第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,刑法241条(強盗・不同意性交等及び同致死)について,次の点を整理する。
①強盗と不同意性交等のどちらが先に行われた場合に適用されるか。
②強盗と不同意性交等の一方又は両方が未遂にとどまった場合,全体としてどの罪が成立し,刑の減軽はどうなるか。
③人を死亡させた場合の3項はどのような場合に適用されるか。
④平成29年改正と令和5年改正で,罪名と構造はどのように変わったか。
241条は,強盗の罪と不同意性交等の罪という二つの罪を組み合わせて重く処罰する規定である。
構成部分である各罪の既遂・未遂と,241条の罪全体の成否とは別の問題であり,これを混同すると罪名を誤る。
調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文と改正前の条文を,立案の趣旨は平成29年改正の国会審議における政府参考人の答弁(国会会議録検索システム)を用いた。
不同意性交等罪の法定刑の水準は,不同意性交等罪(刑法177条)の法定刑はなぜ「5年以上」なのか――強盗罪との量刑均衡という立法事実で扱っている。
2 結論
①241条1項は,強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が不同意性交等の罪(177条)若しくはその未遂罪をも犯したとき,又はその逆の順序のときに,無期又は7年以上の拘禁刑に処するとしている。
行為の先後は問われず,政府参考人は,両者が同一の機会に行われた場合に成立すると答弁している。
②強盗部分と不同意性交等部分のいずれか一方又は両方が未遂にとどまっても,241条1項の罪が成立する。
243条が未遂を処罰するのは241条のうち3項の罪だけであり,1項の罪の未遂を処罰する規定はない。
③刑の減軽ができるのは,強盗と不同意性交等の「いずれも」が未遂にとどまった場合に限られ,人を死傷させたときは除かれる(241条2項本文)。
自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは,刑を減軽し,又は免除する(同項ただし書)。
④先に強盗が既遂になり,後の不同意性交等が未遂にとどまった場合は,平成29年改正前は強盗強姦未遂罪とされていたが,現行法では2項の減軽の対象にならない(平成29年の政府参考人答弁)。
⑤1項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は,死刑又は無期拘禁刑に処される(241条3項)。
政府参考人は,3項は殺意をもって人を死亡させた者も対象に含むと答弁しており,3項の罪の未遂は罰せられる(243条)。
人を負傷させた場合について,改正前の判例は強盗強姦罪のみが成立するとしていたが,現行法の下での裁判例は確認できなかった。
⑥罪名は,平成29年改正前の「強盗強姦」から,同改正で「強盗・強制性交等」に,令和5年改正で「強盗・不同意性交等」に変わった。
第2 条文
1 241条1項
刑法241条1項は,「強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が第百七十七条の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は同条の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の拘禁刑に処する。」と定める。
前段は強盗が先の場合,後段は不同意性交等が先の場合を定めており,どちらの部分についても「未遂罪」が明記されている。
2 241条2項
同条2項は,「前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」と定める。
3 241条3項
同条3項は,「第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期拘禁刑に処する。」と定める。
4 243条
刑法243条は,「第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。」と定める。
241条については3項だけが挙げられており,1項の罪の未遂は処罰の対象になっていない。
未遂を罰する場合は各本条で定めるとされている(44条)から,1項について「強盗・不同意性交等未遂罪」という罪は存在しないことになる。
5 組み合わされる罪
強盗罪(236条1項)は,「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。」と定め,その未遂は243条で罰せられる。
不同意性交等罪(177条)は5年以上の有期拘禁刑を定め,その未遂は180条で罰せられる。
241条1項の法定刑(無期又は7年以上の拘禁刑)は,いずれの罪の法定刑よりも重い。
第3 行為の順序と「同一の機会」
1 先後を問わない
241条1項は,前段で強盗が先の場合を,後段で不同意性交等が先の場合を定めているので,どちらが先でも同じ法定刑になる。
平成29年6月7日の衆議院法務委員会で,林眞琴法務省刑事局長は,改正後の241条1項について,「強盗の罪と強制性交等の罪が、その先後関係を問うことなく、同一の機会に行われた場合にはこの強盗・強制性交等罪が成立するものと考えております。」と答弁した。
同局長は,改正前の強盗強姦罪について,「判例上、強姦は強盗の機会に行われれば足りるものと解されていること」を踏まえたと述べ,改正によって強盗強姦に関する解釈を変更しようとするものではないとも答弁している。
2 先後を問わないことにした理由
同局長は,同じ委員会で,改正前は強姦行為の後に強盗の犯意を生じて強盗をした場合には強盗強姦罪が成立せず,強姦罪と強盗罪の併合罪にとどまるため,法定刑が大きく異なっていたと説明した。
そのうえで,同じ機会に強盗行為と強姦行為の双方を行うことの悪質性,重大性に鑑みると,「その先後の関係の違いをもって科すことのできる刑に大きな差異があることは合理的に説明が困難でございます。」と答弁した。
第4 既遂・未遂の判断
1 構成部分ごとの段階と全体の罪
241条1項の罪が成立するかどうかは,強盗部分と不同意性交等部分のそれぞれについて,少なくとも未遂罪が成立しているかで決まる。
各部分が既遂か未遂かは,2項の減軽ができるかどうかに影響するが,1項の罪の成否には影響しない。
| 強盗部分 | 不同意性交等部分 | 成立する罪 | 2項の減軽 |
|---|---|---|---|
| 既遂 | 既遂 | 241条1項の罪 | できない |
| 既遂 | 未遂 | 241条1項の罪 | できない |
| 未遂 | 既遂 | 241条1項の罪 | できない |
| 未遂 | 未遂 | 241条1項の罪 | できる(人を死傷させたときを除く) |
いずれの行が先に行われたかは,結論に影響しない。
2 平成29年改正前の強盗強姦未遂罪との違い
林刑事局長は,平成29年6月7日の衆議院法務委員会で,改正前の強盗強姦未遂罪について,「強盗に着手した犯人が、それ以後に強姦に着手することを前提といたしまして、強盗の既遂、未遂にはかかわらず、強姦が未遂に終わった場合、この場合に強盗強姦未遂罪が成立するものと解され、そのように判例もなっておりました。」と答弁した。
そして,改正後について,「先に着手した強盗の罪が既遂、後に着手した強制性交等の罪が未遂で、この場合には現行法であれば強盗強姦未遂罪が成立するというわけでございますが、今回の二百四十一条二項にはこれでは該当しませんで、刑の減軽を認めないこととなります。」と答弁した。
改正前は,性犯罪部分が未遂であれば強盗部分が既遂でも全体が「強盗強姦未遂罪」とされていたのに対し,現行法では,全体は241条1項の罪であり,減軽の余地があるのは両方とも未遂の場合に限られる。
3 具体例
①暴行を加えて財布を奪い(強盗既遂),同じ機会に性交等をしようとしたが未遂に終わった場合は,241条1項前段の罪が成立し,2項の減軽はできない。
②性交等の目的で暴行を加えたが性交等は未遂に終わり,その場で新たに脅迫を加えて財布を奪い,強盗罪が既遂になった場合は,241条1項後段の罪が成立し,2項の減軽はできない。
③財布を奪おうとして脅迫したが奪えず(強盗未遂),同じ機会に性交等をしようとしたが未遂に終わった場合は,241条1項の罪が成立し,人を死傷させていなければ,2項本文により刑を減軽することができる。
②の場面では,性交等の部分が未遂であることに目を奪われて全体を未遂罪と考えがちであるが,1項の罪の未遂罪は存在しないので,全体として「強盗・不同意性交等未遂罪」とするのは誤りである。
なお,性交等の目的で加えた暴行によって相手方の反抗が抑圧された後に財物を取った場合に強盗罪が成立するか(新たな暴行・脅迫の要否)は,別の論点であり,本記事では扱わない。
4 中止犯
241条2項ただし書は,両方とも未遂である場合のうち,「自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したとき」に,刑を必要的に減軽し,又は免除すると定める。
一方の犯罪を自己の意思で中止しても,他方の犯罪が既遂であれば,「いずれも未遂罪であるとき」に当たらないので,2項は適用されない。
第5 人を死亡させた場合(3項)
1 適用範囲
241条3項は,「第一項の罪に当たる行為により人を死亡させた者」を死刑又は無期拘禁刑に処する。
林刑事局長は,改正前の強盗強姦致死罪は,後に行われた強姦に係る行為から死の結果が生じた場合にのみ成立すると解されていたのに対し,改正後の3項は,先後関係を問わず,いずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じた場合に成立するものとしたと答弁した。
2 殺意がある場合
同局長は,改正前について,強盗強姦致死罪は結果的加重犯であり,殺意のない場合に限り成立すると解されていたため,強盗犯人が被害者を強姦して故意に殺害した場合には,強盗殺人罪と強盗強姦罪の観念的競合となるのが判例の確定した解釈であったと説明した。
そのうえで,「改正後の二百四十一条の三項の罪には、強盗の罪または強制性交等の罪のいずれかの罪に当たる行為により殺意なく人を死亡させた者だけではなくて、殺意を持って人を死亡させた者もその対象に含むものとして今回制定しております。」と答弁した。
243条は241条3項の罪の未遂を罰すると定めているので,3項の罪の未遂も処罰の対象となる。
3 負傷させた場合
241条には,人を負傷させた場合の加重規定はない。
2項本文は「人を死傷させたときを除き」としているので,人を負傷させたときは,両方とも未遂であっても2項本文の減軽はできない。
この定め方からすると,現行法は,241条1項の罪の中に人を負傷させる場合があることを前提にしていると考えられる。
平成29年改正前の強盗強姦罪について,東京高裁昭和45年2月5日判決は,強盗と強姦の目的で女性に暴行を加えて負傷させたが,いずれの目的も遂げなかった事案で,「致傷の点をも含めて、刑法二四三条・二四一条前段を適用すれば足り、強盗致傷の点について、同法二四〇条前段を(別途に)適用する必要はない。」とした(裁判要旨)。
同判決は,大審院昭和8年6月29日判決(刑集12巻1269頁)を参照している。
法務省の「性犯罪及び強盗罪等の法定刑に関する資料」(資料36)も,強盗が強姦した場合に傷害の結果が生じたときは強盗強姦罪によるとの判例を表に示している。
注釈書は,この判例の考え方に対し,強盗強姦罪(又は同未遂罪)と強盗致傷罪の観念的競合とする考えも強いと紹介している(前田雅英編集代表『条解刑法〔第3版〕』弘文堂,2013年,752頁)。
現行の241条の下で,同じ機会に人を負傷させた場合の罪数を判示した裁判例は,本記事の調査(判例秘書で「強盗・強制性交等」又は「強盗・不同意性交等」と「負傷」又は「傷害」の組合せで20件,これに「致傷」「観念的競合」等を加えた組合せで2件)では見当たらなかった。
改正前の判例は,強姦が未遂の場合には強盗強姦未遂罪となる当時の構造を前提にしていたので,未遂を1項に含めた現行法の下で同じ考え方がそのまま妥当するかは,今後の裁判例を確認する必要がある。
不同意わいせつ等致傷罪(181条)との関係も,本記事の調査では裁判例を確認できなかった。
第6 改正の経緯
1 平成29年改正前
平成29年改正前の241条は,「強盗が女子を強姦したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。」と定めていた。
当時の243条は,「第二百三十五条から第二百三十六条まで及び第二百三十八条から第二百四十一条までの罪の未遂は、罰する。」と定めており,強盗強姦罪の未遂が処罰されていた。
2 平成29年改正
刑法の一部を改正する法律(平成29年法律第72号)は,平成29年7月13日に施行され,241条を「強盗・強制性交等及び同致死」に改めた。
同改正により,行為の先後を問わないこと,各部分の未遂を1項に含めること,両方とも未遂の場合の減軽(2項),いずれかの罪に当たる行為から死亡した場合の3項が定められ,243条は241条については3項の罪の未遂だけを罰するものに改められた。
3 令和5年改正と拘禁刑
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号)は,令和5年7月13日に施行され,強制性交等罪を不同意性交等罪に改めたことに伴い,241条の見出しを「強盗・不同意性交等及び同致死」とし,組み合わされる性犯罪を「第百七十七条の罪」とした。
刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)により,令和7年6月1日から,懲役と禁錮が拘禁刑に一本化された。
| 時期 | 罪名 | 行為の順序 | 未遂の扱い |
|---|---|---|---|
| 平成29年7月12日まで | 強盗強姦 | 強盗が先の場合だけ | 強盗強姦罪の未遂を処罰 |
| 平成29年7月13日から | 強盗・強制性交等 | 先後を問わない | 各部分の未遂を1項に含め,両方未遂なら減軽できる。1項の未遂罪はない |
| 令和5年7月13日から | 強盗・不同意性交等 | 先後を問わない | 平成29年改正と同じ |
改正前の行為については,行為時の条文と,犯罪後の法律による刑の変更の扱いを確認する必要がある。
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第8 出典
1 法令
①e-Gov法令検索「刑法」(44条,177条,180条,236条,240条,241条,243条。改正前の241条・243条は平成29年7月11日時点,同月13日時点及び令和2年4月1日時点の条文と比較した)
2 国会会議録
①第193回国会衆議院法務委員会第21号(平成29年6月7日)林眞琴政府参考人の答弁(発言番号25)
②同委員会(平成29年6月7日)林眞琴政府参考人の答弁(発言番号29)
③同委員会(平成29年6月7日)林眞琴政府参考人の答弁(発言番号307)
④同委員会(平成29年6月7日)林眞琴政府参考人の答弁(発言番号311)
3 裁判例
①東京高裁昭和45年2月5日判決(昭和44年(う)第2009号,高刑集23巻1号103頁)
4 文献・資料
①前田雅英編集代表『条解刑法〔第3版〕』(弘文堂,2013年)752頁
②法務省「性犯罪及び強盗罪等の法定刑に関する資料」(資料36)