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無権代理人が本人を共同相続した場合―追認権,相続分と信義則(最高裁平成5年1月21日判決)(AI作成)

無権代理人が本人を他の相続人と共同相続したとき,無権代理人の相続分だけ契約が当然に有効になるのか,追認権は誰が行使するのかを,最高裁平成5年1月21日第一小法廷判決の全文に基づいて整理する。法令は令和8年10月1日現在の民法を前提とする。

第1 結論

① 無権代理人が本人を他の相続人と共同相続した場合,追認権は,その性質上,共同相続人全員に不可分的に帰属する。
② 共同相続人全員が共同して追認しない限り,無権代理行為は本人との関係で有効にならない。
③ 無権代理人が承継した相続分に相当する部分だけが,何らの追認もなく当然に有効になるものでもない。
④ ただし,無権代理人以外の共同相続人全員が追認した場合に,無権代理人だけが追認を拒むことは,信義則上許されないことがある。
⑤ したがって,「無権代理人も相続人になった」という一事だけで債務の一部を認めたり否定したりせず,共同相続人の範囲,各人の追認・追認拒絶の意思表示,その時期及び信義則を基礎付ける事実を分けて確認する必要がある。

第2 最高裁平成5年1月21日判決の事案

本人の子は,本人から代理権を与えられていないのに,預かっていた本人の実印を用い,本人名義で850万円の貸金債務を連帯保証する契約を締結した。本人はその後死亡し,妻と無権代理人である子が各2分の1の割合で共同相続した。

原審は,無権代理人が相続した本人の地位の限度では,本人が自ら契約したのと同様の効果が生じるとして,無権代理人に請求額の2分の1を支払うよう命じた。

最高裁はこの判断を破棄し,請求を棄却した。共同相続人全員による追認の主張立証がない以上,無権代理人の2分の1の相続分に相当する部分についても,連帯保証契約が当然に有効になったとはいえないとしたためである。

第3 無権代理と追認の基本

民法113条1項は,代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人が追認をしなければ本人に対して効力を生じないと定める。追認は,相手方に対してしなければ,相手方が追認の事実を知ったときを除き,相手方に対抗することができない(同条2項)。

相手方は,本人に対し,相当の期間を定めて追認するかどうかを確答するよう催告でき,期間内に確答がなければ追認を拒絶したものとみなされる(民法114条)。本人が追認しない間,相手方は,契約時に無権代理であることを知っていた場合を除き,契約を取り消すことができる(同法115条)。

無権代理人は,代理権を証明し,又は本人の追認を得た場合を除き,相手方の選択に従い,履行又は損害賠償の責任を負う(民法117条1項)。もっとも,相手方の悪意・過失や無権代理人の行為能力について同条2項の例外がある。本人に対する契約上の請求と無権代理人に対する117条の請求は,根拠と要件を分けて検討する必要がある。

第4 無権代理人が本人を共同相続した場合

最高裁は,追認には,本人に対して効力を生じていなかった法律行為を,本人との関係で有効にする効果があることを出発点とした。そのため,共同相続が生じたときの追認権は,相続分に応じて分割される金銭債権のようなものではなく,共同相続人全員に不可分的に帰属するとした。

この不可分性から,次の順序で結論が導かれる。

  1. 本人が死亡し,追認権を複数の相続人が承継する。
  2. 共同相続人全員が共同して追認権を行使しない限り,無権代理行為は有効にならない。
  3. 無権代理人が共同相続人の一人であっても,その相続分だけが当然に有効になるわけではない。
  4. 他の共同相続人全員が追認した場合には,無権代理人だけの追認拒絶が信義則に反しないかを検討する。

連帯保証債務が相続により法定相続分に応じて承継され得ることと,追認前の無権代理行為が相続分の限度で当然に有効になるかは別問題である。まず契約が本人との関係で有効になったかを確定し,その後に相続による債務承継を検討する。

第5 単独相続の場合との違い

無権代理人が本人を単独相続した場合については,最高裁昭和40年6月18日第二小法廷判決(民集19巻4号986頁)が,本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じるとした。

共同相続の場合には,無権代理人以外の相続人が本人の保護のための追認権を承継している。無権代理人の事情だけで契約の一部を有効とすると,他の相続人の追認権を害するため,平成5年判決は単独相続の法理をそのまま相続分ごとに分割して適用しなかった。

したがって,相続関係の調査では,戸籍により法定相続人を確定するだけでなく,相続放棄,相続分の譲渡,遺産分割,数次相続及び遺言の有無を確認し,追認時点で追認権を有する者を確定する必要がある。

第6 当事者別の主張立証

1 相手方・債権者側

相手方は,まず代理権又は表見代理の成立を検討する。これらが認められない場合に追認を主張するのであれば,①本人の死亡と相続人の範囲,②共同相続人全員による追認の意思表示,③その意思表示が相手方にされたこと又は相手方が知ったこと,④無権代理人以外の相続人全員が追認した場合の信義則上の事情を,証拠と結び付けて主張する。

追認は明示の書面に限られないが,債務の一部弁済,契約に基づく利益の受領,担保権の存続を前提とした交渉等の行為から黙示の追認を主張する場合は,その行為が契約の効力を認める趣旨でされたかを具体的に示す必要がある。単なる事実の了知,交渉への参加又は相続財産の管理だけで追認と断定しない。

2 無権代理人以外の共同相続人側

契約の効力を争う側は,代理権の不存在に加え,共同相続人全員による追認がないことを明確にする。無権代理行為の存在を知った時期,追認拒絶の通知,支払又は交渉の有無,無権代理人との利害関係を時系列で整理する。

追認の有無と,表見代理の成否,二段の推定による契約書の成立の真正及び意思能力は別の争点である。実印が用いられていても,代理権又は追認が当然に認められるわけではない。

3 無権代理人側

無権代理人が共同相続人になった場合も,相続分相当額について当然に契約責任を負うわけではない。ただし,自らした行為であること,他の共同相続人全員が追認していること,契約による利益を自ら受けたこと,長期間契約の有効性を前提に行動したこと等によって,追認拒絶が信義則上許されないと評価される余地がある。

また,本人との関係で契約が有効にならなくても,民法117条の無権代理人責任,不法行為責任,不当利得返還義務その他の責任が別途問題となる。共同相続の論点だけで紛争全体が解決するとは限らない。

第7 保証・担保設定・売買での実務チェック

確認項目確認する資料・事実法的な意味
代理権委任状,契約書,メール,録音,従前取引無権代理か,表見代理か
本人名義の書類実印,印鑑証明書,権利証,署名,保管状況文書の成立,正当な理由,アクセス可能性
相続関係出生から死亡までの戸籍,相続放棄照会,遺言追認権者の確定
追認通知書,弁済,交渉記録,利益受領,登記明示又は黙示の追認の有無
追認拒絶内容証明,催告への回答,訴訟上の主張拒絶の時期・相手方への対抗
信義則他の相続人の追認,無権代理人の利益・従前行動無権代理人だけの拒絶が許されるか
別の責任相手方の善意・過失,損害,利得民法117条,不法行為,不当利得

保証事件では,現在の民法が要求する書面,個人根保証の極度額及び保証意思宣明公正証書の要否も確認する。古い最高裁判例が扱った保証契約が,当時は方式上有効であっても,同じ内容の契約が現行法で有効とは限らない。

第8 反対意見と判決の読み方

平成5年判決には三好達裁判官の反対意見がある。反対意見も,追認がないのに無権代理行為そのものが相続分の限度で当然に有効になるとはしていない。しかし,無権代理人が自らした行為の効果を避けるために,共同相続人全員の追認がないことを主張するのは信義則上許されず,相手方は相続分の限度で無権代理人に行為の効果を主張できるとした。

多数意見と反対意見の差は,「共同相続人全員の追認がなければ当然に有効にならない」という点ではなく,追認がない場面で無権代理人に信義則をどこまで適用するかにある。訴訟では,判決の結論だけでなく,他の共同相続人の態度と無権代理人自身の行動を具体的に主張する必要がある。

第9 関連記事

①登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理と最高裁判例
②二段の推定とは―私文書の成立の真正と実印・認印,立証の実務
③処分証書及び報告文書

第10 出典と確認状況

①最高裁判所第一小法廷平成5年1月21日判決(裁判所公表の判決全文PDF)―主文,事案,多数意見及び反対意見を全文で確認した。
②民法113条~117条,896条―令和8年10月1日現在の条文を参照した。
③瀧澤泉「最高裁民事破棄判決の実情(平成5年度)」判例時報1507号ほか―平成5年判決の所在及び同年度の横断的検討に用いた二次資料である。

判例秘書の確認状況
本調査では判例秘書にログインしておらず,検索照会0件,ヒット件数不明,判決本文確認0件である。「判例秘書に収録されていない」と評価したものではない。本記事の中心となる平成5年1月21日判決は,裁判所公表の判決全文で確認した。