第1 月末の収支だけでは分からない資金不足
1 家賃や転居費用は給付金より先に出ることがある
司法修習生の生活費を考えるときは,1か月の収入と支出の合計だけでなく,お金が入る日と支払う日を並べる必要がある。
月末には残高があっても,賃貸借契約の初期費用,引越し代又は家賃の支払日が入金日より早ければ,途中で残高が不足することがある。
本記事は,入金前と転居月の不足額を日付順に計算するためのものである。
制度の全体像は司法修習生とは,毎月及び修習期間全体の費目と予算は司法修習の生活費と資金計画を参照されたい。
2 計算例は本人の入出金予定に置き換える
以下の金額は,残高計算の方法を示すための架空の例である。実際の家賃,引越し相場又は全員共通の必要貯金額を示すものではない。
預金残高,契約書・請求書にある支払日,当期の給付案内及び個別の認定・支給連絡を使って,本人の数字に置き換える必要がある。
第2 支給予定日と入金の確実性を確認する
1 第79期の初回支給予定日の例
第79期司法修習生向け「修習給付金の給付について」の本文3頁では,令和8年3月19日から4月18日までの初回の給付期間に対応する基本給付金の支給予定日は4月15日,住居給付金の支給予定日は5月15日とされている。
基本給付金と住居給付金の初回支給予定日が同じでない点は,入金前の残高を計算する際に注意が必要である。
これは第79期の案内に記載された例である。他の期へ,この日付をそのまま当てはめることはできない。
同案内の本文1頁では,申請書等の提出が遅れた場合などに,支給日に支給されないことがあると説明されている。移転給付金も,転居した日や申請した日に直ちに入金されることを前提とせず,認定・支給の連絡を確認する必要がある。
2 未確定の入金を確定した残高に足さない
| 確認できた状態 | 残高表への入れ方 |
|---|---|
| 通帳等で入金済みである | 実際の入金日と金額を記録する。 |
| 当期の案内と個別の手続状況から支給予定を確認できた | 予定として記録し,後述する入金遅れの場合も計算する。 |
| 制度の一般的な額又は過去の期の予定日だけ分かる | 本人への入金日が確認できるまで,確定した入金として扱わない。 |
| 申請・認定の結果又は借入れの実行日が未定である | 通常の計算から外すか,別の仮定として明示する。 |
住居と移転の支援については,住居給付金及び移転給付金の記事と,最高裁判所の修習給付金の案内を併せて確認されたい。
契約や引越しを決める際には,制度の対象となるか,必要書類を出せるか,いつ入金される見込みかを分けて確認する。
第3 入金前に5万円不足する計算例
1 日付順の残高表を作る
仮にA月初めの利用可能な預金が30万円であり,5日に契約初期費用22万円,8日に引越し代8万円,12日に生活費5万円を支払い,15日に基本給付金13万5000円が入金されるとする。
入金予定額の13万5000円も計算用の仮定である。日割り,申請状況及び当期の予定は別途確認する必要がある。
| 日付・内容 | 入金(万円) | 支出(万円) | 計算上の残高(万円) |
|---|---|---|---|
| A月初め | ― | ― | 30 |
| A月5日・契約初期費用 | 0 | 22 | 8 |
| A月8日・引越し代 | 0 | 8 | 0 |
| A月12日・生活費 | 0 | 5 | −5 |
| A月15日・基本給付金の入金 | 13.5 | 0 | 8.5 |
この例では15日の残高は8万5000円であるが,12日に5万円不足する。
マイナスの残高は,現実にそのまま支払えるという意味ではない。入金前に用意する資金又は支払時期・金額の調整が必要となる額を示している。
2 最も低い日の残高から必要額を求める
前記の条件だけを前提にすれば,12日までに少なくとも5万円の追加資金が必要となる。
例えば予備資金を2万円残すという本人の方針を加えるなら,7万円を追加で用意する計算となる。2万円は本記事が推奨する標準額ではなく,計算方法を示すための仮定である。
支出の時期を変える場合は,相手方との合意や契約条件を確認する必要がある。
未確定の返金・援助・借入れを加えて不足を消すことは避け,金額と入金日を確認できたものから計算し直すとよい。
第4 入金が遅れる場合を別に計算する
1 同じ月末残高でも必要な資金は変わる
前記の例に,A月20日に家賃等7万5000円を支払う条件を加える。
15日に13万5000円が入る場合と,その入金が28日に遅れる場合を比較すると,次のとおりである。これは仮定を変えた計算であり,実際に28日へ遅れるという予測ではない。
| 確認する日・値 | 15日に入金する場合の残高(万円) | 28日に入金する場合の残高(万円) |
|---|---|---|
| A月12日 | −5 | −5 |
| A月15日 | 8.5 | −5 |
| A月20日 | 1 | −12.5 |
| A月28日 | 1 | 1 |
| この期間の最低残高 | −5 | −12.5 |
28日の残高はどちらも1万円であるが,途中の最低残高は異なる。
この条件では,入金が遅れる場合に必要な追加資金は12万5000円となり,通常の計算より7万5000円多い。仮に予備資金2万円も残すなら,必要な追加資金は14万5000円となる。
2 税金等の取置き資金を二重に数えない
税金,保険料,年金又は弁護士登録費用等に使う予定の資金は,生活費に自由に使える残高と分けて管理するとよい。
ただし,初めに預金から差し引いた取置き額を,支払日にもう一度利用可能残高から全額差し引くと,同じ支出を二重に数えることになる。
「銀行預金の全額から,実際の支出を日付順に引く方法」又は「取置き資金と生活用資金を別の残高表で管理する方法」のいずれかを決め,表の途中で混ぜないことが必要である。
税金・健康保険・年金の制度と確認先は,司法修習生の給付金・税金・社会保険を参照されたい。
第5 転居と修習終了後の支払を表に加える
1 契約日・引越し日・返金日を別々に記録する
賃貸借契約の初期費用,引越し代,旧居と新居の家賃及び家具等の購入費は,同じ日に支払うとは限らない。
請求書や契約条件から支払日を記録し,転居前後に家賃が重なる場合には両方を表に加える必要がある。
旧居の敷金等の返金は,金額や返金時期が確定するまで,確実な入金として数えない方が計算の前提が明確になる。
住居の選び方,契約前の確認事項及び転居準備は,司法修習の住まい・引越しの記事を参照されたい。
2 修習終了後から就職先の初回入金まで計算する
修習が終わる月で残高表を打ち切ると,その後の転居費用,保険・年金の切替え,登録費用等又は初回給与までの生活費を見落とすことがある。
就職先の初回支給日と金額,登録等の実際の請求額及びその支払日を確認し,少なくともその時期まで表を延ばすとよい。
勤務開始日と給与の入金日は同じとは限らない。
費用と支給条件は本人の進路によって異なるため,全国共通の登録費用額や就職後の給与額を本記事の計算例に当てはめることはしていない。
第6 不足額を確認した後の順序と出典
1 確認できた資金と許可の問題を分けて検討する
まず,入金日,支払日,金額及び取置き資金の扱いを確認し,通常の入金の場合と遅れる場合の最低残高をそれぞれ求める。
次に,契約前に減らせる支出や合意により調整できる支払時期を検討し,それでも不足する額について,実行日が確認できる自己資金,援助又は制度上の貸与等を調べる必要がある。
修習専念資金の貸与は,最高裁判所の貸与制度の案内で,申請条件と手続,保証及び返還を確認する。
借入れは生活費を賄う手段であって,返済不要の収入と同じではない。資金不足を理由に仕事を続けることを検討する場合にも,司法修習生の兼業・兼職・兼学と許可手続を別途確認する必要がある。
2 出典と資料の時点
① 最高裁判所「修習給付金」。各期の給付案内への入口である。
② 第79期司法修習生向け「修習給付金の給付について」。本文1頁の支給が遅れる場合の説明,本文3頁の給付期間・支給予定日及び移転給付金の支給時期を参照した。
③ 最高裁判所「修習専念資金の貸与制度の概要」。貸与を検討する際の公式な確認先である。
本記事は令和8年10月5日に確認した資料に基づく。
支給予定日と手続は期によって確認すべきであり,第79期の例と架空の残高計算は,これから採用される期の支給日や本人の必要額を確定するものではない。