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2026年9月の東大総長選考-意向投票1107票対553票と総長選考の説明責任(AI作成)

第1 2026年9月の東大総長選考で起きたこと

教職員等による意向投票を踏まえ,東京大学総長選考・監察会議が候補者資料,推薦書,面接を含む調査及び所信表明を総合して総長予定者を決定した。
本記事は,令和8年9月30日を調査基準日として,同日までに公表された法令,国立大学法人ガバナンス・コード及び東京大学の資料を検討したものである。

1 意向投票の結果

(1) 第1回投票

第1回投票では,染谷隆夫氏が818票,藤垣裕子氏が400票,山本隆司氏が377票,大越慎一氏が363票,菅野暁氏が152票,白票が45票であり,総投票数は2155票であった。
過半数を得た候補者がいなかったため,得票上位3人を対象として第2回投票が行われた。

(2) 第2回投票

第2回投票では,染谷氏が1107票,藤垣氏が553票,山本氏が451票,白票が58票であり,総投票数は2169票であった。
有資格者2583人に対する投票率は約83・97%であり,白票を含む総投票数に占める染谷氏の得票率は約51・04%,藤垣氏の得票率は約25・50%であった。
両氏の票差は554票であり,染谷氏の得票は藤垣氏の約2・00倍であった。

候補者等第1回投票第2回投票
染谷隆夫氏818票1107票
藤垣裕子氏400票553票
山本隆司氏377票451票
大越慎一氏363票-
菅野暁氏152票-
白票45票58票
合計2155票2169票

2 総長選考・監察会議の結論

総長選考・監察会議は,意向投票と同じ令和8年9月28日,藤垣氏を次期総長予定者に選んだ。
任期は令和9年4月1日から令和15年3月31日までの6年間であり,就任すれば第32代総長となる。
東京大学が公表した選考過程では,総長予定者の決定に関する審議は非公開とされている。

第2 意向投票1位を選ばなくても直ちに違法とはいえない

1 学長選考・監察会議が選考主体である

(1) 国立大学法人法の仕組み

国立大学法人法12条6項は,学長選考・監察会議が,人格が高潔で,学識が優れ,大学の教育研究活動を適切かつ効果的に運営できる能力を有する者のうちから学長候補者を選考すると定めている。
同条7項は,選考結果その他の文部科学省令で定める事項の公表を求めている。
したがって,法令上の選考主体は意向投票の有権者ではなく,学長選考・監察会議である。

(2) ガバナンス・コードの位置付け

令和6年改訂の国立大学法人ガバナンス・コードは,学長選考・監察会議が「意向投票によることなく」,自らの権限と責任において選考するものとしている。
同コードは,基準,選考結果,選考過程及び選考理由を公表し,人事審議であることを考慮しつつも,できる限り具体的な公表に努めるべきであるとも定めている。
もっとも,同コードは法的拘束力を有する法令ではなく,コンプライ・オア・エクスプレインを基礎とする統治原則である。

2 意向投票は拘束力がないが無意味でもない

(1) 単純追認は制度の趣旨ではない

意向投票の最多得票者を自動的に選ぶのであれば,学長選考・監察会議が候補者の資質と能力を審査する制度上の責任は空洞化する。
文部科学省の実務説明及びガバナンス・コードも,意向投票結果の機械的な追認ではなく,会議体による主体的な選考を求めている。
したがって,染谷氏を選ばなかったという一点だけから,今回の選考を違法又は制度違反と断定することはできない。

(2) 東京大学自身が意向投票を重要な要素としてきた

他方,東京大学の令和3年タスクフォース報告書は,意向投票を大学運営に対する構成員の参画機会であり,幅広い構成員の信任意思を集約して総長のリーダーシップを支えるプロセスとして整理している。
同報告書は,意向投票を行う場合には意味付けを明確にし,社会に対する説明責任を果たす必要があるとも述べている。
意向投票が結論を拘束しないことは,その結果をどのように考慮したのかを説明しなくてよいことを意味しない。

第3 東京大学が公表した選考理由

1 藤垣氏について評価した事項

東京大学は,藤垣氏について,科学技術を社会に伝えるコミュニケーション力,学術への信頼を回復する意思と能力,文理融合,学内外の対話,国際経験及びより開かれた大学への変革力を評価したと説明している。
また,壁を所与とせず,分断を乗り越えるための知見と能力を評価したとしている。
これらは,藤垣氏を適任と判断した積極的理由を示すものである。

2 「求められる総長像」と幅広い支持

令和7年12月1日決定の「求められる総長像」は,総長に求める資質の一つとして,「組織構成員の幅広い支持を受け」て合意形成に配慮しつつリーダーシップを発揮する能力と実績を掲げている。
意向投票はこの資質を完全に測る試験ではないが,高い投票率の下で示された構成員の選好である以上,「幅広い支持」を評価するための軽い資料ともいえない。
今回の公表理由には,1107票対553票という差をこの評価項目についてどのように扱ったのかという説明がない。

第4 批判すべきなのは選考結果より説明の比較可能性である

1 適任である理由と他候補より選ぶ理由は異なる

(1) 絶対評価としての選考理由

藤垣氏の経験,能力及び将来構想を挙げれば,藤垣氏が総長予定者として適任であるとの絶対評価は説明できる。
公表文書はこの点について複数の具体的な長所を示しており,理由が全く示されていないわけではない。

(2) 相対評価として残る空白

複数候補者から一人を選ぶ場面では,なぜその候補者が適任かだけでなく,なぜ他候補より優先されたかも結論の理解に関わる。
公表資料からは,評価項目ごとの候補者間比較,各項目の重み,意向投票の重み及び最終的な会議内投票の集計を確認できない。
そのため,公表された長所が554票の差と「幅広い支持」という評価項目を上回ると判断された過程を,学内外の読者が検証することは難しい。

2 独立判断を強調するほど説明が必要になる

学長選考・監察会議が多数意思から独立して判断することには制度上の根拠がある。
しかし,独立判断と無説明は同義ではなく,独立判断を正当化するには,事前に公表した基準を一貫して適用したことを示す必要がある。
結論が高い投票率の下で示された明白な得票差と異なるときは,候補者の機微情報を開示しなくても,比較衡量の骨格を示す説明が必要であると考えられる。

3 重みを示さなければ意向投票が儀礼化する

東京大学は意向投票を実施し,その全投票回の候補者別得票数と白票数を公表した。
それにもかかわらず,選考時に意向投票へ与えた重みを示さなければ,構成員には投票が実質的な判断材料であったのか,単なる参考情報であったのかが分からない。
投票結果の拘束力を否定する場合であっても,意向投票を続ける制度目的と考慮方法を具体化する必要がある。

第5 令和3年タスクフォース報告書から分かること

1 報告書が直接決めたことと紹介した意見を区別する

(1) 報告書自身の整理

令和3年のタスクフォース報告書は,意向投票の意味付けを明確にし,社会に対する説明責任を果たす必要があると整理した。
また,選考の各段階における会議と大学構成員の役割を整理し,意向投票の意味を明確にしておく必要があるとした。

(2) アンケートで示された意見

同報告書は,タスクフォース・アンケートにおいて,総長予定者が意向投票結果と異なる場合には十分丁寧に説明する責任があるとの意見があったことを紹介している。
これは報告書がその文言を法的義務として確定したものではなく,説明責任の具体化に向けて紹介した意見である。
報告書は,最終的には選考の各段階の意味付けと説明責任の内容を今後さらに具体的に検討することを求めた。

2 令和8年選考で残った問題

東京大学は令和8年選考で,候補者名,意向投票の全得票及び総長予定者の積極的な選考理由を公表しており,令和2年当時より情報公開を進めている。
他方,今回まさに問題となったのは,タスクフォース報告書が検討課題とした「考慮」がどのような重みを持つかという点である。
投票の実施と得票公表だけでは,この未解決部分に対する回答にならない。

第6 東京大学側に成り立つ三つの反論

1 選考会議の主体性を守る必要がある

意向投票の最多得票者を必ず選ぶ運用は,学長選考・監察会議の選考責任を形式化するおそれがある。
候補者の学識,倫理観,経営能力,国際性,危機対応及び将来構想は,得票数だけでは評価できない。
この反論は制度上正当であり,意向投票1位の不選出それ自体を批判の中心にすべきでない理由となる。

2 得票数は能力の完全な代理ではない

候補者の知名度,所属部局の規模,情報発信の機会及び有権者との接点は得票へ影響し得る。
意向投票の有資格者も大学の全構成員ではなく,学生を含まない。
したがって,得票結果だけを「大学全体の民意」と表現することは正確でない。

3 人事審議には守秘が必要である

候補者の弱点,面接内容及び委員個人の発言を詳細に公表すれば,候補者の名誉,率直な審議及び将来の候補者確保を損なう可能性がある。
ガバナンス・コードも,人事に関する審議であることを考慮しつつ具体的な公表に努めるという均衡を採っている。
説明責任を理由として審議内容の全面公開を求めることは相当でない。

第7 守秘と両立する説明の方法

1 会議体として公表できる事項

本記事では,東京大学が,①評価項目のおおよその優先順位,②候補者名や評点を伏せた項目別の比較構造,③意向投票をどのような資料として考慮したか,④最終選考における投票回数と集約された票数を公表することを提案する。
これらは,委員個人の発言又は候補者の機微情報を明らかにせず,結論に至った論理を検証可能にする方法である。

2 公表を求めるべきでない事項

委員の記名投票,面接で得た非公開情報,候補者ごとの詳細な弱点及び委員個人の発言録まで公表する必要はない。
求めるべきものは審議の実況中継ではなく,公表済みの選考基準,意向投票及び最終結論を結ぶ会議体としての理由である。

第8 根拠の弱い批判を混ぜるべきでない

1 直ちに違法であるとの断定

現行制度は意向投票1位の選出を義務付けていないため,結果が異なることだけから違法と断定できない。
手続上の具体的な違反を示す資料がない限り,法的批判と統治上の説明不足を区別する必要がある。

2 性別が決定要因であったとの推測

藤垣氏が就任すれば東京大学初の女性総長となることには組織史上の意味がある。
しかし,公開資料上,性別が選考結果を決めたとの証拠は確認できないため,「女性枠」又は性別による優遇と断定することはできない。
初の女性総長という意義と,選考理由の十分性は別々に検討すべき問題である。

3 候補者個人の能力を否定する批判

公表された資料は,藤垣氏について複数の具体的な能力と経験を評価している。
今回問うべきなのは藤垣氏に総長としての能力がないということではなく,なぜ他候補より優先したのかという比較説明が足りるかである。
候補者への人格的評価へ議論を広げれば,制度上の核心である説明責任がかえって見えにくくなる。

第9 結論

令和8年の東京大学総長選考では,意向投票で1107票を得た染谷氏ではなく,553票を得た藤垣氏が次期総長予定者に選ばれた。
学長選考・監察会議が意向投票を単純追認せず,自らの権限と責任で判断することは現行制度に沿うため,この結論だけから違法又は不当と断定することはできない。

しかし,東京大学自身が「組織構成員の幅広い支持」を総長像に掲げ,意向投票を実施した以上,554票の差をどのように評価したかは選考理由の中核となる。
藤垣氏の長所を示す絶対評価は公表されたが,他候補との比較,評価項目の重み及び意向投票の位置付けは具体化されていない。
今回の選考に対する最も合理的な批判は,投票結果と異なる結論そのものではなく,独立判断を検証できるだけの比較可能な説明が不足しているという点にある。

第10 出典・参考資料

1 法令・制度基準

①e-Gov法令検索「国立大学法人法」12条6項・7項(令和8年9月30日確認)
②文部科学省・内閣府・国立大学協会「国立大学法人ガバナンス・コード」(令和6年7月1日改訂)資料15頁(PDF18頁)
③文部科学省「学校教育法及び国立大学法人法等の改正に関する実務説明会 第一部」

2 東京大学の公表資料

①東京大学「総長選考(令和8年度実施)」
②東京大学総長選考・監察会議「次期総長予定者・選考結果,選考理由及び選考過程」(令和8年9月28日)PDF1頁~5頁
③東京大学総長選考・監察会議「求められる総長像」(令和7年12月1日)資料27頁(PDF28頁)
④東京大学総長選考会議の組織検討タスクフォース「総長選考会議の組織検討タスクフォース報告書」(令和3年3月)資料15頁~19頁(PDF18頁~22頁)
⑤東京大学「次期総長予定者に藤垣裕子氏を選出」(令和8年9月28日)

3 報道資料

①東大新聞オンライン「意向投票で染谷隆夫候補が過半数獲得」(令和8年9月28日)
②東大新聞オンライン「藤垣裕子教授の次期総長選出で会見」(令和8年9月29日)