的に合わせて合意内容を選び,過去の帳票や契約の日付を事実と異なる日に書き換えない。
第6 実施料・侵害賠償・和解金と消費税
ここでは,日本国内の事業者間で,日本の特許の実施許諾又はその紛争を精算する通常の取引を想定する。消費税法2条2項は,資産の貸付けに「資産に係る権利の設定」を含める。消費税法基本通達5-4-1も,特許権等に係る実施権・使用権の設定を例示する。国内の事業として対価を得て行う実施許諾は,原則として消費税の課税取引として検討する(同法2条・4条)。
さらに,消費税法基本通達5-2-5は,実質が対価となる損害賠償金の例として「無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」を挙げる。国税庁No.6257も特許権等の侵害賠償を課税対象の例として説明している。したがって,特許侵害に係る支払を単に「損害賠償金」「解決金」と記載して,消費税の対象外と処理することはできない。
和解案では,未払実施料,追加許諾の対価,過去の侵害に係る賠償,独立した他の損害及び費用を,実際の合意と計算根拠に沿って分ける。どの項目が何の対価かを確認し,混合する和解金を全額一括で課税又は不課税と決めない。当事者が内訳に名称を付けるだけで税務当局の判断を拘束できるわけでもない。
合意前に,税込・税別,消費税相当額の負担,支払総額,請求書等の交付担当・期限を税理士と確認する。受領者の納税義務・登録と,支払者の仕入税額控除の要件は別問題であり,登録番号の記載だけで控除可能額を決めない。国外の権利・非居住者・外国法人を含む場合は,国内外判定,源泉徴収及び租税条約を追加検討する必要があり,本節の結論をそのまま当てはめない。
第7 弁護士と税理士が共有する資料
弁護士は,特許の対象・許諾範囲,契約違反と侵害の主張,解除・変更の効力,清算する請求及び第三者の扱いを整理する。税理士は,その事実関係と実際の支払内容を踏まえ,消費税区分,所得税・法人税の計上時期,支払側の費用処理及び必要な証憑を検討する。消費税の課税取引であることだけで,支払側の法人税上の即時損金算入まで決まるものではない。
- 原契約,別紙,変更合意,交渉記録,解除・催告通知と到達記録
- 対象特許・請求項,実施の地域・期間・当事者と権利者
- 数量の原データ,製造番号・ロット,出荷・返品・在庫と転売先の記録
- 請求済み実施料,入出金,元の税区分・仕訳及び申告済み期間
- 和解案の支払内訳,算定表,追加許諾の内容と効力発生日
- 税込・税別の合意,請求書等の交付,計算・説明・再確認の担当と期限
税務の確認を支払後まで延期せず,双方が合意する前に同じ資料で判断する。紛争の解決,許諾の確保及び税引後の資金負担を,一枚の精算メモで説明できる状態にすることが有用である。
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第9 出典・適用範囲
法令・行政資料は令和8年10月10日に確認した。国税庁No.6257の本文表示は令和8年4月1日現在法令等である。以下の判決は消尽の一般的な根拠として参照し,数量超過のすべての場合の結論を示す先例とは扱っていない。契約文言,許諾経緯,製品の流通及び支払内容によって個別の結論は変わる。
①特許法68条,78条,100条
②最高裁第三小法廷平成9年7月1日判決(平成7年(オ)第1988号,民集51巻6号2299頁。国内譲渡の理由は4~5頁)
③消費税法2条・4条
④消費税法基本通達5-4-1(実施権等の設定)
⑤消費税法基本通達5-2-5(損害賠償金)
⑥国税庁No.6257「損害賠償金」