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簡易裁判所の司法委員―役割,選任,忌避及び関連裁判例(AI作成)

第1 司法委員制度の位置付け

1 司法委員とは何か

司法委員は,簡易裁判所の民事訴訟において,裁判所が和解を試みるために必要な補助をし,又は審理に立ち会って事件について意見を述べる者である。民事訴訟法279条1項は,「裁判所は,必要があると認めるときは,司法委員に和解を試みるについて必要な補助をさせ,又は司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができる。」と定めている。

司法委員制度は,国民の健全な良識,社会経験又は専門的知見を簡易裁判所の審理と和解に反映させる国民の司法参加制度である。昭和23年法律第149号により旧民事訴訟法358条ノ4及び358条ノ5として創設され,第2回国会では,民間人に和解を補助させ,審理に立ち会わせて意見を聴く新制度として説明された。

2 裁判官との違い

司法委員は裁判体の構成員ではなく,判決をする権限を持たない。司法委員の意見は裁判官の判断材料にはなるが,裁判所はその意見に拘束されず,専門家である司法委員の意見も鑑定意見として当然に証拠となるものではない。

また,司法委員を関与させるか,どの候補者を指定するかは裁判所が決める。現行法には,当事者が司法委員の関与を請求する権利,又は関与を一般的に拒否する権利を定めた明文はない。

第2 候補者の選任,事件指定及び身分

1 候補者の選任と事件ごとの指定

民事訴訟法279条2項及び3項によれば,各事件について一人以上の司法委員が指定され,指定は,地方裁判所が毎年あらかじめ選任した「司法委員となるべき者」の中から簡易裁判所が行う。地方裁判所による候補者の選任と,簡易裁判所による特定事件への指定は,別の段階である。

候補者名簿に載っただけの者は,まだ裁判所職員でも国家公務員でもない。特定事件について指定された時点で,その事件に限り非常勤の裁判所職員たる国家公務員となり,事件の終了によってその身分を失う。

2 資格,欠格事由及び候補者数基準の改正

司法委員規則1条は,候補者を「良識のある者その他適当と認められる者」から選任すると定める。法律実務家に限られず,会社員,家事従事者その他各界の者がなり得る一方,事件の性質に応じて弁護士,建築士等の専門家が指定されることもある。

同規則2条の欠格事由は,拘禁刑以上の刑に処せられた者,公務員として懲戒免職を受けてから2年未満の者,弾劾裁判所の罷免の裁判を受けた裁判官及び弁護士として除名されてから3年未満の者である。地方裁判所は,選任に当たり,管内簡易裁判所の司法行政事務を掌理する裁判官の意見を聴かなければならない(同規則4条)。

令和8年12月31日までは,一つの簡易裁判所につき10人以上の候補者を選任するのが規則上の基準である。令和9年1月1日からは,地方裁判所の管轄区域内の年間民事事件数,指定実績その他の事情を考慮して最高裁判所が定める数以上とする実需連動型の基準に変わる(最高裁判所規則令和8年第6号)。

3 秘密保持と候補者名簿

事件について指定された司法委員は,国家公務員法100条の秘密を守る義務を負い,その義務は事件終了後も続く。最高裁判所事務総局『司法委員の手引』(令和5年11月)3頁~5頁は,記録,写し及び電子データを原則として庁外に持ち出さず,私物のパソコン等に記録しない取扱いを示している。

他方,令和4年度(最情)答申第17号は,候補者は事件指定前には裁判所職員の身分を持たないことを理由の一つとして,候補者名簿の氏名を不開示とする判断を妥当とした。候補者と,特定事件に指定された司法委員との身分の違いは,情報公開の場面でも実際上の意味を持つ。

第3 司法委員の職務と実務上の関与方法

1 和解の補助

司法委員は,当事者双方の話を聴き,意向を取り次ぎ,解決案や和解条項を検討するなどして和解を補助する。裁判官が基本方針を示した上で一時的に退席し,司法委員が当事者と話合いを進める運用もあるが,和解は当事者の自主的意思に基づくものであり,司法委員が威圧的又は強制的に説得することは許されない。

司法委員は,事実関係,証拠の評価,因果関係,損害額,過失相殺,法律問題,事件の結論又は和解条項について意見を述べ得る。もっとも,その役割は裁判官を補助することにあり,裁判官と異なる結論を述べても,裁判所を拘束しない。

2 審理への立会いと直接の発問

司法委員は審理に立ち会い,裁判官の許可を得て,証人,当事者本人又は鑑定人に直接問いを発することができる(民事訴訟規則172条)。これは司法委員に独立の尋問権を与えるものではなく,質問を許すかどうかは裁判官が判断する。

司法委員が審理に立ち会ったこと及び質問をしたことは調書に記載される。これに対し,司法委員が裁判官に述べた意見の内容は,通常,評議に類するものとして当事者のいないところで聴かれ,調書に記載されないと説明されている。

3 二つの活用方式

「開廷日立会方式」は,特定の開廷日に当たる候補者を指定し,その日の事件に立ち会わせて,必要な事件で直ちに和解を試みられるようにする方式である。「事件指定方式」は,専門知識を要する事件,交通損害賠償事件,労働事件又は少額訴訟等について,候補者の経験や専門性を考慮し,事件ごとに指定する方式である。

事件指定方式では,司法委員が事前に記録を検討し,裁判官と打合せをすることがある。このため,記録管理,事件との利害関係及び当事者から見た中立性の確保が重要となる。

第4 調停委員,専門委員及び鑑定人との違い

1 制度ごとの役割

司法委員と他の裁判所関係者との違いは,次のとおりである。

制度主な手続主な役割意見・説明の位置付け
司法委員簡易裁判所の民事訴訟和解補助,審理立会い,事件についての意見裁判所を拘束せず,それ自体は証拠方法ではない
民事調停委員民事調停調停委員会の構成員として話合いによる解決を進める調停手続の運営を担う
専門委員地方裁判所等を含む民事訴訟専門的知見に基づき争点や証拠を説明する説明は証拠ではなく,関与・除斥・忌避等に明文がある
鑑定人民事訴訟一般裁判所の命令に基づき専門的鑑定を行う鑑定結果は証拠資料となる

調停委員の役割と実務及び裁判所の専門委員制度は,それぞれ別の記事で整理している。

2 当事者の関与と手続保障

専門委員には,民事訴訟法92条の2以下に関与決定,取消し,除斥及び忌避等の規定がある。これに対し,司法委員には,当事者の同意,除斥・忌避・回避又は裁判官に述べた意見の開示について専用の明文がなく,司法委員の意見が心証形成に影響し得ることとの均衡が問題となる。

以下の裁判例が示すとおり,忌避については下級審が裁判官に関する規定の準用を認め,非公開協議については近時の地裁判決が口頭弁論の休廷中の協議として適法性を検討している。ただし,いずれについても司法委員制度全体を直接規律する最高裁判例は,本記事の調査では確認できなかった。

第5 候補者数と最新の利用統計

1 候補者数

裁判所データブック2026によれば,司法委員候補者は令和8年2月1日現在4,229人である。裁判所の司法委員に関する一般案内には「平成17年現在,約6,000人」との記載が残るが,これは現在数ではない。

2 令和7年の関与件数

令和7年司法統計年報・民事・行政編第13表及び第14表によれば,簡易裁判所の既済事件における司法委員の関与状況は次のとおりである。比率は,各表の合計値を基に本記事で計算したものである。

手続既済総数司法委員関与件数単純関与率
通常訴訟431,534件17,614件4.08%
少額訴訟6,049件1,475件24.38%

通常訴訟の内訳は,金銭事件421,325件中17,193件,建物事件4,905件中234件,土地事件1,624件中56件,その他3,680件中131件である。少額訴訟では,売買代金615件中124件,貸金814件中165件,交通損害賠償261件中65件,その他の損害賠償939件中264件で司法委員が関与している。

3 統計の読み方

通常訴訟全体では関与が例外的である一方,少額訴訟ではおおむね4件に1件の水準である。ただし,裁判官が和解や専門的検討に適した事件を選んで司法委員を指定するため,司法委員関与事件の和解率が高くても,その差を直ちに司法委員の因果的効果と評価することはできない。

また,全国合計は庁ごとの運用差を示さない。候補者の職業別構成,年齢構成,性別構成及び庁別関与率について,現在の全国集計を示す公開一次資料は,本記事の調査では確認できなかった。

第6 忌避,非公開協議及び国籍要件

1 司法委員に対する忌避

横浜地裁昭和42年11月16日決定・昭和42年(ソ)第5号・下級裁判所民事裁判例集18巻11・12号1102頁・判例時報510号60頁は,司法委員に対する忌避申立てを直接の争点とした。司法委員は直接裁判をする者ではないものの,その関与が裁判所の判断の参考となり得る以上,裁判の公正に対する疑念を避ける必要があるとして,裁判官の除斥・忌避・回避に関する規定の準用を認めた。

同決定は,忌避申立てを不適法として却下した鎌倉簡易裁判所の原決定を取り消し,忌避事由の有無を判断させるため差し戻した。現行法にも専用の明文はないため,到達点は「明文はないが,準用により忌避申立てを認めた下級審裁判例がある」と整理すべきであり,裁判所HP未掲載,判例秘書収録原文確認済である。

2 意見聴取と非公開協議

東京地裁令和3年1月13日判決・令和元年(ワ)第21867号・国家賠償法による慰謝料請求事件・判例秘書登載は,司法委員と協議するとして当事者及び傍聴人を退廷させ,その後に各当事者と個別に協議した訴訟運営が,憲法82条1項等に反するかを検討した。同判決は,司法委員の意見聴取は通常公開法廷で行うことが想定されず,退廷時には口頭弁論が休廷されており,個別協議も非公開の口頭弁論ではないとして請求を棄却した。

福島地裁令和4年2月1日判決・令和3年(行ウ)第3号・判例時報2596号17頁は,同じ簡易裁判所事件に関する県職員の復命書について,裁判官・司法委員と県側との非公開協議を記録した部分の不開示を適法とした。もっとも,同判決は,和解等に関する率直な意見交換と,口頭弁論に上程されるべき弁論・釈明事項等を区別しており,司法委員の意見が常にすべて非開示になると判示したものではない。両判決は裁判所HP未掲載であり,判例秘書収録原文確認済である。

3 国籍要件をめぐる対立

司法委員規則には,日本国籍を必要とする明文はない。他方,日本弁護士連合会の外国籍調停委員・司法委員の採用を求める意見書は,最高裁判所が,調停委員及び司法委員には公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員として日本国籍が必要であるとの取扱いをしていると説明し,その見直しを求めている。

この争点では,司法委員を裁判官の意思形成に参画する者とみるか,判決権限のない補助者とみるかが対立する。もっとも,最高裁判所側の照会回答又は統一取扱文書の公開原本全文は,本記事の調査では確認できなかったため,最高裁判所の見解に関する記述の根拠は日弁連公表資料である。

第7 和解関与に関する裁判例

1 和解内容の了解が争われた事例

東京地裁平成18年10月13日判決・平成18年(レ)第272号・和解無効確認請求控訴事件・判例秘書登載は,東京簡易裁判所の少額訴訟で,司法委員が当事者と交互に面接し,敷金の7割相当額から最終的に15万円の支払案を提示した経過を認定した。担当裁判官同席の下で和解条項が読み上げられ,当事者が内容を了解したとして,和解を無効とする主張を退けた裁判所HP未掲載の判決である。

2 法律相談の勧奨と消滅時効の援用

大阪地裁令和6年5月10日判決・令和5年(ワ)第2931号・和解金請求事件・判例秘書登載は,司法委員が債務者の収支を確認し,債権者側に減額を打診し,債務者に親族からの借入れを相談するよう勧めた経過を認定した。直接の争点は,答弁書における認否及び分割払の提案が時効完成後の債務承認に当たるか,後の消滅時効援用が信義則に反するかであり,司法委員の行為自体の適法性ではない。

大阪高裁令和6年11月19日判決・令和6年(ネ)第1360号・判例タイムズ1539号50頁は,司法委員が債務者に法律相談を受けるよう勧め,その旨を債権者側にも伝えた事実を補充認定した。和解提案は仮定的なものにとどまり得ること等を考慮し,時効援用は信義則に反しないとしたものであり,司法委員の法律相談勧奨が後の信義則判断の事情となった近時の事例である。両判決は裁判所HP未掲載,判例秘書収録原文確認済である。

3 訴訟代理人の和解権限が争われた事例

高松高裁昭和35年1月26日判決・昭和34年(ネ)第70号・高裁民集13巻1号24頁では,司法委員が複数事件を一括して和解するよう勧め,本人が不満を示して帰宅した後,特別授権を受けた訴訟代理人が和解を成立させた。高松高裁は,和解授権の撤回又は裁判所・相手方への通知がなかったとして,代理権の範囲内で成立した和解の無効を否定した。

最高裁昭和38年2月21日第一小法廷判決・昭和35年(オ)第480号・民集17巻1号182頁・裁判集民事64号495頁は上告を棄却し,貸金請求事件の訴訟代理人の和解権限には,互譲の一方法として抵当権設定契約を和解条項に含める権限もあるとした。両判決の直接の法律上の争点は司法委員の行為の適法性ではなく,訴訟代理人の和解権限であるため,司法委員の説得に本人が不満を示した場合の和解が常に有効であると判示したものではない。

第8 制度上の到達点と現在の課題

1 国民参加と裁判官補助の両面

司法委員制度には,市民の良識と社会経験を裁判に反映する面,専門知を補う面及び和解と迅速な事件処理を支える面がある。和解補助に重点を置き過ぎれば国民参加が単なる業務補助になり得る一方,意見を判決形成に強く反映させるほど,中立性,意見の開示及び反論機会という手続保障が重要になる。

現行制度には,専門委員にあるような除斥・忌避の専用条文や,当事者の同意・意見開示に関する条文がない。横浜地裁決定が忌避規定の準用を認めたものの,明文化の要否,司法委員の意見をどこまで当事者に示すべきか,非公開協議と口頭弁論事項をどう区別するかは,なお検討課題である。

2 令和9年改正とデジタル化

令和9年1月1日施行の候補者数基準の改正は,固定的な「一簡易裁判所10人以上」から,事件数と指定実績を反映する仕組みへの転換である。候補者数を実需に合わせる一方,専門性と地域社会の多様な経験を確保し,必要な事件で適切な候補者を指定できるかが今後の運用上の焦点となる。

また,民事裁判手続のデジタル化が進んでも,司法委員の遠隔関与,電子記録の取扱い又は庁外での和解補助を専用に定める公表規程は,本記事の調査では確認できなかった。令和5年版の手引が記録の庁外持出しを原則禁止していることとの整合を含め,情報管理規律の明確化が課題となる。

第9 出典

1 法令,規則及び立法資料

e-Gov法令検索「民事訴訟法」279条。

裁判所「司法委員規則」(令和8年7月1日現在)

民事訴訟規則172条。

昭和23年法律第149号及び第2回国会参議院本会議会議録第54号(昭和23年6月28日)

⑤最高裁判所規則令和8年第6号(令和8年4月16日公布),裁判所時報第1885号

2 裁判例

①高松高裁昭和35年1月26日判決・昭和34年(ネ)第70号・高裁民集13巻1号24頁(裁判所HP原文確認済)。

②最高裁昭和38年2月21日第一小法廷判決・昭和35年(オ)第480号・民集17巻1号182頁・裁判集民事64号495頁(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

③横浜地裁昭和42年11月16日決定・昭和42年(ソ)第5号・下級裁判所民事裁判例集18巻11・12号1102頁・判例時報510号60頁(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

④東京地裁平成18年10月13日判決・平成18年(レ)第272号・和解無効確認請求控訴事件(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

⑤東京地裁令和3年1月13日判決・令和元年(ワ)第21867号・国家賠償法による慰謝料請求事件(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

⑥福島地裁令和4年2月1日判決・令和3年(行ウ)第3号・判例時報2596号17頁(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

⑦大阪地裁令和6年5月10日判決・令和5年(ワ)第2931号・和解金請求事件(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

⑧大阪高裁令和6年11月19日判決・令和6年(ネ)第1360号・判例タイムズ1539号50頁(判例秘書収録原文確認済,裁判所HP未掲載)。

3 司法行政資料及び統計

①最高裁判所事務総局『司法委員の手引』令和5年11月,1頁~8頁,36頁~47頁及び巻末図表(公開PDF)。

裁判所データブック2026

令和7年司法統計年報・民事・行政編第13表・第14表。

令和4年度(最情)答申第17号

4 書籍,論文及びウェブ資料

①裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案Ⅲ』四訂補訂版,司法協会,27頁~28頁及び78頁。

②賀集唱・松本博之・加藤新太郎編『基本法コンメンタール民事訴訟法2』第3版追補版,日本評論社,2012年,349頁~350頁。

③最高裁判所事務総局総務局『裁判所法逐条解説』上巻,法曹会,1967年,291頁~293頁。

④川嶋四郎「簡易裁判所における司法委員制度について――『市民の司法参加』の促進を目指して――」同志社法学71巻5号(通巻408号)1507頁~1542頁,2019年。

⑤秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅴ〔第2版〕』日本評論社,2022年,390頁~392頁及び440頁~447頁。

⑥川嶋四郎『民事訴訟の簡易救済法理』弘文堂,2020年,320頁~342頁。

⑦日本弁護士連合会「外国籍調停委員・司法委員の採用を求める意見書」(2009年3月18日)。