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政治家の演説の切り抜き動画・要約をSNSに載せてよいか―著作権法40条1項,演説動画の著作権及び放送の著作隣接権(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象

本記事は,政治家や立候補予定者が街頭や集会で行った演説を,第三者が切り抜き動画にし,又は要約してSNS・ブログ・動画サイトに載せることが,著作権法上どこまで許されるかを整理するものである。
演説をした側(政治家・陣営)から削除を求める場合と,切り抜きや要約を作る側の双方の立場から検討する。
条文は,令和8年10月10日時点の著作権法(e-Gov法令検索)による。

2 結論の要旨

①公開して行われた政治上の演説そのもの(言語の著作物)は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き,いずれの方法によるかを問わず利用することができる(40条1項)。
要約,書き起こし,字幕付けも含まれると解される。
②もっとも,40条1項が自由な利用を認めるのは演説という著作物である。
演説を撮影・編集した動画に撮影や編集の創作性があれば,その動画の著作権は別に問題となると考えられる。
③テレビ放送等を録画して切り抜く場合は,放送事業者の著作隣接権(98条の複製権,99条の2の送信可能化権)も問題となる。
著作隣接権の制限を定める102条1項は,40条を準用していない。
④他人が撮影した動画や放送の映像を使うときは,引用(32条1項)又は時事の事件の報道(41条)の要件を満たす必要がある。
⑤切り抜き方によって発言の趣旨を歪めれば,演説者の同一性保持権(20条1項),名誉声望を害する利用(113条11項)又は名誉毀損の問題が生じ得る。

第2 演説そのもの―40条1項

1 条文と要件

著作権法40条1項は,「公開して行われた政治上の演説又は陳述並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と定める。
演説の原稿や話した内容は,思想又は感情を創作的に表現したものであれば言語の著作物(2条1項1号,10条1項1号)であるが,同項の要件を満たす限り,著作権者の許諾なく利用できる。

(1) 公開して行われたこと

駅前や街頭での演説,誰でも参加できる集会での演説は,公開して行われたものといえる。
これに対し,後援会や支持者だけを集めた非公開の会合での話は,参加者が多くても,公開して行われたとはいえない場合がある。

(2) 政治上の演説又は陳述

40条1項の趣旨は,公開の場でされた政治上の意見の表明を広く国民に伝え,自由な批判にさらすことにあると考えられる。
そうすると,政治上の演説に当たるかは,演説者が現に議員等の地位にあるかではなく,演説の内容が国や社会のあり方についての意見の表明であるかによって判断するのが自然である。
令和7年司法試験の知的財産法第2問は,政治家を目指している者が駅前広場で日本の将来を論じた文章の要約の掲載を素材として,同項の適用を問うている。

(3) 同一の著作者のものを編集して利用する場合

同項は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除いている。
法務省の令和7年司法試験の採点実感(知的財産法)は,この除外について,同一の著作者による複数の演説をまとめて出版するような場合が想定されているとし,一つの演説を要約した事案もこれに当たると誤解した答案が少なからず見られたと指摘している。
一人の政治家の演説を多数集めて演説集として出版・配信するような利用は,同項によっては許されない。

2 要約・書き起こし・切り抜きも含まれる

40条1項は「いずれの方法によるかを問わず」利用できると定めている。
また,48条3項1号は,40条1項の規定により創作された二次的著作物を利用する場合の出所の明示を定めており,同項による二次的著作物の創作,すなわち要約等の翻案を予定している。
権利制限規定に伴う翻訳・翻案等を定める47条の6第1項も,40条2項を挙げる一方で同条1項を挙げていない。
したがって,要件を満たす演説については,全文の書き起こしだけでなく,要約,抜粋,字幕付けも許されると解される。

ただし,40条1項によって利用する場合は,出所を明示しなければならない(48条1項2号)。
誰が,いつ,どこで行った演説かを示すのが基本である。

3 40条2項との違い

国若しくは地方公共団体の機関,独立行政法人又は地方独立行政法人において行われた公開の演説又は陳述については,40条2項が,報道の目的上正当と認められる場合に,新聞紙・雑誌への掲載,放送,有線放送等を認めている。
同項に掲げられた方法には,個人のブログやSNSへの投稿は含まれていない。
もっとも,その演説が政治上の演説として40条1項の要件を満たすなら,同項によって利用することになる。

4 40条1項の対象とならない話

企業の決算説明会,学会の講演,セミナー又は一般の講演会での話は,政治上の演説に当たらない限り,40条1項によっては利用できない。
この場合の要約の扱いは,他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害かで整理している。

第3 演説を撮影・編集した動画の著作権

1 動画は映画の著作物になり得る

著作権法にいう映画の著作物には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物が含まれる(2条3項)。
陣営や政党が演説を撮影し,カメラワークを工夫し,場面を選んで編集し,テロップや音楽を付けて公開した動画は,映画の著作物に当たり得る。
他方,固定したカメラで演説を漫然と録画しただけの映像は,撮影や編集の創作性が認められないことがある。
映像の著作物性の考え方は,固定カメラ映像・編集映像の著作物性で扱っている。

2 動画の著作者と著作権者

映画の著作物の著作者は,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者である(16条)。
撮影や編集を業者に依頼した場合は,業者側の撮影者・編集者が著作者となることがある。
もっとも,著作者が映画製作者(映画の著作物の製作に発意と責任を有する者。2条1項10号)に対し製作に参加することを約束しているときは,著作権は映画製作者に帰属する(29条1項)。
削除を求める側は,誰が動画の著作権者かを,制作の契約や発注の記録から確認しておく必要がある。

3 40条1項は動画の著作権を制限しない

40条1項が利用を認めているのは,「公開して行われた政治上の演説又は陳述」である。
演説を撮影・編集した動画に撮影や編集の創作性があれば,その動画は演説とは別の著作物であり,その著作権は同項によって制限されないと考えられる。
そのため,陣営が公開した動画の一部をそのまま切り出して投稿する行為は,演説の利用としては40条1項で許されても,動画の複製(21条)及び公衆送信(23条1項)として,動画の著作権者の許諾又は別の権利制限規定(引用等)が必要になり得る。
これに対し,演説の内容を自分で書き起こし,要約し,又は自分で撮影した映像を使うのであれば,陣営の動画の著作権は問題とならない。

第4 テレビ放送・同時配信から切り抜く場合

1 番組の著作権と放送事業者の著作隣接権

テレビの報道番組や中継の映像は,放送事業者等が製作した映画の著作物となり得る。
これとは別に,放送事業者は,その放送を受信して録画等により複製する権利(98条)や,その放送を送信可能化する権利(99条の2)を有する。
録画した放送から演説の場面を切り抜いて動画サイトに載せる行為は,番組の著作権と放送事業者の著作隣接権の双方の問題となる。

2 102条1項は40条を準用していない

著作隣接権の制限を定める102条1項は,30条1項,30条の2から32条まで,35条,36条,41条から43条まで等の規定を著作隣接権の目的となっている放送等の利用に準用しているが,40条を挙げていない。
そのため,放送の録画を切り抜いて投稿する場合は,演説自体が40条1項で自由に利用できても,放送事業者の著作隣接権との関係では同項に頼ることができない。
この場合に検討できるのは,102条1項で準用される引用(32条)や時事の事件の報道(41条)である。

第5 切り抜く側が頼れる規定

1 引用(32条1項)

32条1項は,公表された著作物について,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる引用を認めている。
政治家の発言を批評・論評する動画で,その対象となる発言の場面を必要な範囲で示すことは,引用に当たり得る。
引用に当たるかは,利用の目的,方法や態様,利用される著作物の種類や性質,著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮して判断される(知財高裁平成22年10月13日判決(平成22年(ネ)第10052号))。
発言の場面をほとんどそのまま並べ,論評がわずかしかない「まとめ」動画は,論評が主で引用部分が従とはいえず,引用に当たらないおそれが高い。
引用部分と自分の論評が区別できること,出所を明示すること(48条1項1号・3号)も必要である。

動画を素材にした例として,東京地裁令和4年11月24日判決(令和3年(ワ)第24148号)は,動画投稿サイトの動画からキャプチャした多数の静止画を時系列に従って貼り付け,その間に内容の要約を記載したブログ記事について,引用(32条1項)にも時事の事件の報道(41条)にも当たらないとして,動画の著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害を認めた。
その控訴審の知財高裁令和5年7月13日判決(令和5年(ネ)第10001号等)も,これらの点について原審と同旨又は結論において同旨の判断をし,損害額を192万4405円に変更した。
同事件の動画の著作権者は,収益の分配等を条件にクリエイターに切り抜き動画の作成を許諾していたが,原審は,許諾を受けていない者に対する著作権の行使が権利の濫用に当たるとはいえないとした。

なお,47条の6第1項2号は,32条による利用に伴って許される方法として翻訳だけを定めている。
引用した映像の内容を作り替える編集は,引用の範囲を超えるおそれがある。

2 時事の事件の報道(41条)

41条は,写真,映画,放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合に,その事件を構成し,又は事件の過程で見られ若しくは聞かれる著作物を,報道の目的上正当な範囲内で利用することを認めている。
選挙戦の演説や,演説が大きな話題になったこと自体は,時事の事件となり得る。
もっとも,同条は「報道」のための規定である。
東京地裁令和3年7月16日判決(令和3年(ワ)第4491号)は,訴状をブログに掲載した事案で,記事の趣旨が訴えを提起されたことへの遺憾の意の表明や訴状の内容の不当性を訴えることにあり,「社会的な意義のある時事の事件として客観的かつ正確に伝えようとするもの」とは解されないとして,同条の適用を否定した。
演説の場面を切り抜いて揶揄するだけの投稿は,報道に当たらないと判断されるおそれがある。
同条は102条1項により著作隣接権にも準用されるが,報道の目的上正当な範囲を超えて番組の映像を長く使えば,同条によっても許されない。

3 映像作品を要約した動画との違い

東京地裁令和4年11月17日判決(令和4年(ワ)第12062号)は,約2時間の映画をそれぞれ10分ないし15分程度に,作品全体の内容を把握できるように編集した動画をYouTubeに投稿した事案で,当事者間に争いのない事実に基づき,翻案権及び公衆送信権の侵害を認め,再生数1回当たり200円として損害額を算定した。
この事案では,被告らが原告らの主張する事実を認めて争わなかったため,翻案に当たるかについての独自の判断は示されていない。
政治上の演説は40条1項によって要約が許されるのに対し,映画やドラマ等の映像作品の要約動画にはそのような規定がない。
演説の切り抜きと映像作品の要約を同じに考えないことが重要である。

第6 著作者人格権・名誉・肖像

1 権利制限規定は著作者人格権に影響しない

50条は,著作権の制限に関する規定が著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならないと定めている。
40条1項によって演説を利用できる場合も,演説者の著作者人格権は別に検討する必要がある。
演説の一部を切り出すこと自体が直ちに同一性保持権の侵害になるわけではないが,前後を切り離して発言の趣旨を逆に見せる編集や,発言の順序を入れ替えて別の主張に見せる編集は,同一性保持権(20条1項)の侵害となり得る。
著作者の名誉又は声望を害する方法による利用は,著作者人格権の侵害とみなされる(113条11項)。

2 名誉毀損

発言の趣旨を歪めた切り抜きや,切り抜きに付けた見出し・字幕が事実と異なる場合は,著作権とは別に,名誉毀損(民法709条,723条)が問題になる。
政治家の公的な発言についての論評であっても,前提となる発言の紹介が不正確であれば,その論評は正当化されにくい。

3 肖像

人の容ぼう等の撮影が不法行為法上違法となるかについて,最高裁平成17年11月10日判決(民集59巻9号2428頁)は,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきであるとしている。
公開の場で演説する政治家の姿を,その演説の報道や論評のために用いることは,受忍限度の範囲内と判断されることが多いと考えられるが,聴衆や通行人が大きく映り込む映像を使う場合は,その人たちの肖像にも配慮する必要がある。

第7 実務のチェックリスト

1 切り抜き・要約を作る側

①公開して行われた政治上の演説かを確かめる(非公開の会合,企業の説明会,一般の講演は40条1項の対象外)。
②使う素材が,自分で撮影した映像か,陣営が公開した動画か,テレビ放送・同時配信の録画かを分ける。
③他人が撮影した動画や放送の映像を使うなら,引用(32条1項)又は時事の事件の報道(41条)の要件を満たすかを確かめる。
④誰が,いつ,どこで行った演説かを示す(48条)。
⑤前後の文脈を切り落として発言の趣旨を変えていないかを確かめる。
⑥選挙運動期間中の動画の公開・広告には,著作権とは別に公職選挙法の規制があるので,別途確認する(本記事では扱わない)。

2 削除を求める側

①演説の内容だけを書き起こし・要約した投稿は,40条1項の要件を満たす限り,著作権を理由に削除を求めることは難しい。
②陣営の動画や放送の映像そのものが使われている場合は,その動画・放送の権利者が誰かを確認し,その権利(複製権,公衆送信権,著作隣接権)に基づいて請求を組み立てる。
③削除を求める請求(112条)は,掲載を続けている行為(公衆送信・送信可能化)を対象として組み立てる。
④発言の趣旨を歪めた切り抜きであれば,同一性保持権,名誉声望を害する利用(113条11項),名誉回復等の措置(115条)及び名誉毀損も検討する。

第8 関連記事

①他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害か―翻案,要約引用,公開の演説及び時事の事件の報道(AI作成)
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⑤ウェブ上のリンク・YouTube・X埋込みと著作権―リツイート最高裁判決を含む(AI作成)
⑥著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権―著作権法20条・59条・61条(AI作成)

第9 出典及び確認状態

1 法令

①著作権法(昭和45年法律第48号):2条1項1号・10号,2条3項,10条1項1号,16条,20条1項,21条,23条1項,29条1項・2項,32条1項,40条,41条,47条の6第1項,48条1項・3項,50条,98条,99条の2,102条1項,112条,113条11項,115条
②民法(明治29年法律第89号):709条,723条

2 裁判例

①知財高裁平成22年10月13日判決(平成22年(ネ)第10052号):引用(32条1項)に当たるかの判断要素
②東京地裁令和4年11月24日判決(令和3年(ワ)第24148号):動画からキャプチャした静止画を貼り付けたブログ記事と引用・時事の事件の報道・権利の濫用
③知財高裁令和5年7月13日判決(令和5年(ネ)第10001号等):②の控訴審
④東京地裁令和3年7月16日判決(令和3年(ワ)第4491号):訴状のブログ掲載と40条1項・41条
⑤東京地裁令和4年11月17日判決(令和4年(ワ)第12062号):映画を短く編集した動画の投稿と翻案権・公衆送信権
⑥最高裁平成17年11月10日判決(民集59巻9号2428頁):容ぼう等の撮影と人格的利益

3 公式資料

①法務省「令和7年司法試験論文式試験問題集[選択科目]」(知的財産法第2問はPDF21頁)
②法務省「令和7年司法試験の採点実感(選択科目)」(知的財産法の第2問はPDF23頁~24頁)

4 確認状態

条文は,令和8年10月10日にe-Gov法令APIで現行の著作権法(令和8年6月24日施行の版)を取得して確認した。
裁判例①〜⑥は,令和8年10月10日に裁判所ウェブサイトの判決全文(③は判決要旨を含む)で該当部分を確認した。
切り抜き動画と40条1項の関係を直接判断した裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では見当たらなかった。
本記事で「と考えられる」「と解される」とした部分は,条文の文言と構造から導いた本記事の整理であり,裁判例で確定した解釈ではない。