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平成5年度最高裁民事破棄判決等の実情―60件から学ぶ証拠評価・手続保障・差戻審実務(AI作成)

瀧澤泉「最高裁民事破棄判決の実情(平成5年度)」全6回を手掛かりに,平成5年度の最高裁民事破棄判決60件から得られる訴訟実務上の学びを整理する。年次解説は優れた二次資料であるが,判決全文そのものではない。本記事は,一次資料で全文を確認した事件,書誌・判示事項だけを確認した事件及び年次解説だけで検討した事項を区別して表示する。

第1 本記事の対象と結論

平成5年度の破棄事例から得られる中心的な学びは,最高裁が単に「結論」を変更するのではなく,証拠から要件事実・因果関係・損害額へ進む「推論の橋」が欠けている原判決を破棄しているという点である。

上告理由又は上告受理申立て理由を検討するときは,「事実認定が間違っている」と述べるだけでは足りない。①原審が確定した生の事実,②原審が暗黙に用いた経験則,③その経験則を弱める反対事実,④反対事実を評価せず結論へ進んだ箇所,⑤補充審理すべき事項を順に示す必要がある。

第2 資料の位置付けと確認範囲

資料区分今回の確認範囲記事での扱い
裁判所公表の判決全文平成5年1月21日,3月24日及び3月30日の各最高裁判決事案,規範,当てはめ,主文及び個別意見を直接確認
公的・出版社の書誌・判示事項平成5年12月17日判決(民事執行法184条)事件番号,掲載誌及び判示事項の範囲で利用
平成5年度年次解説全6回を通読60件の所在,破棄理由の類型及び論点候補を把握する二次資料として利用
判例秘書検索照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件未収録とは評価しない

年次解説には,前置きの事件紹介が背景・争点を常に正確に示すとは限らないこと,掲載する判決文は抜粋であること,解説・意見は執筆者個人の見解であることが明記されている。したがって,個別事件の主文,事件番号,原審,反対意見,補足意見及び現在の射程を訴訟書面で用いるときは,判決全文と現行法を確認する。

第3 平成5年度の件数と読み方

年次解説によれば,判決で終局した事件は2,492件,破棄判決は60件,その割合は2.41%である。内訳は,職権破棄1件,上告理由に応答した破棄59件,手続法上の問題16件,実体法上の問題44件と整理されている。破棄差戻し23件,破棄自判38件という分類には重なりがあるため,単純に合計して事件数とはしない。

2.41%は平成5年度の歴史的な母集団を説明する数字であり,現在の上告受理率,破棄率又は個別事件の成功率を示すものではない。また,破棄されたことと,当事者が差戻審で最終的に勝訴したことは同じではない。

第4 破棄理由から学ぶ原判決の点検

原判決を点検するときは,次の5段階で読むと破棄理由を発見しやすい。

  1. 入口―当事者適格,訴えの利益,請求の趣旨,抗弁及び不利益変更禁止を確認する。
  2. 規範―条文の要件,判例の射程,旧法・現行法の別を確定する。
  3. 証拠―採用した証拠,排斥した証拠,証拠間の矛盾及び経験則を特定する。
  4. 当てはめ―認定事実から要件充足へ進む中間推論が説明されているかを確認する。
  5. 主文―認容額,遅延損害金,仮執行,差戻し又は自判の範囲が理由と整合するかを確認する。

特に,経験則違反を主張するときは,原審が用いた経験則を言語化し,それが一般的に成り立たない事情又は本件で例外となる事情を,記録中の証拠と結び付けて示す。別の事実認定もあり得るというだけでは,上告審で取り上げられる法令違反の形になりにくい。

第5 証拠評価と事実認定の実務

1 私文書成立の二段の推定を分ける

本人の印章による印影があっても,直ちに文書全体が真正に成立したと結論しない。まず,その押印が本人の意思に基づくかという一段目の事実上の推定を検討し,次に,民事訴訟法228条4項による二段目の推定へ進む。

年次解説が紹介する保証契約事例では,本人が通常不在であったこと,銀行との取引関係がなかったこと,銀行が本人に意思確認をしなかったこと,保証額が多額であったこと等が,一段目の推定を揺るがす事情として問題となった。実務では,印章の所有・保管,使用可能者,本人の在否,押印指示,従前取引,金額,利益の帰属,相手方の本人確認及び代替的な押印者を表にする。

この保証契約事例は,本記事では年次解説による確認にとどまり,個別判決全文を照合していないため,判例の要旨として訴訟書面に引用する前に原典確認が必要である。

2 計算表は基礎事実の証拠ではない

利息,弁済充当又は損害額の一覧表について当事者の数字が食い違うとき,一方の数字を採用して演算しても,基礎資料と計上基準が確定していなければ事実認定の空白は埋まらない。帳簿,振込記録,領収書,充当指定,計算期間,利率及び端数処理を先に突合する。

3 因果関係は時系列と反実仮想で検証する

因果関係は,「義務発生→違反又は不作為→介在事情→通常なら行われる処理→結果発生」の時系列に分ける。別欄に「違反がなければ,誰が,いつ,何をしたか」を置き,統計又は一般論だけで穴を埋めない。

行政指導のように法的拘束力がない行為でも,現実に工事・取引を遅らせた原因となり得る。他方,後続する第三者の判断,資金不足,許認可手続その他の介在事情があれば,それを除外せず比較する。

第6 手続法上の実務

平成5年度の手続法上の破棄事例からは,請求の追加・変更,執行手続への当事者の関与,訴訟上の合意及び主文設計を,実体法の論点と分けて点検する必要がある。

  • 請求の変更―新旧請求の請求原因,防御方法,審級の利益及び相手方の不意打ちを確認する。
  • 執行しない旨の合意―債権の不存在,期限猶予,執行契約又は訴訟上の和解のどれを意味するかを文言と交渉経過から確定する。
  • 手続保障―当事者として扱われ,送達を受け,法定の不服申立てを行う機会があったかを確認する。手続を事実上知っていたことだけで代替できるとは限らない。
  • 主文と理由―一部請求,過失相殺,損益相殺,遅延損害金及び弁護士費用の順序を計算表で再現し,主文との一致を確認する。

これらの多くは年次解説から得た論点候補であり,本記事では個別判決全文を網羅確認していない。

第7 実体法上の主要な学び

1 無権代理人による本人の共同相続

最高裁平成5年1月21日第一小法廷判決は,追認権は共同相続人全員に不可分的に帰属し,全員が共同して追認しない限り無権代理行為は有効にならず,無権代理人の相続分に相当する部分だけ当然に有効になるものでもないとした。他の共同相続人全員が追認した場合に,無権代理人だけの追認拒絶が信義則上許されるかは別に検討する。

この判決は裁判所公表の判決全文で,多数意見,反対意見及び主文まで確認した。詳しくは無権代理人が本人を共同相続した場合―追認権,相続分と信義則で整理する。

2 遺族年金と損益相殺的調整

最高裁平成5年3月24日大法廷判決は,債権を取得したというだけでは原則として損益相殺的な調整はできず,現実に履行された場合又はこれと同視できる程度に存続及び履行が確実な場合に限るとした。将来の遺族年金は受給権喪失の可能性があるため,口頭弁論終結時までに現実に支給され,又は支給を受けることが確定した額を控除する。

この判決は裁判所公表の判決全文で,多数意見と複数の反対意見を確認した。実務では,同一原因,同質性,現実受給又は給付確定,受給者,対象期間,現価計算及び代位・法定調整を分けて表にする。

3 故意免責条項と予期しない死亡結果

最高裁平成5年3月30日第三小法廷判決は,被保険者に傷害を加える意思はあっても死亡結果までは予期・認容していなかった場合,予期しなかった死亡損害について自動車保険の故意免責条項は適用されないとした。

この判決も裁判所公表の判決全文で確認した。損害賠償責任の成立と,約款上の免責の範囲を分け,事故日に適用される約款,故意の対象,予期した結果及び実際に発生した損害を比較する。

4 担保不動産競売と民事執行法184条

最高裁平成5年12月17日第三小法廷判決(平成2年(オ)第444号,民集47巻10号5508頁)は,民事執行法184条の適用には,真正な所有者が競売手続で手続上の当事者として扱われ,法定の権利行使の機会を与えられたことを要し,所有者が競売開始を事実上知り,停止申立てをする時間的余裕があっただけでは足りないとした。

この事件は,有斐閣Onlineで事件番号・掲載誌・判示事項を確認し,事案及び判旨の概要を年次解説で確認したが,今回,裁判所公表本文又は判例秘書の判決全文とは照合できていない。個別事件で引用する際は全文確認が必要である。

第8 差戻審に備える実務

破棄差戻しが見込まれる事件では,上告審で勝つための主張と差戻審で最終的に勝つための証拠を同時に準備する。

  • 最高裁が否定した原審の規範又は経験則を一文で示す。
  • 差戻審で認定が必要となる事実を,要件ごとに列挙する。
  • 各事実について,既提出証拠,追加収集可能な証拠及び入手不能な証拠を区別する。
  • 請求の趣旨,損害計算,遅延損害金及び予備的請求を再計算する。
  • 破棄理由以外に原判決が確定した部分と,差戻審でなお争える部分を区別する。

破棄判決の紹介だけでは,差戻審の最終結果は分からない。和解,追加立証又は請求の変更によって結論が変わることがあるため,「最高裁で破棄された」ことを最終勝訴と同義に扱わない。

第9 利用上の注意

平成5年当時の旧民事訴訟法,旧民法,旧保険約款,旧年金法制その他の制度は,現行法と異なることがある。古い判例を現在の事件に用いるときは,①規範が後続判例で維持されているか,②根拠条文が改正されていないか,③経過措置があるか,④事案の契約条項・行政制度が現在も同じかを確認する。

年次解説のみで確認した事項は,調査の索引又は論点候補として用い,訴訟書面に判例法理として引用する前に,裁判所公表本文,判例秘書その他の原典で確認する。

第10 関連記事

①最高裁の破棄判決等一覧表,及び最高裁民事破棄判決等の実情
②二段の推定とは―私文書の成立の真正と実印・認印,立証の実務
③損益相殺とは―労災保険給付・年金・保険金の控除と計算順序
④遺族補償年金・遺族厚生年金と遅延損害金
⑤任意保険が適用されない場合
⑥不動産競売の手続の流れと期間

第11 出典と一次資料の確認状況

裁判所公表の判決全文を確認したもの
①最高裁判所第一小法廷平成5年1月21日判決(無権代理人が本人を共同相続した場合)
②最高裁判所大法廷平成5年3月24日判決(遺族年金と損益相殺的調整)
③最高裁判所第三小法廷平成5年3月30日判決(自動車保険の故意免責条項)

書誌・判示事項等を確認し,判決全文は未照合のもの
④最高裁判所第三小法廷平成5年12月17日判決(平成2年(オ)第444号,民集47巻10号5508頁)(有斐閣Onlineの書誌・判示事項及び年次解説による。判決全文は今回未照合)

年次解説
⑤瀧澤泉「最高裁民事破棄判決の実情(平成5年度)」全6回・判例時報1507号,1508号,1510号,1511号,1513号及び1514号。60件の横断的把握に用いた二次資料であり,判決全文そのものではない。

判例秘書の確認状況
本調査では会員ログインを完了しておらず,検索照会0件,ヒット件数不明,本文確認0件である。したがって,いずれの事件についても「判例秘書に掲載がない」とは評価していない。