過少申告加算税は,申告額が結果として少なかったという客観的事実があれば原則として課される。納税者に脱税の意図がなかったことや,税理士に申告を任せていたことだけで当然に免除されるものではない。
もっとも,現行の国税通則法65条5項1号は,税額計算の基礎とされなかったことについて「正当な理由があると認められる」事実に基づく税額を,過少申告加算税の計算対象から控除する。本記事では,この「正当な理由」を扱った最高裁平成18年4月20日,同月25日及び同年10月24日の各判決並びに最高裁平成27年6月12日判決を比較し,実務で必要となる事実と証拠を整理する。
第1 本記事が扱う「正当な理由」
平成18年当時,「正当な理由」に関する規定は国税通則法65条4項に置かれていた。現在は条項の追加等により同条5項1号に移っているため,旧判例を引用するときは,当時条文と現行条文を区別する必要がある。
現行条文は,正当な理由がある場合に本税そのものを免除する規定ではない。正当な理由があると認められる事実に対応する税額を,過少申告加算税の計算の基礎から控除する規定である。したがって,①本税の課税要件,②過少申告加算税の賦課要件,③正当な理由に対応する税額の範囲を分けて検討する。
第2 最高裁が示した判断基準
最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(平成17年(行ヒ)第9号)は,「正当な理由があると認められる」場合を,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお納税者にこれを賦課することが不当又は酷になる場合とした。
過少申告加算税は,主観的責任を追及する刑罰ではなく,当初から適正に申告した者との客観的不公平を是正し,適正な申告納税を実現するための行政上の措置である。この制度目的から,納税者の善意,法令の不知,単なる解釈違い又は専門家への委任だけでは足りず,過少申告に至った経過を客観的事情として示す必要がある。
第3 税理士の不正だけでは認められなかった事例
最高裁平成18年4月20日判決では,税理士が納税者に無断で虚偽の申告書を提出し,納税資金を着服した。納税者には脱税の意図がなく,税理士の隠蔽・仮装を予測又は認識することも容易ではなかったため,税理士の行為を納税者本人の行為と同視できず,重加算税の要件は満たさないとされた。
しかし,過少申告加算税については結論が異なった。納税者は,税務署職員等から約800万円と示されていた税額が約550万円で済むとの税理士の説明を信じ,その根拠を調査せず,申告書の内容,控え及び納付の領収書も確認しなかった。他方,申告書を受理した税務署職員が脱税に加担した事実はなかった。最高裁は,このような事情の下では納税者側にも落ち度があり,「正当な理由」は認められないとした。
ここから分かるのは,重加算税の隠蔽・仮装と,過少申告加算税を免れる正当な理由が別の要件であることである。重加算税が取り消されても,過少申告加算税相当額が当然に取り消されるわけではない。
第4 税務署職員の共謀加担により認められた事例
最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決(平成16年(行ヒ)第86号・第87号)も,税理士が納税者に無断で架空経費を計上し,過少申告をした事案である。納税者には,事前の税務相談で示された金額より約180万円低い税額を税理士から示されながら根拠や申告書の控えを確認しなかったという落ち度があった。
それでも最高裁は,「正当な理由」を認めた。この事件では,申告書を受理した統括国税調査官が収賄の上で不正行為に積極的に共謀加担し,課税庁職員の関与がなければ不正行為は不可能であったともいえるという,極めて特殊な事情があったためである。
4月20日判決と4月25日判決の分岐は,単に納税者が税理士を信頼したかではない。課税庁側の積極的関与という外部的・客観的事情が加わり,納税者に加算税を課すことが不当又は酷といえるかにある。
第5 課税庁の取扱変更について認められた事例
最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決(平成17年(行ヒ)第20号)は,外国親会社から付与されたストックオプションの権利行使益を,一時所得として申告したことが問題となった事案である。
課税庁は,かつて権利行使益を一時所得として取り扱い,課税庁職員が監修等をした公刊物にもその見解が掲載されていた。その後,平成10年分の所得税の確定申告時期以降は給与所得として統一的に扱うようになったものの,取扱変更を通達で明示したのは平成14年6月であった。一時所得説にも相応の論拠があり,最高裁が給与所得と判断したのは平成17年で,それ以前は下級審の判断も分かれていた。
最高裁は,課税庁が従来の取扱いを変更するときは,法令改正が望ましく,法令改正によらない場合でも通達等で変更後の取扱いを周知し,定着に必要な措置を講ずべきであるとした。そして,通達による明示前に従来の取扱いに沿って申告したことは,納税者の主観的事情に基づく単なる法律解釈の誤りとはいえず,「正当な理由」があるとした。
第6 平成27年判決が示した時間軸の重要性
最高裁平成27年6月12日第二小法廷判決(平成24年(行ヒ)第408号)は,匿名組合員に分配された損失の所得区分と損益通算を扱い,平成18年判決の判断基準を踏襲した。
同判決は,課税庁の公的見解を変更した平成17年の通達改正前に旧通達へ依拠してされた平成15年分・16年分の申告には「正当な理由」を認めた一方,通達改正後にされた平成17年分の申告には認めなかった。本税についての課税庁の法解釈が正しかったことと,通達改正前の申告に過少申告加算税を課せるかは別問題である。
したがって,正当な理由の検討では,申告日だけでなく,法令,通達,公刊物,個別回答及び裁判例が,いつ公表され,いつ変更され,納税者がどの資料に依拠したかを時系列で固定する必要がある。
令和5年判決が明確にした「知り得た資料」の評価
最高裁令和5年3月6日第一小法廷判決(令和3年(行ヒ)第260号)は,転売まで住宅として賃貸される建物の仕入税額控除について,過少申告加算税の「正当な理由」を否定しました。本件各申告当時には,税務当局の職員が執筆した公刊物,公表された国税不服審判所の裁決例及び下級審裁判例を通じて,税務当局の見解を一般の納税者も知り得たと評価されたためです。
これに対し,古い部内資料,前提事実が明らかでない公刊物の記載及び関係機関への非公表の回答は,同種取引を直接扱わず,申告当時の公表見解と矛盾するともいえないと評価されました。平成18年10月24日判決が「従来の公的取扱いの変更と周知不足」を重く見たのに対し,令和5年判決は,公表され到達可能な資料と,非公表又は前提不明の資料を区別しています。
したがって,証拠収集では,単に課税庁関係者の記載や過去の回答が存在することを示すだけでなく,①誰が公表したか,②一般の納税者が申告時に到達できたか,③対象取引と前提事実が同じか,④反対方向の公刊物・裁決例・裁判例が既に公表されていなかったかを時系列で整理する必要があります。
第7 正当な理由を検討する際の確認事項
- 対象事実:修正申告又は更正で新たに税額計算の基礎となった事実は何か。
- 申告時点:当初申告,修正申告及び更正の各時点で,適用法令・通達・公表見解はどうなっていたか。
- 客観的事情:災害,資料入手不能,課税庁の誤指導・公的見解・取扱変更,第三者の不正等があったか。
- 依拠関係:納税者がどの資料又は説明に依拠し,それが過少申告にどう結び付いたか。
- 確認行動:申告書,税額計算,納付書及び領収書を確認したか。不自然な税額差について照会したか。
- 予見・回避可能性:期限前に過少申告を認識し,又は容易に認識して是正できたか。
- 不当・酷の評価:適正申告者との公平という制度目的を考慮しても,なお加算税賦課が不当又は酷といえるか。
- 対応税額:正当な理由がある事実に基づく税額と,それ以外の増差税額を区分できるか。
第8 重加算税・本税・信義則との区別
重加算税は,隠蔽又は仮装という不正手段を基礎とする。税理士の不正行為を納税者本人の行為と同視できるかは,納税者が不正を認識し,又は容易に認識して期限内に防止できたか等により判断される。これに対し,過少申告加算税の正当な理由は,帰責不能な客観的事情と賦課が不当又は酷かを問題にする。
また,正当な理由が認められても,適正な本税まで消滅するものではない。課税庁の説明や従前の取扱いが問題となる場合でも,租税法律主義の下で本税の課税を排除する信義則の要件と,過少申告加算税を課さない正当な理由の要件は同一ではない。請求・主張では,本税,更正の理由,過少申告加算税及び重加算税を分ける必要がある。
第9 税務調査・不服申立てで収集する資料
税理士へ委任した事案では,委任契約,申告依頼時に渡した資料の一覧,事前の税額試算,メール,面談記録,申告書案,電子申告の受信通知,申告書控え,納付書,領収書及び税理士報酬・納税資金の送金記録を確保する。税額が事前説明から大きく変わった場合,理由を尋ねた記録の有無が重要になる。
課税庁の取扱変更が問題となる事案では,対象年分当時の法令・通達だけでなく,質疑応答集,パンフレット,税務署への照会記録,回答書,公刊物の版・発行日,改正通達の発遣日・適用時期及び周知状況を集める。現在のウェブページだけでは,当時の公的見解を証明できないことがある。
加算税の賦課決定は,本税の修正申告とは別に不服申立ての対象となる。修正申告をするとその申告自体について通常の不服申立てができないため,調査結果の説明を受けた段階で,本税額,修正申告の効果,加算税の種類・基礎税額及び正当な理由の主張を分けて検討する。
第10 現行法と資料の確認状態
本記事の基準日は令和8年10月1日である。現行の国税通則法65条5項1号及び国税庁の事務運営指針を確認した。平成18年当時の条文番号は同条4項であり,判決引用中の条項番号を現行条文の番号と混同しない。
最高裁平成18年4月20日,同月25日,同年10月24日,平成27年6月12日及び令和5年3月6日の各判決は,裁判所ウェブサイトの日本語判決全文を確認した。判例時報の平成18年度及び令和5年度の「最高裁民事破棄判決等の実情」は事件探索及び比較のための二次資料として用いた。判例秘書については本記事作成時に本文照合をしていないため,判例秘書番号・同データベース独自の要旨又は評釈情報は根拠にしていない。
個別事件では,対象税目,課税期間,処分日及び当時の法令・通達によって結論が変わる。本記事は一般的な判断枠組みの整理であり,正当な理由が認められることを個別事案について保証するものではない。
第11 出典・関連記事
① e-Gov法令検索「国税通則法」
② 最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決全文
③ 最高裁平成18年4月25日第三小法廷判決全文
④ 最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決全文
⑤ 最高裁平成27年6月12日第二小法廷判決全文
⑥ 最高裁令和5年3月6日第一小法廷判決全文
⑦ 国税庁「法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
⑧ 税務大学校論叢「加算税の免除要件―納税者の権利保護との関係から―」
⑨ 宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情(1)~(4)・完―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号
⑩ 平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)
⑪ 税務調査の事前通知・帳簿データ・AI活用(AI作成)
⑫ 国税不服審判所―組織,審査請求手続,裁決の効力及び裁判例(AI作成)