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損害賠償請求権の貸倒処理と非免責債権―破産,財産調査及び回収記録の実務(AI作成)

第1 請求権が残ることと回収できることを分ける

会社が犯罪や不法行為の被害に遭い,損害賠償請求権を取得した場合,請求できる権利があることと,その債権を実際に回収できることは別である。
加害者が破産した場合も,破産申立て,手続開始,配当,免責及び非免責債権の判断を分けなければならない。
法人税の貸倒損失は,民事上の請求を続けるかという判断と対応させつつ,税法上の要件と年度を別に確認する。

本記事は,令和8年10月7日に確認した法令,法人税基本通達,国税庁資料及び裁判所の公開資料に基づき,会社の税理士と回収を担当する弁護士の連携を扱うものである。
非免責性の詳しい判断基準は,破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」も参照されたい。

第2 貸倒れの三つの取扱いと損害賠償債権

取扱い損害賠償債権で確認する内容
法人税基本通達9-6-1法定の切捨て等,又は相当期間の債務超過・弁済不能を伴う書面による債務免除などの要件
同9-6-2資産状況・支払能力等から債権全額の回収不能が明らかになった年度,損金経理及び担保の処分
同9-6-3対象は一定の売掛債権。純粋な損害賠償債権へ取引停止1年の取扱いをそのまま適用しない

これらの原文は,国税庁「金銭債権の貸倒れ」に掲載されている。
貸倒損失を計上したいからという理由で,賠償債権の勘定科目を売掛金へ付け替えても,債権の発生原因は変わらない。
回収のために分割払の約束を得たことや,和解・公正証書を作ったことだけで,通常の売掛債権と同じ取扱いになるものでもない。

書面で請求を放棄すれば必ず貸倒損失になるわけではない。
9-6-1(4)では,債務超過が相当期間続き,弁済を受けられないことが必要である。
合理的な回収手段を捨てる無償の放棄は,寄附金等の問題も生じ得るため,民事上の合意と税務処理を同時に検討する。

法人税基本通達9-7-16・9-7-17(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_07_04.htm)は,会社が第三者へ損害賠償金を支払った場合の,役員・使用人に対する求償債権等を扱う。
その「全部又は一部」という取扱いを,会社自身が窃盗・横領の被害を受けて取得した賠償債権へ,当然に適用することはできない。
誰が被害者で,誰へ賠償金を支払い,どの原因で社員に請求するのかを確認し,一部貸倒れの根拠を取り違えないようにする。

第3 逮捕,退職及び破産申立てだけでは足りない

加害者が逮捕された,会社を退職した,弁護士から受任通知が届いた,又は破産申立てをしたという事実だけで,賠償債権全額の回収不能が確定するわけではない。
預金,不動産,換価できる財産,収入,先順位の担保,生活状況及び他の債務を確認する。
担保や保証がある場合は,その回収経路を含めて検討する。

国税不服審判所令和元年5月16日裁決(https://www.kfs.go.jp/service/JP/115/11/index.html)の公表裁決書(抄)「4(4)」は,会社の商品を窃取・横領して転売した元従業員に対する損害賠償請求権について,平成25年1月期から平成29年1月期までの全額回収不能を否定した。
対象年度には会社が本人へ給与を支払っており,支払能力が皆無とはいえなかったことや,会社が発覚後直ちに賠償請求訴訟を提起したこと等が考慮されている。
資産に乏しく他の支払義務もあるという事情は,一部の回収が困難であることをうかがわせるにとどまると判断された。

この事案の懲戒解雇は平成29年9月15日であり,対象年度は解雇前である。
裁決は,非免責性や破産後の将来給与を直接判断したものではない。
「給与があれば常に貸倒処理できない」という一般則として読むのではなく,評価した年度と当時の具体的な支払能力を確認する必要がある。

反対に,全額回収不能を検討するため,どの事件でも必ず訴訟と強制執行を最後まで行わなければならないという一律の手順が定められているわけでもない。
財産調査で判明した内容,回収額の見込み,必要な費用・労力及び実行できる回収手段を記録する。
「費用が惜しい」という判断だけでなく,回収不能を客観的に説明できる資料が必要である。

第4 破産手続の段階ごとに何を確認するか

段階民事上の確認税務上の確認
受任通知・申立て手続の予定,債権額,届出先通知だけで貸倒れとしない
手続開始事件番号,管財人,債権届出・配当の予定財産・配当見込みの資料を収集する
配当・終了配当額,未回収残高,終了又は廃止の理由残額の回収不能とその年度を検討する
免責の確定請求権への免責の効力,非免責事由法的責任の変化と回収不能の根拠を分ける

会社は,受任通知だけでなく,開始決定,債権届出書,管財人の報告,配当通知,終了・廃止決定及び免責関係の書類を,入手できた範囲で保存する。
同時廃止という名称だけで全額回収不能を説明せず,財産に関する資料と決定の内容を確認する。
届出をしなかった結果として配当を受けられなかった場合は,回収不能の原因と会社の対応も別に問題となり得る。

一部を配当又は任意弁済で回収した後でも,残った債権の全額が回収不能と明らかになれば,その残額について9-6-2の適用を検討する。
これは,当初から回収困難と推測した一部だけを任意に切り出して損金にするという処理とは異なる。

第5 非免責債権なら貸倒処理できないのか

1 故意の不法行為をすべて非免責としない

破産法253条1項2号は,「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を免責の例外とする。
窃盗・横領という犯罪名,故意の存在又は有罪判決だけから,すべての賠償債権が当然にこの例外に該当すると断定することはできない。
請求原因,行為時の認識及び相手方を害する積極的な意欲を裏付ける事情を検討する。

大阪地方裁判所平成27年8月27日判決(平成24年(ワ)第9838号,著作権侵害差止等請求事件)は,権利侵害の故意と2号の積極的害意を区別している。
この判断を窃盗事件へそのまま移すのではなく,通常の故意と非免責性の要件が同じではないことを確認するために参照する。

2 法的責任の存続は回収の保証ではない

非免責債権に当たる場合,免責許可決定が確定しても,その債権について破産者が責任を免れる効果は生じない。
しかし,そのことは,預金や不動産が存在すること,優先的に配当を受けられること,又は将来の回収が保証されることを意味しない。
千葉地方裁判所の「破産・免責手続について」Q19も,非免責債権該当性に争いがある場合は,他の裁判手続等で確定すると説明している。

破産法の非免責性と,9-6-2の全額回収不能は,それぞれ異なる条件を判断する制度である。
したがって,法的に請求できる債権が残っているという理由だけで,税務上の事実上の貸倒れが常に排除されると考えるべきではない。
他方,現時点で無資力という説明だけで将来の支払能力を無視せず,収入,健康・就労状況,執行可能性等を踏まえ,全額回収不能が明らかかを慎重に判断する。
この整理は両制度の要件を区別したものであり,非免責の盗難賠償債権なら一律に貸倒処理できるという特例ではない。

3 税務処理のために権利放棄を先行させない

9-6-2は,回収不能を理由とする取扱いであり,必ず債権放棄によって権利を消滅させることを求めるものではない。
税務上の費用計上を急いで,回収可能な非免責債権まで清算条項や免除通知で失わないようにする。
放棄や和解による減額をする場合は,弁護士と税理士が,残る権利,回収見込み,税務上の類型及び効力発生日を確認してから書面を作成する。

4 現在の給与と未定の再就職を区別する

民事執行法151条(https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004)によれば,継続的給付に対する差押えは,差押え後に受ける給付にも及ぶ。
現在の勤務先から継続して支払われる給与と,「いずれどこかへ再就職するかもしれない」という可能性は,同じ回収資料ではない。
同法152条・153条及び裁判所の給与差押えの案内(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_09/minzi_26_01/index.html)に照らし,給与総額ではなく差押可能額,雇用の継続性,競合する差押え及び回収費用を確認する。

決算時の支払能力を検討する資料としては,①現在の勤務と実際の収入,②具体的な採用内定や復職予定,③年齢,健康,資格及び就労歴,④財産・担保・保証と他の債務,⑤催告,任意弁済及び執行の経過を整理することが考えられる。
これは法令・通達と裁判例の判断枠組みを踏まえた実務上の提案であり,非免責の窃盗賠償債権について将来給与を直接判示した裁判例の結論ではない。
無職であることだけでも,抽象的な再就職可能性だけでも結論を決めず,当該年度に全額回収不能が客観的に明らかかを判断する。

同法206条の給与情報取得は,扶養義務等に関する請求権又は人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権など,対象となる債権の種類が限定されている。
財産を盗まれた会社の賠償債権が非免責に当たることだけで,この手続を利用できるわけではない。
勤務先が適法に判明している場合の給与差押えと,裁判所を通じて勤務先情報を取得できるかは,分けて検討する。

5 年金収入があっても貸倒れを認めた判決の射程

国税庁が公表する東京地方裁判所平成25年10月3日判決(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2013/pdf/12301.pdf)(税務訴訟資料263号-177,順号12301)のPDF13~16頁は,元代表者に対する貸付金等について,平成20年11月30日時点の全額回収不能を認めている。
債権は約3億7872万円,退職後の年金収入は年約250万8396円であった。
年金受給権を差し押さえられず,本人が任意弁済を拒み,年金全額を返済に充てても150年以上を要する事情等から,回収の実効性が極めて弱いと判断した。

配偶者の給与についても,本人とは別の人格であることから,本人に対する債権の回収不能という結論を左右しないとされている。
配偶者が保証人又は共同債務者である場合の責任は別に確認すべきであり,家族の収入を当然に本人の支払能力へ足してはならない。
また,退職前に給与を差し押さえなかった点には,取引先の引継ぎ等の個別事情が考慮されており,債権者が回収を任意に放棄してよいという判断ではない。

この判決は貸付金等の事案であり,窃盗・横領の賠償債権の非免責性を判断したものではない。
貸倒れの基準時は平成20年で,平成25年の破産手続より前であり,破産後の将来給与についての直接の先例でもない。
150年という数字は当該事案の事情であり,一定年数を超えれば貸倒れになるという基準として用いることはできない。

6 回収不能は収入の有無だけで判断しない

最高裁判所平成16年12月24日第二小法廷判決(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52371.pdf)(興銀事件)の理由4,PDF8~10頁は,全額回収不能が客観的に明らかであることを要するとした上で,債務者の資産・支払能力だけでなく,回収に要する労力・費用,債権者側の経営上の損失等も,社会通念に従って総合判断する枠組みを示している。
金融機関の住専向け債権を扱った事案であり,個人の非免責賠償債権や将来給与を直接判断したものではない。
単に「回収費用をかけたくない」とするのではなく,実行できる手段とその実効性を資料に沿って評価するための一般的な判断枠組みとして参照する。

非免責であるという法律上の評価と,現実に回収できるという事実上の評価は,それぞれ根拠を示す必要がある。
少額でも現実の回収が見込める場合に,回収困難な部分を見積もって任意に償却することは,9-6-2による全額貸倒れとは異なる。
将来の回収額を割り引いて計算したことだけでも,全額回収不能を証明したことにはならない。

第6 回収不能を説明する記録の作り方

会社は,債権の成立を示す資料と回収不能を示す資料を分け,決算期ごとに判断を残す。
次の記録は,法令が特定の書式を義務付けるという意味ではなく,担当者の変更や税務調査に備えるための実務上の提案である。

記録残す内容
債権の根拠被害の原資料,請求書,訴状,判決・和解等,税務上の計上年度・額
回収の経過催告日,回答,分割払の履行状況,仮差押え・差押え,入金と現物返還
財産・収入適法に取得した預金・不動産等の資料,担保・保証,給与等の収入,破産記録
決算時の判断未回収残高,回収不能が明らかになった日と理由,反対資料,損金経理及び申告調整

財産調査は,裁判手続,本人の適法な資料提供その他の正当な方法で行う。
以前の給与振込口座が分かることだけで,現在も残高があるとはいえない。
判決を得たこと,差押えが不奏功だったこと及び破産記録に資産が記載されていないことも,それぞれ対象と確認時点を明示する。

回収可能性を示す反対資料も残すことが大切である。
例えば,定期的な弁済,新たな勤務先,換価できる財産又は保証人の支払能力が確認できるなら,回収不能の説明にどう影響するかを検討する。
資料を選別して「全額回収不能」とだけ結論を書くことは避ける。

第7 仕訳,貸倒引当金及び後日の回収

1 帳簿上の債権と税務上の債権を照合する

当期に全額回収不能が明らかとなり,税務上も要件を満たす未収損害賠償金については,基本形として「借方:貸倒損失/貸方:未収入金等」を検討する。
貸倒引当金が既にある場合は,その取崩しと残額の費用処理を分ける。
過年度の修正申告で債権だけを益金に算入していた場合は,帳簿残高,税務上の留保残高及び当期処理を税理士と照合し,単純に帳簿残高だけを落とさない。

9-6-2による貸倒損失は,全額回収不能が明らかになった事業年度と損金経理が問題となる。
貸倒れの年度・要件に合わない会計上の費用は,税務上の加算等を検討する必要がある。
「費用に仕訳したから損金になる」という順序ではない。

2 貸倒引当金も会社の適用資格から確認する

国税庁タックスアンサーNo.5500は,益金に算入された未収の損害賠償金を,一括評価金銭債権の例として挙げる。
ただし,これだけで全法人が貸倒引当金を損金算入できるわけではない。
同No.5501等により,会社の適用資格,資本関係,対象債権,評価方法及び繰入限度額を確認する。

3 貸倒処理後も権利・回収の台帳を管理する

事実上の貸倒処理をしても,民事上の権利を放棄したことにはならない。
請求を続ける場合は,債権管理台帳に元の請求額,回収済み額,税務上の貸倒額及び現在の権利残高を別々に残し,弁護士が時効・執行を管理する。
後日入金があれば,税理士へ速やかに共有し,税務上損金にした債権の回収として当期の益金計上等を確認する。

第8 法人税の貸倒れと消費税の貸倒税額控除を分ける

純粋な損害賠償金は,通常,資産の譲渡等の対価ではない。
消費税基本通達5-2-5に照らし,名前ではなく実質を確認する。
使用できる物品の引渡し等を含む和解では,対価となる部分と純粋な損害補填を区分して検討する。

国税庁タックスアンサーNo.6367が扱う貸倒税額控除は,消費税の課税対象となる取引から生じた売掛金等に限られる。
純粋な賠償債権を法人税上損金にしても,消費税の売上税額から対応額を控除する処理にはならない。
後日の賠償金回収も,純粋な損害補填である限り,その入金だけで課税売上げへ変わるものではない。

第9 決算前に税理士と弁護士が確認する順序

① 会社が保有する賠償債権の発生原因,年度,金額及び既存の税務処理を確定する。
② 現物返還,入金,配当,保険金等を反映し,権利残高と税務上の残高を照合する。
③ 破産・免責・非免責性の効果,担保・保証及び回収手段を弁護士が確認する。
④ 回収不能を裏付ける資料と反対資料を整理し,税理士が貸倒れの類型,年度及び損金経理を確認する。
⑤ 請求の継続,和解,権利放棄又は時効対策を,費用と回収見込みも踏まえて会社が決定する。
⑥ 判断後も新しい入金・財産情報を共有し,翌期以降の経理と権利管理へつなげる。

第10 関連記事と根拠資料

従業員の窃盗・横領で被害を受けた会社の税務
法人の貸倒損失の計上基準
破産法253条1項2号の「悪意で加えた不法行為」
会社備品を盗んで転売した社員への対応

根拠資料は,法人税法,破産法,法人税基本通達9-6-1~9-6-3,本文中の国税庁資料,令和元年5月16日裁決,大阪地方裁判所平成27年8月27日判決及び千葉地方裁判所の説明資料である。
非免責性だけから貸倒れの可否を決めず,権利の内容,財産・支払能力,回収の経過及び決算時の客観資料をそろえることが実務上の要点となる。