第1 少年事件の司法統計で分かること
1 家庭裁判所が受理・処理した事件の統計
少年事件の司法統計は,家庭裁判所等が取り扱った事件について,受理,処理,年末の未済及び処分内容等を集計した資料である。
犯罪の発生件数,警察の検挙人員又は全国の少年の実人数と同じ指標として扱うことはできない。
本記事は,令和7年司法統計年報・少年編を例に,統計表の対象,単位,分母及び時点を確認する方法を説明する。
同年報は令和7年中に全国の裁判所が取り扱った事件についての資料であり,令和8年6月25日掲載と記載されている。
確認日は令和8年10月7日である。
2 目的に応じて表を選ぶ
受理の増減を知りたい場合は新受人員,処分の内訳を知りたい場合は終局決定別の表,年末に残った事件を知りたい場合は未済人員を見る。
「少年事件が増えた」という説明をする際も,どの事件の,どの人員が,どの期間に増えたかを明らかにする必要がある。
裁判所の司法統計年報一覧には,年別・編別の入口がある。
同一覧では,令和6年少年編について令和8年9月17日更新版の掲載が表示されているため,過年度の数値を使う場合も更新版を確認することが必要である。
第2 新受・受理・既済・未済人員の違い
1 その年に入った事件とその年に終わった事件
新受人員はその年に新たに受理した人員,既済人員はその年に処理を終えた人員,未済人員は年末に未処理として残った人員を示す。
新受と既済は,必ずしも同じ事件の集団を追跡した数値ではない。
前年から繰り越された事件がその年に終わる場合もある。
令和7年年報の第3表は,受理人員を旧受と新受に分けている。
少年保護事件について,旧受1万79人と新受6万2565人を合わせた受理人員は7万2644人であり,既済は6万872人,未済は1万1772人である。
この例では,受理人員から既済人員を差し引いたものが未済人員と一致する。
出典は同年報第3表6頁~7頁である。
2 繰越しと訂正を確認する
一般に,新受だけから既済を差し引いても,年末の未済の増減を正確に説明できない。
繰り越された人員も含めた受理の総量を見る必要がある。
同年報の「利用上の注意」は,公表後の異同訂正により,累年表で前年の未済・当年の新受・当年の既済の計算が一致しない箇所があると説明している。
計算が合わないことだけで統計の誤りと断定せず,公表版,更新履歴及び注記を確認することが必要である。
第3 少年事件総数と少年保護事件の違い
1 総数の範囲は表の見出しで確認する
同年報第1表では,令和7年の新受人員について,少年事件の総数は6万3791人,少年保護事件の総数は6万2565人である。
同じ「総数」という文字でも,見出しの範囲が異なる。
少年事件の総数には,少年保護事件のほか,準少年保護事件,少年審判等共助事件及び少年審判雑事件等が含まれる。
第1表の注記は,成人刑事事件及び成人刑事雑事件を総数に含むことも示している。
したがって,少年事件総数をそのまま少年保護事件の新受人員として引用してはならない。
2 一般保護事件と交通関係の区分
年報の利用上の注意は,少年保護事件を一般保護事件と道路交通保護事件に分けている。
道路交通保護事件と,表によって用いられる「交通関係事件」も範囲が同じではない。
令和7年の新受人員は,一般保護事件が4万7634人,道路交通保護事件が1万4931人であり,合計6万2565人となる。
交通関係事件を除く表を利用する場合は,どの非行が除外されているかを当該表の見出しと利用上の注意で確認する必要がある。
第4 既済人員,終局総人員及び処分割合
1 既済人員と終局総人員は分母が異なる
年報の概要は,既済人員について,延べ人員であり全事件数と同数であると説明している。
また,終局総人員は,既済人員から簡易送致事件,反則金不納付事件,移送・回付で終局した事件及び従たる事件を除いた集計として定義されている。
第6表は終局決定別の既済人員を,第15表以降の多くの細別表は終局総人員を扱っている。
処分の割合を計算する際は,分子と分母が同じ表の同じ対象集団に対応しているかを確認する必要がある。
「少年院送致人員÷新受人員」という計算を,その年に受理した少年が少年院へ送致される確率と説明することはできない。
2 終局決定の内訳を一括して扱わない
令和7年年報の第6表は,検察官送致,特定少年以外の保護処分,特定少年の保護処分,知事又は児童相談所長への送致,不処分,審判不開始,移送・回付及び従たる事件等を区分している。
検察官送致にも,刑事処分相当と年齢超過の内訳がある。
処分区分を比較する際は,総数だけでなく内訳を確認する必要がある。
例えば,検察官送致の総数の変化を,刑事処分相当の変化と同じ意味で説明することはできない。
審判不開始や移送・回付を含む既済の総数と,特定の処分を受けた人員を混同しないことも大切である。
第5 特定少年と令和4年4月の集計方法変更
1 特定少年の表と年齢別の表を区別する
(1) 特定少年に係る表
少年法2条及び62条によれば,少年は20歳未満の者であり,特定少年は18歳以上の少年である。
令和7年年報は,第42表で終局総人員のうち特定少年を,第43表で特定少年以外を区分している。
(2) 年齢の基準時点
年齢を比較する場合も,第16表は終局時年齢,第17表は行為時年齢を扱っている。
行為時の年齢と終局時の年齢を取り違えると,異なる集団を比較することになる。
表の名前と年齢の基準時点を必ず併記することが必要である。
2 令和4年以前との比較には経過期の注記が必要である
年報は,改正少年法が施行された令和4年4月1日を機に,特定少年の特例規定等に対応した集計方法の見直しを行ったと説明している。
このため,第7表は令和4年3月までの第7-1表と,同年4月以降の第7-2表に分かれている。
第6表にも,令和3年及び令和4年の「保護処分(特定少年以外)」欄には,改正法施行前にされた全年齢の保護処分を含むという注記がある。
したがって,同欄の令和3年又は令和4年の値を,現在と同じ意味の特定少年以外の集団とみなして比較してはならない。
第6 増減を説明するときの実例と限界
1 令和4年から令和7年の新受人員
令和7年年報第1表の少年保護事件の新受人員は,次のとおりである。
同じ年報に収録された累年値を用い,出典となる表と対象をそろえている。
| 年 | 少年保護事件の新受人員 |
|---|---|
| 令和4年 | 4万4629人 |
| 令和5年 | 5万2642人 |
| 令和6年 | 5万6259人 |
| 令和7年 | 6万2565人 |
令和6年から令和7年には6306人増加しており,増加率は約11.2%である。
増加率は,6306÷56259×100を小数第2位で四捨五入して算出した。
ただし,これは家裁の少年保護事件の新受人員についての増加率である。
2 原因や業務量は別の資料を必要とする
新受人員の増減だけでは,非行の発生原因,事件の複雑性,調査に要する時間又は面接回数を説明できない。
調査官の必要人数や配置を検討する場合は,調査官が関与した事件の範囲,担当配分,出張等の業務量も必要となる。
概算要求と定員の検討については,令和9年度概算要求-裁判所職員101人の定員合理化と家裁調査官の増員の有無を参照されたい。
本記事の統計の読み方と,同記事の予算・定員の分析は,対象が異なる。
3 引用時に残す情報
統計を引用する際は,①年報の年と編,②表番号・資料の頁,③事件の範囲,④新受・既済等の区分,⑤年齢の基準時点,⑥更新版と確認日を記録すると,後から同じ数値を確認しやすい。
「-」は0人,「…」は不詳・表示省略又は調査対象外を示すという年報の符号の説明にも注意する必要がある。
「…」を0として計算することはできない。
第7 出典・関連資料
①最高裁判所令和7年司法統計年報4少年編概要1頁~2頁,第1表2頁~3頁,第3表6頁~7頁,第6表10頁~11頁,第16表32頁~33頁,第17表34頁~39頁及び第42表68頁~71頁等。
②裁判所司法統計年報一覧。
③e-Gov法令検索・少年法2条及び62条。
④最高裁判所家庭局News。各号に掲載された統計案内は発行時点の資料として参照する。