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農協による系統出荷・系統利用の強制と独占禁止法―融資・共同利用施設の条件付け,22条の適用除外及び公取委の事例(AI作成)

第1 結論

農業協同組合(以下「農協」という。)が,販売ルートの開拓,割安な資材の提供,利用の呼びかけ等によって,組合員に自らの販売事業・購買事業の利用を促すことは,独占禁止法上問題とならない。
これに対し,融資,共同利用施設の利用,リース等に当たり,農協への出荷(系統出荷)や農協からの資材購入を条件とし,組合員と商系業者との取引を制限することは,不公正な取引方法(拘束条件付取引,排他条件付取引,抱き合わせ販売等)に当たり得る。

農協は独占禁止法22条の組合とみなされるが(農業協同組合法8条),「不公正な取引方法を用いる場合」は適用除外とならない(独占禁止法22条ただし書)。
違法となるかは,農協の地位,拘束の範囲・程度・期間,商系業者の状況等から,商系業者の取引の機会が減少するような状態をもたらすおそれ(市場閉鎖効果)があるかで判断される。
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は,融資,共同利用施設の利用及び出荷先の制限について,警告や排除措置命令を重ねている。

本記事は,令和8年10月10日時点の法令と公取委の公表資料に基づく。
令和7年司法試験の経済法第2問は,まさにこの類型(低利融資の条件として組合員にαの8割の系統出荷を求める計画)を素材としている(令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目)。

第2 農協と独占禁止法の関係

1 農協は事業者でもある

独占禁止法2条1項は,「事業者」を「商業,工業,金融業その他の事業を行う者」と定義している。
公取委の「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「農協ガイドライン」という。)は,単位農協は,事業者である組合員の結合体である点で事業者団体に当たると同時に,購買事業,販売事業,利用事業,信用事業等の事業活動を行うことから事業者にも当たるとしている(第2部第1の2)。
組合員である個人の農業者も事業者に当たる。

2 22条の適用除外とその限界

独占禁止法22条は,小規模の事業者の相互扶助を目的とすること等の要件を備え,法律の規定に基づいて設立された組合の行為には同法を適用しないとしつつ,ただし書で,「不公正な取引方法を用いる場合」等は「この限りでない」と定めている。
農業協同組合法8条は,農協を同条1号及び3号の要件を備える組合とみなしている。
農協ガイドラインは,共同購入,共同販売及び農協内での共同計算は適用除外となる一方,不公正な取引方法を用いる場合等は適用除外とならないとしている(第2部第1の3)。

土佐あき農協事件の東京高裁令和元年11月27日判決(令和元年(行コ)第131号,判例秘書の判例番号 L07420604)は,22条ただし書に当たる場合には同法の規定がそのまま適用され,協同組合が共同販売事業の事業者として不公正な取引方法に当たる行為をしたときは,19条がそのまま適用されるとした。
同判決は,22条ただし書を経由する場合に限って,共同経済事業が関連市場で有力な地位にあることを別に要件とすべきだという農協側の主張も退けている。

3 農業協同組合法10条の2

農業協同組合法10条の2は,組合は同法10条の事業を行うに当たっては「組合員に対しその利用を強制してはならない」と定めている。
農協ガイドラインは,組合員が農協の事業を利用するか否かは組合員の自由意思に委ねられており,事業の利用を強制することは農協制度の趣旨に反するとともに,商系事業者等の取引の機会を奪うことなどを通じて農業分野の競争に悪影響を及ぼすとしている(第1部の1⑴)。

第3 問題となる行為の類型と公取委の事例

1 融資(信用事業)の条件付け

農協ガイドラインは,組合員は営農に必要な資金の融資について農協への依存度が高いとして,信用事業の利用に当たり,購買事業又は販売事業の利用を事実上余儀なくさせる行為を,一般指定10項(抱き合わせ販売等),11項(排他条件付取引)又は12項(拘束条件付取引)に当たり違法となるおそれがあるものとして挙げている(第2部第2の1⑶・2⑶)。
具体例には,融資に当たり組合員が農畜産物を農協系の加工業者だけに供給することを条件とすることが含まれている。

公取委は,士幌町農業協同組合が,生産資材等を購入するための短期貸付金について,同農協から生産資材を購入する場合に限って融資を行うものとしていたこと等について,拘束条件付取引に当たるおそれがあるとして,平成18年7月21日に警告した。

2 共同利用施設・リース事業の条件付け

育苗センター,ライスセンター,カントリーエレベーター等の共同利用施設は,設備費・維持費が高く,組合員が代替施設を持つことが難しい。
農協ガイドラインは,共同利用施設の利用に当たり,購買事業や販売事業の利用を条件とする行為を,違法となるおそれがあるものとして挙げている(第2部第2の1⑵・2⑵)。

公取委は,京都農業協同組合が,米の共同利用施設3施設について,同農協から生産資材を購入しない場合や同農協を通じて米を出荷しない場合には施設の利用を断ることがある旨を利用案内文書に記載して周知していた疑いについて,平成18年7月14日に警告した。
また,八代地域農業協同組合が,施設リース事業のリース先に対し,生産資材の購入と農産物の出荷を同農協に義務付けていた疑いについて,排他条件付取引に当たるおそれがあるとして,平成17年3月1日に警告した。

3 出荷先の制限,除名及び差別的取扱い

公取委は,土佐あき農業協同組合が,自ら以外の者になすを出荷したことにより支部園芸部を除名されるなどした者からなすの販売を受託しないこととしていたこと等について,拘束条件付取引に当たるとして,平成29年3月29日に排除措置命令をした。
同農協の取消請求は,前記の東京高裁判決が控訴を棄却して退けている。

このほか,公取委は,部会を除名された5名に販売事業と集出荷施設を利用させなかった大分県農業協同組合に対し,取引条件等の差別取扱い(一般指定4項)に当たるとして平成30年2月23日に排除措置命令をし,部会員の比内地鶏の出荷先を限定させていた疑いのあるあきた北農業協同組合等に対し,令和元年7月3日に警告している。

4 系統外出荷に対する金銭の徴収

土佐あき農協事件では,支部員が農協以外に出荷した場合に徴収された系統外出荷手数料(農協以外の事業者に対する販売金額の3.5%)や,出荷量が一定量に満たない支部員から徴収された罰金等を,農協が販売事業の経費に充てていたことも違反行為の内容とされた。
農協ガイドラインも,出荷量等に応じた賦課金を新たに徴収し,その分を販売手数料から減額して,農協以外へ出荷する組合員にだけ実質的な負担を課す行為を,優越的地位の濫用に当たり得る例として挙げている(第2部第2の3)。
出荷の制限は,明示の禁止だけでなく,系統外出荷に対する手数料,罰金,除名,施設利用の拒否といった不利益によっても行われる。

第4 違法性の判断枠組み

1 「拘束」の有無

公取委の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)は,契約で制限している場合だけでなく,要請に従わない取引先に経済上の不利益を課すなど何らかの人為的手段によって制限の実効性が確保されている場合にも,制限行為が行われていると判断されるとしている(第1部第2の1⑵)。
融資の打切り,施設利用の拒否,除名,手数料・罰金の徴収は,いずれもこの実効性確保の手段となる。
融資の代替となる貸手がいない,施設の代替がないといった事情は,組合員が条件をのまざるを得ないことを示し,拘束の実効性を強める。

2 市場の画定

公正競争阻害性は,行為に係る取引とそれにより影響を受ける範囲を検討して判断される(流通・取引慣行ガイドライン第1部の3⑴)。
前記の東京高裁判決は,農協が組合員からのなすの販売受託に当たって系統外出荷を制限した行為について,市場は「土佐あき農協管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託取引市場」であるとした。
農協側は,消費地の卸売市場での出荷シェアが20パーセントに満たないと主張したが,判決は,販売受託取引について拘束を課すことで商系業者が集荷すること自体が困難になるとして,この主張を退けた。

したがって,産地の全国シェアや消費地での販売シェアが低いことは,系統利用の強制を正当化する理由にならない。
問題となるのは,農家がどの業者に販売を委託するか(集荷・販売受託)の段階の競争であり,その地理的範囲は,集出荷施設の所在や農家が実際に委託できる業者の範囲から定まる。

3 市場閉鎖効果

流通・取引慣行ガイドラインは,市場閉鎖効果が生じる場合を,新規参入者や既存の競争者にとって代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入等の意欲が損なわれるといった,排除され又は取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合としている(第1部の3⑵ア)。
シェアが20%を超える事業者は「市場における有力な事業者」の一応の目安とされるが,それだけで違法となるのではなく,市場閉鎖効果が生じる場合に違法となる(第1部の3⑷)。

前記の東京高裁判決は,不公正な取引方法の要件として,具体的に競争を阻害する効果が発生していることやその高度の蓋然性までは要せず,公正競争の確保を妨げる一般的抽象的な危険性があれば足りるとし,商系業者の取引機会が減少するような状態をもたらすおそれがあれば足りるとした。
また,農協との取引関係の維持が組合員にとって重要であるため,拘束条件は組合員の系統外出荷を抑止する効果が強く,現に拘束を受けていない組合員も含めて系統外出荷への圧力になるとした。

実際の検討では,農協の集荷シェア,条件を受け入れる組合員の出荷量(拘束される量),拘束の期間(融資期間や更新の有無),商系業者の数と規模,集荷施設を新設する難しさ,商系業者が手数料の引下げ等で対抗できるかを,数字とともに整理する。
例えば,融資を受ける組合員が生産量の8割を占め,そのうち8割の系統出荷を義務付ければ,生産量の64%が商系業者の集荷対象から外れる。

4 正当化の主張

前記の東京高裁判決は,「正当な理由」はもっぱら公正な競争秩序維持の見地からみるべきであり,事業経営上の合理性や必要性があるにすぎない場合は正当な理由とならず,目的が正当であるだけでなく内容・手段も合理性・相当性を有する必要があるとした。
そのうえで,集出荷場の稼働率を高めることや固定的費用を組合員に分担させることは,事業経営上の合理性の主張にすぎず,正当な目的とならないとした。

一方,農協ガイドラインは,生産資材や農畜産物の安全性の確保,品質の維持等のために合理的な理由が認められる必要最小限の制限を,関係する全ての組合員に対して同等に課す場合は,それ自体は問題とならないとしている(第1部の2⑴)。
ブランドの品質管理,融資や広報へのただ乗りの防止等を理由とする場合は,その目的がどのような競争を促進するのかを具体的に示し,系統出荷の割合,対象範囲及び期間がその目的に必要な範囲にとどまるか(より制限的でない手段がないか)を検討する必要がある。

第5 関係者別の確認事項

1 農協

融資,リース,共同利用施設,販売事業の規程・契約書・利用案内に,系統出荷の割合・数量,全量出荷,違反時の解約・除名・利用拒否,系統外出荷手数料等の条項がないかを点検する。
部会・支部の規約も確認する。
前記の東京高裁判決は,支部園芸部が定めた系統外出荷への制裁を,農協が取引条件として組合員と取引し許容していた以上,農協の行為と評価できるとしている。
品質・安全を理由とする制限は,必要最小限の範囲で全組合員に同等に課す形にとどめる。
判断に迷う場合は,公取委の相談窓口を利用できる。

2 組合員・商系業者

独占禁止法違反の事実があると考えるときは,誰でも公取委に報告し,適当な措置を求めることができる(独占禁止法45条1項)。
不公正な取引方法によって利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあり,著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがある者は,侵害の停止又は予防を請求できる(同法24条)。
同法25条の損害賠償請求は,排除措置命令が確定した後でなければ裁判上主張できない(同法26条1項)ため,それ以前は民法709条による請求を検討する。
商系業者は,出荷を断られた事例,集荷量の推移,農家から聞いた条件の内容等を記録しておくと,報告や差止請求の資料になる。

第6 関連記事

①令和7年度司法試験経済法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け
②令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け
③令和7年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答
④不公正な取引方法に関する実務メモ
⑤販売代理店の値引き・顧客切替えと独占禁止法―再販売価格拘束、リベート及び拘束条件付取引

第7 出典

1 法令

①私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(2条1項,19条,22条,24条,25条,26条,45条)
②農業協同組合法(8条,10条の2)
③公正取引委員会「不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)」(4項,10項~12項)

2 公取委の指針・公表資料

①公正取引委員会「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成19年4月18日,最終改定平成30年12月27日)
②公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(令和8年7月8日改正版)第1部の3,第1部第2の1⑵
③公正取引委員会「農業協同組合(組合の連合会を含む。)関係の法的措置及び警告事件」
④公正取引委員会「士幌町農業協同組合に対する警告について」(平成18年7月21日)

3 裁判例

①東京高裁令和元年11月27日判決(令和元年(行コ)第131号,判例秘書の判例番号 L07420604。判決本文は公正取引委員会の審決等データベースにも掲載されている。)

本記事の各事例の内容は,公取委の公表資料と判決本文の記載によるものであり,その後の事情の変化は反映していない。