第1 調査報告書を読む目的
1 結論だけでなく調査の前提を確認する
第三者委員会の調査報告書を読むときは,「不正があったか」という結論だけでなく,誰が,どの範囲を,どの資料と方法で調査し,どのような限界の下で事実を認定したかを確認する必要がある。報告書の分量や委員の肩書だけでは,調査の十分性を判断できない。
日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」は,証拠に基づく客観的な事実認定,根本原因の分析,委員会による報告書の起案,会社に不利な事実の記載及び非公表理由の具体化を示している。日本取引所自主規制法人のプリンシプルも,必要十分な調査範囲,根本原因,実効性の高い再発防止策並びに迅速かつ的確な情報開示を重視している。
2 公表版であることの限界を意識する
公表された文書が原文,公表版,要約版又は中間報告のいずれであるかを最初に確認する。公表版では,個人情報,営業秘密又は捜査・調査への支障を理由に一部が省略されることがあるため,記載がないことと,調査されていないことを同一視してはならない。
第2 委員会の独立性と専門性
1 委員と会社との関係
報告書の冒頭又は末尾で,委員の氏名,職業,会社との現在及び過去の関係,選定主体並びに選定理由を確認する。現任の顧問弁護士は日弁連ガイドライン上の利害関係者に当たる。過去の受任者や社外役員については,事案との関係を個別に見なければならない。
「全員が外部者である」という説明だけでは足りない。誰が候補者を推薦し,不祥事への関与が疑われる経営陣が選定を主導していないか,委員会が会社の期待する結論から独立して判断できる委嘱内容であったかを見る必要がある。
2 補助者と事務局
委員以外に,調査担当弁護士,公認会計士,デジタル調査の専門家その他の補助者が誰であるか,その専門性及び会社との関係が記載されているかを確認する。会社の従業員が事務局を担う場合には,調査対象部門との情報隔壁と,委員会への直属関係が示されているかが重要である。
第3 調査範囲と調査方法
1 何を調べ,何を調べなかったか
調査対象となった行為,期間,部署,国内外の拠点,役職員及び関係会社を確認する。発覚した個別行為だけでなく,同種事案,経緯,動機,背景,内部統制,コンプライアンス,ガバナンス及び企業風土まで対象としているかを見る。
調査の途中で新たな疑義が生じた場合に,委員会が調査範囲を拡大又は変更したかも重要である。範囲を限定した理由,追加調査をしなかった理由又は設置者から与えられた制約が説明されていれば,読者は結論の射程を判断しやすい。
2 資料,電子データ及びヒアリング
検討した契約書,稟議資料,会計記録,電子メール,チャット,端末データその他の資料の種類と収集方法を確認する。ヒアリングについては,対象者数,主要な対象者,複数回実施の有無,供述と客観資料をどのように照合したかを見る。
「関係者にヒアリングした」という総括だけでは,反対資料や供述の変遷をどのように評価したかが分からない。重要な事実認定について,どの証拠が中核となり,どの証拠と食い違い,その食い違いをどう判断したかが説明されているかを確認する必要がある。
第4 事実認定の読み方
1 事実,評価及び推認を区別する
報告書には,資料から直接確認できる事実,供述によって認定した事実,複数の事情から推認した事実,法令・社内規程上の評価及び委員会の意見が混在し得る。文章の断定の強さだけでなく,根拠となる資料又は供述が示されているかを確認する。
第三者委員会の調査は法的強制力を伴わない任意調査であり,日弁連ガイドラインは,疑いの程度を明示した灰色認定や疫学的認定を行い得るとしている。その場合には,確定的な事実認定と同じ意味に読まず,認定の程度と根拠を確認する必要がある。
2 不利な事実と反対資料
会社の現経営陣に不利な事実,調査委員会の仮説に反する資料及び主要な対象者の反論を取り上げているかを見る。結論を支持する資料だけを列挙し,反対資料を検討していない報告書では,事実認定の客観性を評価しにくい。
調査協力が得られなかった者,消失した資料,保存されていなかった電子データその他の限界がある場合には,その事実と結論への影響が明示されているかを確認する。
第5 原因分析の読み方
1 個人の不正で終わっていないか
行為者の倫理観や知識不足だけを原因とすると,同じ圧力や業務構造の下で別の者が同じ行為を繰り返す危険が残る。目標設定,評価制度,権限配分,牽制機能,情報伝達,内部通報,監査,取締役会の監督及び企業風土まで掘り下げているかを見る必要がある。
日本取引所自主規制法人のプリンシプルは,表面的な現象や因果関係の列挙にとどまらず,背景を明らかにして根本的な原因を解明するよう求めている。報告書の原因分析と,再発防止策が一対一で対応しているかが評価の要点となる。
2 調査範囲と原因分析がつながっているか
原因として「企業風土」や「ガバナンス」を挙げながら,社員アンケート,類似案件,内部通報の運用又は取締役会資料を調べていない場合には,原因分析の根拠が弱い可能性がある。原因を裏付けるために必要な調査方法が実施されているかを逆向きに確認するとよい。
第6 再発防止策の読み方
1 原因に対応した具体策であるか
研修の実施,規程の改訂又はコンプライアンス意識の向上だけでは,根本原因に対応しないことがある。誰が,いつまでに,どの業務手順又は権限配分を変え,実施状況を誰が検証するのかが具体化されているかを見る。
2 実行と検証まで設計されているか
日本取引所自主規制法人のプリンシプルは,再発防止策を迅速かつ着実に実行し,日々の業務運営に反映され,定着しているかを検証することを重視している。実施責任者,期限,測定指標,内部監査又は取締役会への報告,追加改善の手続が示されているかを確認する必要がある。
第7 公表内容と非公表部分
1 公表時期と説明の連続性
不祥事を把握した段階,調査委員会を設置した段階,調査中,報告書受領時及び再発防止策の実施段階で,説明がどのように更新されたかを確認する。最終報告書だけでなく,それ以前の適時開示や会社発表と照合すると,調査範囲や説明の変化が分かる。
2 非公表理由が具体的か
報告書の全部又は一部を公表しない場合,日弁連ガイドラインは,捜査・調査への支障,関係者のプライバシー,営業秘密の保護など具体的な理由を求めている。「関係者への配慮」のような抽象的説明だけでは,情報の欠落が結論へ与える影響を判断しにくい。
第8 読者の確認順序
1 最初に確認する事項
まず,文書が原文か公表版か,委員と会社との関係,調査対象と対象外,調査期間,主要な資料とヒアリング数,調査上の制約を確認する。次に,重要な事実認定の根拠と反対資料,根本原因,原因と再発防止策の対応を読む。
2 最後に確認する事項
公表前後の会社発表と報告書が整合するか,非公表理由が具体的か,再発防止策に実施責任者・期限・検証方法があるかを確認する。第三者委員会という名称の有無ではなく,独立した調査,十分な証拠,根本原因の解明及び具体的な是正が実質的に示されているかで評価すべきである。
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第10 参考資料
日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年7月15日策定,同年12月17日改訂)
日本取引所グループ「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」