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相続人がいない共有持分は誰に帰属するか―特別縁故者,民法255条,登記手続及び相続税(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,共有者の一人が相続人なく死亡した場合に,その共有持分が誰に帰属し,どのような登記と相続税の問題が生じるかを整理するものである。令和8年10月6日時点の法令,最高裁判例,法務省の不動産登記記録例及び国税庁資料を確認して作成した。

共有持分は,相続人の不存在が明らかになっただけで直ちに他の共有者へ移るわけではない。相続債権者・受遺者への清算を経た後,まず特別縁故者への相続財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属する。

登記実務では,相続財産名義への登記名義人表示変更を前提に,「亡○○相続財産持分全部移転」,登記原因「特別縁故者不存在確定」とする記録例が示されている。手続は段階的であるが,必要な期間経過・審判の確定と登記資料を整理すれば,制度上予定された処理である。

相続人の不存在,相続財産清算人の選任,公告,債権者への弁済,特別縁故者への分与及び国庫帰属の順序は,相続財産清算人とは―選任から手続終了までで説明している。

第2 共有持分が他の共有者に帰属するまで

1 相続人不存在だけでは直ちに帰属しない

民法255条は,共有者の一人がその持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は他の共有者に帰属すると定める。しかし,相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は法人となり,相続財産清算人が相続人の捜索,債権者・受遺者への弁済その他の清算を行う(民法951条以下)。

したがって,死亡と同時に共有名義を書き換えることはできず,相続人不存在の確定と清算手続を待つ必要がある。

2 特別縁故者への分与が先行する

最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決は,共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者への清算が終了したときは,その持分が特別縁故者への財産分与の対象となり,分与がされないときに民法255条により他の共有者へ帰属するとした。

最高裁判決は,民法255条を,残余財産が国庫に帰属する原則に対する例外と位置付けた。特別縁故者分与の手続を経ないまま,共有持分が当然に他の共有者へ帰属したとして登記を求めることはできない。

3 区分所有建物の敷地利用権

専有部分と分離して処分できない敷地利用権については,民法255条は適用されない(建物の区分所有等に関する法律24条)。戸建ての共有持分と,区分所有建物の敷地利用権とを区別する必要がある。

第3 民法255条による登記

1 相続財産名義への表示変更

法務省民事局長平成28年6月8日付け法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」別添85~86頁の記録例222は,まず死亡した共有者の登記名義を「亡乙某相続財産」に変更する例を掲げる。登記原因は「相続人不存在」である。

同記録例の注1は,民法255条による持分移転登記をする前提として,相続財産名義への氏名又は名称・住所の変更登記がされていなければならないとしている。

2 持分全部移転と登記原因

次の段階では,登記の目的を「亡乙某相続財産持分全部移転」,登記原因を「特別縁故者不存在確定」とし,権利者として他の共有者を記録する例が示されている。

複数の共有者がいる場合の帰属割合は,民法255条により他の共有者の持分割合に従うと解される。個別の申請では,現在の登記記録,持分割合及び当事者表示を確認する必要がある。

3 登記原因日と旧法の13か月注記

記録例222の注2は,特別縁故者への分与申立期間が満了した日の翌日,又は分与申立てを却下する審判が確定した日の翌日を登記原因日とする旨を示す。また,平成3年の先例を引用し,「原因日付は,死亡の日から13か月を経過していることを要する」と記載する。

ただし,この13か月という記載は,当時の民法958条及び958条の3による公告・申立期間を前提とした旧法の説明である。令和5年4月1日に施行された現行制度では,民法952条2項の相続人捜索公告の期間満了,民法958条の2第2項の3か月の申立期間及び,申立てがあった場合の審判確定を基準に判断すべきであり,死亡から13か月という数字を機械的に用いることはできない。

4 共同申請と添付情報

実務書では,民法255条による持分移転登記は,相続財産法人を義務者,他の共有者を権利者とする共同申請として整理されている。相続財産清算人は相続財産法人を代表する。

登記原因を証する情報として,特別縁故者分与の申立期間の経過又は申立却下審判の確定を示す家庭裁判所の証明書等を準備する。相続財産名義への表示変更,清算人の権限を示す情報,固定資産評価その他の申請資料も必要になり得るため,具体的事件では管轄法務局に確認するのが安全である。この段落は通達の記録例そのものではなく,実務書による補充説明である。

第4 特別縁故者分与との使い分け

他の共有者自身が特別縁故者分与を申し立てることはあり得るが,分与の相当性は,被相続人との生活関係,療養看護,費用負担,生前の財産管理その他の事情から判断される。民法255条の登記手続を省略できることは,民法958条の2の要件ではない。

したがって,清算人は,登記の便宜を理由として事実評価を曲げるのではなく,分与の相当性について証拠に基づく意見を述べるべきである。分与しないとの結論になった場合は,それとは別に民法255条の登記を進める。

介護,費用負担及び生前の預金払戻しをどのように調査し,清算人の意見に反映するかは「特別縁故者に対する相続財産分与と清算人の意見書」で整理している。

第5 相続税

国税庁の質疑応答事例「民法第255条の規定により共有持分を取得した場合の相続税の課税関係」は,他の共有者がその持分に応じて当該持分を遺贈により取得したものとして相続税を課税すると説明する(相続税法9条,相続税法基本通達9-12)。評価時点は相続開始時,すなわち被相続人の死亡時である。

特別縁故者による分与請求がない場合,申告期限は分与請求期間満了の日の翌日から10か月以内である。分与請求がある場合は,分与額又は分与しないことの決定が確定したことを知った日の翌日から10か月以内である。

これは,特別縁故者が財産分与を受ける場合の取得時期・評価とは区別を要する。具体的な課税関係は,取得者の関係,財産評価及び他の相続財産によって異なるため,税務署又は税理士に確認する必要がある。

第6 実務上の煩雑さと準備

民法255条による処理は,①相続財産清算人の選任,②相続人捜索及び債権者・受遺者への清算,③特別縁故者分与の申立期間経過又は申立てに対する審判確定,④相続財産名義への登記名義人表示変更,⑤持分全部移転登記という段階を踏む。そのため,単純な相続登記より時間と資料を要する。

もっとも,煩雑さの中心は,必要な期間経過と確定を待ち,前提登記・証明書を揃える点にある。清算人が早い段階で登記記録を確認し,家庭裁判所に証明書の様式・発行時期を照会し,法務局に申請構造と添付情報を事前相談すれば,見通しを立てやすい。

実務上の確認事項は,次のとおりである。
① 対象が通常の共有持分か,区分所有建物の分離処分できない敷地利用権か
② 相続人不存在の確定及び債権者・受遺者への清算の完了
③ 特別縁故者分与の申立ての有無,申立期間又は審判確定日
④ 相続財産名義への表示変更登記の有無
⑤ 清算人の権限証明,登記原因証明情報,評価資料その他の添付情報
⑥ 他の共有者の持分割合と登記後の表示
⑦ 相続税の申告要否,評価時点及び期限

第7 出典

1 法令

① e-Gov法令検索・民法(255条,951条~959条)
② e-Gov法令検索・建物の区分所有等に関する法律(24条)
③ e-Gov法令検索・相続税法(9条,22条,27条)

2 裁判例

① 最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・昭和63年(行ツ)第40号・民集43巻10号1220頁

3 通達・公的資料

① 法務省民事局長平成28年6月8日付け法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」及び別添「不動産登記記録例」(85~86頁・記録例222)
② 国税庁「民法第255条の規定により共有持分を取得した場合の相続税の課税関係」(令和7年8月1日現在)

4 参考文献

① 家庭裁判所の財産管理実務研究会編『家庭裁判所の財産管理実務(改訂版)』(ぎょうせい,令和7年)151頁以下及び書式319頁以下。登記申請の実務を確認するための二次資料として参照した。