第1 この記事の対象と確認状態
本記事は、法務省が公表した令和8年司法試験の選択科目問題のうち、環境法第2問を対象とする。以下の評価項目、重み、答案及び解説は、問題文、法令、裁判例から独自に予想したもので、法務省の出題の趣旨、採点実感、採点基準又は配点ではない。作成時点の令和8年9月30日には、出題の趣旨及び採点実感を参照していない。
答案は、選択科目1問の入力上限である1行30文字・92行に合わせ、見出しを含めて92行、各行30文字以内、合計2562文字とした。改行位置を含む答案本文を第5に示す。文字数を埋めることよりも、各設問の問い、条文の効果及び対立する主張を閉じることを優先した。CBTの答案欄に関する解説及び法務省の試験Q&Aを参照した。出題の基準となる法令は、原則として令和8年1月1日施行のものとされる。
第2 評価項目の作り方と重み
設問が直接求める事項、問題文で対比された事実、自然公園法の要件・効果及び裁判例が示す判断要素を、一項目一判定対象に分けた。重み5は答案の結論を支える中核、4は主要な条文又は事実、3は重要な補強、2は丁寧な区別、1は補足を表す。点数でも公式評価でもない。条文を挙げるだけでなく、A公園、B草原、C組合、E法人及びXの各事実へ適用できているかを見る。
第3 問題の概要
国立公園Aは、原生林、湿原、草原B及び雑木林Dを含む。原生林には踏圧を抑える利用調整地区があり、草原Bは放牧と火入れによって維持されてきたが、管理の衰退により縮小している。NPO法人Eは所有者Cとの風景地保護協定による回復を望む。Dの所有者Xは落雷後の焼失地に小規模な貸別荘5棟を計画したが、不許可となり、損失補償額0円を争う。設問1は地域制公園の利害、設問2は人為的草原の保護、設問3は協定の制度と内容、設問4は国とXの補償をめぐる主張を求める。
第4 本記事が独自に予想する評価項目
| 番号 | 設問 | 答案で確認したい内容 | 重み | 根拠・手掛かり |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 1 | 自然公園を所有権の移転を要しない地域制公園と捉える | 5 | 法5条・公園Aの広域性 |
| 2 | 1 | 都市公園を設置者が土地の権原を確保する施設型公園と区別する | 4 | 都市公園法との対比 |
| 3 | 1 | 私有地を含む広い連続生態系を取得費を抑えて保護できる利点を示す | 4 | 原生林から草原まで |
| 4 | 1 | 私権との衝突及び積極的管理が所有者の協力に左右される弱点を示す | 4 | Cの管理衰退 |
| 5 | 1 | 憲法29条、法4条、地種区分及び法64条の調整を示す | 5 | 私有地と補償の設問 |
| 6 | 2 | 「自然の風景地」を原生自然に限定しない | 5 | 法2条2号・草原B |
| 7 | 2 | 生物多様性条約の保全と持続可能な利用を法1条・3条2項に結び付ける | 5 | 設問の改正指示 |
| 8 | 2 | 放牧と火入れが数百年にわたり草原景観と生息環境を形成したと評価する | 5 | Bの成立経緯 |
| 9 | 2 | 火入れ面積の減少、多年草・低木の侵入、草地縮小という因果を示す | 4 | Cの高齢化 |
| 10 | 2 | 第三種特別地域が通常の農林漁業との調整を予定すると示す | 4 | 施行規則9条の12 |
| 11 | 2 | 法38条の維持回復事業計画と継続的管理を結ぶ | 3 | Aの事業計画 |
| 12 | 3⑴ | 利用調整地区の指定・立入り制限・認定を正確に示す | 4 | 法23・24条 |
| 13 | 3⑴ | 原生林の踏圧という過剰利用を、Bの管理不足と対比する | 5 | 二つの地域の劣化原因 |
| 14 | 3⑴ | 協定を土地所有者等の合意による積極的管理と捉える | 5 | 法43条 |
| 15 | 3⑴ | EはNPO法人であるだけでは締結主体とならず、公園管理団体の指定を要すると示す | 5 | 法43条1項・49条 |
| 16 | 3⑵ | 所有者Cと、存在するなら使用収益権者全員の合意を要すると示す | 4 | 法43条1・2項 |
| 17 | 3⑵ | 区域、管理方法、必要施設、期間、違反時措置の5事項を挙げる | 5 | 法43条1項各号 |
| 18 | 3⑵ | 火入れ、低木除去、草刈り、放牧、監視、費用、防火を具体化する | 5 | Bの劣化原因 |
| 19 | 3⑵ | Cの牧畜を不当に制限せず、所有権移転も要しないと示す | 4 | 法43条3項2号 |
| 20 | 3⑵ | 大臣の認可、公告・縦覧、承継人への効力を正確に位置付ける | 3 | 法43条5項、44~48条 |
| 21 | 4 | 新築は許可対象であり、法20条4項は基準不適合時の不許可義務を定めると読む | 5 | 法20条3項1号・4項 |
| 22 | 4⑴ | 国側で焼失後の再生可能性とDの連続景観を論ずる | 4 | 落雷から2年 |
| 23 | 4⑴ | 基準適合は当然の許可を意味しないとの国の主張を示す | 4 | 設計上の全基準適合 |
| 24 | 4⑴ | 既存利用から新規貸別荘への転換、準備費・利益の不確実性を示す | 4 | Xの計画と損失内訳 |
| 25 | 4⑵ | 第二種地域、道路沿い、焼失地、8000平方メートル中500平方メートル、景観適合をXに有利に評価する | 5 | 建築計画の具体的事実 |
| 26 | 4⑵ | 法1条・4条と基準の趣旨から裁量の限界を論じ、自然回復の具体性を問う | 5 | 不許可理由 |
| 27 | 4 | 不許可の適法性と、法64条に基づく補償の有無を区別する | 5 | 増額訴訟の対象 |
| 28 | 4 | 憲法29条3項の特別の犠牲と受忍限度を両側から論ずる | 5 | 法64条・裁判例 |
| 29 | 4 | 旧法下の別荘建築・採石不許可の両裁判例を、地種と事実を区別して使う | 3 | 裁判所判決全文 |
| 30 | 4 | 通常損失を準備費と逸失利益の単純合計にせず、客観的利用価値・地価の低下と因果関係で論ずる | 5 | 法64条・採石事例 |
| 31 | 4 | 65条の増額訴訟は通知から6か月以内、被告は国と示す | 4 | 法65条 |
評価の中心は、設問1の所有と規制の区別、設問2の二次的自然、設問3の「過剰利用への立入規制/管理不足への協定」という対応関係、設問4の基準適合後も残る許可判断と補償の立証である。特に設問4では、準備費用及び逸失利益というXの請求額を、そのまま法64条の「通常生ずべき損失」と同一視しない。
第5 模範解答(30文字以内×92行)
1 自然公園法は、土地の所有権を取得せず、優れた自然の風景地
を区域指定して保護し、地種区分ごとに行為を規制する地域制公園
を採る。都市公園法の都市公園は、設置者が土地の権原を得て設
置、管理する施設である。前者では区域の指定と公園計画により保
護・利用の方向を定め、特別地域で工作物の新築等を許可制にする
(法7条、20条3項)。施設としての公園用地を一律に確保する
必要がなく、原生林、湿原、草原、雑木林を含める。
2 地域制なら、私有地を含む広い生態系を連続的に保護でき、用
地取得費も抑えられる。反面、私権を残すため保護と利用が衝突
し、所有者の協力なしに積極的管理をしにくい。憲法29条の財産
権保障から、規制の必要性と強度を区域別に調整し、特別の犠牲に
は同条3項及び法64条による補償を要する。強い保護を要する原
生林を第一種、農林業との共存が必要な草原を第三種とするよう
に、現地の風致と権利の均衡を図るべきである。都市公園は一体的
管理に向くが、用地取得費と土地確保が広域保全を制約する。
第2 設問2
1 法2条2号の「自然の風景地」は、人手のない原生自然に限ら
れない。生物多様性条約は多様性の保全と持続可能な利用を重視す
る。これを受けた法1条は多様性への寄与を、3条2項は生態系の
多様性の確保を掲げ、38条は維持回復事業を設けた。生物多様性
の保全は、原生林を人手から隔離するだけで達成されず、地域ごと
の人と自然の継続的関係にも目を向けることを要する。
2 Bは放牧と火入れで数百年維持され、草原特有の景観と生息環
境を生んだ二次的自然である。管理の衰退で低木が侵入すれば、草
原の景観も生物多様性も失われる。第三種特別地域は通常の農林漁
業との調整を予定するから、牧畜を排さず火入れ等の継続を通じB
を守ることが保護に当たる。維持回復事業計画の記載もこれに符合
する。Cの高齢化と火入れ面積の縮小を放置すれば、指定時に評価
した雄大な草原は姿を変える。法が守るのは現在の草だけでなく、
適切な管理によって続いてきた生態系と風景である。
第3 設問3
1 小問⑴ 利用調整地区は、過剰な立入りが原生林を損なう場合
に大臣が指定し、原則立入りを禁じ、認定等により利用を調整する
規制手法である(23、24条)。原生林では入域者の数や時期を
調整し、木の根と下草への踏圧を抑える機能を持つ。これに対しB
の問題は利用過多でなく、火入れ・放牧等の管理不足である。43
条の風景地保護協定は、土地所有者等の合意を基礎に管理を実施す
る協働の手法である。NPOのEが締結主体となるには、49条の
公園管理団体の指定を受ける必要がある。長年の活動実績は指定判
断を支えるが、NPO法人格のみで法定の地位は生じない。
2 小問⑵ Eと土地所有者Cは、Bのうち回復・維持する区域、
管理方法、必要な施設、有効期間、違反時の措置を協定に定める。
C以外に土地・木竹の使用収益権者がいれば全員の合意を得、利用
を不当に制限しない。管理方法は、EとCの役割と費用を定め、春
の計画的な火入れ、低木の除去、草刈り、放牧の継続、植生の監視
を組み合わせる。防火体制、隣接地・来訪者の安全措置、必要な防
火帯等の施設も具体化する。Eによる協定には環境大臣の認可を要
し、公告・縦覧等を経た協定は承継人にも及ぶ。Cの土地所有と牧
畜を維持して実行する。
第4 設問4
1 小問⑴ 国は、法20条4項は基準に適合しない場合の不許可
を義務付けるだけで、適合すれば当然許可すべきとはしていない、
と主張する。焼失は2年前の落雷による。現在樹木がなくても自然
遷移で雑木林に戻る余地があり、Dの連続した風景の保護上、建築
を拒む判断には合理性があるという。観光利用を促す法目的があっ
ても、風致を損なう利用まで認める趣旨ではない。また、基準は許
可の最低条件であり、地域の具体的な風致も踏まえた判断が許され
る。憲法29条2項の財産権の社会的制約内なら特別の犠牲はな
く、補償を要しない。従来の薪炭林利用から貸別荘5棟への転換は
新規の営利計画で、既得の利用ではない。設計費等は許可前に自ら
負担した開発費用、逸失利益は未開業事業の不確実な期待である。
不許可による土地の客観的価値の低下も立証されず、通常損失はな
く0円とする。残る約2万2000平方メートルの林地の利用まで
禁止された事実も示されていない。旧法下の別荘不許可例も、第一
種地域の風致と従前利用を比較して補償を否定した。
2 小問⑵ Xは、法1条が保護と利用を共に掲げ、4条が所有権
の尊重を命ずる以上、大臣の裁量も無制限ではないと反論する。D
は現状を極力保護する第一種でなく第二種特別地域であり、農林業
との調整が予定される。申請地は道路沿いで、落雷後の焼失地であ
る。約8000平方メートル中の建築面積は計500平方メートル
で、計画は周囲に調和し、法20条4項の許可基準にも全て適合す
る。この面積比は景観影響の大小を示す事情であり、施行規則上の
建ぺい率の算定とは区別する。将来の再生だけを理由に拒むのは、
各地種の区別と具体的許可基準を空洞化させる。自然回復の見通し
と建築がこれを妨げる程度について、具体的な根拠を示すべきであ
る。旧法下の第一種地域の別荘事例は、原生林の急斜面と遠望を損
なう建築で本件と異なる。仮に不許可自体が適法でも、法64条の
補償の有無は別に判断すべきである。公園指定に伴う制約を全て所
有権に内在するものとして、補償を一律に排除できない。採石不許
可の裁判例も、収用同然の侵害に限って補償を認める考え方を退け
ている。本件の小規模で景観に配慮した計画まで拒み、土地の客観
的利用を著しく妨げるなら、公益のためXだけに特別の犠牲を課
す。設計費は基準適合に必要な準備で、不許可により無益となった
通常の支出だと主張できる。貸別荘の需要や収益を資料で示し、逸
失利益が単なる期待を超えるとも主張する。ただしこれらを当然に
合算せず、不許可による土地の客観的利用価値・地価の低下と因果
関係を取引事例等で立証し、二重計上を避ける。近隣の用途・取引
と需要から損失を裏付ける。その限度で通常損失の増額を求め得
る。Xは0円決定の通知から6か月以内に、国を被告として65条
の訴えを提起する。
以上
第6 答案の解説と参考答案との照合
1 制度の使い分け
法1条・3条2項は景観と生物多様性を併せて保護し、法38条の維持回復事業は、放置によって失われる二次的自然にも対応する。原生林では来訪者の踏圧を抑える法23条の利用調整地区、草原BではCの利用を維持しながらEが管理に参加する法43条の協定を対応させる。環境省の平成14年改正の説明も、利用集中と管理不足という別々の問題に対する制度整備を説明している。
2 EとCの協定
法43条の締結主体は環境大臣、地方公共団体又は指定を受けた公園管理団体である。Eの長年の活動は法49条の指定を求める際に有利な事情となるが、指定そのものが済んだ事実は問題文にない。所有者C以外の権利者の存在も不明であるため、存在すれば全員の合意を得ると書く。火入れは防火、隣地・来訪者の安全、費用、実施主体を含めて協定内容に落とす。Cが農地所有適格法人である点を踏まえ、協定は土地をEへ移す制度だとは書かない。自然公園法43~49条参照。
3 不許可と補償は別の判断
法20条4項は、基準を満たさなければ許可してはならないという規定である。基準に適合したことだけで許可義務が直ちに導かれるわけではない。ただし、大臣も法1条の保護と利用、法4条の財産権尊重、第二種特別地域の性格及び具体的な景観影響を踏まえる必要がある。環境省の許可審査案内は、施行規則上の全国基準と地域ごとの管理計画書を挙げるが、本件A公園の管理計画の具体的内容は問題文にない。したがって、特定の計画違反を事実として補充しない。
仮に不許可が適法でも、補償0円が当然に決まるわけではない。旧法35条に関する採石不許可事件の東京地裁判決(昭和61年3月17日)は、自然公園法上の制限を全て内在的制約とする考えと、収用同然の場合にしか補償しない考えを退け、主観的な収益計画ではなく、利用制限による地価低下を客観的に評価した。ただし、その事案では地価低下の立証がなく、景観を大きく損なう採石計画でもあったため請求は棄却された。別荘建築不許可事件の裁判所判決全文は、第一種特別地域の原生林の急斜面に建物と関連設備を置く事案で、風致への影響と従前・客観的に予想される用途を総合して補償を否定した。これらは旧法下の下級審判決であり、本問の第二種地域の焼失地・道路沿い・基準適合という事実に結論を機械的に移せない。
4 確認できた公開「参考答案」の範囲
同じ令和8年司法試験環境法第2問を直接扱う公開資料として、「令和8年度 司法試験・環境法」の答案構成メモを確認した。これは執筆者自身が「再現答案ではない」と明示する概要であり、法令・判例による校正前の一つの見解として扱った。草原を人と自然の共生で形成された風景と捉える点、法43条1項各号に沿って協定を具体化する点は本記事と重なる。他方、国立公園Aを「国定公園」と記す箇所や、法64条を「通常生ずべき損害」とする箇所は、問題文及び法文に照らして採用しなかった。同記事の逸失利益に関する結論も、上記裁判例の客観的な損失評価と突き合わせ、本記事では自動的な全額補償を否定した。関連する令和2年司法試験環境法第2問の公開答案整理も確認したが、第一種特別地域の既存建物の改築が中心であり、本問の第二種地域での新築と区別した。検索で見つかった予備試験の環境法答案も対象問題が異なるため、本問の結論には転用しない。
第7 出典と未確認事項
- 問題文:法務省「令和8年司法試験問題」選択科目PDFの環境法第2問。
- 法令:自然公園法全文(千葉県掲載)、問題文掲載の自然公園法施行規則9条の12。試験の法令基準日については法務省Q&A。
- 制度資料:環境省の自然公園法改正説明、国立公園の許可申請案内。
- 裁判例:採石不許可と損失補償、別荘建築不許可と損失補償。いずれも旧法下の下級審裁判例であり、事案の違いを明示して参照した。
- 公開答案:令和8年司法試験環境法の答案構成メモ。対象問題の完成した公開参考答案は、今回確認できた検索範囲では特定できなかった。