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親と未成年の子の利益相反と特別代理人―遺産分割・相続放棄・担保提供の判断基準と代理権の濫用(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

本記事は,親権者である父又は母が未成年の子を代理して法律行為をする場面のうち,親と子の利益が相反するため家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければならないのはどのような場合かを扱う。
典型は,父が死亡して母と未成年の子が共同相続人となった場合の遺産分割協議,子の相続放棄,及び親の借入れのために子の不動産に担保を設定する場合である。
あわせて,利益相反行為に当たらない場合でも問題となる代理権の濫用を扱う。

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文を,裁判例は裁判所HPの裁判例検索で全文を確認した最高裁判例を,申立ての手続は裁判所HPの手続案内を用いた。
成年後見人と本人の利益相反(民法860条による826条の準用)は,相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割及び成年後見人は本人の古い借金を返してよいかで扱っている。

2 結論

①親権を行う者とその子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(民法826条1項)。
②利益相反行為に当たるかどうかは,行為の外形で決すべきであり,親権者の意図や行為の実質的な効果を問題とすべきではないとするのが判例である。
③親権者と未成年の子が共同相続人となった場合に,親権者が子を代理して遺産分割協議をすることは,親権者と子の利益相反行為となる。
親権者が数人の子を代理して遺産分割協議をすることも,子どうしの利益相反行為に当たり,子ごとに特別代理人が必要となる(同条2項)。
④親権者が特別代理人を選任せずに利益相反行為をしたときは無権代理行為となり,子が成年に達した後に追認すれば効力を生じる。
⑤外形上は利益相反行為に当たらない行為(子の名義での借入れ,第三者の債務のための担保提供等)でも,代理権の濫用として子に効果が及ばないことがある(民法107条)。
ただし,判例は,親権者の広範な裁量を前提に,濫用に当たる場合を限定している。
⑥特別代理人の選任は,子の住所地の家庭裁判所に申し立てる。
申立てには,遺産分割協議書案など利益相反に関する資料を付ける。

第2 親権者の代理権と利益相反の規律

1 親権者の代理権

民法824条本文は,「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。」と定める。
親権は,成年に達しない子について,その子の利益のために行使しなければならない(同法818条1項)。
親権者は,子の財産に関する法律行為について広い代理権を持つが,その代理権には,次の利益相反行為の規律と,代理権の濫用の規律(第6)による制限がある。

2 民法826条

民法826条1項は,「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
同条2項は,「親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。」と定める。
1項は親と子の利益相反,2項は同じ親権に服する子どうしの利益相反を対象とする。

3 父母が共同で親権を行う場合

父母は,その双方が親権者であるときは,原則として共同して親権を行う(民法824条の2第1項)。
最高裁昭和35年2月25日判決は,親権者である父母の一方に利益相反関係があるときは,利益相反関係のない親権者と特別代理人とが共同して子のための代理行為をすべきであるとした。
したがって,父母の一方だけが子と利益相反する場合も,その親について特別代理人を選任し,他方の親と特別代理人が共同して子を代理することになる。

4 成年後見人への準用

民法860条は,826条を後見人について準用している(後見監督人がある場合を除く。)。
未成年後見人と未成年者の間の利益相反も同じ規律になる。

第3 利益相反行為の判断基準―外形で判断する

1 判例の基準

最高裁昭和42年4月18日判決は,「民法八二六条にいう利益相反行為に該当するかどうかは、親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでないとした原判決の判断は正当」であるとした。
最高裁昭和48年4月24日判決も,利益相反行為に当たるか否かは,「当該行為の外形で決すべきであつて、親権者の意図やその行為の実質的な効果を問題とすべきではない」としている。

2 外形で判断することの意味

最高裁昭和37年10月2日判決は,親権者が子の法定代理人として子の名において金員を借り受け,その債務について子の不動産に抵当権を設定することは,借受金を親権者自身の用途に充てる意図であっても,その意図があることだけでは利益相反行為とはいえないとした。
反対に,親権者自身が金員を借り受けるに当たり,その債務について子の不動産に抵当権を設定することは,借受金を子の養育費に充てる意図であっても,利益相反行為に当たるとした。

つまり,同じように子の不動産に抵当権を設定する場合でも,誰が債務者かという行為の外形で結論が分かれ,親権者の意図や資金の使い道では決まらない。
この基準は,取引の相手方が外から判断できるようにして取引の安全を守る反面,外形上は利益相反に当たらないのに実際には子の利益を害する行為を拾えない。
その場合の歯止めが,第6で述べる代理権の濫用である。

3 昭和42年判決の事案

最高裁昭和42年4月18日判決の事案は,子らが借主となり親権者が連帯保証人となった借入れの支払のため,親権者が子らの法定代理人として約束手形を振り出し,自らも共同で振り出したというものである。
子らは,借入金は親権者が経営する会社の営業資金に充てられるものであったと主張したが,最高裁は,事実関係を外形的に観察すると利益相反関係はないとした原判決の判断を是認した。

第4 典型的な場面の判断

1 遺産分割協議

(1) 親権者と子が共同相続人の場合

父が死亡し,母と未成年の子が共同相続人となった場合,母が子を代理して遺産分割協議をすることは,母と子の利益が相反する行為である。
裁判所HPの特別代理人選任の手続案内も,利益相反行為の例として,父が死亡した場合に共同相続人である母と未成年の子が行う遺産分割協議を挙げている。
遺産分割は,一方の取得分が増えれば他方の取得分が減る関係にあるからである。

(2) 親権者が数人の子を代理する場合

最高裁昭和49年7月22日判決は,民法826条2項の利益相反行為とは,行為の客観的性質上,数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指し,その行為の結果現実に利害の対立を生ずるか否かは問わないとした。
その上で,遺産分割の協議は同項の利益相反行為に当たり,共同相続人中の数人の未成年者が,相続権を有しない一人の親権者の親権に服するときは,親権者が代理する一人を除くその余の未成年者については,各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要するとした。
同判決の事案は親権者自身が相続人でない場合であるが,親権者自身も相続人である場合は,親権者と各子の間でも利益が相反する。

最高裁昭和48年4月24日判決は,親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは,親権者に数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図がなく,代理行為の結果,子の間に利害の対立が現実化していなかったとしても,民法826条2項の利益相反行為に当たり,追認のない限り無効であるとした。
「子どもたちに法定相続分どおり分けるから問題ない」という事情があっても,特別代理人の選任を省略することはできない。

2 相続放棄

相続の放棄をする者と,これによって相続分が増加する者とは,利益が相反する関係にある。
最高裁昭和53年2月24日判決は,相続の放棄が相手方のない単独行為であることから直ちに利益相反行為に当たる余地がないと解するのは相当でないとした上で,共同相続人の一人である後見人が被後見人全員を代理してする相続の放棄は,後見人自らが相続の放棄をした後にされたか,又はこれと同時にされたときは,利益相反行為に当たらないとした。
同判決は後見人(民法860条による826条の準用)の事案であるが,親権者と未成年の子が共同相続人である場合にも同じ考え方が当てはまると考えられる。

したがって,親権者自身は相続し,子だけに相続放棄をさせる場合や,数人の子のうち一部だけに放棄させる場合は,特別代理人の選任を検討する必要がある。
親権者が先に,又は同時に自らも放棄し,子全員についても放棄する場合は,同判決の考え方によれば利益相反行為に当たらない。
相続放棄の手続は相続放棄の手続を自分でする方法で,熟慮期間の起算点は相続放棄の3か月はいつからかで扱っている。

3 担保の提供・保証

行為利益相反行為か根拠
親権者自身の借入れのために子の不動産に抵当権を設定する当たる(資金を子の養育費に充てる意図でも同じ)最高裁昭和37年10月2日判決
子の名義で借り入れ,その債務のために子の不動産に抵当権を設定する当たらない(資金を親権者自身が使う意図でも同じ)同判決。代理権の濫用は別に問題となる
第三者の債務のために子の不動産を担保に供する当たらない最高裁平成4年12月10日判決。代理権の濫用は別に問題となる
第三者の債務について親権者自身も連帯保証をし,同じ債務について子を代理して連帯保証と抵当権設定をする当たる(判示の事実関係のもとで)最高裁昭和43年10月8日判決

最高裁昭和43年10月8日判決は,親権者が子らの不利益において利益を受け,親権者と子らとの間の求償関係や,子の持分の上の抵当権について親権者による代位の問題が生ずることなどが,連帯保証と抵当権設定の行為自体の外形からも当然予想されることを理由としている。
第三者の債務の担保であっても,親権者自身が同じ債務の保証人になっているときは,外形上,親権者と子の利害がぶつかる関係になる。

4 親から子への贈与を受ける場合

負担のない贈与を子が受けるだけであれば,子に不利益はないから,一般に利益相反行為の問題は生じない。
子供名義の株式や預金の贈与については,子供名義の株は誰のものかで扱っている。

第5 特別代理人を選任せずにした行為の効力

1 無権代理行為となる

最高裁昭和46年4月20日判決は,親権者が民法826条に違反して,親権者と子の利益相反行為につき法定代理人としてした行為は,民法113条所定の無権代理行為に当たるとした原審の判断を是認した。
民法113条1項は,代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人がその追認をしなければ,本人に対してその効力を生じないと定める。

2 成年に達した後の追認

最高裁昭和35年10月11日判決は,親権者が特別代理人によらないで自ら未成年の子を代理して子と利益の相反する行為をした場合について,子が成年に達した後にこれを追認したときは,その行為は完全な効力を生ずるとしている。
追認は,別段の意思表示がないときは,契約の時にさかのぼってその効力を生ずる(民法116条本文)。
数人の子を代理してした遺産分割協議について,前記昭和49年判決は,被代理人全員による追認がない限り無効であるとしている。

3 選任された特別代理人自身が利益相反する場合

最高裁昭和57年11月18日判決は,民法826条1項に基づいて選任された特別代理人と未成年者との利益が相反する行為については,特別代理人は選任の審判によって付与された権限を行使することができないとした。
特別代理人の候補者には,子と利害が対立しない者を選ぶ必要がある。

第6 利益相反に当たらない場合の代理権の濫用

1 民法107条

民法107条は,「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と定める。
この規定は,平成29年法律第44号による民法改正で新設され,令和2年4月1日に施行された。
改正前は,判例が民法93条ただし書の類推適用によって同様の結論を導いていた(最高裁昭和42年4月20日判決)。

2 親権者の代理権の濫用に関する判例

最高裁平成4年12月10日判決は,親権者が子を代理する権限を濫用して法律行為をした場合において,相手方が濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは,民法93条ただし書の類推適用により,その行為の効果は子には及ばないとした。
その上で,親権者が子を代理してする法律行為は,利益相反行為に当たらない限り,それをするか否かは親権者の広範な裁量にゆだねられているとし,子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は,「子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできない」とした。
同判決は,子自身に経済的利益をもたらさないことから直ちに代理権の濫用に当たるとした原判決を破棄し,差し戻している。

3 現行法の下での読み方

現行法では,代理権の濫用の効果は民法107条により無権代理行為とみなされることになる。
親権者の代理行為について,どのような場合に「自己又は第三者の利益を図る目的」による濫用と評価するかは,平成4年判決の特段の事情の考え方が参考になると考えられる。
また,平成29年法律第44号附則7条1項は,施行日前に代理権の発生原因が生じた場合におけるその代理については,なお従前の例によると定めている。
令和2年3月31日以前の行為や,同日以前に生じた代理権による行為が問題になるときは,この経過措置を確認する。

第7 特別代理人の選任の申立て

1 申立ての概要

裁判所HPの手続案内「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」によれば,申立ての概要は次のとおりである。

項目内容
申立人親権者,利害関係人
申立先子の住所地の家庭裁判所
費用収入印紙800円分(子1人につき),連絡用の郵便切手
必要書類申立書,未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書),親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書),特別代理人候補者の住民票又は戸籍附票,利益相反に関する資料(遺産分割協議書案,契約書案,抵当権を設定する不動産の登記事項証明書等)

子に関する特別代理人の選任は,家事事件手続法の別表第一に掲げる審判事項であり(同表65項,民法826条),親権に関する審判事件は子の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法167条)。
裁判所HPには,遺産分割協議の場合と抵当権設定の場合の申立書の書式及び記載例が掲載されている。

2 申立ての前に確認すること

①利益相反に当たる行為を特定する(遺産分割協議,相続放棄,担保設定等)。
②同じ親権に服する子が数人いる場合は,子ごとに特別代理人が必要かを確認する(民法826条2項)。
③父母が共同で親権を行う場合は,どちらの親が子と利益相反するかを確認する。
④特別代理人の候補者が子と利害の対立しない者かを確認する。
⑤遺産分割協議書案等,利益相反に関する資料を用意する。

特別代理人は,子のために選任されるものであり,親権者の意向どおりに署名する立場ではない。
遺産分割協議書案で子の取得分を法定相続分より少なくする場合は,その理由を説明できるようにしておく必要がある。

3 手続の場面で求められる例

金融機関や暗号資産交換業者の相続手続でも,未成年の相続人と親権者の利益が相反する場合には,特別代理人選任の審判書の提出を求められることがある。
主要な暗号資産交換業者の例は,主要な国内暗号資産交換業者の死亡時手続比較で扱っている。

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第9 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「民法」(107条,113条,116条,818条,824条,824条の2,826条,860条,附則(平成29年法律第44号)7条)
②e-Gov法令検索「家事事件手続法」(167条,別表第一)

2 裁判例

①最高裁第一小法廷昭和35年2月25日判決(昭和33年(オ)第968号,民集14巻2号279頁)
②最高裁第三小法廷昭和35年10月11日判決(昭和32年(オ)第277号,集民45号171頁)
③最高裁第三小法廷昭和37年10月2日判決(昭和34年(オ)第1128号,民集16巻10号2059頁)
④最高裁第三小法廷昭和42年4月18日判決(昭和40年(オ)第1499号,民集21巻3号671頁)
⑤最高裁第一小法廷昭和42年4月20日判決(昭和39年(オ)第1025号,民集21巻3号697頁)
⑥最高裁第三小法廷昭和43年10月8日判決(昭和43年(オ)第783号,民集22巻10号2172頁)
⑦最高裁第三小法廷昭和46年4月20日判決(昭和45年(オ)第1150号,集民102号519頁)
⑧最高裁第三小法廷昭和48年4月24日判決(昭和47年(オ)第603号,集民109号183頁)
⑨最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決(昭和46年(オ)第675号,集民112号389頁)
⑩最高裁第二小法廷昭和53年2月24日判決(昭和50年(オ)第354号,民集32巻1号98頁)
⑪最高裁第一小法廷昭和57年11月18日判決(昭和56年(オ)第586号,民集36巻11号2274頁)
⑫最高裁第一小法廷平成4年12月10日判決(平成元年(オ)第759号,民集46巻9号2727頁)

3 裁判所の手続案内

①裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」