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取得時効と登記・抵当権の時系列―時効完成前後の第三者,起算点の選択禁止,再度の取得時効,援用後の制限及び背信的悪意者(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,他人の土地を長期間占有した者(占有者)が取得時効を主張する場合に,時効の完成前後に原所有者から土地を譲り受けた者や抵当権の設定を受けた者との優劣がどう決まるかを,最高裁判所の判例に沿って時系列で整理するものである。

判例の枠組みは,次の5点にまとめられる。
①時効完成前に原所有者から権利を取得して登記をした第三者に対しては,占有者は登記がなくても時効取得を主張できる(最判昭和41年11月22日)。
②時効完成後に原所有者から権利を取得して登記をした第三者に対しては,占有者は登記がなければ時効取得を対抗できない(最判昭和33年8月28日)。
③時効期間の起算点は時効の基礎たる事実の開始時であり,占有者が任意に選んで完成時期をずらすことはできない(最判昭和35年7月27日)。
④時効完成後の第三者が登記をした後,占有者がさらに時効取得に必要な期間占有を継続すれば,その第三者に登記なくして対抗できる。抵当権の設定登記の場合も,特段の事情がない限り,再度の時効取得により抵当権は消滅する(最判昭和36年7月20日,最判平成24年3月16日)。
⑤ただし,既に時効を援用して所有権を取得し登記をした者は,起算点を後にずらして再度の時効を主張することはできない(最判平成15年10月31日)。

同じ土地に設定時期の異なる複数の抵当権があるときは,各抵当権の登記がどの時効期間の完成前か完成後かを別々に判定する。令和8年司法試験論文式試験の民事系科目第1問〔設問1(1)〕は,この判定を問う問題であった(第10)。

第2 関係する条文

1 取得時効

民法162条は,「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」(1項),「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」(2項)と定める。

占有者は,所有の意思をもって,善意で,平穏に,かつ,公然と占有をするものと推定され,前後の両時点において占有をした証拠があるときは,占有はその間継続したものと推定される(民法186条)。無過失は,同条の推定の対象に含まれていない。

2 時効の効力と援用

時効の効力は,その起算日にさかのぼる(民法144条)。時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない(民法145条)。

3 登記と抵当権の消滅

不動産に関する物権の得喪及び変更は,登記をしなければ第三者に対抗することができない(民法177条)。

民法397条は,「債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。」と定める。

第3 時効完成前の第三者―登記なくして対抗できる

最高裁判所第三小法廷昭和41年11月22日判決の裁判要旨は,「不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。」である。

同判決は,時効が完成してもその登記がなければその後に登記を経由した第三者には対抗できないのに対し,第三者のなした登記後に時効が完成した場合には,その第三者に対しては登記を経由しなくても時効取得をもって対抗できるという従前の判例(昭和35年判決,昭和36年判決)を確認し,これを変更すべき必要を認めないとした。

したがって,占有者にとっては,第三者の登記が時効完成の前か後かが決定的となる。

第4 時効完成後の第三者―登記がなければ対抗できない

最高裁判所第一小法廷昭和33年8月28日判決の裁判要旨は,「時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、所有権の取得を対抗できない。」である。

時効完成後の第三者との関係は,原所有者からの二重譲渡と同じく,民法177条の対抗問題として処理される。第三者が時効の完成を知っていたかどうかは,原則として結論を左右しない(例外は第9の背信的悪意者である)。

第5 起算点を選んで完成時期をずらすことはできない

最高裁判所第一小法廷昭和35年7月27日判決の裁判要旨は,「時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。」である。

第3と第4の区別によれば,占有者は,起算点を後にずらして時効完成を第三者の登記より後にできれば,登記なくして対抗できることになる。同判決は,このような起算点の選択を否定したものである。

第6 第三者の登記後の再度の取得時効

1 譲受人の登記後

最高裁判所第一小法廷昭和36年7月20日判決の裁判要旨は,「不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ、その後に所有権取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえないが、第三者の右登記後に占有者がなお引続き時効取得に要する期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもつて対抗しうるものと解すべきである。」である。

同判決の事案では,占有者は,最初の10年の時効完成後に第三者が寄附を受けて登記をした日から,さらに10年間,所有の意思をもって平穏,公然,善意,無過失に占有を継続していた。

2 抵当権の設定登記後(平成24年判決)

最高裁判所第二小法廷平成24年3月16日判決は,「不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。」とした。

同判決は,その理由として,抵当権設定登記がされた時から占有者と抵当権者との間に権利の対立関係が生じ,その事態は不動産が第三者に譲渡されて登記がされた場合に比肩するということができること,また,「取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。」ことを挙げている。

同判決の事案では,占有者は,抵当権の設定登記の時点で土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であり,登記後引き続き時効取得に要する10年間占有を継続し,その後に取得時効を援用した。抵当権が設定され登記されたことを知らないまま占有を継続していたことから,抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情はうかがわれないとされ,占有者は抵当権の設定登記の日を起算点として土地を時効取得し,抵当権は消滅したとされた。

3 古田佑紀裁判官の補足意見

同判決には古田佑紀裁判官の補足意見がある。補足意見は,抵当権の設定を受けた者には,譲受人と異なり,占有を排除して時効の完成を妨げる手段が当然には認められないことを指摘し,法廷意見は抵当権者において抵当権の消滅を防止する何らかの手段があることを前提としているものと解され,その理解の下で法廷意見に与するとしている。

また,補足意見は,抵当権が消滅する理由として再び取得時効の完成を認めることは「技巧的で不自然な感を免れない」とし,民法397条の規定から取得時効期間占有が継続されたこと自体によって抵当権が消滅すると解することが可能であると述べた上,複数の担保権が存在する場合の調整やこれらの権利の消滅を防止する手段などについて,占有に関わらない物権は個別に消滅するかどうかを判断すべきものとする観点からの検討が適切な場合があることを付言している。

4 再度の時効に必要な期間

再度の取得時効も,民法162条の要件による。第三者の登記の時点で占有者が善意かつ無過失であれば10年,そうでなければ20年の占有継続が必要になると考えられる(昭和36年判決・平成24年判決は,いずれも登記時に善意無過失で10年の占有を継続した事案である)。

第7 既に時効を援用した者は再度の時効を主張できない

最高裁判所第二小法廷平成15年10月31日判決の裁判要旨は,「取得時効の援用により不動産の所有権を取得してその旨の登記を有する者は,当該取得時効の完成後に設定された抵当権に対抗するため,その設定登記時を起算点とする再度の取得時効の完成を主張し,援用をすることはできない。」である。

同判決の事案では,占有者は,昭和37年2月17日を起算点とする20年の取得時効を援用し,その旨の所有権移転登記をしていた。同判決は,占有者は時効の援用により確定的に所有権を取得したのであるから,起算点を後の時点にずらせて再度取得時効の完成を主張し,これを援用することはできないとした。

したがって,平成24年判決の枠組みを使えるのは,占有者がまだ時効を援用していない場合である。占有者の代理人としては,早期に時効を援用して登記をすることと,後に設定された抵当権を再度の時効で消滅させることとが両立しない場面があることに注意を要する。

第8 賃借権の時効取得と抵当権

最高裁判所第二小法廷平成23年1月21日判決の裁判要旨は,「不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に,当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合,上記の者は,上記登記後,賃借権の時効取得に必要とされる期間,当該不動産を継続的に用益したとしても,競売又は公売により当該不動産を買い受けた者に対し,賃借権を時効により取得したと主張して,これを対抗することはできない。」である。

同判決は,昭和36年判決は不動産の取得の登記をした者と登記後に時効取得に要する期間占有を継続した者との間における相容れない権利の得喪にかかわるものであり,そのような関係にない抵当権者と賃借権者との関係とは事案を異にするとしている。所有権の時効取得と賃借権の時効取得とでは,抵当権との関係が異なる。

第9 時効完成後の第三者が背信的悪意者に当たる場合

最高裁判所第三小法廷平成18年1月17日判決の裁判要旨は,「甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。」である。

同判決は,取得時効の成立要件の充足の有無は容易に認識・判断することができないものであることから,乙が甲の取得時効の成立要件の充足をすべて具体的に認識していなくても背信的悪意者と認められる場合があるとしつつ,少なくとも,甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があるとした。そして,占有継続の事実の認識を確定せず,調査をすれば時効取得を容易に知り得たことをもって,登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとした。

したがって,時効完成後の第三者を背信的悪意者として排除するには,多年にわたる占有継続の事実の認識と,登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情の双方を主張立証する必要がある。

第10 複数の抵当権がある場合の判定手順

同じ土地に設定時期の異なる複数の抵当権があるときは,次の順で抵当権ごとに判定する。

手順確認すること
1 最初の時効の完成日占有開始日(起算点は選べない。第5)と,占有開始時の善意無過失の有無から,10年又は20年の完成日を確定する
2 各抵当権の登記日最初の時効完成の前か後かを判定する。前なら登記なくして対抗できる(第3)。後なら対抗問題となる(第4)
3 完成後に登記された抵当権その登記日を起算点として,再度の時効に必要な期間(登記時に善意無過失なら10年)の占有が継続したかを判定する(第6)
4 特段の事情抵当権の存在を容認していたなど,抵当権の消滅を妨げる事情がないかを確認する(平成24年判決)
5 援用の有無既に時効を援用し所有権移転登記をしていないかを確認する(第7)
6 再度の時効完成後に登記された抵当権再度の時効との関係でも完成後の第三者であれば,登記のない占有者は対抗できない。その抵当権の登記日から改めて必要期間が経過しているかを確認する

令和8年司法試験論文式試験の民事系科目第1問〔設問1(1)〕では,Aが令和2年1月10日に善意無過失で甲土地の占有を開始し(令和12年1月10日に10年の時効完成),令和22年4月20日にCの抵当権が,令和33年2月15日にDの第二順位の抵当権が登記され,Aは令和35年9月3日まで抵当権の存在を知らず,同年10月15日に初めて時効を援用した。

抵当権判定結論
C(令和22年4月20日登記)最初の時効完成後の登記。登記日から10年(令和32年4月20日)で再度の時効が完成。容認等の特段の事情なし。援用歴なし平成24年判決により消滅し,抹消登記手続請求は認められる
D(令和33年2月15日登記)再度の時効完成後の登記。登記日から起算する時効は令和43年2月15日まで完成しない。起算点を後にずらすことは許されない登記のないAは対抗できず,抹消登記手続請求は認められない

令和8年9月29日現在,法務省から同年の出題の趣旨及び採点実感は公表されていない。問題の模範解答と予想される評価項目は,令和8年度司法試験民事系第1問の模範解答と予想される評価項目―出題の趣旨・採点実感の公表前に問題文と判例から予想した50項目と5段階の重み付けで示している。

第11 実務で確認する事項

取得時効を主張し,又は主張される場面では,次の資料を確認する。
①占有開始の時期と経緯を示す資料(売買契約書,境界の認識,利用状況の写真,固定資産税の負担等)
②占有開始時の善意無過失を基礎付ける事情(登記簿・公図・測量図の確認状況)
③登記事項証明書(全部事項)による所有権移転・抵当権設定の登記日
④占有者が抵当権の存在を知った時期と,その後の言動(抵当権を容認したと評価される行動がないか)
⑤時効の援用の有無・時期と,時効取得を原因とする登記の有無
⑥第三者が占有の事実を認識していたか,登記の欠缺を主張することが信義に反する事情があるか

第12 出典

1 法令

①民法(e-Gov法令検索)144条,145条,162条,186条,177条,397条

2 裁判例

①最高裁判所第一小法廷昭和33年8月28日判決(昭和30年(オ)第15号,民集12巻12号1936頁)
②最高裁判所第一小法廷昭和35年7月27日判決(昭和32年(オ)第344号,民集14巻10号1871頁)
③最高裁判所第一小法廷昭和36年7月20日判決(昭和34年(オ)第779号,民集15巻7号1903頁)
④最高裁判所第三小法廷昭和41年11月22日判決(昭和38年(オ)第516号,民集20巻9号1901頁)
⑤最高裁判所第二小法廷平成15年10月31日判決(平成12年(受)第1589号,集民211号313頁)
⑥最高裁判所第三小法廷平成18年1月17日判決(平成17年(受)第144号,民集60巻1号27頁)
⑦最高裁判所第二小法廷平成23年1月21日判決(平成21年(受)第729号,集民236号27頁)
⑧最高裁判所第二小法廷平成24年3月16日判決(平成22年(受)第336号,民集66巻5号2321頁)

3 公式資料

①法務省「令和8年司法試験論文式試験問題(民事系科目)」

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