第1 この記事の対象と結論
1 委員の肩書より選定過程を見る
企業不祥事の調査で第三者委員会を設置する場合,委員に弁護士を選んだというだけでは,独立性,中立性及び専門性が確保されたことにはならない。誰が,どの候補者から,どの関係を確認した上で選んだのかを説明できることが重要である。
日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」は,企業等と利害関係を有する者は委員に就任できないとし,委員数は3名以上を原則とする。日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」も,委員の選定プロセスを含めて独立性,中立性及び専門性を確保するよう求めている。
2 選任時に固める事項
委員候補者の関係確認だけでなく,調査範囲,資料及び役職員へのアクセス,調査範囲を変更する権限,調査報告書の起案権,公表方針,事務局の指揮系統並びに報酬の決め方を文書化する必要がある。これらが会社側に留保されれば,形式上は外部委員であっても実質的な独立性が弱くなるためである。
第2 独立性をどのように確認するか
1 顧問関係と過去の受任
現任の顧問弁護士は,企業等と利害関係を有する者に当たり,日弁連ガイドライン上,委員に就任できない。過去に当該企業の業務を受任した弁護士や社外役員については,直ちに一律失格となるわけではないが,案件の性質,受任時期,業務内容及び調査対象者との関係を個別に確認する必要がある。
関係の有無だけでなく,報告書でその関係を開示し,ステークホルダーが独立性を評価できるようにすることが望ましい。確認対象には,候補者本人の関係のほか,所属事務所の継続的な受任関係や,主要な調査対象者との個人的・経済的関係も含めるべきである。
2 選任する側との関係
不祥事への関与が疑われる経営陣が候補者の選定を主導すると,調査対象から独立した選定であるかが問題となる。監査役,監査等委員会,独立社外取締役その他の非関与者を選定過程に関与させ,候補者の推薦者,選定理由及び確認した利害関係を議事録その他の記録に残すことが有用である。
第3 専門性と委員構成
1 法律だけでなく事案に必要な能力をそろえる
委員となる弁護士には,当該事案に関係する法令の知識に加え,内部統制,コンプライアンス,ガバナンス及び企業組織に関する理解が必要である。会計不正では公認会計士又は会計調査の経験者,品質不正では技術分野の専門家,電子データが中心となる事案ではデジタル調査の専門家を加えることを検討する。
専門家を委員とするのか,委員会に直属する補助者とするのかは区別して決める必要がある。補助者であっても,会社との直接契約にする場合には,調査結果の報告先を委員会に限定するなど,委員会の指揮命令と情報管理を契約で明確にすることが望ましい。
2 多様な視点と担当分担
委員が同じ専門分野に偏ると,法的評価はできても,業務実態や組織文化の把握が弱くなることがある。委員会内部で,証拠収集,ヒアリング,事実認定,原因分析及び再発防止策について誰が責任を持つかを決め,重要な判断は委員全体で検討する体制を設けるべきである。
第4 調査権限と報告書の独立性
1 資料と役職員へのアクセス
日弁連ガイドラインは,企業等が所有するあらゆる資料,情報及び社員へのアクセスを保障し,従業員等に優先的な協力を命じることを求めている。委員会の判断で調査範囲を拡大又は変更できること,資料の保存及び収集を速やかに指示できることも,委嘱契約又は設置決議に明記すべきである。
2 報告書の起案と公表
調査報告書の起案権は委員会に専属し,会社に不利な事実及び評価であっても記載対象となる。会社側が提出前に内容を確認し,削除又は表現変更を指示できる仕組みは避ける必要がある。
公表版を別に作る場合も,非公表部分を委員会が決定し,プライバシー,営業秘密又は捜査・調査への具体的な支障など,非公表理由を説明できるようにすることが重要である。
第5 事務局と情報隔壁
1 事務局は委員会に直属させる
調査を補助する事務局を設置する場合,担当者は委員会に直属させ,調査対象となる部門や経営陣との間に厳格な情報隔壁を設ける必要がある。会社側の連絡窓口と,委員会内部の証拠管理・ヒアリング調整を担う事務局を区別すると,情報流出や調査介入の危険を下げやすい。
2 協力が得られない場合の扱い
資料の提出遅延,対象者との連絡不能,調査対象データの欠落その他の制約が生じた場合には,委員会がその状況を記録し,事実認定への影響とともに報告書へ記載できるようにする。会社側の非協力を報告書から外す約束は,委員会の独立性と説明責任を損なう。
第6 報酬,期間及び辞任
1 必要な資源を事前に説明する
日弁連ガイドラインは,弁護士である委員及び調査担当弁護士の報酬は時間制を原則とし,相応の人数の専門家が相当程度の時間を費やす調査には費用が生じることを事前に説明するよう求めている。調査範囲,対象者数,データ量,拠点数及び必要な専門家を基に,概算と見直し条件を定めるべきである。
2 結果と報酬を結び付けない
成功報酬型の報酬や,委員の知名度を利用した名目的な報酬は,期待される結論へ誘導する動機となり得るため不適切である。報酬額の多寡だけでなく,報酬条件が調査判断へ影響しない設計になっているかを確認する必要がある。
委員が必要な権限,協力又は資源を得られず任務を全うできない場合に辞任できることも,委嘱契約に定めるべきである。
第7 選任時の確認事項
1 候補者について確認する事項
候補者ごとに,現在及び過去の顧問・受任関係,役員等との関係,事案に必要な専門性,投入可能な時間並びに所属事務所の利益相反を確認する。確認結果は口頭で終わらせず,選任理由とともに記録する。
2 設置文書に記載する事項
設置目的,調査範囲,委員会による範囲変更,資料・役職員へのアクセス,証拠保全,事務局の直属関係,報告書の起案権,公表方針,報酬,辞任及び会社の全面協力を記載する。第三者委員会という名称より,これらの条件が実際に確保されているかが重要である。
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第9 参考資料
日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年7月15日策定,同年12月17日改訂)