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会社の破産と解雇予告手当―財団債権か優先的破産債権か,東京地裁・大阪地裁の運用と申立前の支払(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,会社が破産するに当たって従業員を解雇する場合に,解雇予告手当が破産手続でどう扱われるか,破産手続開始の申立ての前に支払ってよいかを整理する。
法令は,判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在の法令データ)で条文を確認し,最高裁判所の判決は裁判所ウェブサイトで確認した。
裁判所ごとの運用は,裁判官等が執筆した実務書の原本で確認した。
東京地方裁判所の運用は『破産管財の手引〔第2版〕』(平成27年)で確認しており,その後の版は確認していない。

2 結論

①予告期間を置かず予告手当も支払わない解雇は,即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後30日を経過するか予告手当を支払った時に効力を生ずる(最高裁昭和35年3月11日判決)。
②破産手続開始前に解雇した従業員の解雇予告手当が,財団債権となる「給料」(破産法149条1項)に当たるか,優先的破産債権となる「雇用関係に基づいて生じた債権」(民法308条)にとどまるかは争いがあり,裁判所ごとに運用が分かれている。
③東京地方裁判所は,破産管財人が「給料」に当たるとして財団債権の承認許可を申し立てれば,これを適法なものと認める運用をしている。
④大阪地方裁判所は,解雇予告手当は「給料」に当たらないとしつつ,破産法101条1項(労働債権の弁済許可)を類推適用して,配当手続によらずに弁済できるとしている。
⑤破産手続開始後に破産管財人が解雇した場合の解雇予告手当は,財団債権(破産法148条1項8号)となる。
⑥解雇予告手当は未払賃金立替払制度の対象にならない。
そのため,申立前に労働債権の一部しか支払えない場合には,解雇予告手当から支払うことが望ましいとする実務書がある。
⑦財団債権となる滞納税金が残っていても,申立前に先に解雇予告手当を支払うことは不当性や有害性がないとする考え方が実務に浸透しているとされる。

第2 解雇予告手当の基本

1 労働基準法20条

労働基準法20条1項は,「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と定めている。
ただし書は,天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合を除外している。
会社の資金繰りが行き詰まって破産を申し立てる場合は,通常この例外には当たらないと考えられるため,即時に解雇するなら解雇予告手当の支払が問題になる。

2 予告なしに解雇した場合の効力

最高裁判所第二小法廷昭和35年3月11日判決(昭和30年(オ)第93号,民集14巻3号403頁)は,使用者が予告期間を置かず,予告手当の支払もしないで解雇の通知をした場合,その通知は即時解雇としては効力を生じないが,使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り,通知後30日の期間を経過するか,又は予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生ずるとした。
破産を申し立てる状況では,従業員は解雇の効力を争わず,解雇予告手当を請求するのが通常であるとされている(『破産管財の手引〔第2版〕』210頁)。

3 付加金

労働基準法114条は,裁判所が,同法20条等に違反した使用者に対し,労働者の請求により,未払金のほかこれと同一額の付加金の支払を命ずることができ,この請求は違反のあった時から5年以内にしなければならないと定めている。
前記の最高裁判所昭和35年3月11日判決は,付加金の支払義務は労働者の請求により裁判所が支払を命ずることによって初めて発生するものであるから,使用者が予告手当に相当する金額の支払を完了した後は,労働者は付加金の請求をすることができないとした。

第3 破産手続での位置づけ

1 関係する条文

破産法149条1項は,「破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。」と定めている。
財団債権に当たらない労働債権は,民法306条2号・308条の一般の先取特権がある債権として,優先的破産債権(破産法98条1項)となる。
優先的破産債権である給料又は退職手当の請求権については,生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときに,配当より前に弁済を許可する制度がある(破産法101条1項)。

2 二つの考え方

解雇予告手当は,労働の対価そのものではないが,雇用関係に基づき生じた債権である(『破産管財手続の運用と書式〔第3版〕』238頁)。
そのため,破産手続開始前に解雇された場合の解雇予告手当は,破産法149条の財団債権ではなく優先的破産債権であると解するのが一般的であるが,破産管財人が財団債権として支払うことを認める運用や,破産法101条1項を類推適用する運用もあるとされている(『破産事件における書記官事務の研究』103頁)。

3 全国の運用

全国の地方裁判所本庁50庁を対象に2011年に実施されたアンケートの結果として,破産手続開始決定前3か月以内に発生した解雇予告手当を,①「給料」に当たるなどとして財団債権として扱う庁が10庁,②「給料」には当たらないが「雇用関係に基づいて生じた債権」として優先的破産債権として扱う庁が29庁,③その他が11庁であり,③のうち,原則は②だが破産管財人から財団債権承認の申請があれば認める庁と,破産管財人の判断に任せる庁が合わせて9庁であったと紹介されている(『破産事件における書記官事務の研究』219頁,『破産実務Q&A220問』397頁)。
事件を申し立てる裁判所の運用を,申立ての前に確かめる必要がある。

第4 東京地方裁判所の運用

『破産管財の手引〔第2版〕』210頁~211頁によれば,東京地方裁判所破産再生部は,破産管財人から,解雇予告手当も破産法149条1項にいう「給料」に当たるとして財団債権の承認許可の申立てがあれば,これを適法なものと認める運用をしている。
この運用によると,破産手続開始前3か月間の給料の額の範囲で,未払給料の財団債権部分に加えて,平均賃金30日分の解雇予告手当も財団債権となる。
未払給料の財団債権部分と解雇予告手当の合計が,破産手続開始前3か月間の給料の額を超える場合には,その額が財団債権の上限となる。
財団債権の承認は,裁判所の許可を要する行為である(破産法78条2項13号)。

第5 大阪地方裁判所の運用

『破産管財手続の運用と書式〔第3版〕』236頁は,破産法101条1項の「給料」の意義は同法149条1項と同じであり,労働の対価として支払われるものであれば名目を問わず「給料」に当たるが,解雇予告手当はこれに含まれないとする。
同書238頁は,そのうえで,破産法が労働者保護の観点から労働債権の一部を財団債権とし,残りの優先的破産債権についても弁済許可制度を設けている趣旨は,雇用関係に基づき生じた債権として優先的破産債権とされる解雇予告手当にも及ぼすべきであるとして,同条1項を類推適用し,弁済許可制度を利用できるとしている。
弁済許可は,財団債権又は他の先順位若しくは同順位の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないときに限られる(破産法101条1項ただし書)。
そのため,財団債権や優先的破産債権となる税金を払うに足りる財団があることを確かめてから弁済することになる(同書238頁)。

第6 破産手続開始後に解雇した場合

破産手続開始の後も雇用契約が続き,破産管財人が解雇した場合の,開始決定日以後の給与と解雇予告手当は,破産法148条1項8号の財団債権となるとされている(『破産事件における書記官事務の研究』219頁)。
同号は,破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れがあった場合に,破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権を財団債権とするものである。
破産手続開始の前に即時解雇するか,開始後に破産管財人が解雇するかで,解雇予告手当の位置づけが変わることになる。

第7 申立前に支払う場合

1 未払賃金立替払制度の対象にならない

未払の給料と退職金は,独立行政法人労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度を利用できる場合があるが,解雇予告手当はその対象にならない(『破産管財手続の運用と書式〔第3版〕』22頁・27頁)。
同書27頁は,労働債権の一部しか支払えない場合には,即時解雇を確実にするためにも,解雇予告手当から支払うことが望ましいとしている。

2 滞納税金がある場合

財団債権となる滞納税金が残っているのに解雇予告手当を支払うと,形式的には否認の対象になるのではないかとも考えられる。
もっとも,『破産実務Q&A220問』56頁は,突然収入の途を失う従業員の生活保障の観点から支払の必要性が高いこと,使用者には予告義務があり,予告手当を支払って解雇の効力を確定させたいことを挙げて,滞納公租公課が残っている場合に先に解雇予告手当を支払うことは不当性や有害性がないと解され,破産実務においてもそうした考え方が浸透しているとしている。

3 付加金の危険を避ける意味

第2の3のとおり,予告手当に相当する金額を支払い終えれば,付加金を請求されることはない。
申立前に支払うことには,従業員の生活保障に加えて,付加金の請求を受ける余地をなくす意味もある。

第8 実務で確認する事項

①申し立てる裁判所が,解雇予告手当を財団債権として扱う運用か,優先的破産債権として扱う運用か
②解雇の日と破産手続開始の予定日(開始前3か月の範囲)
③平均賃金の計算資料(賃金台帳,給与規程,締切日)
④滞納している税金・社会保険料の額と納期限
⑤未払給料・退職金について未払賃金立替払制度を使えるか
⑥申立前に支払う場合の原資と支払の順序(予告手当から支払うか)
⑦解雇通知の受領証,離職票の交付など,解雇に伴う手続

第9 関連記事

破産直前の賃金の支払と否認の関係は,破産直前の賃金支払は否認されるかで,第三者が未払賃金を立て替えた場合は,未払賃金を第三者が立替払いした場合―求償権と代位取得した財団債権で整理している。
破産手続における財団債権と租税等の請求権の分類全般は,倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理を参照されたい。

第10 出典

1 法令

①労働基準法(e-Gov法令検索)20条及び114条
②破産法(e-Gov法令検索)78条2項13号,98条1項,101条1項,148条1項8号及び149条1項
③民法(e-Gov法令検索)306条及び308条

2 裁判例

①最高裁判所第二小法廷昭和35年3月11日判決(昭和30年(オ)第93号,民集14巻3号403頁)

3 文献

①中山孝雄・金澤秀樹編『破産管財の手引〔第2版〕』(金融財政事情研究会,平成27年)210頁~211頁
②川畑正文・福田修久・小松陽一郎編『破産管財手続の運用と書式〔第3版〕』(新日本法規,令和元年)22頁,27頁,236頁及び238頁
③木内道祥監修・全国倒産処理弁護士ネットワーク編『破産実務Q&A220問』(金融財政事情研究会,2019年)56頁及び397頁
④最高裁判所事務総局民事局監修『破産事件における書記官事務の研究―法人管財事件を中心として―』(法曹会,2013年)103頁及び219頁

第11 確認状態

労働基準法20条・114条,破産法の各条及び民法306条・308条は,判例秘書の現行法令アーカイブ(令和8年8月1日現在の法令データ)で条文を確認した。
このうち破産法の各条と労働基準法20条・114条は,令和8年9月29日にもe-Gov法令検索(法令API)で同文であることを確認している。
最高裁判所昭和35年3月11日判決は,裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨で確認した。
裁判所ごとの運用は,第10の3の各書籍の原本の該当頁で確認した。
東京地方裁判所の運用は第2版(平成27年)の記載であり,その後の版での記載と現在の運用は確認していない。
解雇予告手当の扱いを直接判断した裁判例は,確認していない。