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代筆や家族の署名は私文書偽造罪になるか―作成名義人,名義人の承諾及び肩書の冒用をめぐる判例(AI作成)

第1 この記事で扱う場面と結論

1 この記事の対象

(1) 問題となる場面

入院中の親に代わって子が申込書に親の名前を書く,会社の担当者が代表者名義の書類を作る,知人の名前を借りて申請書を出す,長年使ってきた通称で書類に署名するといった場面がある。
他人の名前が書かれた書類を作ったときに問題となるのが,私文書偽造罪(刑法159条)と偽造私文書等行使罪(同法161条)である。
本記事は,文書に表示された名義人は誰か,誰が作れば偽造になるかという問題を,最高裁判所と高等裁判所等の判断に沿って説明し,名義人の承諾を得た代筆が偽造にならない場合と偽造になる場合を分けて整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

法令は令和8年9月25日時点でe-Gov法令検索に掲載されている条文により確認し,刑法159条の改正前の文言は同サイトの改正履歴に掲載された過去の版により確認した。
裁判例は,裁判所ウェブサイトに全文が掲載されているものはその全文により,掲載されていないものは判例データベース(判例秘書)に収録された全文により確認した。
クレジットカードの売上票への署名は家族や交際相手のクレジットカードを使うと犯罪になるか―名義人の承諾と詐欺罪,承諾の範囲を超えた利用及び名義人の支払責任で,判断能力を欠く相続人の名前で遺産分割協議書に署名する問題は相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人で扱っている。
民事訴訟で文書が本人の意思に基づいて作成されたか(成立の真正)が争われる場面は,二段の推定とは──私文書の成立の真正(民事訴訟法228条4項)と実印・認印,立証の実務で扱っている。

2 結論の要旨

本記事の結論は次のとおりである。
①私文書偽造の本質は,文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあるとされている(最高裁昭和59年2月17日判決,最高裁平成5年10月5日決定,最高裁平成11年12月20日決定)。
②名義人は,文書に書かれた氏名だけでなく,文書の性質や,表示された肩書・資格も踏まえて判断される。
自分と同姓同名の弁護士がいることを利用し,弁護士資格を有しない者が「弁護士」の名義で作った文書は,その弁護士の名義を偽ったものとされた(最高裁平成5年10月5日決定)。
③代表者・代理人の資格を表示して作った文書の名義人は,代表・代理された本人であるとされている(最高裁昭和45年9月4日決定)。
④名義人の承諾を得て作成した通常の私文書は,原則として偽造に当たらないと解されていることを,例外に当たる文書かを判断する前提として述べた高等裁判所の判決がある(東京高裁昭和54年8月28日判決,大阪高裁平成2年4月26日判決,東京高裁平成29年6月20日判決)。
このうち東京高裁昭和54年8月28日判決は,内容が名義人において自由に処分できる事項に関する限りという限定を付けており,3件とも結論としては例外に当たるとして私文書偽造罪の成立を認めている。
本記事の調査範囲では,この原則そのものを正面から述べた最高裁判所の判断は確認できなかった。
⑤他方,交通事件原票等の供述書,一般旅券の発給申請書,住民基本台帳カードの交付申請書,入学選抜試験の答案のように,文書の性質上,名義人本人が作成することが予定されている文書については,作成者が名義人になりすました事案で,承諾があっても偽造になるとされている(最高裁昭和56年4月8日決定,最高裁昭和56年4月16日決定,大阪高裁平成2年4月26日判決,東京高裁平成5年4月5日判決,東京高裁平成29年6月20日判決)。
⑥承諾は文書を作成する時点で得ている必要があり,事後の承諾や承諾の見込みでは足りないとされている(東京高裁昭和50年9月10日判決のほか,札幌高裁平成7年10月12日判決が同旨の原判決の説示を是認している)。
仲介業者の担当者や会社の営業担当者が承諾していたとしても,承諾の範囲や押印の権限がないことを理由に,名義人の承諾はなかったとされた例がある(横浜地裁平成24年5月16日判決)。
⑦名義人の承諾があると誤信していた可能性や,本人が記載すべき文書であると認識していなかった可能性が否定できないことから,故意が認められないとして無罪とされた例がある(大阪地裁令和3年10月20日判決)。
⑧名義を偽らずに内容だけを偽った私文書は,私文書偽造罪の偽造とは区別され,刑法は,私文書の内容の虚偽を処罰する規定として医師の虚偽診断書等作成罪(同法160条)を置いている。

第2 文書偽造の罪の条文

1 私文書偽造罪と偽造私文書等行使罪

(1) 刑法159条

刑法159条1項は,「行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。」と定め,その1号として「他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し、又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造する行為」を掲げている。
ここでいう「印章等」は,同法155条1項1号で「印章若しくは署名」と定義されている。
刑法159条2項は,他人が押印し又は署名した文書等を変造した者も1項と同様に処罰すると定め,同条3項は,印章・署名を使用しない私文書の偽造・変造について,「一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金」と定めている。

(2) 刑法161条

刑法161条1項は,「前二条の文書等又は電磁的記録文書等を行使した者は、その文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載若しくは記録をした者と同一の刑に処する。」と定める。
偽造した文書を,真正に作成されたもののように装って相手に提出し,又は示す行為が,行使に当たる。
最高裁判所第一小法廷昭和42年3月30日決定(昭和41年(あ)第2151号,刑集21巻2号447頁)は,偽造された公立高等学校長名義の卒業証書を,卒業生とされた者と共謀の上,真正に成立したものとしてその父に示した行為を偽造公文書行使罪に当たるとした原審の判断を相当とした。
公文書の事案であり,同決定自体は示した相手が家族であることに触れていないが,相手が家族であっても行使に当たり得ることを示す例と考えられる。

(3) 令和7年の改正と裁判例の読み方

刑法159条は,情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)により改正され,e-Gov法令検索の改正履歴では,令和7年6月12日施行の版から現在の文言になっている。
それより前の版では,同条1項は,「他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し」た者等を処罰すると定めていた。
改正により,他人の電磁的記録印章等を使用して電磁的記録文書等を偽造する行為が同項2号に加えられ,同法155条1項2号は,電磁的記録文書等を「文書等として表示されて行使されることとなる電磁的記録」と定義している。
紙の文書については,他人の印章又は署名を使用して権利,義務又は事実証明に関する文書を偽造するという構造は変わっていない。
本記事で紹介する裁判例は,いずれも改正前の条文の下での判断であり,電子データの文書で名義人をどう判断するかは本記事では扱わない。

2 「事実証明に関する文書」の範囲

(1) 入学選抜試験の答案

最高裁判所第三小法廷平成6年11月29日決定(平成5年(あ)第498号,刑集48巻7号453頁)は,入学選抜試験の答案は,採点されてその結果が志願者の学力を示す資料となり,これを基に合否の判定が行われて合格者が入学を許可されるのであるから,「志願者の学力の証明に関するもの」であって,「社会生活に交渉を有する事項」を証明する文書に当たるとした。
そして,答案が刑法159条1項にいう事実証明に関する文書に当たるとした原判断を正当とした。

(2) 留置施設の被留置者金品出納簿

大阪地裁令和3年10月20日判決(令和2年(わ)第3097号)は,警察署の留置施設で差入れをする際に作成を求められる被留置者金品出納簿について,留置施設の適正な管理運営のため差入れの申出等を把握する目的で作成が求められ,「差入れの申出等の事実を証するもの」であるから,事実証明に関する文書に当たるとした。
同判決の結論は後記第5の4のとおり無罪である。

第3 偽造の本質―名義人と作成者の人格の同一性

1 長年使ってきた名前でも偽造になる場合―最高裁昭和59年2月17日判決

(1) 事実関係

最高裁判所第二小法廷昭和59年2月17日判決(昭和58年(あ)第257号,刑集38巻3号336頁)の事案では,密入国した外国人である被告人が,他人名義で発行された外国人登録証明書を入手し,その名義で登録事項確認申請を繰り返して,25年以上にわたりその氏名を自己の氏名として公私の広い範囲で使い続けていた。
被告人は,その氏名で法務大臣宛ての再入国許可申請書を作成し,入国管理事務所に提出した。
原判決は,その氏名が被告人を指す名称として定着し,他人との混同を生ずるおそれのない高度の特定識別機能を有していたとして,私文書偽造・同行使罪の成立を否定していた。

(2) 判断

最高裁は,原判決が「私文書偽造とは、その作成名義を偽ること、すなわち私文書の名義人でない者が権限がないのに、名義人の氏名を冒用して文書を作成することをいうのであつて、その本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある」とした点は正当であるとした。
その上で,再入国許可申請書は再入国の許可という公の手続内において用いられる文書であり,「ことがらの性質上、当然に、本名を用いて申請書を作成することが要求されている」とした。
そして,文書に表示された氏名から認識される人格は,「適法に本邦に在留することを許されているA」であって,密入国をし,在留資格を有しない被告人とは別の人格であるから,名義人と作成者との人格の同一性に齟齬を生じているとして,私文書偽造・同行使罪に当たるとし,原判決を破棄して差し戻した。

2 偽名・他人の氏名を使った場合

(1) 自分の顔写真を貼った偽名の履歴書―最高裁平成11年12月20日決定

最高裁判所第一小法廷平成11年12月20日決定(平成9年(あ)第1227号,刑集53巻9号1495頁)の事案では,被告人が,偽名を用いて就職しようと考え,虚偽の氏名,生年月日,住所,経歴等を記載し,自分の顔写真を貼った偽名(A)の名義の履歴書と,同じ名義の雇用契約書等を作成して提出した。
最高裁は,「これらの文書の性質、機能等に照らすと、たとえ被告人の顔写真がはり付けられ、あるいは被告人が右各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、これらの文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである。」とし,有印私文書偽造・同行使罪の成立を認めた原判断を正当とした。
自分が働き,契約上の責任も負うつもりであっても,偽名の履歴書等の作成は偽造に当たるということである。

(2) 限られた範囲で通用していた他人の氏名―最高裁昭和56年12月22日決定

最高裁判所第三小法廷昭和56年12月22日決定(昭和56年(あ)第1302号,刑集35巻9号953頁)の事案では,服役中に逃走した被告人が,発覚を恐れて義弟と同一の氏名を使って生活しており,無免許運転で取調べを受けた際にその氏名を名乗り,交通事件原票の供述書にその氏名で署名した。
最高裁は,「仮りに右氏名がたまたまある限られた範囲において被告人を指称するものとして通用していたとしても、被告人が右供述書の作成名義を偽り、他人の名義でこれを作成したことにかわりはなく」,私文書偽造罪が成立するとした原判断は相当であるとした。

第4 肩書・資格の表示と名義人

1 同姓同名の弁護士を装った文書―最高裁平成5年10月5日決定

(1) 事実関係

最高裁判所第一小法廷平成5年10月5日決定(平成5年(あ)第135号,刑集47巻8号7頁)の事案では,弁護士資格を有しない被告人が,ある弁護士会に所属する弁護士が自分と同姓同名であることを利用してその弁護士であるかのように装い,不動産業者から弁護士報酬を得ようとして,「弁護士」の肩書を付けたその氏名の名義で,報酬の請求書,振込依頼書,経過報告書,領収証等を作成して交付した。

(2) 判断

最高裁は,私文書偽造の本質は文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあるとした上で,「たとえ名義人として表示された者の氏名が被告人の氏名と同一であったとしても、本件各文書が弁護士としての業務に関連して弁護士資格を有する者が作成した形式、内容のものである以上、本件各文書に表示された名義人は、A弁護士会に所属する弁護士Bであって、弁護士資格を有しない被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、本件各文書の名義人と作成者の人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである。」とし,私文書偽造罪・同行使罪の成立を認めた原判断を正当とした。
自分の本名を書いていても,文書の形式・内容から名義人が資格を持つ特定の人物と読み取れる場合には,資格のない者が作れば偽造に当たるということである。
同決定は,非弁護士との提携の禁止でも紹介している。

2 発給権限のない団体名義の国際運転免許証―最高裁平成15年10月6日決定

(1) 事実関係

最高裁判所第二小法廷平成15年10月6日決定(平成14年(あ)第1164号,刑集57巻9号987頁)の事案では,被告人らが,ジュネーブ条約に基づく正規の国際運転免許証に形状・記載内容が酷似し,国際旅行連盟という団体を発給者として表示した文書を作成していた。
国際旅行連盟が同条約に基づく国際運転免許証の発給権限を与えられた事実はなく,被告人は,メキシコ合衆国に実在する民間団体である国際旅行連盟から作成を委託されていたと弁解した。

(2) 判断

最高裁は,発給権限を有する団体により作成されているということが「正に本件文書の社会的信用性を基礎付けるもの」であるから,本件文書の名義人は「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給権限を有する団体である国際旅行連盟」であるとした。
その上で,国際旅行連盟が実在の団体であり,被告人に作成を委託していたとの前提に立ったとしても,その名称を用いて本件文書を作成する行為は,文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽るものであるとして,有印私文書偽造罪の成立を認めた原判断を正当とした。
実在する団体から頼まれて作ったとしても,文書に表示された権限を持つ団体が存在しない以上,偽造に当たるということである。

3 代表者・代理人の資格を表示した文書―最高裁昭和45年9月4日決定

(1) 名義人は代表・代理された本人

最高裁判所第二小法廷昭和45年9月4日決定(昭和44年(あ)第1421号,刑集24巻10号1319頁)は,「他人の代表者または代理人として文書を作成する権限のない者が、他人を代表もしくは代理すべき資格、または、普通人をして他人を代表者もしくは代理するものと誤信させるに足りるような資格を表示して作成した文書は、その文書によつて表示された意識内容にもとづく効果が、代表もしくは代理された本人に帰属する形式のものであるから、その名義人は、代表もしくは代理された本人であると解するのが相当である」とした。
「甲代理人乙」と書いた文書の名義人は甲であり,代理権のない乙がこれを作れば,甲名義の文書の偽造になるということである。

(2) 理事会議事録の事案

同決定の事案では,学校法人の理事会で理事長の選任も議事録の署名人の選任もされなかったのに,被告人らが,被告人を理事長に選任し議事録署名人とすることを可決したなどと記載した理事会決議録を作成し,末尾に理事録署名人として被告人の氏名を記載して押印した。
最高裁は,理事録署名人という記載は,普通人をして理事会を代表するものと誤信させるに足りる資格の表示であるから,被告人らは理事会名義の文書を偽造したものであるとした。
また,代表名義を冒用した文書を刑法159条1項の有印私文書偽造とするには,その文書自体に本人である理事会の印章又は署名が使用されていなければならず,それがない本件の事実は同条3項に該当するとした上で,ほかに同条1項に該当する罪もあって処断刑に変わりがないことから,判決に影響を及ぼす違法とは認めなかった。

第5 名義人の承諾があるとき

1 原則―承諾を得て作成した通常の私文書

(1) 高等裁判所の説示

東京高裁昭和54年8月28日判決(昭和54年(う)第960号,高刑集32巻2号173頁)は,「通常の私文書の場合には、名義人の承諾を得れば、その名義で文書を作成する権限が作成者に与えられ、このような権限により作成された文書は、名義人の意思を表示するものであつて、当該文書の作成名義の真正に対する公共の信用が害されることもなく、私文書偽造罪の成立を認めるべき理由はない」と述べた。
同判決は,その直前で,「内容が名義人において自由に処分できる事項に関するかぎり」という限定を付けている。
大阪高裁平成2年4月26日判決(平成元年(う)第887号,高等裁判所刑事裁判速報集平成2年195頁)も同じ趣旨を述べた上で,後記2の旅券の発給申請書に関する判断のとおり,一般私人間で授受される契約書等と,法令上本人による作成が予定された文書とを区別した。
東京高裁平成29年6月20日判決(平成29年(う)第391号,高等裁判所刑事裁判速報集平成29年122頁)も,「私文書の作成者が他人の名義を使用して文書を作成することについてその者の承諾を得ている場合,原則として私文書偽造罪が成立しないと解されることは,所論のいうとおりである。」と述べている。
これらの説示は,いずれも問題となった文書が例外に当たるかを判断する前提として原則を述べたものであり,3件とも結論としては私文書偽造罪の成立を認めている。

(2) 最高裁判所の判断との関係

本記事の調査範囲では,名義人の承諾があれば私文書偽造罪が成立しないという原則そのものを正面から判示した最高裁判所の判断は確認できなかった。
もっとも,最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決(昭和50年(あ)第1621号,刑集30巻4号591頁)は,「公文書偽造罪における偽造とは、公文書の作成名義人以外の者が、権限なしに、その名義を用いて公文書を作成することを意味する。」としている。
また,後記2の最高裁昭和56年の二つの決定は,交通事件原票等の供述書について,文書の性質を理由として,承諾があっても私文書偽造罪が成立するとしている。
これらの判断は,作成権限の有無が偽造の成否を分け,承諾があっても偽造となるのは文書の性質による例外であるという考え方と整合すると考えられる。

2 例外―名義人本人の作成が予定されている文書

(1) 交通事件原票中の供述書

最高裁判所第二小法廷昭和56年4月8日決定(昭和54年(あ)第1613号,刑集35巻3号57頁)は,交通事件原票中の供述書は,「その文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することは法令上許されないもの」であって,他人の名義で作成した場合は,あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても,私文書偽造罪が成立するとした。
その原審である東京高裁昭和54年8月28日判決は,供述書の内容は「自己の違反事実の有無等当該違反者個人に専属する事実に関するもの」であり,専ら違反者本人に対する事件処理という公の手続のために用いられるから,名義人自身によって作成されることだけが予定されているとしていた。
最高裁判所第一小法廷昭和56年4月16日決定(昭和55年(あ)第1351号,刑集35巻3号107頁)も,交通切符又は交通反則切符中の供述書について,「このような供述書は、その性質上、違反者が他人の名義でこれを作成することは、たとい名義人の承諾があつても、法の許すところではないというべきである。」とした。
同決定には,本件供述書は「その性質上作成名義人たる署名者本人の自署を必要とする文書である」とする補足意見が付されている。

(2) 一般旅券の発給申請書

大阪高裁平成2年4月26日判決の事案では,被告人が,自分の名義では旅券の交付を受けられない立場にあったため,知人からその氏名を使う承諾を得るとともに,謝礼金と引換えに戸籍謄本等と印鑑を受け取り,その知人名義の一般旅券発給申請書を作成して提出した。
同判決は,発給申請書は「申請者本人につき一般旅券の発給交付を受け得る資格が認められるか否かを審査するという公の手続内において用いられる文書」であるとし,その法的性質や他人名義を使用した動機・目的等に照らせば,「一般私人間で授受される契約書等の場合と異なり,たとえ名義人の事前承諾を得ていたとしても,その名義を用いて本件申請書を作成する権限を生ずる余地はない」として,有印私文書偽造・同行使罪の成立を認めた。

(3) 住民基本台帳カードの交付申請書

東京高裁平成29年6月20日判決は,前記の原則を認めた上で,住民基本台帳法等が住民基本台帳カードの交付申請者・受交付者が本人であることを確認するための厳格な手続を定めていることから,交付申請書と,交付に関して本人確認を行うための回答書は,「その文書の性質上,作成名義人以外の者がこれらを作成することは許されないものであって,これらの書面を他人の名義で作成した場合には,あらかじめその者の承諾を得ていたとしても,私文書偽造罪が成立すると解される。」とした。
同判決は,他人の名義で交付を受けた住民基本台帳カードが詐欺罪の財物に当たるとも判断している。

(4) 入学選抜試験の答案

前記最高裁平成6年11月29日決定の原審である東京高裁平成5年4月5日判決(平成4年(う)第911号,高刑集46巻2号35頁)は,いわゆる替え玉受験の事案で,志願者が替え玉受験を承諾していたとの主張に対し,各志願者が替え玉受験を認識していたとは認められないとした上で,仮に承諾していた者があったとしても,「本件各答案は、志願者本人の学力の程度を判断するためのものであって、作成名義人以外の者の作成が許容されるものでないことは明らかである」とし,名義人の承諾は有印私文書偽造・同行使罪の成立を妨げるものでないとした。

(5) 留置施設の被留置者金品出納簿

前記大阪地裁令和3年10月20日判決は,差入れの申出をした者に被留置者金品出納簿を作成させると定める大阪府警察留置業務取扱規程や,申込者本人による記載を求める様式の注意書き等を踏まえ,被留置者金品出納簿は「文書の性質上,名義人自身による記載が予定される文書である」とした。
同判決は,名義人と作成者が異なると,差入品から禁制品等が発見された場合の差入人の特定等に困難を生じさせるおそれがあることも指摘している。

3 承諾の時期,範囲及び承諾する権限

(1) 作成の時点での承諾が必要

東京高裁昭和50年9月10日判決(昭和50年(う)第40号,東京高等裁判所判決時報刑事26巻9号148頁)は,借地人と共謀し,土地所有者の氏名を記載して有り合わせの印を押した自動車保管場所使用承諾書を作成して提出した事案で,「文書作成当時に名義人の承諾がないときは、たとえその承諾が予見される場合であつても文書偽造罪の成立を免れず」とした。
同判決は,事後に名義人の承諾によって文書の内容が真実に合致するに至ったとしても,文書偽造罪の成立は阻却されないとも述べている。
札幌高裁平成7年10月12日判決(平成6年(う)第147号,高等裁判所刑事裁判速報集平成7年167頁)は,知人の氏名を用いて預金口座を開設した事案で,申込書の名義人は架空人であるから承諾は問題とならないとした上で,仮に実在する知人を名義人とするものであったとしても,将来の承諾が予想され,又は事後承諾を得たとしても文書偽造は成立するとした原判決の説示を是認した。

(2) 承諾の範囲と承諾する権限

横浜地裁平成24年5月16日判決(平成23年(わ)第1194号)は,金融機関から融資を受けるため,土地の売買代金額を水増しした売主ら名義の売買契約書と,工事代金額を水増しした建設会社等名義の工事請負契約書を作成して提出した事案である。
同判決は,売買代金額の水増しが真実の代金額の3倍を超え,実体からの乖離が極めて著しかったことなどから,売主らがそのような売買契約書を作成する権限まで仲介業者の取引主任者(判決中のG)に委任したとは常識的に考えられず,「仮にGが本件売買契約書の作成を承諾するようなことがあったとしても,本件売買契約書の作成につき,売主らの承諾はなかったといわざるを得ない」とした。
また,工事請負契約書については,建設会社の営業担当者が水増しした契約書の作成を承諾していた疑いは否定できないとしつつ,その営業担当者には会社の代表者印等を押す権限がなく,会社等は真正な代金額の書類にだけ押印していたとして,作成名義人の承諾はなかったとした。
同判決は,これらの文書について有印私文書偽造・同行使罪の成立を認めた。

4 承諾があると誤信した場合

(1) 事案

大阪地裁令和3年10月20日判決の事案では,逮捕された人の弁護人である弁護士が,面識のない人物に自分の代わりに衣類を差し入れるよう依頼し,その人物から,弁護士を依頼主として衣類を宅配で送ること,続いて警察署で衣類を差し入れることを頼まれた被告人(その人物の知人)が,警察署の留置施設で被留置者金品出納簿の申込者欄に弁護士の氏名を署名して差入れを申し込んだ。
弁護士は,自分の名前を使うことを了承したことはないが,「私の代わりに」という言葉を使ったため,その人物が誤解した可能性は否定できない旨を供述していた。

(2) 判断

同判決は,被告人が,弁護士の名前で差入れをすることについて同人の承諾が得られていると誤信していた可能性は否定できないとした。
また,被留置者金品出納簿は文書の性質上名義人自身による記載が予定される文書であるとしつつ,申込者による記載を求める注意書きは様式の末尾にあって特段目立つ表示ではないこと,被告人は警察署での差入れは初めてで本人が記載すべき書類であるという説明も受けなかったと供述しており,係員がその点まで説明したとは認められないことなどから,被告人がその点を認識していなかった可能性も否定できないとした。
その上で,「有印私文書偽造・同行使罪の故意が認められない」として,被告人を無罪とした。
刑法38条1項は,「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と定めている。

(3) 判決の日付

同判決は,裁判所ウェブサイト及び判例秘書の書誌では令和3年10月20日の判決とされているが,判決文末尾の日付は同月28日となっている。
本記事では,裁判所ウェブサイトの書誌に従って同月20日の判決と表記した。

第6 家族や職員が本人に代わって書く場合

1 家族が代筆する場合

(1) 本人の承諾に基づく代筆

前記第5の1の高等裁判所の説示によれば,本人から依頼され,又は承諾を得て,本人の名前で通常の私文書を代筆することは,本人の意思を表示する文書を作成するものであり,原則として私文書偽造罪に当たらないと考えられる。
ただし,この原則は,前記のとおり,高等裁判所が例外の判断の前提として述べたものであり,内容が名義人において自由に処分できる事項に関する限りという限定が付されている。
もっとも,承諾は文書を作成する時点で本人から得ている必要があり(東京高裁昭和50年9月10日判決),実体から著しくかけ離れた内容の文書は,承諾の範囲に含まれないとされることがある(横浜地裁平成24年5月16日判決)。
また,交通事件原票等の供述書や旅券の発給申請書等については,作成者が名義人になりすまして自分のために作成した事案で,承諾があっても偽造になるとされている(前記第5の2)。
これらは名義人本人のために家族が代筆した事案を判断したものではないが,本人の記載・署名が予定された文書では,代筆が許されるかを様式や提出先で確認しておく必要があると考えられる。

(2) 家族であることと作成権限

本記事で確認した裁判例は,いずれも名義人本人の承諾の有無や作成権限の有無を問題にしており,名義人と作成者が親族であることを理由に作成権限を認めたものは,本記事の調査範囲では確認できなかった。
本人が判断能力を欠き,承諾をすることができない状態にある場合に,家族が本人の名前で遺産分割協議書等に署名する問題は,前記の相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割―協議の無効,代筆の危険,成年後見の申立て及び特別代理人で,成年後見人等による手続とともに扱っている。
遺言書を相続人が偽造した場合の遺言の効力と相続欠格は,自筆証書遺言の偽造と相続欠格――遺言無効との違い,立証方法及び裁判例で扱っている。

2 会社・役所の担当者が作る場合―補助者の作成権限

(1) 最高裁昭和51年5月6日判決

前記最高裁昭和51年5月6日判決は,公文書の作成権限について,「右の作成権限は、作成名義人の決裁を待たずに自らの判断で公文書を作成することが一般的に許されている代決者ばかりでなく、一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとにおいて公文書を作成することが許されている補助者も、その内容の正確性を確保することなど、その者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度において、これを有しているものということができる。」とした。
その事案では,市役所の市民課の係長であった被告人が,申請書を提出せず手数料も納付せずに,市長名義の印鑑証明書を自ら作成して取得した。
最高裁は,内容が正確で,通常の申請手続を経由すれば当然に交付されるものであった5通については,補助者としての作成権限を超えた行為であるということはできないとして公文書偽造罪の成立を否定し,原判決を破棄して差し戻した。
他方,本庁では作成発行できず出張所で作成発行すべきものであった1通については,作成権限のなかったことが明らかであるとした。

(2) 組織の名義で文書を作る場面

同判決は公文書に関するものであるが,会社等の組織で,代表者名義の文書を担当者が作成する場面でも,作成権限の有無とその範囲が問題になると考えられる。
前記横浜地裁平成24年5月16日判決が,営業担当者には会社の代表者印等を押す権限がないことを理由に作成名義人の承諾を否定したのも,同じ視点に立つものと考えられる。

第7 内容が虚偽の文書との違い

1 名義を偽る偽造と内容を偽る虚偽作成

(1) 私文書

私文書偽造の本質が名義人と作成者との人格の同一性を偽る点にあるとされていることからすると,名義人本人が内容の虚偽の文書を作成しても,刑法159条の偽造には当たらないと考えられる。
私文書の内容の虚偽を処罰する規定としては,刑法160条が,医師が「公務所に提出すべき診断書、検案書若しくは死亡証書に虚偽の記載」をした場合を処罰している。
前記横浜地裁平成24年5月16日判決の売買契約書は,代金額が虚偽であっただけでなく,名義人である売主らの承諾がなかったことから偽造とされたものである。

(2) 公文書

公文書については,刑法156条が,公務員がその職務に関し,行使の目的で虚偽の文書等を作成した場合を処罰している。
最高裁判所第二小法廷昭和32年10月4日判決(昭和29年(あ)第3851号,刑集11巻10号2464頁)は,作成権限者である公務員の職務を補佐して公文書の起案を担当する職員が,内容虚偽の文書を起案し,情を知らない上司に署名又は記名・押印させて内容虚偽の公文書を作らせた場合には,虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立するとした。
これに対し,前記最高裁昭和51年5月6日判決は,内容が正確な公文書を補助者が手続に違反して作成した場合について,公文書偽造罪の成立を否定した。
公文書では,名義の偽り(偽造)と内容の偽り(虚偽作成)が別の罪として定められているので,どちらが問題になっているかを分けて検討することになる。

第8 当事者ごとの確認事項

1 他人の名前で書類を書こうとする人

①その文書が,交通事件原票の供述書,旅券や住民基本台帳カード等の申請書,試験の答案,警察署等に提出する申出書のように,本人が記載・署名することが予定された文書ではないか。
②様式に,本人が記入する旨の注意書きがないか。
③名義人本人から,作成する時点で,その文書とその内容について承諾を得ているか。
④承諾の範囲(どの文書に,どの内容・金額で名前を書いてよいか)を超えていないか。
⑤会社等の名義で作る場合,自分にその文書を作成し,代表者印等を押す権限があるか。
⑥代理人として作る場合,その文書が代理人による作成を認めているか,及び代理人として自分の氏名を表示すべきではないか。
⑦承諾の有無・時期・範囲を後で示せるよう,依頼のメール・メッセージ等が残っているか。

2 自分の名前を使われた人

①いつ,誰が,どの文書を,どのような内容で作成し,どこに提出したか。
②自分が承諾したか,承諾したならその時期と範囲はどうか。
③作成の時点で承諾していなければ,後から了承しても偽造の成否には影響しないとした裁判例があること。
④その文書によって自分が契約上の責任を負うかという民事上の問題が,刑事の問題とは別にあること。
自分の実印等を預けた相手が無断で契約書等を作成した場合の民事上の責任は,登記手続のために実印や権利証を預けた相手が無断で保証や担保設定をしたとき―表見代理(民法109条・110条)と最高裁判例で扱っている。
筆跡や印影から作成者を明らかにする方法は,文書鑑定で扱っている。

3 疑いをかけられた人と弁護人

①文書の名義人が誰か(氏名だけでなく,肩書・資格・代表者又は代理人の表示を含む。)。
②名義人の承諾の有無,時期及び範囲と,それを示す資料。
③文書の性質上,本人の作成が予定された文書か,及び被疑者・被告人がそのことを認識していたか(様式の注意書き,窓口での説明の有無)。
④承諾があると信じた理由(誰から,どのように伝えられたか)。
⑤行使の目的の有無,行使の相手方及び方法。

第9 出典

1 法令

① e-Gov法令検索・刑法(38条,155条,156条,159条,160条,161条。159条の改正前の文言は,同サイトの改正履歴に掲載された令和7年6月1日施行の版で確認)

2 裁判例

① 最高裁昭和32年10月4日第二小法廷判決・昭和29年(あ)第3851号・刑集11巻10号2464頁
② 最高裁昭和42年3月30日第一小法廷決定・昭和41年(あ)第2151号・刑集21巻2号447頁
③ 最高裁昭和45年9月4日第二小法廷決定・昭和44年(あ)第1421号・刑集24巻10号1319頁
④ 東京高裁昭和50年9月10日判決・昭和50年(う)第40号・東京高等裁判所判決時報刑事26巻9号148頁(裁判所HP未掲載。判例秘書L03020456で確認)
⑤ 最高裁昭和51年5月6日第一小法廷判決・昭和50年(あ)第1621号・刑集30巻4号591頁
⑥ 東京高裁昭和54年8月28日判決・昭和54年(う)第960号・高刑集32巻2号173頁
⑦ 最高裁昭和56年4月8日第二小法廷決定・昭和54年(あ)第1613号・刑集35巻3号57頁
⑧ 最高裁昭和56年4月16日第一小法廷決定・昭和55年(あ)第1351号・刑集35巻3号107頁
⑨ 最高裁昭和56年12月22日第三小法廷決定・昭和56年(あ)第1302号・刑集35巻9号953頁
⑩ 最高裁昭和59年2月17日第二小法廷判決・昭和58年(あ)第257号・刑集38巻3号336頁
⑪ 大阪高裁平成2年4月26日判決・平成元年(う)第887号・高等裁判所刑事裁判速報集平成2年195頁(裁判所HP未掲載。判例秘書L04520155で確認)
⑫ 東京高裁平成5年4月5日判決・平成4年(う)第911号・高刑集46巻2号35頁
⑬ 最高裁平成5年10月5日第一小法廷決定・平成5年(あ)第135号・刑集47巻8号7頁
⑭ 最高裁平成6年11月29日第三小法廷決定・平成5年(あ)第498号・刑集48巻7号453頁
⑮ 札幌高裁平成7年10月12日判決・平成6年(う)第147号・高等裁判所刑事裁判速報集平成7年167頁(裁判所HP未掲載。判例秘書L05020310で確認)
⑯ 最高裁平成11年12月20日第一小法廷決定・平成9年(あ)第1227号・刑集53巻9号1495頁
⑰ 最高裁平成15年10月6日第二小法廷決定・平成14年(あ)第1164号・刑集57巻9号987頁
⑱ 横浜地裁平成24年5月16日判決・平成23年(わ)第1194号(裁判所HP未掲載。判例秘書L06750262で確認)
⑲ 東京高裁平成29年6月20日判決・平成29年(う)第391号・高等裁判所刑事裁判速報集平成29年122頁(裁判所HP未掲載。判例秘書L07220754で確認)
⑳ 大阪地裁令和3年10月20日判決・令和2年(わ)第3097号(判決文末尾の日付は令和3年10月28日)