第1 本記事の対象と結論
捜査機関が本人の承諾なく写真又は動画を撮影する場合,公道上の顔を一度撮影した場合と,私的領域を望遠撮影し,又は長期間にわたり行動を網羅的に記録した場合とでは,制約される利益も捜査手法の性質も異なる。
検討では,①誰を対象に,②どこからどこを,③いつからいつまで,④どの機器・倍率・設置方法で,⑤何の捜査目的のために撮影したかを,一つの「撮影行為」ごとに確定する。その上で,まず強制処分に当たるかを検討し,任意処分である場合は,嫌疑,捜査目的,撮影の必要性,対象者が通常受忍すべき観察の程度及び方法・範囲の相当性を具体的に比較する。
公道又は不特定多数が出入りする店舗内にいる者の容貌等を,犯人特定に必要な限度で相当な方法により撮影することは適法となり得る。他方,公道から見えるという一事だけで,住居内部の撮影,長期・連続・網羅的な行動監視,データの高度な分析又は別目的利用まで当然に許されるわけではない。
本記事は,令和8年9月25日現在の法令及び確認できた裁判例に基づく一般的な整理である。具体的事件では,実際の画角,倍率,撮影時間,設置場所,データ保存及び利用の記録まで確認する必要がある。
第2 検討の出発点-撮影行為を分解する
「ビデオ撮影が適法か」という一問にまとめると,撮影対象又は方法の違いが隠れる。少なくとも次の単位で分解する。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 場所 | 公道,公開店舗,私道,共用部分,敷地内,住居・事務所内部のいずれか |
| 対象 | 容貌,体型,服装,所持品,車両,出入口,交友関係,住居内の行動のいずれか |
| 時期・期間 | 犯行中・直後,犯人特定段階,一回的撮影,断続的撮影,連続・長期監視のいずれか |
| 方法 | 肉眼に近い撮影,望遠,暗視,小型・秘匿カメラ,固定カメラ,第三者の防犯カメラ利用のいずれか |
| 目的 | 犯行状況の保全,犯人との同一性確認,所在把握,交友関係の解明,将来の犯行予測等のいずれか |
| 後続処理 | 保存期間,静止画化,照合,顔認識等の分析,捜査部門・別事件との共有の有無 |
同じカメラで連続して撮影されていても,公道上の容貌,塀又は窓を通した室内,第三者の顔,車両番号及び交友関係の把握は,侵害される利益と必要性が異なる。裁判所に判断を求める際も,争う撮影場面を日時・場所・対象別に特定することが重要である。
第3 強制処分か任意処分か
刑事訴訟法197条1項は,捜査について目的達成に必要な取調べをすることができる一方,強制の処分は同法に特別の定めがある場合でなければできないと定める。
したがって,撮影を単に「任意捜査だから比例原則で許される」と処理せず,先に,当該手法が個人の意思を制圧し,憲法の保障する重要な法的利益を侵害する強制処分に当たるかを検討する。住居内部等の私的領域を,通常の視認を超える機器で秘かに把握する場合や,機器の装着等を通じて行動を継続的・網羅的に取得する場合は,公道上の一回的な容貌撮影と同列に扱えない。
任意処分に分類されても,無制限に許されるわけではない。具体的な必要性と,対象者の法益侵害の内容・程度を比較し,社会通念上相当な範囲にあるかを検討する。
第4 主要判例が示す判断の軸
1 最高裁昭和44年12月24日大法廷判決
最高裁昭和44年12月24日大法廷判決(昭和40年(あ)第1187号・刑集23巻12号1625頁)は,憲法13条の趣旨に照らし,何人もみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するとした。その上で,警察官による写真撮影について,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められ,証拠保全の必要性及び緊急性があり,方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものである場合には,本人の同意又は令状がなくても許容され得るとした。
同判決は,対象者を撮影する際に,その付近にいる第三者の容貌が含まれることが避けられない場合についても,前記要件を満たす限度で憲法に反しないとした。第三者の撮影が常に許されるという意味ではなく,対象者の撮影に伴うことが避けられない範囲かを確認する必要がある。
2 最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定
最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定(平成19年(あ)第839号・刑集62巻5号1398頁)は,捜査機関が被告人を強盗殺人等の犯人と疑う合理的理由があり,防犯ビデオの人物との同一性という犯人特定のための重要な判断資料を得る目的で,公道上及び不特定多数の客が集まるパチンコ店内の容貌・体型等を,必要な限度で撮影した事案を扱った。
同決定は,これらが通常,他人から容貌等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所であり,捜査目的を達成するため必要な範囲で相当な方法によったとして,撮影を適法とした。昭和44年大法廷判決が現行犯又は犯行直後以外の撮影を一律に禁止したものではないことも示している。
ここから直ちに「公道又は店舗内なら適法」と一般化することはできない。合理的嫌疑,犯人特定という目的,撮影対象,必要な範囲及び方法の相当性が結び付いて判断されている。
3 最高裁平成29年3月15日大法廷判決
最高裁平成29年3月15日大法廷判決(平成28年(あ)第442号・刑集71巻3号13頁)は,承諾なく車両にGPS端末を取り付け,位置情報を検索して所在・移動状況を把握する捜査を強制処分とした。
同判決は,GPS捜査が,公道上だけでなくプライバシーが強く保護される場所を含め,個人の行動を継続的・網羅的に把握することを必然的に伴い,プライバシー侵害を可能にする機器を所持品へ秘かに装着する点で,公道上の所在を肉眼又はカメラで把握する手法と異なると述べた。
この判決をカメラ撮影へ機械的に当てはめることはできない。他方,一回的な公道撮影と,複数カメラを組み合わせた長期・連続・網羅的な監視とが同じ法的評価になるとも限らない。取得情報の広がり,期間,機器設置の態様及び私的領域の把握可能性を具体的に比較する必要がある。
4 令和6年4月26日高裁判決
令和6年4月26日高裁判決(令和5年(う)第131号)は,私道を出入りする車両の車種・ナンバー等を確認するため,捜査機関が秘匿カメラを設置した撮影を扱った。
同判決は,対象者への一定の嫌疑,車両特定の必要性,撮影が家屋内部等を対象としていないこと,私道が公道と外見上区別し難く,不特定の訪問者等が通行する状況にあったことなどを踏まえ,通常,他人から観察されることを受忍せざるを得ない場所について,必要な範囲・相当な方法で行われた撮影として適法と判断した。
ただし,同判決は,車両が特定された後も一か月余り撮影が続いた点について,継続理由が明確でないと指摘している。結論として違法目的を推認するには足りないとしたが,開始時に必要であった撮影が全期間にわたり当然に必要とはならないことを示す確認点である。
第5 場所別の検討
| 撮影場所・対象 | 重視する事情 |
|---|---|
| 公道上の容貌・体型 | 合理的嫌疑,犯人特定等の目的,撮影場面・回数,通常の観察を超える機能の有無 |
| 公開店舗内 | 不特定多数の出入り,店側の協力,撮影対象,防犯カメラの本来目的との関係 |
| 私道 | 門扉・表示・通行制限,公道との外観上の区別,利用者の範囲,家屋内部が映るか |
| 共同住宅の共用部分 | 入館制限,住民以外の立入り,撮影対象が出入口か各住戸内か,設置者・管理者の権限 |
| 塀・生垣・カーテン等で遮られた内部 | 外から通常視認できるか,望遠・高所・暗視等の使用,住居・私的領域の具体的内容 |
| 長期・連続撮影 | 期間,空白の有無,複数地点の統合,交友関係・生活パターンまで把握できるか |
場所の名称だけで結論を出さない。私道でも実際には不特定の訪問者が公道と同様に通行することがある一方,公道からの撮影でも,窓越しに住居内部を望遠撮影する場合は,通常の観察を受忍すべき範囲とはいい難いことがある。
第6 撮影の必要性・方法・範囲を分ける
「捜査上必要だった」という一文で終わらせず,次の三段階に分ける。
第1に,対象選択の必要性である。当該人物又は場所を撮影対象とするだけの具体的嫌疑があったか,嫌疑の根拠となる資料の時点・信用性・対象事件との結び付きはどうかを確認する。
第2に,手段選択の必要性である。なぜ肉眼による張込み,短時間の撮影,関係者への照会又は既存防犯映像の確認では足りず,秘匿カメラ,固定設置又は望遠撮影が必要であったのかを確認する。
第3に,範囲・期間の相当性である。開始時の必要性だけでなく,目的となる情報を得た後も撮影を続けた理由,撮影しない時間帯を設定できなかったか,第三者又は無関係な生活場面の撮影を減らす措置があったかを確認する。
この分解により,「被疑事件が重大だから長期間の撮影も適法」という短絡を避けられる。事件の重大性は重要であるが,撮影対象・手段・期間の個別の必要性を代替するものではない。
第7 保存・分析・別事件利用は別段階の問題である
撮影時点の適法性と,得られたデータの保存,分析,共有又は別事件への利用の適法性は,同じ問題ではない。撮影が適法でも,目的達成後の長期保存,顔認識等による新たな情報の生成,別事件・別部署での利用は,取得時と異なる利益侵害を生じ得る。
令和6年4月26日高裁判決は,適法に取得された資料を他の捜査に利用することが直ちに違法になるわけではないとしつつ,当初の取得目的から著しくかけ離れ,社会通念上相当といえない方法で用いられた場合には違法となる余地を示している。
現時点で確認した最高裁判例から,写真・動画データの保存期間,顔認識による照合又は部門横断的な再利用について一律の具体的基準を導くことはできない。個別事件では,保存・複製・解析・閲覧・提供の各履歴を分けて検討する必要がある。
第8 違法と判断された場合の証拠能力
撮影行為が違法であることと,撮影結果又は派生証拠の証拠能力が直ちに否定されることも同義ではない。違法収集証拠排除法則では,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,将来の違法捜査を抑制する見地から証拠能力を否定することが相当かを検討する。
そのため,①違反した利益・手続,②捜査官の意図又は違法認識,③侵害の期間・範囲,④令状を得る余地,⑤得られた撮影データと後続証拠の因果関係,⑥独立した入手経路,⑦同種捜査を抑止する必要性を整理する。
撮影結果をまとめた捜査報告書には,さらに伝聞法則の問題が生じる。撮影そのものの適法性,映像・写真の同一性及び報告書の証拠能力を別々に検討しなければならない。
第9 刑事弁護で確認する証拠
① 撮影開始の決裁,捜査報告書及び対象者選定の根拠資料
② カメラの機種,倍率,暗視・追尾・音声・自動分析機能
③ 設置位置,画角,撮影対象及び死角を示す写真・図面
④ 撮影開始・終了日時,中断時間及び担当者の交代記録
⑤ 元データ,複製,静止画化,編集及び削除の履歴
⑥ 目的となる情報を得た日時と,その後も継続した理由
⑦ 第三者,住居内部又は無関係な生活場面が映った範囲
⑧ 顔認識その他の分析,照合先データベース及び別事件利用の履歴
⑨ 映像から作成された捜査報告書,令状請求資料及び後続捜査との関係
⑩ 証拠意見として,撮影の違法性,原本性・同一性,伝聞性及び証明力のどれを争うか
デモ参加者その他の匿名表現と撮影の関係は,「デモ参加者の顔面被覆と匿名表現の自由―内容中立規制・萎縮効果・代替手段(AI作成)」も参照されたい。
第10 出典・確認範囲
① e-Gov法令検索「日本国憲法」13条及び35条(令和8年9月25日確認)。
② e-Gov法令検索「刑事訴訟法」197条1項,218条ほか(令和8年9月25日確認)。
③ 最高裁昭和44年12月24日大法廷判決(昭和40年(あ)第1187号・刑集23巻12号1625頁)。
④ 最高裁平成20年4月15日第二小法廷決定(平成19年(あ)第839号・刑集62巻5号1398頁。裁判所ウェブサイトの裁判例検索及び公刊判例集の書誌を確認)。
⑤ 最高裁平成29年3月15日大法廷判決(平成28年(あ)第442号・刑集71巻3号13頁)。
⑥ 令和6年4月26日高裁判決(令和5年(う)第131号)。
裁判所ウェブサイトは全裁判例を収録していない。本記事作成時,判例秘書では検索を実行していないため,同種裁判例の件数及び追加裁判例は未確認である。「確認できなかった」ことを「裁判例が存在しない」こととして扱っていない。また,令和6年4月26日高裁判決については,裁判所ウェブサイト掲載PDFで確認できる範囲の表記にとどめた。