第1 この記事の対象と要点
1 想定する場面
本記事は,債権者が主たる債務者と連帯保証人を訴え,連帯保証人に対する請求を認める判決が先に確定した後に,主たる債務者に対する請求が退けられた場面を扱う。
例えば,連帯保証人が答弁書を出さずに欠席し,裁判所が連帯保証人の事件だけを分離して判決をした後,主たる債務者の事件では,主たる債務が成立していない,又は主たる債務者の相殺によって消滅したとして,請求が棄却される場合である。
このとき,連帯保証人は,自分に対する確定判決に基づく強制執行を止めるために,請求異議の訴え(民事執行法35条)を起こすことが考えられる。
本記事は,令和8年9月29日時点の法令と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,この請求異議が認められるか,保証人が訴えられた段階で何をしておくべきかを整理する。
2 要点
| 問題 | 結論 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 保証人は主たる債務者の勝訴判決を理由に請求異議を起こせるか | その勝訴判決が保証人に対する判決の基準時までに生じた事実を理由とする以上,できない | 最高裁昭和51年10月21日判決 |
| 基準時後に相殺をした債務者は,その相殺を請求異議の事由にできるか | できる | 最高裁昭和40年4月2日判決 |
| 基準時後に詐欺を理由に取り消すことはできるか | できない(遮断される) | 最高裁昭和55年10月23日判決 |
| 基準時後の建物買取請求権の行使は請求異議の事由になるか | なる | 最高裁平成7年12月15日判決 |
| 主たる債務者が相殺した場合,保証人は請求異議を起こせるか | 直接判断した最高裁判例は確認できず,見解が分かれ得る | 民法457条3項,民事執行法35条2項 |
| 保証人が訴えられたときにすべきこと | 期日に出頭し,主たる債務者の抗弁と民法457条3項の履行拒絶を自ら主張する | 民法457条2項・3項,民事訴訟法39条・159条 |
第2 請求異議の訴えと既判力の基準時
1 請求異議の訴え
民事執行法35条1項は,債務名義に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は,その債務名義による強制執行の不許を求めるために,請求異議の訴えを提起することができると定める。
もっとも,確定判決についての異議の事由は,「口頭弁論の終結後に生じたもの」に限られる(同条2項)。
請求異議の訴えを起こしただけでは強制執行は止まらない。
異議のため主張した事情が法律上理由があるとみえ,かつ,事実上の点について疎明があったときは,受訴裁判所は,申立てにより,担保を立てさせ,又は立てさせないで強制執行の停止を命じることができる(民事執行法36条1項)。
請求異議の訴えと執行停止の申立ての一般的な手続は,強制執行に対する債務者の対抗手段で整理している。
2 既判力とその基準時
確定判決は,主文に包含するものに限り既判力を有する(民事訴訟法114条1項)。
既判力は,事実審の口頭弁論終結時(基準時)における権利関係の存否について生じ,当事者は,基準時前に存在した事由を持ち出して確定判決の判断を争うことができない。
このような遮断が必要とされるのは,基準時前の事由による蒸し返しを許すと,確定判決による紛争の解決が実効性を失い,勝訴した当事者の地位が不安定になるからである。
また,遮断が正当化されるのは,当事者が前の訴訟で攻撃防御を尽くす機会を与えられていた以上,提出しなかった事由を持ち出せなくなっても,自分の責任として受け入れるべきだからである。
第3 主たる債務者の勝訴判決を援用できるか
1 最高裁昭和51年10月21日判決
最高裁判所第一小法廷昭和51年10月21日判決(昭和49年(オ)第937号,民集30巻9号903頁)は,連帯保証人に対する保証債務履行請求を認容する判決が確定した後,主たる債務者の相続人らに対する請求について,主たる債務が無権代理のため成立していなかったとして棄却する判決が確定した事案である。
連帯保証人は,主たる債務の不存在が確定したとして,保証債務の付従性を理由に請求異議の訴えを起こした。
最高裁は,一般に保証人が,保証債務履行請求訴訟において主債務者勝訴の確定判決を援用することにより保証人勝訴の判決を導き得ると解せられるにしても,保証人がすでに保証人敗訴の確定判決を受けているときは,主債務者勝訴の判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上,保証人はこれを請求異議の事由にする余地はないとした。
2 判決の理由
最高裁は,その理由として,次の2点を挙げている。
①保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用することが許されるにしても,それは,その確定判決の既判力が保証人に拡張されることに基づくものではない。
②保証人は,保証人敗訴の確定判決の効力として,その判決の基礎となった事実審口頭弁論終結の時までに提出できたのに提出しなかった事実に基づいては,もはや債権者の権利を争うことは許されない。そうであるのに,主債務者勝訴判決を援用して請求異議の事由とすることを認めるのは,実質的には,保証人が主張することのできない事実に基づいて再び債権者の権利を争うことを容認するのと異ならない。
学説では,他人間の判決が,実体法上の依存関係にある第三者に有利又は不利に影響する効果を「反射効」(反射的効力)と呼び,保証人が主債務者勝訴判決を援用できるかという形で議論されている。
もっとも,上記の判決文には「反射」の語はなく,最高裁は,援用が認められるとしても既判力の拡張ではない,という表現にとどめている。
本記事では,保証人自身が当事者として手続保障を受けて得た確定判決の効力が,他人間の判決の影響に優先すると理解している。
3 実務上の意味
この判例によれば,主たる債務者が後で勝訴しても,その勝訴の理由が,保証人に対する判決の基準時までに存在した事実(主たる債務の不成立,基準時前の弁済等)である限り,保証人は強制執行を止められない。
保証人に対する判決が先に確定すると,主たる債務が実は存在しなかったとしても,保証人は支払を免れないことになる。
第4 基準時後の形成権の行使と請求異議
相殺,取消し,解除,建物買取請求のように,意思表示によって権利関係を変動させる権利(形成権)を基準時後に行使した場合に,その効果を請求異議の事由にできるかは,権利の種類によって判例の結論が分かれている。
| 権利 | 判例 | 結論 |
|---|---|---|
| 相殺権 | 最高裁昭和40年4月2日判決 | 基準時前に相殺適状にあっても,基準時後の相殺の意思表示による債務の消滅は請求異議の事由となる |
| 詐欺による取消権 | 最高裁昭和55年10月23日判決 | 売買を請求原因とする所有権確認の判決が確定した後,詐欺を理由に売買を取り消して所有権を争うことは許されない |
| 建物買取請求権 | 最高裁平成7年12月15日判決 | 建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結後に行使した効果は,請求異議の事由となる |
最高裁判所第二小法廷昭和40年4月2日判決(昭和38年(オ)第1066号,民集19巻3号539頁)は,相殺は,当事者双方の債務が相殺適状に達した時に当然その効力を生ずるものではなく,一方が相手方に対し相殺の意思表示をすることによってその効力を生ずるから,口頭弁論終結前には相殺適状にあったにすぎず,口頭弁論の終結後に初めて相殺の意思表示がされたときは,債務の消滅を原因として異議を主張できるとした大審院連合部明治43年11月26日判決の判旨を維持した。
判決文が理由として述べているのは,相殺が意思表示によって初めて効力を生ずることである。
相殺権は,訴求された債権そのものに付着する瑕疵ではなく,債務者が自分の別の債権を消滅させる処分であるから,前の訴訟で行使を強いるべきではない,という説明もされるが,これは判決文にはない学説上の説明である。
最高裁判所第一小法廷昭和55年10月23日判決(昭和55年(オ)第589号,民集34巻5号747頁)は,詐欺を理由とする取消しについて,逆に遮断を認めた。
最高裁判所第二小法廷平成7年12月15日判決(平成4年(オ)第991号,民集49巻10号3051頁)は,借地上の建物の買取請求権について,基準時後の行使の効果を請求異議の事由と認めた。
第5 主たる債務者が相殺した場合
1 民法457条3項の履行拒絶
主たる債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において,保証人は,債権者に対して債務の履行を拒むことができる(民法457条3項)。
平成29年の民法改正(令和2年4月1日施行)前の民法457条2項は,「保証人は,主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる」と定めていた。
現行法は,相殺権と並べて取消権・解除権も挙げた上で,保証人は「債務の履行を拒むことができる」と定めている。
したがって,主たる債務者が債権者に対して反対債権を持っている場合,保証人は,自分に対する訴訟の中で,主たる債務者の相殺権を理由に履行を拒むと主張することができる。
他方,保証人は,主たる債務者の反対債権を自ら処分して相殺することはできない。
2 保証人の敗訴確定後に主たる債務者が相殺したとき
保証人に対する判決が確定した後に,主たる債務者が自分の訴訟で相殺し,その相殺によって主たる債務が消滅した場合,保証人は,保証債務も付従性により消滅したとして,請求異議の訴えを起こすことが考えられる。
この場面を直接判断した最高裁判例は,本記事の作成時点で裁判所ウェブサイトの検索では確認できなかった。
一方では,主たる債務の消滅は基準時後に生じた事由であり,保証人は自ら相殺することができなかったのだから,最高裁昭和40年4月2日判決と同じく請求異議の事由になる,という考え方があり得る。
この考え方によれば,保証人は,民法457条3項の履行拒絶と,主たる債務の消滅とは別の事由だと主張することになる。
他方では,保証人は,自分の訴訟の基準時前に,民法457条3項に基づいて主たる債務者の相殺権を理由とする履行拒絶を主張できたのであり,これを主張せずに敗訴した以上,後で相殺の効果が生じたことを理由に確定判決を覆すことは許されない,という考え方もあり得る。
最高裁昭和40年4月2日判決の事案では,相殺したのは前の訴訟の被告自身であり,自分の反対債権を処分するかどうかを決める立場にあった。
これに対し,保証人には処分すべき反対債権がなく,履行拒絶を主張しても自分の財産を失うわけではない。
この違いを重視し,最高裁昭和51年10月21日判決と同じく,基準時前に主張できた防御による蒸し返しとして遮断されると考えるのである。
本記事は,後者の考え方の方が,最高裁昭和51年10月21日判決の理由と整合しやすいと考えるが,裁判所がどちらを採るかは確定していない。
いずれにしても,保証人としては,後で請求異議が認められることを当てにせず,自分の訴訟の中で履行拒絶を主張しておくべきである。
第6 保証人が訴えられたときにすべきこと
1 期日に出頭して主張する
債権者が主たる債務者と保証人を一緒に訴えても,保証人の事件と主たる債務者の事件は,法律上は別の訴訟である。
共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさない(民事訴訟法39条)から,主たる債務者が詳しく争っていても,その主張は保証人の事件に当然には及ばない。
保証人が答弁書を出さずに欠席すると,原告の主張した事実を自白したものとみなされ得る(民事訴訟法159条3項・1項)。
この点は,通常共同訴訟で他の被告の主張・証拠は自分にも効くかで詳しく整理している。
2 主張しておくべき事項
保証人は,次の事項を自分の訴訟で主張しておく必要がある。
①主たる債務者が主張することができる抗弁(民法457条2項)。例えば,主たる債務の不成立,弁済,同時履行の抗弁等である。
②主たる債務者が相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者が債務を免れるべき限度での履行拒絶(民法457条3項)。
③保証契約自体の成立や効力に関する事項(書面の有無等。民法446条2項)。
主たる債務者の反対債権の内容(例えば,請負の目的物の欠陥による損害賠償債権)は,主たる債務者の側の事情であり,保証人が一人で立証するのは難しいことが多い。
もっとも,同じ訴訟で主たる債務者が主張・立証している場合は,共同訴訟人の一人が提出した証拠は他の共同訴訟人の事件でも認定資料となる(最高裁昭和45年1月23日判決)から,保証人は,主たる債務者の主張を援用し,自らも履行拒絶を主張すれば足りることが多い。
3 主たる債務者の「任せておいて」を信用しない
主たる債務者から「こちらで対応するから何もしなくてよい」と言われても,それは主たる債務者と保証人の内部の事情にすぎない。
その言葉を信じて欠席し,保証人に対する判決が先に確定すると,第3・第5で見たとおり,後で主たる債務者が勝訴しても強制執行を止められないおそれがある。
保証人は,自分で期日に出頭するか,弁護士に依頼して,自分の事件として防御する必要がある。
第7 支払った後の求償
主たる債務者の委託を受けた保証人が,主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為をしたときは,主たる債務者に対して求償権を有する(民法459条1項)。
もっとも,委託を受けた保証人が,主たる債務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは,主たる債務者は,債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる(民法463条1項前段)。
この場合において,主たる債務者が相殺をもって保証人に対抗したときは,保証人は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる(同項後段)。
主たる債務者がすでに相殺によって主たる債務を消滅させた後に,保証人が確定判決に基づいて支払った場合に,求償や債権者に対する請求がどこまで認められるかは,通知の有無,相殺の時期その他の事情によって変わり得る。
本記事では,この点を直接扱う最高裁判例は確認していない。
保証人としては,支払の前に主たる債務者に通知し,主たる債務者が債権者に対して持つ抗弁や反対債権の有無を確かめておくことが重要である。
第8 関連記事
この場面を素材とした司法試験の問題の検討は,令和8年度司法試験民事系第3問の模範解答と予想される評価項目で行っている。
相殺の抗弁と既判力の一般論は,相殺の抗弁に関するメモ書きで整理している。
保証人・物上保証人が消滅時効を援用できるかは,消滅時効を援用できるのは誰かで整理している。
第9 出典
1 法令
①民事執行法35条・36条(e-Gov法令検索)
②民事訴訟法39条・114条・159条(e-Gov法令検索)
③民法446条・457条・459条・463条・506条(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷昭和51年10月21日判決(昭和49年(オ)第937号,民集30巻9号903頁)
②最高裁判所第二小法廷昭和40年4月2日判決(昭和38年(オ)第1066号,民集19巻3号539頁)
③最高裁判所第一小法廷昭和55年10月23日判決(昭和55年(オ)第589号,民集34巻5号747頁)
④最高裁判所第二小法廷平成7年12月15日判決(平成4年(オ)第991号,民集49巻10号3051頁)
⑤最高裁判所第二小法廷昭和45年1月23日判決(昭和43年(オ)第282号,集民98号43頁)
3 確認状態
条文は,e-Gov法令APIで令和8年9月28日時点を指定して取得した条文で確認した。
平成29年改正前の民法457条2項は,e-Gov法令APIで平成28年10月13日施行の版を取得して確認した。
最高裁昭和40年4月2日判決・昭和51年10月21日判決・昭和45年1月23日判決は,裁判所ウェブサイトの判決全文で本記事で用いた判示を確認した。
最高裁昭和55年10月23日判決・平成7年12月15日判決は,裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨で確認した。
第5の2の二つの考え方と第7の求償の扱いは,文献では確認しておらず,本記事の整理である。