第1 借地権課税は当事者と取引段階を分けて考える
本記事は,借地権の設定,地代の支払,契約更新,借地権の売却並びに相続及び贈与の各段階について,地主側と借地人側の課税関係を整理するものである。
調査の基準日は令和8年9月17日であり,同日までに確認できた法令,国税庁通達・解説及び裁判所公表判決を基礎としている。
借地権に関する税務は,「借地権には何税がかかるか」という一つの問いでは決まらない。
地主又は借地人が個人か法人か,権利金,地代,更新料,譲渡代金又は相続のどれが問題となっているか,権利金を授受する取引上の慣行がある地域か,土地の無償返還に関する届出書が提出されているかによって,所得区分及び評価方法が変わるからである。
以下では,①借地権を設定したとき,②地代を支払いながら土地を利用しているとき,③契約を更新したとき,④借地権を売却したとき,⑤借地権又は底地を相続・贈与したときの順に説明する。
地代の相場,借地条件の変更及び借地非訟の手続は,借地権の地代・権利金・評価方法-相場,税務及び借地非訟(AIリライト)で説明している。
第2 借地権を設定したときの課税
1 個人地主が受け取った権利金
個人地主が土地に借地権を設定して受け取った権利金その他の一時金は,原則として不動産所得の総収入金額となる。
更新料,名義書換料,承諾料及び返還を要しない保証金等も,通常は不動産所得の収入に含まれると国税庁は説明している。
もっとも,建物又は構築物を所有するための借地権の設定により受け取った権利金等が土地の時価の2分の1を超える場合は,土地の一部を譲渡した場合と同様に譲渡所得として扱われる。
地下又は空間の一部について設定される権利では,土地の利用が制限される程度に応じ,土地価額の4分の1を超えるかどうかが基準となる場合がある。
この判定では,契約書に「権利金」と記載された金額だけを見れば足りるものではない。
借地権の設定に伴って地主に特別な経済的利益が与えられた場合,その利益も権利金等の額に含めて判定されるためである。
2 法人地主の権利金認定課税
法人が所有する土地について,権利金を授受する取引上の慣行があるにもかかわらず,借地人から通常収受すべき権利金を受け取らない場合,原則として権利金相当額の認定課税が行われる。
法人税基本通達13-1-3は,借地権の設定時に通常収受すべき権利金の額と実際に収受した権利金等との差額を,借地人に対する贈与として取り扱う仕組みを定めている。
権利金の認定課税が行われない代表的な場合は,①権利金に代えて相当の地代を収受するとき及び②契約書に将来土地を無償で返還する旨を定め,地主と借地人が連名で「土地の無償返還に関する届出書」を遅滞なく提出したときである。
地主が個人で借地人が法人である場合も,無償返還届出書の対象となる。
無償返還届出書を提出しても,実際の地代が相当の地代より低い場合の問題までなくなるわけではない。
法人税基本通達13-1-3は,実際の地代と相当の地代との差額について,法人地主から借地人への贈与として取り扱い,借地人が役員又は使用人である場合には給与の問題が生じ得ることを示している。
3 相当の地代は現行取扱いで年6%である
権利金に代えて収受する相当の地代は,原則として,土地の更地価額のおおむね年6%である。
更地価額の基礎には,通常の取引価額のほか,課税上弊害がない限り,公示価格等から合理的に算定した価額又は相続税評価額・その過去3年間の平均額を用いる方法がある。
法人税基本通達13-1-2の本文には8%との記載があるが,昭和63年12月の土地基本通達改正後の取扱いを定めた個別通達は,同項中の「100分の8」を「100分の6」として取り扱うことを明記している。
国税庁の現行タックスアンサーも,相当の地代を更地価額のおおむね年6%として説明しているため,基本通達の本文だけから現在も8%であると理解するのは正確でない。
相当の地代方式を選ぶ場合,契約書に将来の地代の改訂方法を定め,借地人と連名で「相当の地代の改訂方法に関する届出書」を遅滞なく提出する取扱いがある。
土地の価額に連動して相当の地代を改訂する方法を選択した場合,国税庁は,おおむね3年以下の期間ごとに地代を見直すものとしている。
4 法人借地人が支払った権利金等
法人である借地人が借地権の取得に際して支払った権利金,借地権付建物の取得代金のうち借地権に対応する部分及び地主に支払った一定の費用は,借地権の取得価額を構成する。
支払時の単年度の損金として処理できるとは限らないため,建物代金,借地権の対価,仲介手数料及び地主への承諾料を区分して確認することになる。
第3 地代,更新料及び名義書換料の課税
1 個人地主が受け取る地代等
個人地主が受け取る通常の地代は,不動産所得の収入である。
更新料,名義書換料,承諾料及び返還を要しない敷金・保証金等も,国税庁の説明上,不動産所得の総収入金額に含まれる。
ただし,金銭の名称だけで所得区分が確定するわけではない。
更新又は条件変更によって土地の利用権が大きく移転し,その対価が土地価額に比べて高額である場合には,借地権設定時の権利金と同様に譲渡所得に該当する可能性がある。
2 借地人が支払った更新料
個人が借地権を売却するときの取得費には,当初支払った権利金等のうち所定の計算後に残る金額のほか,契約更新時に支払った更新料が含まれ得る。
国税庁の質疑応答事例は,期間満了による更新を経ても借地権の同一性が維持される設例について,更新前の期間を含めて長期・短期の区分を判定している。
もっとも,同事例は記載された事実関係を前提とする一般的な回答である。
契約の対象地,権利の内容又は当事者が実質的に変更されている場合は,単なる更新と同じ取扱いになるとは限らない。
3 地代,更新料等に対する消費税
土地及び土地上の権利の貸付けは,原則として消費税の非課税取引である。
土地の貸付けに伴う更新料,名義書換料その他の一時金も,土地又は土地上の権利の設定・貸付けの対価であれば非課税となる。
ただし,土地の貸付期間が1か月未満の場合及び駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合は,非課税となる土地の貸付けから除かれる。
土地と事業用建物を一括して貸し付ける場合も,土地部分と建物部分を区分して検討する必要がある。
第4 借地権を売却したときの税金
1 個人の借地権譲渡は分離課税となる
個人が借地権を売却した場合,その譲渡所得は土地の譲渡所得と同様に他の所得から分離して計算される。
課税譲渡所得は,売却代金から取得費,譲渡費用及び適用のある特別控除額を控除して計算する。
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得となり,所得税率は15%,住民税率は5%である。
同日現在の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり,所得税率は30%,住民税率は9%であり,このほか令和19年まで所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課される。
2 取得費及び譲渡費用
借地権の取得費を計算するためには,設定時又は購入時の権利金,借地権付建物の購入代金の配分及び更新料の記録が必要となる。
実際の取得費を証明できない場合には売却代金の5%を概算取得費とする取扱いがあるが,古い借地権では実際の取得費を大きく下回ることがある。
借地権を売却するため地主の承諾を得る際に支払った名義書換料等は,国税庁の説明上,譲渡費用に含まれる。
契約書,領収書,更新契約書,送金記録及び借地権付建物の売買契約書は,取得費又は譲渡費用を裏付ける資料となり得る。
3 法人による借地権の譲渡
法人が借地権を売却した場合,個人の長期譲渡所得・短期譲渡所得の税率区分は用いない。
法人税法22条及び22条の2に従い,借地権の譲渡による収益と,その取得価額その他の原価を法人の各事業年度の所得計算に反映させる。
4 借地権の売却と消費税
土地及び土地上に存する権利の譲渡は,消費税の非課税取引であるため,借地権そのものの売却代金には原則として消費税は課されない。
借地権付建物を一括して売却する場合は,非課税となる借地権部分と,課税関係を別に判定する建物部分とを合理的に区分することになる。
第5 借地権又は底地を相続・贈与したときの評価
1 普通借地権の評価
普通借地権の相続税評価額は,原則として,自用地としての価額に借地権割合を乗じて計算する。
借地権割合は,借地事情が類似する地域ごとに定められ,国税庁の路線価図又は評価倍率表にAからGまでの記号で表示されている。
地主側の貸宅地の価額は,原則として,自用地としての価額から普通借地権の価額を控除して計算する。
借地権の取引慣行がないと認められる地域では,貸宅地の評価に当たり,自用地価額から20%を控除する取扱いが示されている。
2 定期借地権等の評価
定期借地権,事業用定期借地権等,建物譲渡特約付借地権及び一時使用目的の借地権は,普通借地権と同じ計算を機械的に用いるものではない。
定期借地権等は,課税時期に借地人へ帰属する経済的利益及び残存期間を基礎として評価され,一時使用目的の借地権は契約内容及び利用状況等を考慮して評価される。
したがって,相続開始時には,契約書上の借地権の種類,設定期間,残存期間,設定時の権利金又は前払賃料及び地代条件を確認する必要がある。
普通借地権の借地権割合を,定期借地権等へそのまま適用することはできない。
3 親族間の使用貸借
親の土地に子が無償で建物を建てた場合など,土地の使用関係が個人間の使用貸借であるときは,借主側の使用借権の価額は,相続税及び贈与税上,原則として零とされる。
地主側の土地は,原則として自用地価額で評価される。
土地に係る固定資産税その他の公租公課に相当する程度の金銭を支払っているだけであれば,国税庁通達上,なお使用貸借に含まれる。
反対に,地代の授受がなくても,権利金その他の地代に代わる経済的利益が授受されている場合は,同通達上の使用貸借には該当しない。
親族間の使用貸借,法人が関与する場合の相当の地代及び土地評価の分岐は,親族間で土地を使わせる場合の課税-使用貸借と相当の地代(AI作成)で詳しく説明している。
4 無償返還届出書がある土地の評価
土地の無償返還に関する届出書が提出されている場合でも,地主側の土地が常に自用地価額の100%で評価されるわけではない。
法人へ賃貸されている土地については,自用地価額の80%相当額で評価する行政上の取扱いが問題となる。
東京地方裁判所令和5年1月26日判決(令和元年(行ウ)第490号)は,無償返還届出書が提出されていた土地について,自用地価額の80%相当額による評価を是認し,東京高等裁判所令和5年12月13日判決(令和5年(行コ)第62号)も控訴を棄却した。
これらの判決は法人への賃貸借を前提とする事案であるため,個人間の使用貸借における自用地評価へそのまま広げることはできない。
第6 借地権課税を検討するために確認する資料
借地権課税の結論は,契約名や当事者の呼び方だけでは決まらない。
少なくとも,①地主及び借地人が個人か法人か,②普通借地権,定期借地権,地上権,土地賃貸借又は使用貸借のいずれか,③建物所有を目的とするか,④その地域に権利金授受の取引上の慣行があるか,⑤権利金,地代,更新料,名義書換料及び譲渡承諾料の金額と支払時期,⑥無償返還届出書又は相当の地代の改訂方法に関する届出書の有無,⑦取得時及び更新時の契約書・領収書・送金記録を確認することになる。
売却の場合は,売却年の1月1日現在の保有期間,取得費を裏付ける資料,地主へ支払った承諾料及び建物代金との配分が問題となる。
相続又は贈与の場合は,相続開始日又は贈与日現在の契約類型,残存期間,借地権割合,地代条件及び土地利用の実態を確認した上で評価区分を定めることになる。
第7 出典・参考資料
1 法令
2 裁判例
①東京地方裁判所令和5年1月26日判決(令和元年(行ウ)第490号),裁判所HP掲載。
②東京高等裁判所令和5年12月13日判決(令和5年(行コ)第62号),裁判所HP掲載。
3 国税庁通達
①法人税基本通達7-3-8(借地権の取得価額)
②法人税基本通達第13章(借地権の設定等に伴う所得の計算)
③国税庁「相当の地代を収受している場合の借地権の設定等に係る所得の計算について」
④国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」
⑤国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」
4 国税庁の解説・質疑応答・手続案内
①国税庁「土地や建物を貸したとき」
②国税庁「不動産収入を受け取ったとき」
③国税庁「権利金の認定課税について」
④国税庁「相当の地代及び相当の地代の改訂」
⑤国税庁「土地の無償返還に関する届出」
⑥国税庁「長期譲渡所得の税額の計算」
⑦国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」
⑧国税庁「譲渡費用となるもの」
⑨国税庁「借地権の譲渡所得の計算」
⑩国税庁「借地権の評価」
⑪国税庁「貸宅地の評価」
⑫国税庁「親の借地に子供が家を建てたとき」
⑬国税庁「土地の貸付けに係る消費税」
⑭国税庁「土地や土地の上に存する権利を譲渡した場合」